第14話~終わりの先に③~
カナリアの会時間の真の黒幕である、総理大臣の伊武有人。
仲間に足止めを任せ、彼女たちは首相官邸で総理と対峙する。
「殺す前に聞かせてくれ。伊武有人……なぜアンタはこんなことをした」
「この国の未来のためだ」
(は? 意味不明だ)
「……御貫さん。伊武有人の思考を読めるか?」
「ノンノン。ムリだね。恐らくここに向かう数十分の間に、志村以外にも対超能力用の超能力者を拵えたんだろう」
「輝木光。この国の面積は世界で何番目か、君は答えられるかな?」
「60くらいだろ」
「ご名答。では、人口は?」
「……10番目」
「中々の知識量だな。こちらも正解だ」
伊武有人の出すクイズにどちらも正解する私。
(なるほどな。コイツの言いたいことが見えてきた……)
「なんだ? 日本は人口が多すぎるから減らさなきゃとでも言うつもりか?」
「簡単に言えば、そういうことになるな」
「はっ……。この程度でヒーヒー言ってるようじゃ、国の行政が無能なだけっしょ。アンタさぁ、日本が実は大して小さいワケでも、人口密度が高いワケでもないって習わなかったの?」
「無学は君だ、輝木。君は『可住地面積』という言葉を知らないのか?」
「か、可住地面積……」
「この国はな、山岳地帯や森林地帯、河川、湖が多い。実際に人が生活できる土地が限られているのだ」
「その土地のみを割り出した面積が可住地面積……」
「日本の可住地面積はな、実際の面積の3割にも満たないんだよ。ま、面積というのは分かりやすい一例に過ぎないがね。
とにかく、日本という乗り物にはね、これ以上定員を増やす余裕はないんだ」
「だけど今、人口は減少傾向なはずだ……。そのまま放っておけばいいだろ!」
「やっぱりな。君は……いや、君たちは何も分かっていない。
庶民というものは常にそうだ……。何も知らない、学ばない。自分では変えようとしない。
それなのに、口だけは常に求め、偉ぶる……。君が今、誰に説教を垂れようとしてるのか、分かっているか?
私は内閣総理大臣、伊武有人。誰よりも、日本を知る者だ」
「な、なんだよ……。閣僚だって国民の代表だろ! 思い上がってるのは、アンタの方だ!」
「……輝木。私は先ほど、日本を乗り物に例えたよね。乗り物には『燃料』が必要なんだ。国民が健やかで文化的な日々を送るためのね」
(燃料だと……?)
「面積が分かりやすい例だからその話をしていたが……何も土地だけではない。目減りしていく一方なんだよ。資源も、金も、何もかも。
高齢化の波は止まらず、株価は暴落し、増え続ける国債、非正規雇用、リストラ、貧困層……。ここ30年ほど、国内の生産は低下していくのみ。
この国が『先進国』と呼ばれるのは長く見積ってあと10年……。このままでは滅びてしまう」
「それを何とかするのが総理大臣のアンタの仕事だろ!」
「だから何とかしようとしてるじゃないか。定員オーバーの乗り物から、人を降ろすために。
まさか、高齢者が寿命を迎えるまで待てとか言うんじゃないだろうな? それはムリだ。破滅の方が先に来る」
「だからって、こんな方法は絶対間違ってる! アンタがやってるのはただの人殺しだ!」
「なら他にどんな手段がある? あのね、政策は万能じゃないんだ。いくら頭をひねろうと、無い袖は振れない。今の乗員のままこの国は走れない。
だから、ハイペースで減らすしかない。この国の乗員を!
それが、日本が『先進国』であり続けるための唯一の手段だ!
あと10年以内に、日本の人口を半分にする……、そうしなければ、この国は滅びる!」
「身勝手も大概にしろ! それで死ぬ人間はどうなる? 国は国民あってものだって、そんな簡単なことも分からないのか! 総理大臣のくせに!」
「それで死ぬ人間は運がなかったのだ。改革に犠牲を伴うのは仕方ないのことだ。この犠牲を乗り越えた時こそ、人々は皆平等に豊かな日々へ向かっていける!
その理想郷を作るためなら、私は後世に悪魔と罵られようと構わない!」
「ふざけんな……! じゃあアンタは言えるのか? 日本はこれ以上もたないから、人間を半分に減らすべきだと、自分の子供や両親に言えるのかよ!」
「……っ! 黙れ! もはや対話は不要だ! 輝木……お前はもう死んでいい!」
(逆上した……? 冷静を装っていた伊武有人が……一体何がヤツの逆鱗に触れた?)
「御貫さん。アンタ見えるか? アイツ、過去に何かあったのか……?」
「いや、だから見えないって言ってるじゃん。総理は常に志村とベッタリだったからね。
直前までこの恐ろしい計画すら気づけなかった。で、今は別の妨害用超能力者を用意したみたいだね」
(連れてきたのはいいけど、この人あんま役に立たないなぁ……)
「……キミの思考は見えるんだよ? 輝木光さん」
「あ、いえ、滅相もございません!」
(なんだよ、結局味方しか苦しめてない……。…………。っ! これは…………)
「……余計な会話してる間に囲まれた。ざっと20人近くはいる」
「伊武有人が生み出した超能力者たちか」
「総員、かかれ! 輝木光と御貫真を消し去れ!」
伊武有人が号令をかける。
(……来る)
「ヤバいよ、輝木! こっちは伊武有人たち対象に超能力が使えないし、正体不明の超能力者をこれだけの人数相手にするのは、いくらキミでも……!」
(…………。いや)
「そんなに侮るなっての御貫さん。私を誰だと思ってるんだ?」
「えっ……」
『どさどさどさどさっ!』
私がそう言った後、
一斉に意識を失い倒れる敵の超能力ども。
「1ヶ月以上死線を抜けてきた私と、今さっきの超能力者じゃあ、格が違うのさ。一朝一夕のザコどもを今更よこしても、遊び相手にすらならないね」
「……すごいな、輝木。数十メートル離れた複数箇所に、高圧の電流を……。初めて会った頃のキミとは比べ物にならない力だね……」
「まあね。人間には皆、未来の可能性があるのさ。……だから」
私は伊武有人をにらみつけて言う。
「それを伊武有人! アンタには奪わせない! 絶対にだ!」
「! 輝木、お手柄だよ! 今ので読心を妨げてる超能力者も意識を失ったみたいだ! これで伊武有人の心へ入り込める!」
「くぅ…………!」
もう伊武有人を守る盾はない。
伊武有人は私たちの超能力だけは封じられないのだから。
「と言いたいところだが、ここで私の超能力の全貌をお話しよう。実は私の超能力は『超能力者を生み出す』ことではない。『あり得ないことを実現する』超能力なんだよ。ある程度の重い制約はあるがね」
「はぁ!?」
「だから、君たちが生まれつきの超能力者だと言うなら、こうすればいいんだ。
『もしも、輝木光と御貫真が超能力者じゃなかったら』! これは、『あり得ない』ことなのだからな!」
「お、おい! そういう大事なことは話してくれよ御貫さん!」
「し、知らなかったんだよ! これはまずいよ! 大変まずい! 」
(超能力が奪われるだと……? そんなっ!)
「おい! なんとかしてくれよ御貫さん!」
「や、やだ……! 何も見えなくなっていく! 怖い……! 人の心が分からないなんて……そんな世界、想像もつかない……! ムリ、生きていけない……!」
御貫さんはガタガタと震えている……。
ダメだ、全く頼りに出来ない!
「させるかっ! やられる前にやってやる!」
なので、私が何とかするしかない!
「無駄だ。もう遅い。既に『もしもの世界』へ移行が開始している! 私にしか止められない!
輝木光……君は何の力も持たない無価値な女になる!」
ダメだっ。
伊武に近づこうにも、電気変化が解けていく……!
私にやどる超能力が確実に薄れていっている……!
「違う……! 何もなくなんてない! 超能力なんかなくたって、人間はもっと素晴らしいものを秘めているんだ!」
「輝木……」
「人間の価値なんてのは、アンタ個人が量れるものじゃない! 私は諦めない!」
電気変化を諦めて走っても、異常に足が遅い……!
全くもって前に進めない!
もしや、私の運動能力は、超能力に依存していたのか……?
(やっぱり私は無力なのか……? 超能力のない私には、何もない……?)
「世迷いごとを。超能力のないお前は価値などない! ただの怠惰な女子大生だ! 諦めて死ね輝木!」
伊武有人が銃を取り出している!
「くそっ……!」
諦めるな!
弱気になるな!
足を止めるな!
歩みを止めれば、可能性は消える!
最後まで考えろ!
抗え!
(以前の私とは違う! 私は成長したんだ……!)
「絶対に、諦めるもんかっー!!」
そう強く念じたら――
『ヒュンヒュンヒュン……』
私の手元に何かが飛んできた。
これは……。
「銃だ! さっき気絶した伊武の手先が持っていた銃だ!」
私には、まだ少しだけ超能力も、可能性も残っていたんだ……!
「バカが! 『超能力のある』輝木光に、銃は無駄だって言っただろうが! なぜ私に従わず銃を携帯した!?」
(諦めなければ、奇跡は起こる……! これは、私の精神の成長がもたらした奇跡なんだ!)
「成長こそが人間の可能性だ! アンタはそれを奪い続けてきたんだ! だから次はアンタの番だ、伊武有人!」
「やっ、やめろ……っ」
伊武有人へ銃を構え、引き金を引く!
『……カチッ。…………』
(…………え?)
「か、空……?」
最後の力を振り絞り、電気を発生させる輝木光の元に拳銃が飛んでくる。
その銃を伊武有人に向けて放つが、非情にも銃は弾切れであった……。




