第13話~因果応報⑤~
重傷を負ったように見えて、『状態を逆転させる』という最後の切り札を残していた坂佐場搠。
追い詰められた輝木光を前に、坂佐場搠は自身の目的と過去を語る……。
--------(side:坂佐場搠) ---------
テレビの音が聞こえる。
『国際テロ組織セレネの最高幹部の1人、篠山伊助が逮捕されました。篠山は人質をとって立てこもっておりましたが、警察の特殊部隊によって制圧、確保されていたとのことです』
「あ、捕まったんだ」
「……全く。怖い事件だったよなぁ」
「ねえ、父さん。この特殊部隊ってどんな人たちなの?」
「さあ……。俺は関係ない部署だから知らないよ。それに、この人たちの情報は絶対機密。家族にだって話せないらしいんだとよ。ま、俺には知る由もねぇな、わはは!」
「父さんは組織犯罪対策課だっけ? 関係者と知り合いだったりしないの?」
「いやいや! 確かにそうだけど、全然畑違いだから! 俺はただの調査員みたいなもんだよ」
「そうなんだ。ま、とにかく犯人が捕まってよかったよね」
「……セレネのヤツらは、まだ日本に残っているけどな。搠も気をつけるんだぞ?」
「怖いねぇ。セレネってどんなヤツらなの?」
「セレネ? なんか人類の起源は月だとか主張してる武装した宗教団体だな。
ま、ぶっちゃけそんなのは建前で、実際はただの利権争いなんだろうけどさ。聖戦とか言ってるのだって、武力行使を正当化するためだろうし」
「武装した宗教団体……と言うよりただのテロリスト……」
「そうそう。だからニュースとかでも『国際テロ組織セレネ』って報道だしな。人間、みんな金と権力が好きなんだよ。末端の連中は、本気で信じてるのかもしれないけど」
「それって、何だか……かわいそうだね」
「そうは言っても、結局は犯罪の片棒を担いでるわけだから、罰しないわけにゃあ……あ、もう出かける時間だな。
ほら、予備校行くんだろ? 今日は非番だから、父さんが送っていくぞ! ほらほら、車に乗れ!」
父さんに急かされて僕は車に乗り込む。
「搠。父さんはな、世の中勉強より大切なものがあると思うぞー。中学受験もいいけど、あまり頑張りすぎるなよー」
「父さん……。予備校に向かう車の中で、そんな話する?」
「わはは! 確かに! 悪かった! よし、じゃあ頑張ってこい、搠!」
予備校に到着し、僕が車を降りようとする直前、路上の人混みで悲鳴が木霊した。
「おい、てめぇ! よくも篠山さんを!」
気づけば、刃物を持った連中が数人、僕たちを取り囲んでいる!
「え、何!? と、父さん、何なのこいつら!」
(篠山……! どこかで聞いた名前だ)
「…………。……搠。絶対に車から出るな」
「父さん!? どういうことなの!?」
「静かに! 声を出すな!」
『ガチャリ』
車の鍵をかけて父さんが降りていく。
「父さん……!」
「出てきなすったな、特殊部隊の坂佐場隊長さんよォ……」
「どこから特定したかは知らんが、何のつもりだ」
と、特殊部隊の隊長……!? 父さんは組織犯罪対策課なんじゃ……。
「てめぇのせいで、俺らは解体寸前だ。その落とし前、付けてもらわなきゃ困るっつーわけよ」
「落とし前? お前たちなんて消えて当然だ、この悪党風情が」
「あぁ? 舐めてんじゃねぇぞ! 殺せ! 殺しちまえ!」
ナイフを持った2人が、父さんに突っ込んでくる!
「父さん!」
「バカにゃあ言っても分からねぇ。来いよ。全員半殺しにして、ブタ箱にぶち込んでやるからさ」
「父さん……?」
父さんが父さんじゃないみたい……。
父さんは、本当に……。
『情報は絶対機密。家族にだって話せないらしいんだとよ』
(ウソ……)
「死ねぇ!」
1人がナイフを振りかざしてくる!
(ダメ! 逃げてよ、父さん!)
「はっ、ド素人が」
父さんは左前へせり出し、ナイフをかわして……。
『バキッ』
テロリストの顔面にアッパーカット……!
「こ、このヤロー!」
(もう一人が後ろから迫ってくる! せっかくの不意討ちなのに、なぜ声を上げるかは謎だけど)
「聞き分けのないヤツは……」
父さんは後ろに回り込んで……。
『バキャ!』
「拳で教育してやらねえとな!」
(…………蹴りじゃん)
「くそっ! 同時にかかれ!」
起き上がった2人が、すかさずナイフを構える。
「そんなもん振り回したってなぁ……」
『ザッ』
「うがっ」
足払い!
2人同時に転ばせる!
「ほらよっ!」
『カランカラン……』
そして、その隙に右手を蹴飛ばしてナイフを吹っ飛ばした……!
「か、かっこいい……!」
元々、僕は父を尊敬していた。
だが、この瞬間。僕の中での憧れはピークに達した。
将来、僕もこんなに強くなれたら――
「キャーーーーっ!!」
「おいてめぇ! コイツがどうなってもいいのか! あぁ!?」
「た、助け……、離してっ」
「……!」
アイツら、塾の女子生徒を人質に!?
「大人しくしろ坂佐場! でなきゃ、コイツの首を掻っ切るぞ!」
「くっ…………」
「よぉし、そのまま両手を挙げろ」
「分かった……」
なんで武器を持ってない父さんに両手を挙げさせるのか。
「よし、お前ら。坂佐場を取り押さえろ」
「…………」
「おら、大人しくしてろよ?」
(と、父さん……)
「助けなきゃ……! このままじゃ、父さんが……」
(け、警察を呼ぶ? でも、この近くに交番なんて……)
「車……!」
やるしかない。
この車で、交番まで行くしかない……!
『ブルルルっ!』
「なっ、このガキ! 父親を置いて逃げやがった!」
「……そうだ。それでいいんだ、搠」
交番にて。
「父さんが! 父さんが殺されちゃいます! お願いします! 助けてください!」
「君ねぇ。小学生でしょ? ダメでしょ、そんなさぁ……。無免許運転の言い訳にならないよ?」
「今はそんな話をしてる場合じゃないですっ! コトは命に関わることなんです! お願いしますっ!」
「あのねぇ。テロリストに襲われただっけ? 漫画やドラマじゃないんだから……。そもそもさ、なんで君のお父さんをテロリストが襲うのよ?」
「僕の父さんは特殊部隊の隊長らしいんです! だから、篠山って人の部下に逆恨みされて……」
「特殊部隊の隊長ぉ? 何言ってんの? 君、名前は?」
「さ、坂佐場搠……」
「坂佐場……? あぁ、坂佐場次郎さんの息子さん? 確かに県警にいるけど……」
「そうです! 僕の父は坂佐場次郎です!」
「でもあの人が特殊部隊? ただの組対の警部だよ?」
「だって現実に襲われてるんですもん! お願いします、助けてください!」
「わ、分かったよ……。じゃあ、その車借りるからね。あ、あとで警察に来てもらうよ、無免許運転だから」
「無免許運転なんてどうでもいい! お願いします! 早く!」
(急げ急げ急げ。早く父さんのところに!)
応援のお巡りさんを連れて、現場に戻った。
「あぁ? なんだ、ガキが戻って……」
「……驚いた。まさか、本当に……。坂佐場警部が……」
「ぬ、搠! なんで戻ってきた……!」
「父さん! もう大丈夫だから! 警察の人を呼んできたから!」
「お、おい! このガキ、サツを連れてるぞ!」
「坂佐場ぁ! お前、応援を呼びやがったな! 人質の命、惜しくねぇみてぇだなぁ!?」
「ち、違う! 俺が呼んだワケじゃない! だから人質を傷つけるな!」
「あの! お巡りさん! 銃持ってるんでしょ!? 撃って、アイツらを!」
「そ、そんなこと言われても……! 人質もいるんだし、そんなすぐには……」
「なら、僕に貸してください! 僕が撃つっ」
「ちょっと、何言ってるの!? そんなのはもっと無理……」
「うるせえぇぇっ!!」
「クソ! もういい! 大人しくしないなら、人質は殺す! 俺たちを舐めやがって!」
「や、やめろお前たちっ――」
「!」
テロリストのナイフが突き立てられる!
(そんな……)
「父さん……!」
「坂佐場警部!」
突き立てられたのは人質ではなく、父さんの背中だった……。
父さんの背にはテロリストの右腕と……。
「搠……」
夥しいほどに流れ出る、血……!
「ば、バカなヤツ……! 人質を庇って自分から刺されにきやがった……! し、知らねぇ! 知らねぇぞ、俺は!」
「救急車! 救急車を呼んで、早く!」
「は、はははは……坂佐場次郎は死んだ……! やった、やったぞ……!」
「……あ、おい、君!」
僕は気がつけば。
「死ね! 死んじまえよ! このシロアリ以下のウジ共が! よくも僕の父さんを刺したな!」
『ダンっ! ダン、ダンっ!』
警察から銃を奪い取り、テロリストたちに向けて発砲していた。
「おい、やめろ! 君、落ち着けよ!」
「こんなヤツ、全員死ぬべきだ! 今すぐに!」
「じ、銃を返しなさい!」
「……アンタもだぞ! アンタがもっと早く決断していれば、父さんはこんなことにならずに済んだのに!」
「!?」
そして、交番勤務の警察にも銃を向けていた。
「人質! お前もだ! お前が父さんの足をひっぱるから、こんなことになった! お前なんか、初めからいなけりゃよかったんだ!」
さらに、人質の女子生徒にも。
ここから先は記憶がない。
僕が最後に覚えていたのは、怯える警察と人質の顔、うずくまるテロリスト、血溜まりに横たわる父さん、遠くから聞こえる救急車のサイレンだけだった。
結局、あれから父さんは刺傷が原因で死んだ。
自分で過去を振り返るといつも思う。
僕の人間性は、間違いなくこの時に消え去った。
そして今は、忌まわしい記憶として、僕を動かす。
『二度とこんな悲しみを繰り返してはいけない』
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世界には、優れた人間と劣った人間がいる。
正しい人間と間違った人間がいる。
劣った人間は、優れた人間の頭を押さえつけ枷となる。
間違った人間は、存在するだけで全てに害をもたらす。
だから、消し去るのだ。
この世界から、悪人と、無能を!
『要らない人間』というものは、確かに存在する!
全て消し去れ!
人類の数を減らせ!
正しく、優れた人間だけが暮らす、美しい世界を作るのだ!
俺は、そのために生まれてきた!
明らかになった坂佐場搠の目的。
それは日本から無能を減らすことだった。
それを聞いた輝木光は……。
次回、ついに決着!




