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第13話~因果応報④~

カナリアの会、真のリーダーである坂佐場搠。

その能力の一つである認識を逆転させる力が猛威を振るう。

他の人間と入れ替わるため、外へ逃げ出そうとする坂佐場搠を輝木光は追いかけていたが……。

(鉄棒の速度で私から離れていく坂佐場……。

その姿はみるみる遠のいていく! クソっ!)


だが、私たちがいるここは8階だ。ヤツがすぐに外へ出ることはない。

私はひとまず、階段側へ回り込んで……。


『ガシャーンっ!』


窓ガラスの割れる音!


「まさか!」


坂佐場が、外へと飛び出している!?


(死ぬ気か!? いや、あり得ない! ヤツが『警視正の坂佐場搠』、『カナリアの会ボスの坂佐場搠』どちらにせよ、諦めて自害するような人間ではない!)


「逃がすかっ!」


兎にも角にも音のする方へ急ぐ。


向かった先では、やはり窓ガラスが叩き割られていた。


「ここから飛び降りたのか……?」


(8階ってのは地上25メートルくらいの高さだぞ。こんなところから降りたら即死だろ……)


「窓を割ったのはフェイクか?」


私が外を確認してる隙に逃げる気か?


(……それならば)


電流の探知を使いながら、坂佐場の位置を確認する。

これで、約半径300メートル以内の人間の動きが把握できる。

拘置所にいる全てのエリアを探知可能だ。


「い、いない……!」


(こ、拘置所に坂佐場がいない!?

少し前まで目の前にいたはずの坂佐場が見つからない! なぜだ! もしや、本当に飛び降りたのか!?)


慌てて窓の外を覗く。


そして、私は知った。


「なっ……こりゃ一体どういうことだ!?」


坂佐場搠は、3階辺りで宙に浮いていた!



「と、とにかく、追いかけなきゃ!」


窓枠や水道のパイプなどの電気の通る場所を伝えば、私は安全に地上へ降りられる。


「絶対に逃すわけにはいかない! 坂佐場はここで、私が倒すんだ!」


不幸中の幸い。

夜遅い時間だから人が少なめだ。

坂佐場搠と入れ替えさせられる人がいない。


私が先に地上へ到達した時、坂佐場は上空5m程にとどまっていた。


「浮いてるんじゃない……! 自身への重力の逆転、再逆転を繰り返して、宙に留まっている……!」


近づいてようやく分かった……!


(アイツの超能力は、自然法則すらねじ曲げるのか!)


「脱出できたよ。あとは地上へ降りれば、一旦は俺の勝ちかな」


地上の何かと入れ替わり着陸する気か。


「させるかっ!」


アイツの下へ石を投げる!

これは苦し紛れの投石じゃない!


「……チッ、小癪な、このガキ!」


アイツが地上に置いてあるレンガの欠片と入れ替わるタイミングを先読みし、その射線上に小石を遠投したのだ。


(一か八かだったけど……、結果オーライ、上手くいった!)


位置逆転が小石に対して発動してしまったらしい坂佐場は、遠投の勢いを継承し彼方の工場の方へすっとんでいった!


「もうこれ以上、誰かを死なせはしない! 私がみんなを守る!」



すぐに私も後を追い、工場へ突入する。


坂佐場は無駄にデカい窓ガラスから入っていったが、どんな鍵も開けられる私は、堂々と正面からだ。


「……何も知らないバカが。ヒーロー気取りで偉そうなことを言うな」


「さっきまでのポーカーフェイスはどこにいった? 坂佐場さん。結局、アンタはそんなもんか」


「俺だって人間さ。笑いもするし、怒ったり、泣きもする。感情的にならないよう、努力はしてるけど」


「この工場からアンタを出さない。ここで決着をつける。アンタの力を、恐ろしい計画を、世の中に解き放つワケにはいかない。今、この場所で、悲しみを絶ってみせ――」


(坂佐場が消えた! 位置の入れ替えだ! 工場内の何かと入れ替わった!)


「無駄だ!」


私の話してる最中に仕掛けてくることなど、想定済!

むしろ、坂佐場の入れ替わりのタイミングを測るために、私はあえて長ゼリフを読んでいたのだ!


『バリンっ!』


坂佐場の入れ替わりに合わせ、工場の照明のうち約半分ほどを高電圧で破壊する!


360度全てを飛び散るガラス片を回避することは不可能。

何と入れ替わろうが、坂佐場をハリネズミ……もといガラスネズミにできる。


ここに来た時点で既に勝負ありだったんだ、坂佐場搠!



「それはどうかな? 少なくとも一つだけある。『絶対に安全な位置』がね」



私の右後ろから聞こえる、坂佐場の声!


「それは君の付近だよ。君の意思で行われる攻撃で、君に危害が加わることはない。君が工業部品を磁力で集めて作った鉄傘の下に、避難させてもらった」


(坂佐場……コイツ、逃げるどころか、私に近づいて……!)


「そして、ここは君の右側。君の右腕は既に潰れた! 完全な死角さ!

ここから君の頭に触る、それだけで君は終わる! 死ね、輝木光!」


……来る!


(……でもさ、私はさっき、言っただろ? 右腕は『後で治す』ってね!)


『ゴキャッ!』


「うぐぅっ!?」


実は、もう治ってんのさ!

私が新しく編み出した『ある治療方法』により、右手は既に回復済だった!


だから、私は右腕に磁力で鉄パイプを引き寄せ、坂佐場を思い切り吹き飛ばした!


「坂佐場搠! アンタは既に勝利を焦って冷静さを失っている!

普段のアンタなら、私が『石を右腕で投げていた』ことに気づいただろうに!」


「なんだと……!」


「そして、次にアンタがとる行動は、『私と自分の位置を入れ替える』だ! やりたきゃやってみろよ!」


「……なに! ……暴発っ!? 入れ替える対象をコントロール出来ないっ!?」


坂佐場はトンチンカンな方向へ入れ替わって移動している。


「ムリだね。今の一撃はただ吹っ飛ばしただけじゃない。これまでと違い完璧に入った」


「筋肉や運動神経が麻痺している……! 今ので、俺に電撃を……!」


私の電撃を浴びた坂佐場搠は、筋肉の収縮や運度神経をまともにコントロールすることができない!


「今から工場の残りの照明を全て破壊する。避けられない。アンタの命運は尽きた」


(これで最後だ! 全力の放電を!)


『バリンっ!』



(こういう時、大抵私は失敗が多いけど……)


「ぐっ、おぉ……」


今回は1発KOだ。


「こんな、独善に酔いしれただけの小娘に、この坂佐場搠が……っ!」


照明のガラスが突き刺さり、全身から血を流す坂佐場が喚く。


「こんな……っ! こんなカスみたいなヤツにこの俺がっ……!」


「カスか……。アンタは人をこれまで『カス』みたいに切り捨ててきた。だから、最後はその『カス』に潰されるのさ」


「知ったふうな口をきくなっ……! 何も知らぬカイライどもが……」


これが坂佐場搠の本性か。

ついに余裕がなくなって、一気に悪役らしくなってきたじゃないか。


「アンタこそな。人の痛みを知らないから、そこに這いつくばっているんだ。もう終わりだ。殺された人たちの怒りを思い知れ、坂佐場!」


「来るなっ! やめろっ、近づくなっ」


「その首をへし折る! もう二度と、その頭で悪巧みできないように!」


「離れろっ。やめてくれ……! 君は、他人には優しくしないといけない……」


(この期に及んで……。見苦しい……)


「トドメを刺す!」



「そうだ。因果応報だ。人にした仕打ちは必ず返ってくるのさ、輝木光」



瞬間、私の視界は一気に白んだ。


--------


白んでいた視界が元に戻った。


「……。これは、……!?」


(い、痛っ! 『私の』全身の皮膚がグチャグチャだ!)


「いい言葉だよね、輝木光」


「う、くっ……」


痛いだけじゃない……!


(全身が痺れるような、焼けるような……!? これは……この痛みは……!)


体験したことはないけど……。



(私は『誰よりもこの痛みを知っている』!!)



「立場『逆転』ってことさ」


電撃だ!

坂佐場に与えていたダメージを、気づけば私がそのまま受けている!


2人の『状態』が『逆転』されている!


「人の痛みを知らない? 違うね! 『知った気になってる』から、君はそこで這いつくばっているんだ」



電気は私の意思でコントロール出来るけど、神経の麻痺や、筋肉の収縮や硬直はどうにもならない。

だから立ち上がれないし、出血で意識も朦朧としている。


「人の心が少しは理解出来たか?」


坂佐場搠が近づいてくる……!


「満足したかよ坂佐場……」


「ん?」


「人をいっぱい死なせて、仲間も見捨てて、それで私をねじ伏せて満足かよ……」


「全く。俺の目的ははるか先にある。こんなカス1人殺す度に満足してたら、この先やってられないよ」


「そうかい……。……最後だから聞いておく。アンタの目的は、一体なんだ?」


「負けを認めるか。潔いな輝木」


「……もはや勝機はなくなった。諦めるべきだ」


鉄工所で坂佐場搠と最後の戦いを繰り広げる輝木光。

これまでの経験の全てを駆使し、坂佐場搠を追い詰めるも、坂佐場搠の最後の切り札である「状態を逆転」させる能力により状況は一転。

全身に重傷を負う大ピンチになる……。


次回、カナリアの会創設者、坂佐場搠の過去が明かされる……。

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