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第12話~幸せの定義②~

都園懸悟を倒し、家路を辿る女子A級たち。

カナリアの会の幹部も残すところあと1人。

追い詰められたカナリアの会は衝撃の一手に出た……。


--------(side:???) ---------


「もう、彼はダメだな。俺たちの思惑に収まる気がまるでないね。なあ、ボス」


「......。なぜ、今連絡を?」


「江留布操は近いうちに暴走し、この教団も崩壊するだろう。......はぁ。彼には随分と『与えて』きたのだけれどね。あの超能力は、彼の人間性を差し引いても魅力的だった」


「与えた......?」


「ねぇボス? 人を動かすには、何がいいと思う?」


「......利益だろう」


「まあ、それはその通りなんだけどね。利益と言っても、色々あるだろ?」


「? 金じゃないのか?」


「もちろんそれもあるね。だから、都園懸悟には『金』を与えた。だけど、世の中金で動く人間ばかりじゃない。例えば、野井流美音は大金で動くと思うかい?」


「……いや」


「野井流美音は金に興味がない。彼女が最も欲しかったものは『理由』だったんだよ。理不尽に苦しめられ続けてきたからね。

つまり、さっきの問いの答え......人を動かすには『1番欲しいものを与える』ことが重要なんだ」


「何に価値を見出すかは、人それぞれだと。そう言いたいのか」


「そうそう。阿鳩優には、『享楽』を与え、江留布操には『優越』を与えてきた。

だから、彼らは俺たちに従い、大量殺人すら軽々とやってのけた。

欲しいものを得られることと、リスクや労力を天秤にかけて、前者に傾けさせればいいのさ」


「......それならば、A級にも何か与えてやればいいのでは? 特に輝木光なんて俗物だろう。大金でも与えれば......」


「いや、それは無理だよ」


「なぜ?」


「輝木光が求めているのは、金とか名誉じゃない。......いや、輝木光に限った話じゃないよ。

俺はこの1ヶ月間、彼女たちA級を『近く』で見てきて気がついた。

彼女らが何よりも恐れているのは『孤独』や『喪失』で、手に入れたいものは『友情』や『信頼』......まぁ、そんな類のものだろうね」


「............」


「そして今、彼女たちは強い絆で結ばれている。要するに、1番欲しいものを既に持っているんだ。だからこそ、彼女たちは何よりも手強い」


「......。あなたがそう言うなら、そうなのだろうな」


「分かってくれて嬉しいよ。というわけで」



「A級とやり合うのはやめようか」


「......は? なんだと? どういうつもりだ?」



「この教団は潰す。これで、A級やS級は俺たちに立ち向かう意味がなくなり、つるむこともやめるだろう?」


「た、確かにそうだが......。今、自分が何を言っているか分かっているのか? 教団が潰れれば本末転倒......」


「当然。簡単なことさ。終わり方にだって善し悪しがある。どうせ崩れるなら、俺たちの手で終わらせた方が『再起』しやすい」


「......!」


「再び、俺たちの手で最強の武力組織をつくりあげよう。何度だって返り咲くことが出来るだろう? 俺たちならね」


「俺たちの手で......」


「もう一度、力を貸してくれ、亮」


「......分かった」


--------


「――というわけだね。日本中に、『カナリアの会は消えた』と認識してもらおう」


「承知。............ところで、あなたは俺にも、何か与えていたのか?」


「......そうだね。君は俺とよく似ていた。君が欲しているものは『支配』。そして、それは俺と同じものなのさ。全ての事象を手の内に収め、意のままにコントロールしたいと思う。そうだろう?」


「......敵わんな、あなたには」


「だから、俺は君に『ボス』としての役割を託し、俺の半身として選んだんだ。カナリアの会を生み出したのは俺だけど、君も『ボス』であり、俺が『ボス』でもある。俺は君で、君は俺だから」


「あぁ......」


「俺にとっては、誰よりも......信じられる人間なんだよ、亮は」



--------(side:Broadcast)---------


『私はカナリアの会の王、美河亮』


『日本国の諸君、君たちは我々を知っているだろうか?』


『おかしな新興宗教だと思っている方も多いだろう。だが、どうかその認識は改めて欲しい』



『我々は反政府の武装勢力だ』



『我が国は70年前の大戦で敗れ、他国に骨の髄まで踏みにじられた。大地は焦がされ、空は灰に覆われ、数多の命が失われた。凄惨などという言葉では片付けられない、暗闇の時代だった』


『だが、我々は逆境を跳ね除けた』


『暗黒の中でも、光を絶やすことはなかった。手を取り合い、共に絶望へ立ち向かった。逞しく、今日に至るまで生き延びてきた。決死の覚悟で経済を、産業を建て直してきた。

その甲斐あって、我が国は現在、いわゆる経済大国と呼ばれている。国内総生産も、世界第3位だ』


『そう。所詮は、3位、なのだ』



『ハッキリ言って、これは不当だとは思わないか?』


『私たちは敗戦のドン底から、泥にまみれ、血のにじむ思いをして、今がある。50年代前半の状況から、ここまでの成長を遂げた国家は歴史上にも類を見ない。

そうだ。日本国民ほど優秀な民族は、この世界のどこにも存在しない!』


『なのに、なぜだ? なぜ、他国の干渉に怯えなくてはならない? 核に怯え、貿易摩擦に怯え、戦後補償に怯えなくてはならない? なぜ、70年前に我々を踏みにじった張本人たちへ、かしずかなくてはならない? そんな道理はどこにある?』


『我々は、全世界に思い知らせなければならない! 大和民族の優秀さを! 真の王者は誰なのかを!』


『カナリアの会なら、それが出来る!』



『君たちは既に、我々の力を目の当たりにしているはずだ』


『1か月前のゲームテロ事件だけではない』


『西新宿での無差別殺人、旭テレビでの落雷事故、サンタルチア号沈没、新宿区の大洪水......。情報統制が行われているようだが、これらの事件は全て我々……カナリアの会が引き起こしたものだ』


『なぜ政府はこれを隠した? それは、恐れているからだ。我々の力が、人智を超えた力が、全国民へと知れ渡ることを!』


『だが、善良な国民たちよ。もう恐れることはない。カナリアの会は今後、全ての力を国外に向けて使うことを誓う。最強の矛と盾となり、善良な国民をお守りしよう!』


『しかし......。善良でない者には......。............言わずもがな、だ』


『何、気にすることはない。全てをカナリアの会へ委ねる......。それだけで、永遠の安心と繁栄が、君たちに約束される!

賢明なる民よ! 高潔なる民よ! 今こそ、勇気ある1歩を踏み出せ!

我々と共に、新世界を築くのだ!』



--------(side:???) ---------


都内某所。


「......そうさ。美河亮、君は信じられる人間だよ。ありがとう」


「『俺の言いなり』になってくれるって、信じていたよ。さあ、俺の代わりに死んでくれ。

そして、『史上最悪のテロリスト』の称号を、君にプレゼントしよう」


電話を取りだし、怪しげに呟く。


「............。フタビ。今から超能力者が大量に死ぬ。カナリアの会も潰れる。しばらくしたら、『補填』を頼むよ。それじゃあ」



--------(side:輝木光) ---------


「なにこれ......」


私たちは、駅前の街頭テレビを観ていた。

カナリアの会が全国放送した内容の再放送だ。


影華の言う通り、カナリアの会ボス、美河亮の演説が全国放送で流れていた。


あのテロ組織のボスと聞いて、どんな恐ろしいやつなのかと思っていたが、見た目だけは普通……というか、少しくたびれた営業マンとでも言ったような風貌だ。


「ネットニュース見た時には気づかなかったけど、旭テレビの落雷を勝手に向こうの手柄にされてるな」


「ヒカリ、それは大人しく渡した方がいいんじゃないですの? あんなに泣きじゃくっていたんですもの」


「な、赤井お前......! バラすなよ!」


「いや......。あの日の時点でヒカリちゃんが泣いたのバレてるし......」


内木さんに言われる。


「そんな! でも、コイツだってあの日泣いてたんですよ! 家族がいなくて夜1人は寂しーって!」


「アナタが勝手に私の部屋を漁ったからでしょう!? アレはアナタのせいですわ!」


「知らないね! 涙目になったのはお前が雑魚メンタルのせいだろ?」


「雑魚メンタルですってぇ? 私に負けて不貞腐れてたヒカリには言われたくないですわね!」


「過去の栄光を引きずってるんじゃない! 今ならお前には絶対負けないね! スプリンクラーで封じられる超能力なんて怖くないっての!」


「スプリンクラーや大雨の中でも、一応数百度くらいなら出せますわよ! ヒカリなんてそれで十分ですわ!」


「はぁ? 私なんてだって? 私がいなければ不破や五島魅音に殺されてたくせに!」


「それを言うなら瀬葛鏡太郎は私がいなきゃ全滅でしたわよー?」


「なんだとぉ?」


「なんですのぉ?」


「......メグちゃん、なんか懐かしいわね。この2人がいがみ合ってるの」


「そうだねぇ。最近仲良しだったからねー。と言っても、一週間前くらいまでは毎日喧嘩してたけど」


「仲良くない!」


「仲良くないですわ!」


「そう言えばそうよね。まだ私たち出会って1ヶ月ちょいなのよね......。何だか、ずっと一緒にいたように感じるわ......」



「無視しないでください!」


「無視しないでください!」




「こんな所でおしゃべりしてる場合じゃないですわ」


「お前が始めたのに」


赤井が話を変えた。


「都園懸悟が死んだことで、カナリアの会は強硬手段に走り始めましたわ。

あの言葉を真に受ける人は少ないとは思いますけど、きっとみんな不安なはず......」


「不破たちのいう天変地異級の超能力者とやらはもういないと思うんだけどな。野井流美音のことだろ? あれ」


「野井流美音はもう死んだ。けど、それを知っているのは私たちだけ......よね。他の人はまたあんな洪水が起きると思っている......」


「そりゃあ不安にもなるよねぇ......」


「......では、私たちが今からすることは何でしょう?」


赤井が私たちに問いかける。


「そんなの決まってる」



「美河亮をとっちめる!」

「美河亮をやっつける!」

「美河亮をぶっ飛ばす!」

「特殊部隊の人に任せて待機!」


(......え?)



「えぇーっ!? いやいやいや!」


なんだか私だけ違うことを言っていた。


「ヒカリちゃん......。ここまでいくと1種の才能だよぉ.....」


「乗り切れない人ですわね。KYですわね」


「なんでだよ! 都園の時だって国井さんに何か言われてたわけでもないし! ねぇ、内木さん!」


「私たちは正義の味方......。うふふふふ」


(だ、ダメだこりゃ......)


「みんな、冷静になれよ。私たちはちょっとばかり事情通なだけの素人。ここは大人しく坂佐場さんたちの部隊に任せるべきなんだって!」



『速報です!

ただいま入りました情報によりますと、カナリアの会本拠地に突入した特殊部隊が全滅したとのことです!

この特殊部隊、現在に至るまで存在が隠匿されていたもので、名前を......』



「.....ヒカリ。誰に、任せるですって?」


「あぁもう! 分かったよー!」

カナリアの会のボス、美河亮。

彼はついに観衆の面前に姿を現した。


しかし、その裏では何者かが糸を引いていて……。


次回、ついに最後の幹部……江留布操が輝木光たちの前に現れる!

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