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第11話~命賭け⑧~

カナリアの会幹部の都園懸悟によって魂を捕らえられた赤井萌と水野恵。

2人の魂を取り戻すため、内木遊がパケットモンスターで都園懸悟と戦う。


内木遊は都園懸悟の策略を見抜き、数的アドバンテージを得たものの、都園懸悟の能力にはまだ隠された事実があって……

「......。ファイタータイプでもないボルティオンに、ファイタータイプのEX技を仕込んでいたか......。見事だ」


まさに都園の言う通りの訳だが、ヤツは冷や汗ダラダラだ。


(これは......命がかかってるが故の緊張感なのか? 違う、もっとなにか大きな違和感が......)


「輝木光。さっさとお前の疑問に答えよう......。またズルだとか言われたら困るからな」


(っ! こ、コイツ......私の考えてることを......!)


「バトルに選出されたパケモンの合計HPは、プレイヤーの寿命に直結している。故に、ダメージを受ければ、プレイヤーも苦しむことになる」


(はあぁー!?)


「なんだそれ!? そんなの聞かされてないだろ! 後付けも大概にしろ!」


「ゲームに負けた者は命を奪われる。つまり、バトルにおける残りHPはプレイヤーの寿命とイコールだ。能力ゆえ、これは仕方ないことなのだ。それに、事前に話したところでお前たちは勝負を降りたか?」


「それは......」


「大丈夫......、大丈夫よ。このくらいのことは想定できていたわ。モンスターが実体化した時にね。このゲーム、もう何があろうと動じない。勝つわよ」


「そんな......。内木さん......。分かりました......」


内木さんは気丈に振舞っているが......。

もし、パケモンが戦闘不能になろうものなら、寿命の3分の1を削られる苦痛が襲う......!

内木さんは、その苦痛を耐えられるのか......?

まだ内木さんは1度もダメージを受けてないから良いものの......。


(.....ただ、このゲーム、都園もダメージを受けた時には苦しむようだ。出来ればこのまま一方的にアイツが苦しむ姿だけを見ていたいが……)


「言っただろう。俺の能力は平等だ。まあ、心配することはない。俺はこの苦しみに慣れているからな」


(また、考えてることを! さっきからなんなんだコイツ!)


「誰も心配なんかしちゃいないが......そのままくたばれば良いのにと思ってるよ」


「確かに、バトルは既に始まっているので、途中で俺が死ねばお前たちの不戦勝となる。それは正しい知見だろうな」


(なるほど......? そうだ! それなら、今すぐアイツを殺せば......!)


「そして、次にお前は『今からアイツを殺せばいい』と考えるだろう」


(またっ!? な、なんで......!)


「それはできない。このゲームは内木遊だけでなく、お前の命も同時に賭けられている。言わばお前は内木遊と同じく参加者だ。参加者が相手プレイヤーに直接干渉することは不可能だ。だって、それは間違いなく『ズル』だろう?」


アイツがはったりで嘘をついてる可能性もある......。


だが、この変な靄......。


今判明している効果は、不正の防止、モンスターの実体化、合計体力と寿命のリンク......。


正直まだまだ底が知れない。

仮にはったりだとしても、今から行動を起こす勇気は......。


「輝木……はったりだと思うか? そうだな、『負けそうになったプレイヤーがやけっぱちで俺を殺そうとすることは何度もあった』。......こう言えば、納得できるか?」


(さっきからなんだよコイツ! あなたの心はお見通しですよみたいにアピっちゃってさぁ!)


「さて......次のターンへ進もうか」



4ターン目がやってくる。


『けんごはガブリゴンを呼び出した!』


都園はラストの1匹を見せないつもりだ。

またしてもガブリゴン!


「あなたの手には乗らないわよ......。ヒカリちゃんの心理を先回りして自分の戦略性を誇示し、それを聞く私にプレッシャーを与える......。私の猜疑心を煽るのが目的でしょう?」


「ほう。心理戦もままならないか。つくづくお前は強敵だな、内木遊」


「悪いけど、このターンの安定行動を覆すつもりはないわ。

あなたがさっきゴジラドンへ交代したのは、ボルティオンの『かくせいエナジー』アイスタイプを少ないダメージで受けようとしたから。

しかし、もうゴジラドンは戦闘不能。

あなたの手持ちに、アイスタイプの技を抑えられそうな他のパケモンはギガゴンだけ。

もし、あなたがギガゴンを3匹の中に選んでいたのなら、そもそもあの局面ではゴジラドンを出さず、ギガゴンを出すでしょう?

だから、あなたはギガゴンを選出していない」


的確な分析だ。


ギガゴンはボルティオンの得意とする特殊攻撃にめっぽう強く、弱点はファイタータイプだけのパケモンだ。

ボルティオンにはファイター技のパワーボールがあった訳だが、さすがにEX技だとまで読み切るのは難しい。

EX技でないのなら、70パーセントの命中率であるパワーボールは、絶対都園には当たらない。


それを知ってる内木さんがパワーボールを選ぶことはない。


つまりあの場面、都園にとっては選出してるならギガゴンへの交換がド安定だったわけだ。

結果的にはEXパワーボールだったからあんま関係ないが。


「何で来ようが同じ。私はもう技を選んだわ。『かくせいエナジー』よ」


『かくせいエナジー』は命中率100パーセントの技だから、都園の乱数調整は無意味。

ヤツは大人しく適当な技を選ぶしかない。


『ボルルゥア!』


内木さんのパケモンが動き始めた!

5ターン目が始まる!



『ガブリゴンの ドラゴンタックル!』


『グギャアアッー!』


流石に一撃はない。

が、半分以上は持ってかれた......!


(これは、内木さんがこのバトル初の被ダメージ......。つまり......!)


「......っ! あ、ぐぅっ、あぁぁ......!」


内木さんがうめき声をあげて苦しんでいる!


「内木さん!」


「だ、大丈夫......! このくらいじゃ......負けないわ、私......! さあ! やりなさい、ボルティオン!」


『ボルルォオ!』


『ボルティオンの かくせいエナジー!』


『ガブリゴンに 効果はテキメンだ!』


(やった! ガブリゴンはドラグーンとアースの2つのタイプを持つパケモン。これはどちらもアイスタイプが弱点であるため、4倍のダメージが与えられる! 耐えられない! これで3対1!)


『ガブリゴンは 気合のバトンで耐え抜いた!』


「なっ......!」


気合いのバトンっ!

満タンから即死級ダメージを受けても、体力を1残して耐えるアイテム!


「......。スピードはガブリゴンに軍配が上がる。次のターン、先制技を持たないボルティオンは戦闘不能になる」


「......。ふふ......。このままボルティオンで3タテなんて、そんな甘い話はなかったわね......」


これで次のターン、内木さんのボルティオンは戦闘不能。

残りの2匹は、モクモッキュと何か。


対する都園は体力残り1のガブリゴンと最後の1匹。

モクモッキュには先制技の『やみうち』があるので、2ターン後にすぐガブリゴンを落とすことが出来る。

これで勝負は2対1。


「内木さん! 確かに多少不意はつかれましたが、実質1対2。まだこちら有利には変わりません! それに、ソイツはプレイングミスを犯している! ゲームを制しているのは内木さんです!」


ガブリゴンに気合いのバトンを持たせていたのなら、さっきの交代も事情が変わってくる。


まず、ガブリゴンはボルティオンに勝てるのだ。

弱点のアイス技を受けようと確実に耐えるのだから、そのままもう一度殴ればいい。

そうしなかったのは明らかなプレイングミスだろう。

そのせいで、結局ゴジラドンを余計に失うことになっているし。


ではなぜ、都園はこのミスをしたのか?


「ガブリゴンを失うワケにはいかなかったから......?」


そうだ。

もし、この方法でボルティオンを突破しても、直後にモクモッキュの先制技でガブリゴンは失うことになる。


これが導き出す結論はこうだ。


都園は、内木さんのラスト1匹を『都園の手持ちのうち、ガブリゴンでないと倒せないパケモン』だと読んだってことだ!


内木さんの手持ちのうち、ガブリゴンでないと都園が倒せないものは............。


フレアドンだ!


フレアドンは炎、スカイタイプのパケモンで、弱点は石タイプだ。

スカイタイプなので『じばんちんか』が当たらず、炎タイプでありながら水タイプに有利なリーフタイプの技を覚える。


だから一般的に炎に優勢な水タイプでは対策にならず、かといって炎に弱点を突かれるメタルタイプやリーフタイプは論外!


それらを弾いていくと、都園の手持ちのうちで残ったのがガブリゴンとランデイオン、ギガゴン。

そして特殊攻撃型には 『かくせいエナジー』という技があることを考えると、フレアドンよりスピードの劣るランディオンは候補から消える。


さらに、ギガゴンは先程の行動から選出外が確定している。


結果、フレアドンを倒せるパケモンはガブリゴンのみになる!

都園は内木さんのラスト1匹をフレアドンだと読んでいるんだ!


「内木さん! 都園は............っ!」


(いや、ストップ、ストップ。もう一度考え直せ。私が気がつくようなことに、内木さんが気がつかないはずがない!)


「............」


それだったら、私は余計なことを悟られないよう黙っているべきだ。


ゲームの主導権を握っているのは、完全に内木さん。

この状況をひっくり返すため、深読みして自爆......例えば、モクモッキュに弱点でもない石技を放つとかをしてくれれば......勝ちがほぼ確定する。


ここはじっと耐える......!

考えてることを見抜かれないように!


「............」


「選択は終わったか? では次のターンだ」



『ガブリゴンのドラゴンタックル!』


これで内木さんのボルティオンは戦闘不能に......!


バトルの方は問題ないが、パケモンとリンクしたプレイヤーへのダメージが心配だ!


『ボルティオンは戦闘不能!』


「............っ! お、ぐっ......!」


内木さんが、小さくうめく......!

叫び声を上げることすら出来ないのだ!

寿命の3分の1を奪われる苦痛は、きっと私の想像を遥かに超えるだろう......。


「内木さん......」


「大丈夫......。勝つまで......勝つまで、このゲーム機を手放すことはないわ......!」


『ウッチーはモクモッキュを呼び出した!』


『モクモッキュのやみうち!』


これで、都園はラスト1匹だ。


『ガブリゴンは戦闘不能!』


「うぐっ......」


都園の顔にも、さすがに焦りが見え隠れしている。今まで不気味な程に表情を変えなかったアイツにの頭に、『負け』という文字が浮き上がりつつある!


『けんごはランディオンを呼び出した!』


ヤツの最後の1匹は、ランディオン......。

コイツも『じばんちんか』を覚えるパケモンだ。

スピードでモクモッキュが敗れている以上、次のターンでモクモッキュは終わる。


ということは、お互いに最後の1匹......。

1対1のタイマン勝負で、全てが決まる!



『モクモッキュのやみうち!』


今、内木さんにできるのは、これだけだ。

しかし、ランディオンには全然効いてない......。


それに、問題はこれだけじゃない。

今から、直後に起きることは......。


『ランディオンのじばんちんか!』


来る!

さっきのボルティオンは大体半分くらいずつ、2回に分けて倒された。


だが、今度は違う。

体力が満タンの状態から、一気に戦闘不能まで持ってかれる!


それに伴う苦痛は、これまでの比じゃないはずだ!


(クソ、都園め。フレアドンへの交代を深読みして、じばんちんか以外を選んでくれればよかったものを!)


『モクモッキュは戦闘不能!』


「............っ!」


内木さんの顔が、みるみる歪んで青く染っていく......!


「......はぁ、ぅう......っ!」


「......この様では、お前は最後のパケモンを出すことすらできず気を失うかもな」


(内木さん……そんな……!)


まずい!

内木さんの瞳から、光が消えてしまいそうだ!


いくらバトルが有利でも、戦う意思を失ってしまえば......!


パケモンが受けたダメージだけ、プレイヤーは寿命を奪われる苦しみを受ける。

それがこのゲームの隠された事実だった。


ゲームを優位に進めるも、パケモンを1匹失い、精神に大ダメージを受けた内木遊は戦う事が出来なくなってしまいそうで……。


次回、決着!

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