第11話~命賭け③~
国井守の依頼を受け、所定の場所に向かう輝木光たち女子A級。
殺人ロボットに何度も襲われるも、目的地へとたどり着く。
そこにいたのはS級超能力者……心を読む能力の彼女だった。
「前から思っていたけど、輝木……キミは物事を考える時やけに説明口調だね」
こちらを見透かしたように(実際見透かしているのだが)S級が言う。
久しぶりに会ったが、相変わらず鬱陶しいヤツである。
ロボットに襲われているところを助けてやったのに、礼の1つすらないのか。
「.......ソーリー。それは失礼だったよ。助けてくれてありがとう」
「.......周りの人間から見たら、全く会話が成り立ってないんだ。私たちをコケにしたいワケじゃないなら、心を読むのはやめて私の言葉に答えてくれ」
何とかならないのか。
こっちの考えてることが筒抜けだなんて……。
「おお、君たち! わざわざすまない!」
奥には残りの2人もいた。
こちらに気づいて声をかけてくる。
(ええっと、この人たちは.......)
「お久しぶりですわ。伊武総理大臣、志村さん」
「A級の皆さんに来てもらったなら、もう安全ですね、総理」
総理大臣である伊武有人と、その秘書である志村再の2人だ。
(そう言えば、あのS級、普段は総理大臣の護衛をしているとか言ってたな。だからこの2人と一緒にいるのは、特に不思議じゃないのか)
「心のない外敵っていうのは、彼女や志村では唯一対処できないものでね。突然呼び出してしまって本当に済まない」
「あ、総理.......」
私たちにそう言う総理を見て、志村さんがしまったという表情を浮かべた。
「まあまあ志村。A級の彼女たちは我々にとっても1番の仲間なんだ。明かしてしまってもいいだろう?」
「明かす.......。と、ということは、し、志村さんも実は.......?」
内木さんが気づいて、恐る恐る聞いていく。
「.......えぇ。超能力者です。隠していて申し訳ございませんでした」
「.......ね、ねぇ.......。モエちゃん、あの人.......誰.......?」
メグが後ろでおずおずとしながら問いかける。
「伊武現内閣総理大臣と、その秘書の志村さんですわ」
「えーっ! 本当に総理大臣!? 本物の!?」
そうか。
メグは総理に初めて会ったあの日、風吹魅音に操られていたから、今が初対面.......になるのかな?
「初めまして、水野恵さん。私は伊武有人」
「秘書の志村です」
「あ、ど、どうも! 水野恵です! えっ、と18歳です!」
陽気でコミュニケーション能力の高いメグも、さすがに国家のトップが相手では緊張を隠せないようだ。
「あの、話が途切れちゃったんですが、志村さんってどんな超能力なんですか.......?」
内木さんが話を続ける。
「.......私の超能力は、『超能力を無効にする超能力』です。ですから、超能力者でないロボットに対しては無力なんです」
(ということは、あの読心女も志村さんの心は読めない.......?)
「..............」
「ということは、志村さんの心は読むことができないのか?」
「そうなるね。志村さんと、あと総理が何を考えているかは分からないよ」
「あ、無効とはいえ、私に向けて火や電撃を放つのはやめてくださいね。そういう物理的なのは普通に防げないので.......」
志村さんが焦ったように言う。
(……意外と汎用性が低いな)
「それじゃあ、そろそろ移動しようか。総理と志村さんも大丈夫ですよね?」
S級が私たちに言う。
「移動しますの?」
「いぇす。ここにはもう、最後の扉1枚しか守ってくれるものがないからね。もっと安全な場所へ移動するのさ。総理たちの命は何としても守らないとね」
S級の読心女は飄々と言う。
「..............」
「赤井。キミの考えることは尤もだし、共感できる。でも、現実ではそうも言ってられないんだ。どうか抑えてくれないかな?」
不満げな赤井をアイツが諭す。
「.......えぇ、分かってますとも。私の考えが甘いんだと」
「.......キミは真っ直ぐな子だね。その気持ち、大切にして欲しい。バカにしてるワケじゃないよ? 本心さ。.......もう自分は.......失ってしまったものだから」
赤井は何を考えていたんだろうか.......。
だいたい察しはつくが.......。
「では、出発しましょうか。彼女らがいれば、あの殺人ロボットなんて敵ではありません。道案内は私にお任せを」
陰鬱な雰囲気の会話を、志村さんが切った。
そして、私たちは再び屋外へ出て、歩き始めた。
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あれから、また何度かあのロボットたちに襲われたが、一瞬で蹴散らすことが出来た。
そして、郊外の住宅街を30分ほど歩いたところで、志村さんが足を止めた。
「到着しました。ここです。ここなら、例え核爆弾が落とされようと無傷で過ごすことができます」
しかし、ここは空き地だ。
(こんなところにいても、無傷どころか即死だと思う)
「うんうん、輝木。分かるよその気持ち。初めて来た時はそう思うよね」
読心女が話しかけてきた。
馴れ馴れしい。
「何だよ。何がおかしいってんだよ.......」
「あはは。すぐにわかりますよ」
『ピッ』
志村さんがスマートフォンを取り出し、何やら操作する。
『ゴゴゴゴゴ.......』
「うわっ、じ、地震?!」
激しい地鳴りが響く!
「違いますわ! あちらを見てください!」
「す、すごい.......」
赤井の指さす先には、せり上がる地面があった!
こいつは一体!?
「すごーい! 秘密基地みたい!」
そして、その中からは地下への階段が現れた!
「『事実は小説よりも奇なり』って言葉があるけど.......まさか現実にこんなものがあるなんてな.......」
科学の力はすごい。
人類の進化は、私の想像を遥かに超えていたのだ。
「この場所は、私と志村しか知らないのだ」
「元々は、冷戦期に第三次世界大戦の備えとして建設したらしいです。それを今、改造して使っているわけですね。資源の有効活用です。さあ、入りましょう」
総理と志村さんに説明され、私たちはその地下へと入っていった。
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「内装は随分ノスタルジックですわね.......。ハイテクな印象の入口部分と乖離していますわ.......」
赤井の言う通り、地下の内部は装いが随分と異なっている。
まるで数十年前の商店街……そんな外観だ。
しかも、地下であるはずなのに、見上げれば空が広がり、陽光が差している。
人工の景色ではあるのだろうが……。
「あぁ、これは私の趣味なんだ。目指したテーマは昭和の商店街。私の年齢は51だが、どうも昔を忘れられなくてね。君たちから見たら古臭く感じてしまうだろうが.......」
どうやら総理の趣味だったらしい。
「そんなことないですわよ。素敵だと思いますわ」
「あはは、お気遣いありがとう。ちなみにこれらの建物は見た目こそ店舗なのだが、実際は食料庫なんだ。この人数なら、そうだなぁ.......軽く20いや、30年以上この中で生活できるよ」
(すげーなそりゃ。こういうのって映画や漫画だけのものだって思ってたけど、現実にあるんだな)
「ほら、このお店なんてどうだ? これは1970年代、実際に私の故郷にあった駄菓子屋をモデルにしているんだ」
「わー、すごい! ドラマのセットみたいですね!」
適当な店舗に入って説明する総理に、メグが反応する。
「ははは.......やはり、君たちの歳だと創作の世界か。いやはや、歳はとりたくないねぇ。
あ、そう言えば輝木さん。確か君の妹さんは、駄菓子好きだと聞いたが.......。次にここへ来る時は、妹さんも連れてくるといい。
......まあでも、ここに来る時は非常時だから、できればそんな機会はない方がいいか、あはは」
「そうですね.......?」
(......。なぜ影華の駄菓子好きを、伊武総理が知っている?
国井さんにも影華のことは話してないのに。
......まあ、いいか)
「輝木.......キミ.......」
読心女が私に何か言いかける。
「? なんだよ?」
「いや.......なんでもない.......。ごめんよ」
(なんだよ。気になるから言えよ.......)
「.......」
「なんだよ」
「良いんだ。ただの思い過ごしかもしれないし」
(思い過ごし……? 何の話だ?)
結局話してくれなかったので、私には分からなかった。
地下の広場まで歩いてきた。
「ありがとう。ここまで来れば、もうあの殺人ロボットは追ってこられないだろう。しばらく安泰だよ」
「A級の皆さま、ありがとうございます。助かりました」
総理と志村さんにお礼を言われる。
どうやら、これにて私たちはお役御免のようだ。
「いえいえ、どうもどうも。さて、じゃあ帰るか」
私はそう言って、仲間たちの方を振り向く。
「..............え?」
それに対して、仲間たちは呆気に取られたように凍りついていた。
(お、おい。何だこの空気)
「え、マジで帰るんですの.......? あの殺人ロボットたちを放置して.......」
「もし、あれが日本中に放たれでもしたら、何人もの犠牲者が出るわ.......! 放っておけないわよ.......」
「そうだよ! 家族や友達が殺されちゃうかもしれないんだよ!?」
(す、すごい非難轟々.......)
「いや、あ、え、すみません.......」
私は力なく返事するしかなかった。
無事に国井守に依頼された任務を完遂した女子A級。
しかし、殺人ロボットが気がかりのため、捜査を行うことになる。
果たしてこのロボットはどこからやってきたのか……。
次回、敵幹部と激突!




