第10話~純水なる殺戮⑤~
水を操る強力な超能力者、野井流美音に勝利した輝木光。
これで今度こそは彼女に一時の安息が訪れる……かもしれない。
今回で第10話完結です!
--------(side:輝木光) ---------
水が、引いていく。
野井流美音が死んだという証だ.......。
「まただ.......。また私は.......」
「お姉ちゃーーーーん!!!!」
「え、影華」
「大丈夫!? ケガはない!? って全身ボロボロじゃない! いやぁー! 救急車だよ救急車!」
「え、影華さん、落ち着いてくださいまし.......。救急車より強力な助っ人が来てるみたいですわ」
「助っ人?」
誰だろう?
メグか?
いや、メグだったら『メグが来てますわ』って言うだろうから、多分別の人だ。
『キキーッ』
車がやってきた。
かなり急いでいるのか、100キロ以上は軽く出していたように見えた。
しかも急ブレーキで路駐。
運転が荒い。
中からは、1人のおっとりした印象の女性が降りてくる。
そして、私たちに近づいてくる.......。
「あ、あの....... すみません。この辺りに、輝木光さんという方がいると聞いたのですが.......」
「.......ヒカリなら、そこで倒れてますが.......」
「あぁ! あなたがA級超能力者の輝木光さん!? 突然すみません。私、B級の虚井結良莉と言います。衆議院議員である二本さんの指示でここに来ました」
(仲間の超能力者.......?)
「あら、ありがとうございますわ。こんな夜中に.......ケホッ.......」
「えっと.......そういうことなら.......あなたがお姉ちゃんを治してくれるんですか? あ、私は輝木光の最愛の妹、輝木影華です。よろしくお願いします!」
「あ、いえ、違うんです。私の能力は『瞬間移動』なんです。本当は皆さんを新宿から逃がすために来たんですけど……」
なるほど.......。
話が見えてきた。
メグのところに移動して、叩き起してから治してもらうってことか。
「えぇ.......国井さんから話は聞いていますわ。こちらが移動先の住所ですの」
「それでは、行きますよ。皆さん、私と手を繋いでください」
「承知いたしましたわ」
「はーい。ほら、お姉ちゃんも」
「あぁ.......」
(何も考えず手を繋いでしまったが、瞬間移動って痛かったりしないよな.......?
多分私は今、何ヶ所か骨折してるから、あんま激しいアクションは.......)
「はい、OKですよ皆さん。あ、言い忘れていましたが、瞬間移動って慣れないうちは凄い酔うみたいです」
「え、ちょっと――
--------
メグの家に移動したようだ。
(おげええぇぇ.......。最悪の気分.......)
痛いやら、吐きそうやらで、体がとんでもないことに.......。
「うぷっ.......。これはキツいですね.......」
影華も青い顔で口元を抑えてる。
(こんなの耐えられるヤツはいないだろ.......車酔いの5倍くらいキツいぞ.......)
そして、赤井はと言うと.......。
「め、メグ! お手洗い借りますわ! 勝手にごめんなさい!」
トイレにダッシュ&リバースしていた.......。
まあ、インフルエンザ患者にこの仕打ちは酷だった。
「メグ! 夜中に悪いですが、起きてくださいまし! ......ゲホゲホッ、ゴホッ」
「うーん.......」
赤井がメグの体を揺すって起こしている。
「なーに..............? も、モエちゃん.......。悪いけど、私の超能力は病気に効かないよ.......」
「治して欲しいのは、私じゃなくてヒカリですわ! 何ヶ所も骨折してしまって.......」
「.......うん。うん? ......お、おぉ? ......治す! 治すよ!」
メグがこちらに這い寄って、手を添える。
「よし、じゃあおやすみー.......」
「治った! サンキューメグ」
私の体から痛みは一瞬で消えた。
「.......ん? あ、あーっ! なんであなた靴のまま入ってくるの! ひどいよー!」
(…………あ)
私たちは部屋から直接飛び出したから裸足でパジャマであるけど、虚井さんだけは靴を履きっぱなしだ。
「す、すみません水野さん.......。住所の位置に直接移動してしまったので.......」
「.......えーっと、あなたは誰ですか? また誰かの親戚?」
「私はB級超能力者の虚井といいます。土足で入ってしまったのは、私のミスですね.......申し訳ないです.......。すぐに脱いで下駄箱に置いてきます!」
「あ、行っちゃった.......。寝起きだからって、ちょっと強く言い過ぎちゃったよぉ.......」
「メグちゃん、掃除しておいたよー。あと、お姉ちゃんとモエさんも足を拭いてください。裸足で外に出て、多分汚れているので。はい、雑巾です」
(対応早いな、オイ。全くよく出来た妹だ)
「メグ、一晩だけ泊めてください!」
「え、ええっ。ま、まあこんな遅い時間から移動はできないだろうし、いいけど.......」
「一晩ではなく、三晩くらいになるかもしれませんわ.......。私の家、水浸しで住めないんですもの.......」
「あ、そうか、洪水! そんなに酷かったんだ……。いいよいいよ、気にしないで。そういうことなら仕方ないもん。ごめんね、狭い部屋で」
メグは快諾してくれた。
やっぱり彼女は優しくてお人好しだ。
「.......あ、あの.......。私も一晩だけいいですか?」
「虚井さんには瞬間移動があるじゃないですか。すぐ自宅に戻れるんじゃないですか?」
私はそう言った。
虚井さんには悪いが、これ以上狭くなるのは.......。
(それにしても、虚井さん……瞬間移動って便利だなぁ。羨ましいよ。逃走も潜入もなんでもござれだし。日常生活だってとても便利だ。そんな能力でB級なのが不思議だね)
「いえ、輝木さん……私の瞬間移動は、1日2回程度しか使えないんです.......。今日の分は新宿へ移動するのと、ここへの移動で使い切ってしまったので、次に使えるのは明日の2時以降ですね.......」
(…………。そりゃあB級だわ)
--------(side:???) ---------
「..............。流美音が死んだ.......か。
だが、死んでくれて良かったよ.......。彼女は組織の中で『唯一』、俺の名前を知っているからね.......。
もしも捕まろうものなら、俺自身の手で消そうと思っていたくらいだ。
............。S級は想定内だったが、A級がここまでの脅威になるとはね.......。
............さて、組織を抜けるなら、S級やA級と刺し違えるくらいして貰わないと困る。
.......そう幹部の彼……都園に伝えておいてくれよ」
「..............なあ、『ボス』」
「承知」
--------(side:輝木光) ---------
「やった! 平民平民!」
影華が小さくガッツポーズをする。
「これで二人きりだな.......。赤井、友情の印に教えてやるよ.......。私の持っている最後のカードは『スペードのエース』だ。上がりで禁じ手とされている、2とジョーカーを除く全ての中で最強のカードさ。お前に勝ち目はない」
「それはどうかしら? 時計回りだから、今は私のターンですわよ」
「何を出しても無駄だよ。せいぜいセコセコと2枚ずつ出し続けるんだね。その残り7枚の手札全てがペア以上ならね!」
「行きますわよ。私はこれを出しますわ」
『11』
「小賢しい真似を。だけどそんなもの、露の間の延命処置に過ぎない.......」
「エースは出せませんわよね。では次にこれですわ」
『7』
「はい、プレゼントですわ」
7渡しのルールで赤井に手渡されたカードは『6』。
「い、要らねー.......。だけど、いいさ。これで私はカードを出せる! はい、スペードのエース!」
(ジョーカーはもうない! こんな終盤に2の温存も多分ない!)
「2ですわ」
「はぁ!?」
(まだ1枚残ってたかー……。夜中だから記憶力がアレなのかー……)
「次のカードはこれですわ」
『8』
(や、8切りか.......。だが、あいつにはまだ2枚のカードがある。頼む、6以下であってくれ!)
「最後にこれを出して.......」
『10』
「手札の4を捨てて上がりですわ!」
…………負けた。
これで3連続大貧民だ!
「チクショー! もうお前との友情なんて破棄だ破棄! このマスクめー!」
「そりゃマスクはしますわよ……」
アレから目が覚めてしまった。
もう今夜は眠れなさそうなので、私たちはトランプをして遊んでいた。
今回の順位は上からメグ、虚井さん、影華、赤井、そして私だ。
今回のゲームは、メグが開幕に2やエースを出しまくったと思ったら、革命を連発して速攻で上がった。
(メグめ。パケモンでは意味不明なパーティを使っていたくせに、トランプはやたら強い)
「トランプゲームって最高だよねー。現実では貧乏の私も、ゲームでは大富豪になれる!」
「メグ、その微妙にいじりにくい発言やめて.......」
「あ、ヒカリちゃんありがとう! ヒカリちゃんから貰ったジョーカーさんと2はちゃんと活躍したよー」
「ジョーカーと2.......。お姉ちゃんが、今回メグちゃんに滅茶苦茶な上がり方させた戦犯だったんだね」
「ええっ。そんなのしょうがないでしょ.......。その理屈なら、どちらかと言うとカード配ったヤツが戦犯でしょ!」
「今回カード配ったのもヒカリですわ。前回の大貧民ですもの」
「うげぇ」
「.......何だか、A級の人たちも私たちと変わりませんね」
「え? どうしました虚井さん」
「実は私たち、A級は最強の超能力者集団.......一体、どんな恐ろしい人たちなのか.......って噂してたんです。でも、実際会ってみたら皆さん楽しい人たちで.......。明日、みんなにちゃんと伝えておきますね!」
(そんな噂されてたのか.......。なんかショックなんですけど.......)
「バッチリ伝えといてくださいよー! 特に輝木光さんは、キューティでプリティで人格者で平成が生み出した天才だと言うことを重点的に!」
「輝木さん。天才なのに、大貧民にはなるんですね.......」
「うっ.......」
「おほほほ! 虚井さんもヒカリの扱い方を心得てきたんですのね!」
ゲラゲラ笑いおって赤井め。
(数時間前までフラフラだったクセに。無駄に元気になっちゃってさぁ。
このゲームの参加も相当渋ったのに、今じゃ一番ノリノリだし)
「はい、じゃあ次のカード配ってよ。『大貧民』のヒカリちゃん!」
「め、メグまで.......。見てろよ! 次は5ターン以内に私が上がってやる!」
夜はまだまだこれからだ!
--------(side:国井守) ---------
昨夜は官公庁との会食でよかった.......。
新宿の自宅に戻っていたら、今頃俺は溺死していたかも知れない.......。
それにしてもここ数日、カナリアの会の動きが激しい。
相当追い詰められているのか。
ならば、ヤツらを殲滅するまで後一歩という証左だ。
しかし、ここへ至るまでに、我々も多くの犠牲を払ってしまった.......。
特になんと言っても、雨宮たち.......男子A級だ。
リーダーの雨宮以外全員の死亡が確認され、雨宮も行方不明。
状況から考えておそらく.......。
総理.......。
本当にこれで良いのですか?
未来のある若者たちを犠牲にしてまでも.......。
国を守るためとはいえ、民あっての国ではないのですか.......。
国のために民を切り捨てるのだとしたら……、一体俺たちは何のために戦っているんだ?
.......結局、彼らの仇は輝木が討った。
輝木か.......。
当初はA級最大の不安要素だったが、蓋を開けてみればS級に次ぐ貢献度だ。
彼女は不誠実な人間で、もしもカナリアの会から大金を積まれれば裏切るとか想定していたが、それは私の誤りだった。
彼女は思ったより立派な人間だった。
......いや、このプロジェクトを通して、成長していると言う方が適切か。
超能力も、人間的にも。
『プルルルルルル.......』
電話だ。
輝木から.......?
「国井だ。どうした輝木」
『あ、あの.......。私とメグも、インフルエンザに感染しました.......』
「.......え?」
『昨日、赤井と私の妹と.......、あとB級の虚井さんって人と、メグの家に泊まったんですが.......ゲホゲホっ。どうやら、その時にうつったみたいで.......』
「.......。分かった、お大事に」
「失礼します.......こほっごほっ」
『ピッ』
(............。輝木のバカ……)
『プルルルルルル.......』
また電話か。
今度はなんだ?
『もしもし? 国井さんですか? 私です。二本です』
「二本か。どうしたんだ一体」
俺と同じく今回の超能力特殊部隊のプロジェクト参加者で、B級とC級の監督をしている国会議員の二本からだった。
『あの、今朝女子B級が全員インフルエンザに感染したみたいで.......』
「マジか.......」
間違いない.......。
昨日、虚井が赤井からウイルスをもらい、それを発症前に他の隊員の前でぶちまけた.......。
『しばらく活動できそうもないです。あと、虚井からA級に伝言です。楽しかったです、また一緒によろしくと』
「.......分かった。今後、インフルエンザ患者は徹底的に隔離しよう.......」
『では、失礼します』
女子A級は内木以外全滅。
女子B級も全滅。
今、カナリアの会に何かされたらシャレにならない被害が出る。
『ピッ、ピッ、ピッ.......』
『は、はい、内木です』
「.......国井だ。これから1週間、絶対に他の隊員には会うな。以上だ」
『えっ、それはどう言う.......』
「本人たちに聞くんだな。それでは」
『プッ』
(もう内木だけが頼りだ.......)
「はぁ.......」
頼むから3日.......いや2日でいい。何も起きてくれるな。
でも、起きるんだろうなどうせ……。
一緒に遊んでいたらまとめてインフルエンザに感染してしまった輝木光たち。
今の状況で何か起きたら対処できない。
せめて3日間ほど、何も起きずにいてくれれば……。
そう願うしかない国井守だった。
次回から11話です!




