表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/100

第10話~純水なる殺戮②~

一難去ってまた一難

赤井萌の家で休んでいた輝木光と輝木影華だったが、今度は謎の洪水に襲われる。

このままでは溺死してしまう!

そんなピンチだったが、輝木影華の持つ影の超能力で安全な世界へと避難したのだった……。


「な、なんとかなった.......」


私たちは影の世界へと移動し、どうにか洪水の難から逃れていた。


「ありがとうございます、影華さん.......ケホッケホッ.......」


「いえいえー! それほどでもー!」


「…………。それじゃあ、安全になったところで、一つ考えよう」


「お姉ちゃん、何を?」


「これは.......、ただの自然災害か? それとも.......」


私はケータイを取り出す。

……圏外か。


「あ、ごめん。『電波』はこの世界へ入ることを許可するよ」


「繋がった.......」


(便利な超能力だな、オイ。今日は味方でよかったよ.......)


繋がったケータイで私はニュースの記事を見る。


---------


東京都新宿区にて洪水発生


2月28日0時頃から、東京都新宿区の一部地域にて、大規模な洪水が発生中。区内の全世帯に避難勧告が出され、道路は膝上まで冠水している状況だ。


また、深夜に予兆もなく発生したことにより、被災地では多くの行方不明者が出ている。現在、警察や消防が被害状況の確認とともに、行方不明者の捜索にあたっている。


気象庁は、原因を『先日積もった大雪がここ数日の暖気で溶け、貯水池へと大量に流れ込んだため』と発表した。


しかし、この洪水についてはまだ不可解なことが多く、引き続き原因究明を行うと併せて発表された。


---------



バカバカしい。

雪解け水が貯水池に流れた程度でこんなことになるものか。


そもそもあの雪は東京全域に降ったんだ。

それが原因なら、東京の至る所で洪水が発生していなければおかしい。


『ブー、ブー、ブー』


「..............うぅ」


私がイヤで苦手な音が聞こえてきた。

電話のバイブ音だ。


「はい、輝木です」


『あ、もしもし!  ヒカリちゃん? みんな大丈夫!? 今ニュース見てさ、心配になって.......』


メグからだった。

よく見たらこれ、グループ通話だ。


「なんとかね.......。赤井と影華も一緒だよ」


「良かったぁ。まさか3人の近くでピンポイントに洪水が起きるなんてねぇ。

でも、無事なら何より! なんか冠水してるんでしょ? 今はそっち行けないけど、明日部屋の掃除とか手伝うよ」


やはり、そうか。

……カナリアの会は私たちの動向をある程度把握している。そして、近くの貯水池という不自然すぎる場所の氾濫.......。

ましてや赤井の家は、新宿区の中でも比較的高地で海抜25メートルくらいに位置している。


「なぁ、メグ.......。お前はこの洪水をどう思う?」


「どうって? いやぁ、自然って怖いなーって。

まあ無事でよかったよぉ。それじゃあもう夜遅いし切るね。バイバーイ!」


(…………。メグ……)


「この洪水.......、意図的に起こされたものだ。断言していい」


「.......ケホッ.......。私もそれ、ちょうど思っていたところですわ.......」


「こ、洪水を意図的に起こすなんて.......そんなこと、出来るものなの? お姉ちゃん」


1つ、思い出した。

5日前に不破明を捕縛して、聞き出したことだ。



---------


『テロ班にはさ、天変地異級の災害を起こせる超能力者だっているらしいけど、そんなの使ったら一瞬でみんな死んじゃうからね。選択する権利を与えられない』


「へぇー。その人、そんなに強いのに幹部じゃないんだね」


『いや、違うよ。『天上界テロ班』のトップと、『幹部会』を兼ねてるはず。

班である程度の実績を残すと、働きをボスに評価され、幹部として、班の運営や、采配に意見する権利を与えられる。

その際には、元の班としての活動と、幹部としての仕事、2つ兼任することになるんだよ』


「そこまで知ってるなら、その天変地異級の超能力者についてもっと教えておくれよ。

名前とか分かったりしないの?」


『知らないよ。基本的に私たちは横の繋がりがないんだ。直属の上司から命令を受けるだけで、その上司の名前くらいしか知らないんだよ。

あ、でも死亡者が出たら分かるね。阿井さんや津場井さんはそれで知ってる。津場井さんはまだ死んでないけど』



---------


「天変地異を起こせる超能力者.......。

それが、カナリアの会の中にいる。

そしてソイツこそが間違いなく、この洪水を引き起こした犯人だ!」



--------


あれから数十分が経った。


「..............ハァ.......ハァ.......」


私たちは洪水から逃れるため、高い位置へと影の世界を移動している。


影華曰く、現実と影の世界の座標はリンクしているので、この世界で移動すれば安全に避難できるそうだ。


ただ、影の世界には乗り物がないので、移動手段が徒歩になる。

もちろん、影華が『車はこの世界に入っていい』と宣言すれば、車を手に入れることも出来る。


しかし、外は水浸しなので、どうせまともな車は手に入らないのだ。


「.......ゼェ.......ハァ.......ケホッ、こほっ.......」


徒歩で何キロも移動するのは、インフルエンザ患者の赤井には酷だ。

さっきはああ言ったものの、できれば車を入手したい.......。


「影華。少し外を見てもいいか? 結構移動したし、もしかしたら、使える車があるかもしれない」


「いいけど.......、じゃあ、この影から顔を出すだけね。あと、飛び出した拍子に溺れないよう、口を必ず閉じてから覗き込むこと!」


そう言って、影華は足元に50センチほどの影を作った。


「あぁ、分かった。すぅー.......」


大きく吸い込んでから、息を止める。

そして影に首を突っ込む。


『ボシャン!』


--------


プールに顔を突っ込んだみたいな音だ。

やはりここも水没して――――


「!!!!」


水の量がさっきの何倍にも増えている!


それに、その辺に浮かんでいるのは..............。


「..............ッ!」


(うげぇっ!? 水死体だ!! それも一つや二つじゃない。至る所にプカプカと漂っている!)


なんてことだ!

まさか、この数十分でここまで被害が拡大しているなんて!!


恐ろしいヤツだ.......。

この洪水を引き起こした超能力者は、今までの刺客と一線を画する、『とんでもないヤツ』だ!


普通の人間なら、こういうことをするにしても、『流石にここまでやったらまずい』だとか、『罪のない人を殺すのは.......』とか考えて、無意識に力を抑えるものだ。

いくら残虐を気取っていても、実際にこんな光景を目の当たりにしてなお殺戮を続けられるヤツはそうそういない。


だが、コイツはそれをやってのけている。

コイツには『良心』というタガがない!


こういうことをできる人間は2種類しかいない。

夕方の阿鳩優のように、快楽殺人犯なのか、もしくは!


この行為を、『心から正しい』と信じているかだ!


--------


影に突っ込んでた顔を引っ込めた。


「や、ヤバいよ..............。ざっと100..............いや、200..............?」


「なになに? どうしたのお姉ちゃん。100、200って.......、車の排気量?」


「違う......! 死者の数だよ! 水位がさっきの何倍にも膨れ上がってて、遺体がプカプカ浮かんでた.......。目に見える範囲だけでこれだ.......。他の場所のことも考えると.......」


「こ、怖いね、それは.......」


「..............急いで被害を食い止めなくてはなりませんわね.......。犯人はどこにいるのでしょうか......こほこほっ.......」


流石は正義感の強い赤井だ。

しかし.......。


「とにかく犯人を探すにしても今のままじゃあ、身動きが取れない。これからはペース上げてさっさと高地へ移動するぞ。赤井、大丈夫か?」


「.......だ、大丈夫.......ですわ.......」


(ダメっぽいな。仕方ない)


「.......ほら」


私は赤井に背を向け、しゃがみ込んだ。


「なっ、なんの真似ですの? それは.......」


「時間がない。早いところ犯人をタコ殴りにしないと、死者が増えるばかりだ。お前は私がおぶって行く」


「わ、私はそんなことして貰わなくても.......ゲホッゲホッゴホッ」


「.......少し前、私が死にかけた時.......、お前は私をおぶってくれただろ? その時のお礼だと思ってさ」


「.......分かりましたわ。恩に着ます」


赤井が私におぶさった。

顔が赤いのは、照れているせいか、高熱のせいか。


「いいなー。私もお姉ちゃんにおんぶしてもらいたいー」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ.......。ほら、行くぞ」




40分ほど経って、目的地に到着した。


「新宿で1番高い場所.......。ここだな」


都立公園の中にある丘。

新宿区で、最も標高が高い場所だ。


ケータイを出して洪水について確認する。



---------


大洪水について

2018年 3月 1日 1:28 気象庁


新宿区にて突如発生しました大洪水について、続報をお伝えいたします。

現在、引き続き水位は上昇を続け、気象庁では原因究明にあたっております。

区民の皆様におきましては、なるべく高い建物へと避難いただけますよう、お願いいたします。

新宿区で最も高い建物は『新宿セントラルビル』です。

また現状、被害は新宿区のみではございますが、隣接した区にお住いの皆様におかれましても、避難の準備を進めてくださいますようお願い申し上げます。


---------


そうか.......。

被害は『不自然に』区内だけか.......。


「よし、この辺でいいだろう。影華、外への出口を出してくれ」


「えっ、いいけど.......。犯人の居所の目星はついてるの?」


「.......犯人はおそらく、このすぐ近くにいる」


「ええっ! なんで?」


「あまりにも不自然すぎるんだよ。新宿区内『だけ』に被害が出てるのは。隣接する区には、新宿より海抜が低いところだってあるのに。だから多分これはワザトだ。『犯人は区内にいる』って、私たちに教えてるんだ」


「でも、向こうにそんなことして何のメリットが.......」


「この洪水の目的のひとつは、恐らく私たちを殺すこと。そう考えると見えてくることがある。

まず、ヤツらは影華の存在を知っている。昨日接触してるんだから当然さ」


「う。そ、その節は本当に.......」


「だから、今の私たちが引き込もるこの状況も想定済。そして、アイツらは影の世界に干渉できない。

となると、向こうは『私たちの方から出てきてもらう』必要がある。

そのために、ヤツらは教えてるんだ。『私はここにいるから倒しにこい』って具合にね。

そしてこの状況なら、私たちに逃げ場はない。人質が何十万人と取られてるに等しいしね」


「な、なるほど.......」


「.......私も大体そのスジで読んでましたわ.......」


「ホントかよー」


「思っていても、喋るのが結構しんどくて.......ケホッ.......。あと、下ろしてもらっていいですか?」


確かにそうだろうな。

屈んで赤井を下ろす。


「はいよ」


「ありがとうございます。それでは.......、外へ参りましょう。

急がないと、セントラルビルなどの避難先まで水没してしまいますわ。そうなったら、新宿中の人が溺死してしまいます!」


「赤井......」


「幸いにも、敵の超能力は水。私の高熱さえあれば、一瞬で蒸発.......」


「赤井」


「な、なんですの」


「お前は影華と一緒にこの世界にいろ。このテロリストは、私一人で倒す」


「なっ.......」


無理だ。

たった数キロ歩いただけで息切れしてフラフラになる今の赤井は、テロリストと到底戦える状態ではない。


「どうして! インフルエンザのことなら特効薬を飲んだから..............ゲホッ.......ゴホッ」


「家に流れてきた水にも押し負ける状態のお前じゃ、みすみす殺されるだけだ」


「そんな.......、では黙って見ていろと.......!」


「そうだ。黙って見ていろ。そして、私の勝利を信じてくれ」


「..............。..............そう言われたら、言い返し辛いじゃないですの。.......分かりましたわ。アナタを信じています」


コイツも、最初に会った頃に比べれば、素直になったもんだ。


「.......お姉ちゃん、本当に大丈夫?」


「大丈夫さ、心配するなよ。電気タイプは水タイプに強いんだから」


(ま、お互い様だけどな)


--------


夜中の公園に、私は一人で降り立った。


「.......私をお探しなんだろ。出てこいよ、このサイコヤロー」


「..............」


「そこの『水溜まり』がお前だと分かっている。

雪が降ったのはもう一週間近く前なんだ。こんな真夜中の公園に、水溜まりなんて出来ようがない」


「..............なるほど。輝木光……あの阿鳩を返り討ちにしただけのことはある」


水溜まりが徐々に人型へ変化していく.......。


「お前はここで死ななくてはならない。我らが大義、理想の世界のために!」


水への変化が解けたから分かったが、コイツ、女だ。

髪は肩にかかる程の長さで、年齢は20代だろうか。

黒いスーツ姿で、鋭い目つき。

まさに『できるオンナ』といった風貌だ。


つまりコイツはサイコヤローではなく、正しくはサイコ女だった。


「我らを邪魔だてするものは、例え聖人だろうと悪そのもの! 躊躇うことなく切り捨てる! それがお前のような怠惰で身勝手な者であれば尚更だ!」


(やるしかない。私ひとりで、こいつを倒す!)

洪水を引き起こしている超能力者とたった1人で対峙することを決めた輝木光。

彼女は無事に敵の超能力者を倒し、新宿区の人たちを救い出すことができるのか?


次回、激突!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ