第8話~忍び寄る影④~
正気を失った妹、輝木影華に襲いかかられる輝木光。
影華はあらゆるものを影の世界に引きずり込む能力で姉を苦しめる。
影の世界はあらゆるものの出し入れが影華の思うがままだ。
さらに本人は物理攻撃も通じない。
輝木光はそんな能力を相手にしながら、妹を救い出すことは出来るのか……?
「『覚悟』だの『決意』だの、大層なものを掲げてるけど、そんなの無駄無駄無駄無ー駄!
気持ちじゃあどうにもならないことっていうのが、世の中たくさんあるんだよねぇ、お姉ちゃん?」
「……」
「人っていうのは、それぞれ限界が決まっているの。
ちょっと頑張ったり無茶したって、下の者は決して上を超えられない!
生まれながらにして、お姉ちゃんは私に劣る。
お姉ちゃんは、私に敗れるためだけに生まれてきた負け犬なんだよ!
負け犬の『決意』じゃあ、何も変えられない!
未来に待つのは惨めな最期だけ!」
「……」
「何? その顔。何か文句あるワケ?
悔しいなら、私に勝ってみなよ。自分が上だって証明してみなよ。
落ちこぼれのお姉ちゃんには、絶対無理だけどね!」
「影華。負け犬の『決意』は何も変えられない……。本当にそう思うか?」
「思う。ってわけだから死のうか、お姉ちゃん! いや、輝木家の出来損ない!」
「……。その驕りが、お前の目を曇らせる。
当然に見えるべきものが見えなくなる……」
「はァ? 何言ってるの?
お姉ちゃんは今から死ぬんだよ!
負け犬風情が、一丁前に言葉を紡ぐな!」
「……これが私の『決意』だ! 影華!
無駄かどうか、見届けるんだな!」
ご高説どうもね、影華ちゃん。
お陰で時間を稼ぐことができたよ。
『コイツを点ける』ためのね!
「私を煽ってないで、目を凝らせよ影華!
そろそろ気付くんじゃないのか?
私の『背から立ち上る煙』に!」
「……っ! 部屋と……じ、自分の体に火を点けたというの……⁉︎」
「影の世界から電気を通すものがなくなったが、燃えるものはいくらでも残っていた! さあどうする!
このままにしておけば、この世界ごと燃え尽きる!
お前だって無事では済まない!
掴むことも殴ることも出来ないし、電気も通らないみたいだけど、この世界ごと熱したら影華はどうなるんだろうな?
もし止めたいなら、私を外に出すしかない!」
「こ、この……! 狂人がっ……!」
「どうやらお前……熱が苦手らしいな?
ほら、早くしろよ。それとも、私と一緒に焼死するつもりか?」
「炎はこの世界から……いやダメ。それだとお姉ちゃんも一緒に出ちゃう……! くっ……」
「私は死んでも別に構わないよ。最愛の妹と最期の時を過ごせるならね」
「さ、最愛……⁉︎ う、ぐ……ああぁぁ……!
……そ、そうだ! 私が出ればいいんだ!
死ぬなら1人で勝手に死ね! あっはははは! バーカバーカ!」
影華の影はそう叫ぶとあっさりと消滅した。
しかし、彼女がもう一度現れるのにそう時間がかからなかった。
「くっ……すでに……」
「戻ってきたな影華。外で何かあったのかな?」
「最悪……! 他力本願のロクデナシ!
自分だけじゃ何もできないくせに、偉そうにしないでよ!」
「他力本願? 別にいいじゃないか。
それで願いが成就するならね。
で、どうするんだ? ここで私と焼け死ぬか……。
それとも外に行って…………『赤井に焼かれる』か!
火傷したくなければ、素直に私を外に出すんだね!」
そう、私の部屋では既に、赤井が待機していたのだ。
影華の能力の天敵とも言える、熱の超能力者だ。
(よく間に合ってくれた。お前はやはり、頼りになるヤツだよ)
「こ、このーーっ! 絶対後悔させてやる!
一族の恥晒しのくせに、この私をコケにして!
望み通り出してあげるよ! それですぐにもう一度影の世界に引きずり込む! お姉ちゃんは必ず、私が殺すの!」
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私の視界に光が満ちる。
「やった! 出られた!」
そして影の世界から出ると同時に、部屋に影ができないよう蛍光灯を全て破壊する!
「ちょっ、なっ、何するんですの!
破片が飛び散って危ないですわよ!
それにさっき一瞬影華さんが.......」
間に合いはしたが、赤井はまだ事態を把握していないようだ。
「酔狂でこんなことする訳ないだろ!
私は今、外敵に襲われてるんだ!」
「が、外敵ですって⁉︎ 一体どこですの⁉︎」
「すぐそこにいる! 外敵とは輝木影華! 私の妹だ!」
「えっ、影華さんが……?」
「そうだ。影華は今、何者かに洗脳されて……」
とにかく、照明が消え去り、真っ暗な間に全てを伝えなくては。
影のできない、今のうちに!
「違います! 騙されないでくださいモエさん!
洗脳されているのは、お姉ちゃんの方なんです!」
私の声は、影華の怒鳴り声に遮られた。
「なっ、え、影華……!」
「お姉ちゃんが突然私に襲いかかって来たんです!
それで私、どうしたらいいか分からなくて……」
「ど、どうなってますの?」
(チッ。さすがは私の妹だ。頭の回転が早い。
赤井が事態を把握してないと知るやいなや、口で丸め込もうとしてやがる)
「お願いしますモエさん! お姉ちゃんを取り押さえてください!」
(どうする……?)
ぶっちゃけ、私は1度赤井に敗北してる。
それも、自分で言うのが憚られるが、惨敗も惨敗。
炎へ変化できる赤井に全く歯が立たずに敗れた。
だから、赤井と対立するなんて事態は絶対に避けなきゃならない。
「た、頼むよ! 信じてくれ! 私は洗脳されてなんかいない!」
「.......」
赤井は困惑と緊張の入り交じったような表情。
そりゃそうだろうな。
アイツ視点じゃあ、誰が嘘つきかなんて分かりゃしないんだから。
「なぁ、お願いだ.......。信じてくれよ赤井!」
「そ、そうは言われても.......」
「あ、そ、そうだ! これを見てくれよ!
私の背中! 刺し傷! 影華にやられたんだ!
それに比べて影華は無傷! これは、私が正気という証拠で.......」
「そんなの全部嘘です! モエさん見てください私の腕の火傷を! これ、さっきお姉ちゃんが私を感電させた時にできたんです!」
「え、えぇっ。私はそんなこと……」
(え、影華.......その火傷は……!? 私は知らない……! ……間違いない!)
今『自分でやった』んだ!
(赤井を騙すためにそこまでするなんて! 人のこと言えないじゃないか!)
狂人の妹もまた狂人.......!
.......火傷!
そうだ!
私にはまだ『これ』がある!
影の世界から脱出するために使ったこの煙が!
「影華の火傷は自分でやっただけだ!
それで赤井、見てくれ! この煙!
背中に火がついて大火傷だ! 間違いなく私のが重症だろ!」
なんかいつの間にかケガ自慢に趣旨が変わった気がするが、信じてくれ赤井!
「.......これ、煙じゃないですわよね?」
「.......や、やっぱり炎のスペシャリストにはバレるか」
影相手でも熱は通じる。
捨て身の策で、華の超能力の弱点を見つけ出した輝木光。
そして、現場に到着していた炎の超能力者、赤井萌。
形勢逆転かのように思えたが……。
次回、輝木光&赤井萌vs輝木影華!




