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第7話~必敗祈願②~

八蔵島で予約していたホテルの部屋で一晩休んだ輝木光たち。


ついに本日から、カナリアの会について本格的な調査が始まろうとしていた……

朝になった。

時刻は約10:30。


今、私たちはホテルのレストランで朝食を食べている。


「なぜ君たちがチームになったのか分かるかな?」


国井が問う。


「え、えぇ? 最強のエリート超能力者だからじゃないんですか?」


「そう言うことじゃなくてだな輝木……。君たちには明確な役割分担があるのだ」


そう言って国井は一人一人を指差す。


「内木。君は敵を確実に取り押さえることができる。逮捕や護送にうってつけの能力だ」


「ど、どうも……」


「赤井。君は単純に戦闘能力が高い超能力者だ。

敵対勢力と交戦することになった時、君より強力な能力者はほぼいないだろう」


(虎井と不破に殺されかけてたんですが……)


「水野。君に関しては言うまでもないだろう。どんな怪我でも一瞬で治すその力は、何よりも大きな武器だ。だからこそ、A級という最も重要なチームに君を配属した」


「へへ……」


メグが照れながら笑う。


「輝木。君は私が最初にスカウトした超能力者だ。実を言うと、あの時点ではこうしてチームに分けるという構想はなかった。

これほどにまで人が集まると思ってなかったからな」


(行き当たりばったりだなそりゃ。それに、スカウト? 脅しの間違いだろ……)


「しかし、君の超能力はちょうど調査や工作に優れている。

結果論ではあるが、この3人と君でチーム組めば、バランスの良いチームが出来上がるというわけだ。だから君はA級になった」


まあ……確かに一理ある。


私の超能力ならば、ほとんどの鍵は開けられるし、ハッキングもクラッキングも可能。

物理のセキュリティと、電子のセキュリティ。

この両面を崩せる私の能力は、情報化社会である現代で重宝するのだろう。


(……。あれ? となると、私は元々戦闘要員として考えられてなかったってことだよね?)


「チームで集まって初日に、戦闘訓練を行いましたよね? あれは何だったんですか?

今の話から考慮すると、戦闘能力を買われて入隊した赤井が全勝して当然なのでは……」


「……。そこに気づくとは」


「あの訓練のせいで、私は変なレポートを書かされる羽目に……」


「あの訓練はな、君たち……イヤ、輝木。君を納得させるためのものだ。実はな……。A級を結成した時点で、リーダーは赤井と決まっていたんだ……」


「ええっ⁈ な、なぜ……」


(何を根拠に!)


「性格」


(うげ)


「事前調査の結果、赤井以外の人間が余りにもリーダーに不向き過ぎる」


「事前調査って……? 私がスカウトされてから入隊まで3日しかないのに、なぜそんなことが……」


「そう来ると思ってたよ。君と私が知り合った日、何があったか思い出してみたまえ」


(はい? 何言ってるんだ……?

えーっと、朝寝坊して電車を乗り過ごしそうだったから、超能力で電車を止めてテストを受けた。

ここまではOK。

その後、帰りにアパートで国井とJRの職員と遭遇。1億円の賠償を求められる。

私はウソをついて逃れようとするも……。

あっ)


「まさか……心を読まれた時に……」


「その通りだ。彼女の力があれば、誰がどんな人となりなのか、どんな人生を送ってきたのかが分かる。

だから、君の性格が意地汚く怠惰で自己中で傲慢で見栄っ張りかつ業突く張りであり、リーダーに全く不向きであると知ることができた」


(言い過ぎだろ、それ)


「内木は真面目で正義感が強いが、周囲に流されやすいのでリーダーにはまるで不向き。

水野は明るい性格でコミュニケーション能力もあるが……あた……いや、まあ、年少なこともあり部隊を任せるのには不安だった」


「あた?」


メグが疑問符を浮かべる。


(国井、今頭が悪いって言いかけただろ……)


国井的には頭悪いはアウトで、怠惰とか自己中はセーフらしい。


「だったら無駄な戦闘訓練なんかせず、普通に赤井がリーダーだと告げれば良かったじゃないですか」


「残念ながらそうはいかなかった。輝木。君がいたからな」


「私?」


「君は自分と同い年の、チームで最年長でもない赤井がリーダーですと言われて納得できるか?」


「うっ……」


それは無理かもしれない。

最年長の内木さんに決まるならまだしも、赤井に決まったら多分私は反対する。

しかも、あの時の私と赤井は犬猿の仲。


「水野は決まりごとには素直に従う性格。

内木は最年長であるが、自分に自信がないため、赤井がリーダーになるのも仕方がないと納得する。

だが、君だけがどうやっても納得しそうになかった」


(どんだけ面倒なヤツだと思われてんだ私は……)


「君を納得させるには、賄賂が1番早かったとは思うが、君にはすでに1億円かかってるからなぁ。

経費が下りなかった」


(チッ。残念だなぁ。そこはもうちょっと粘って、賄賂して欲しかった。あーあ)


「というわけで、1億円の調査員である輝木。君に仕事がある。私たちが乗っていた船と、宿泊している施設の直近数週間の予約情報を抜き出してもらいたい」


「はあ……」


どうせ本名で予約してないと思う。


「君の能力なら、クライアントからデータベースにアクセスできるだろう? 後でPCを渡すから使ってくれ」


「この島に、ネット環境なんてあるんですかぁ?」


「……。君はこの島をなんだと思ってるんだ……」




あれから約1時間後……。

私は今、国井と2人でホテルのラウンジにいる。


結果から言うと、私の調査に収穫は特になかった。


当然だ。

犯罪組織の連中がそんなところへ個人情報を発信しているはずがない。


そもそも国井にだって、偽名を使うって発想はあるようだ。


宿泊客のデータに、私の名前が偽名の『黒川燻』と登録されていたのだから。


(つーかこれなんて読むんだよ。『くろかわくすむ』か? そんな酷い名前つける親がどこにいるんだよ)


「やっぱりダメか。まあそこまでは想定内だ」


「ダメだと思ってることをやらせないでくださいよ……」


「いや、いいんだ。どちらにせよデータの抜き出しは必要だった。そのデータの中で外国人っぽい名前をリストアップしてほしい」


「え! イヤですよそんなの、面倒臭い! 何百人いると思ってるんですか」


「別に手書きじゃなくていい。このノートPCのデータ整理用ソフトに記入してくれ。君の能力なら一瞬でできるだろう」


あぁ、そういうことか。

確かにできるが、結構疲れるので気が進まない。


「ちなみに、リストアップしてどうするんですか」


「あぁ、もうここまできたら根比べだ。リスト全員の戸籍に整合性が取れないところがないか、徹底的に調べる。

もし、ティーベが偽名や偽の住所を使っていたら、必ずどこかに綻びがあるはずだ」


「意外と根性論者なんですね……」


途方も無い作業だ。

軽く300人はいたのに。

下で働かせられる人は大変だ。


「では、早速始めてくれ輝木」


「はい、では。..............」


PCに手を触れ、神経と端末の電気信号を同期させる。


私の意思に応じて、次々と外国人旅行者の名前、住所、年齢、連絡先が、 ディスプレイ上の白紙マスを埋めていく。


「..............ふぅ」


変な汗が出てきた。

やっぱ疲れる。


(具体的には、部活でやっていたベースランニング一周分くらい)


「.....................はぁ.......。終わりましたよ.......」


数分経っただろうか。

とても疲れてしまったが、なんとか作業が終了した。


「どなたかお探しなのですカ? お客サマ」


(お? なんだ?)


横から声をかけられた。


……この人、昨日丸川支配人と激突しそうになった従業員か。

確か名前は勝呂とか言っただろうか。


「はい、私たちはティーベという……」


「いえ、大した話ではないんです! お気遣いどうも!」


手がかりがないか聞くため、従業員に説明しようとしたが、国井に制止される。


「ハイ。そうなのですカ。それでは私は失礼しマス」


従業員が立ち去る。


「なんで君は変なところで素直なんだ!

この島は敵の温床! どこで誰が会話を聞いてるか分からないんだぞ!

極端な話、彼女もカナリアの会会員なのかもしれない……!」


「い、イヤだなぁ。そんなわけないでしょう。

彼女はこの島の生まれですよ。潜入したって情報と矛盾します。

もし彼女だったら、敵は潜入じゃなくてただ里帰りしただけになっちゃいますよ」


「それもそうか……。極論過ぎたな。

だが、あまり我々の活動を外部に漏らすものではない」


「はーい」


怒られてしまった。

やはり人間、ちょっと捻くれてるくらいが丁度いいようだ。


「よし、じゃあ今からさっきのデータを元に作業へあたらせるから、君も他の隊員と一緒に休憩していてくれ。明日.......遅くても明後日には終わるだろう」


「了解しました。それでは」


色々やらされて疲れたので、私はさっさと部屋へと向かって休むことにした……。

淡々と調査を進める輝木光。

しかし、なかなか収穫を得られずに時間だけがすぎてしまいそうだった。


果たして、彼女はカナリアの会会員『ティーべ』の行方を突き止めることが出来るのか!


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