第1話~最悪の始まり②~
調子に乗ってゲームをしていたら、
切りつけられ突然負傷してしまった輝木光。
ゲームなのに痛い?! と混乱する輝木光の元へ迫る2人組。
彼女らの目的とは? そして、このゲームはどうなってしまったのか……。
今回はそんなお話です。
(……あれ?)
やられてない。
しかも、私の傷が治ってる……。
「せっかく傷を治してあげようとしてるのに、なんでそんなに逃げるんだよー! ひどいよ!」
「そりゃ逃げますわよ……。今のアナタ、怪しすぎでしたわ」
まさか、この女性プレイヤー2人組のうち、
天真爛漫な口調で話す青色のヒラヒラした衣装をまとった方。
この人がヒーラーで、しかも傷を治してくれた……?
なぜ?
「なぜ、私を治してくださったんですか……?」
私は尋ねる。
「なぜって、そりゃ痛そうだったからだよ。かわいそうじゃん?」
ヒーラーの人は素っ頓狂な表情で答える。
……説明が遅れていた。
ヒーラーというのは回復薬なしでも自他の体力を回復できる職業のことだ。
職業ということで、
もう片方の赤い衣装に巻き髪、
ですわ口調の『いかにもお嬢様』といったプレイヤーを確認する。
この人の職業は戦士だった。
文字通り戦い……特に剣士より素早さが低い代わりに、一撃のダメージに特化してる職業だ。
......見た目からして、青い人は水属性、赤い人は火属性だろうか。
属性というのは職業とは別で、各ユーザーがアバター制作時に選択する要素だ。
雷属性と水属性と火属性があって、三竦みの優劣関係にある。
水属性は火属性に強く、火属性は雷属性に強い。そして、雷属性は水属性に強いといった関係性だ。
ちなみに私は当然雷属性だ。
「ありがとうございます......。あの、厚かましいとは思いますが、1つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
何はともあれ、治療してもらったのでお礼を言うが、正直未だに何が何だか分からない。
とりあえず今唯一分かるのが、この人たちが私にとって危険な存在ではないということだ。
もし、斬りかかってきたプレイヤーのように、私を攻撃する目的だったのなら、
私のケガを治す前の方がいいに決まってる。
よって、この2人組に私への敵意はないってことだろう……と、私は結論付けた。
「いいよぉ。なんでも教えちゃうよ!」
青いヒーラーの人が、軽い口調で答える。
「今、何が起きているんですか? そもそもこのゲームにPVPはなかったはずですし、ダメージ受けると実際に体が痛むなんて……」
私は言葉に甘え、今抱いている全ての疑問をぶつけた。
「……アナタ、運営からのお知らせメールをまだ見てないんですの?」
赤い戦士の人が言った。
お知らせメール?
「ログイン直後に他のプレイヤーに襲われて……今確認します」
私はそういって、アバターが腰に提げているメールボックス端末を確認した。
『 モンスター&ドラゴンズ運営より
このゲームは我々「カナリアの会」が占拠した。すでに君たちは自力でログアウトする権限を失った。
只今よりユーザーは政府への交渉の人質だ。
政府の返答次第では、君たち全員の命はない。
また、ゲームの中でダメージを受けると現実の体にもダメージを受ける。くれぐれも交渉までに死なないよう、気をつけたまえ。
2018年 1月24日 10:00』
『 モンスター&ドラゴンズ運営より
残念だが、政府は我々の要求を受け入れなかった。不本意ではあるが、当初の予定通り君たちを全員殺さなくてはならない。
しかし、それでは余りにも君たちが不憫だ。よって、他のユーザーのクビ3つを用意して『森林ステージ』に来たユーザーは、特別にログアウトさせてあげよう。PVPの機能は実装した。どうか頑張りたまえ。諸君らの健闘を祈る。
2018年 1月24日 10:34』
「はぁぁぁぁ⁉︎ カ、カナリアの会……⁉︎」
つい先日聞いたばかりのその名前に、私は驚く。
国井いわく新興宗教のふりをした、超能力者50人を含むテロ組織、カナリアの会!
つまり、これは私たちがテロの人質になったってことか!?
(冗談じゃない!)
「……状況がお分かりになったようですわね」
(ふざけるなよ……!
じゃあ、さっき襲いかかってきたヤツは自分がログアウトするために、私を殺してクビを取ろうとしたってことか!)
それならもっと強烈なお仕置をしてやれば良かった! と今更憤り、
「テロリストが約束を守るなんて保証はないのに、真に受けて人を殺すなんてどうかしてる! ふざけんな!」
と先ほど私に斬りかかったプレイヤーを罵った。
「全くその通りですの……。アナタが聡明そうな方で良かったですわ」
赤い戦士の人に同調された。
……私には、テロリストは最初から人質を解放する気がないように思える。
「……テロリストは全員殺すと言ってるのに、なんでこんな救済処置を用意してるんでしょうか。何か事情があるのでしょうか?」
私の疑問に、青いヒーラーが答える。
「メールに書いてある通り、ユーザーがかわいそうで殺せない! 良心の呵責! とか?」
さすがにそれはないと思う。
そんな良心がある人間はそもそもテロをしない。
「ユーザーが保身のために殺しあってるサマを見物する愉悦! とかですの?」
赤い戦士も答える。
ど、どうなんでしょうそれは……。
現実のテロリストが映画の小悪党みたいに、そんな無意味なことするのだろうか。
もっと現実的な理由があるはずだ。
そもそも、テロリストは私たちをどう殺すつもりなんだろうか。
乗っ取った運営の権限で消し去ることができるなら既にしていると思うが、ヤツらはそれをしていない。
(うーん……。となるとテロリストも人質を殺すため、私たち同様にゲームへログインしている……?)
突然PVPの機能を実装した理由も人質を殺すためならば納得がいく。
そして、もしゲーム内にテロリストがいるのならば……。
「…………。皆さん、テロリストを探しにいきませんか?」
私は2人に向けて提案した。
「探しにいくって……ログアウトできないのにどうやって探しにいくのさ?」
青いヒーラーが聞くので、私は予想を答える。
「……これは、私の勝手な予想ですが……。
ゲームの中の人間を殺すには、テロリスト側もゲームの中に入って直接攻撃するしか方法がないのかもしれません。
だから、現在コイツもユーザーに気付かれないよう隠れながら、ゲーム内に潜んでいる可能性があります。
それを見つけ出すことができれば、交渉可能なはずです」
そうだ。
きっとテロリストたちは今、私たちを殺さないのではない。
殺せないんだ。
だから、あんな回りくどい手段を使ってユーザーの数を減らそうとしているんだ。
その結果があの救済処置だ。
「なるほど。IPを割り出して直接手を下すにしても、ユーザーそれぞれの居場所へ物理的に赴かなくてはならない……。
これだとテロリストの体がいくつあっても足りない、こういうことですわね?」
赤い戦士は直ぐに私の意図を汲み取り、補足し確認をする。
この人は頭の回転がなかなかに鋭い。
「ええ。まさに」
「言ってることはなんとなく分かったけど……。交渉って具体的には何をすんのさ?」
少し経って、青いヒーラーの人も意図を踏まえ、質問を投げかけてきた。
「いくらテロリスト集団が強力な兵器やちょ……武器を持っていたとしても、それらをゲームの中に持ち込むことはできません。
ゲームの中にいる以上、ゲームのルールに従う必要があるはずです。
つまり……」
危ない。
超能力と言いかけた。
ここでそんなこと言ったら狂人扱いまっしぐらだ。
「……なるほど。
見つけ出して集団でボコボコにするってことですわね。
そうと決まれば急いだ方がいいですわ。
ヤツらは本来このゲームになかったPVP機能を実装したんですもの。
モタモタしているとまたゲームのルールを捻じ曲げて、私たちをより簡単に葬れる仕様変更をしてくるに違いないですわ」
赤い人の言う通りだ。
テロリストはこのゲームのシステムを変更できる技術を持っていた。
次はどんなデータ改竄があるか分からない。
今運営権限でユーザーが殺されていないのも、交渉がたった34分で決裂してるから、殺す準備をする時間がなかっただけ……って可能性もある。
時間を与えた結果、全ユーザーを即死させるといった改竄が行われでもしたら、一巻の終わりだ。
「はい! 急いでこのゲームに潜んだテロリストを探し出しましょう!」
私たちは方針を固めた。
--------
「怪しいのは森林ステージかなぁ? 助かりたい一心で来たユーザーを影から一刀両断! みたいな?」
青いヒーラーが言う。
確かに1番怪しいのは運営からのメールにもあった森林ステージだ。
なので、一応今私たちは森林ステージに向かっている。
でも、もし私がテロリストだったら場所を特定されるような情報を絶対にユーザーには与えたくない。
ましてや、メールに記載するなんて論外だ。
そんなことするのは余程のアホだけだと思う。
(相手がアホだったらいいのになー)
「何ぼさっとしてるんですの⁉︎」
「……えっ? うわっ!」
赤い戦士の警告で我に返る!
慌てて飛んで来た何かを剣で撃ち落とす。
これは……他のプレイヤーの放った銃弾か……。
警告がなければ、致命傷を負っていたかもしれない。
私たちに戦う気がなくても、他のユーザーの攻撃や罠には十分気を配って行動しなければならない。
「ありがとうございます。……えぇっと、赤い人」
「もう……。私たちにその気がなくても他のユーザーは全て敵だと思わなくてはなりませんわよ?
聡明なアナタのことですから、なにか作戦を考えていたんでしょうけど……」
「い、いや。すっごいしょうもないこと考えてた……」
私への評価が妙に高いのは喜ばしいが、己の失態を素直に白状してしまう。
「……レッドですわ。私のユーザーネーム」
(あ、そういえば……)
「お互い名乗ってなかったですね。私はひかりんといいます」
当然のように一緒に行動しているが、名乗っていなかったことを思い出す。
「あ、じゃあ私も! 私の名前はメグメグでーす! これでもう、私たち本当に友達だね! それじゃ、行こっ」
青い人も便乗して名乗ってくれた。
改めて考えると、今まで名前も知らない人に私は命を預けてたようなものなのか。
……なんだか不思議な感覚だ。
「痛っ‼︎ ひゃぁー! 助けてぇぇ!」
勇んで前を進んだメグメグさんが、他のユーザーの仕掛けた罠に引っかかった。
この人に身を任せるのは少し不安だ。
とはいえ現状信用できる人が他にいないし、仲間がいるというだけでかなり心強くはあるのだが。
とにかくメグメグさんの罠を解除しないと。
「大丈夫ですか?」
私とレッドさんが罠に近寄り、解除を試みる。
(ん? この罠……。妙に解除し易いな。仕掛けたユーザーのレベルが低かったのか。それとも、何か意図があって……)
「……やられましたわね」
レッドさんにそう言われて辺りを見渡すと、5人のプレイヤーに囲まれてることに気がついた。
そのうちの1人が勝手に喋りだす。
「罠は敢えて解除可能なレベルに抑えた。
お前たちを1箇所にまとめるためにな。
……お前たちのレベルなら確実に殺せる。
悪いとは思うが、生き残るためなんだ」
こいつら、敵だ!
(テロリストの戯言を真に受けた馬鹿が……!)
襲いかかってくる!
応戦しなくては!
「レッドさん! メグメグさんを最優先で守りましょう!」
咄嗟に作戦を立てて、レッドさんに伝えた。
私のこの判断は間違いないはず。
私たちの中で唯一回復ができるメグメグさんがやられたらおしまいだからだ。
「ええ。とりあえず『今は』アナタがメグメグを守ってくださいまし。コイツらは私が蹴散らしますわ」
レッドさんは 大した自信だ……。
何か秘策があるのかも。
けど、向こうが高レベルなのは事実。
(気をつけてくださいレッドさん!)
とレッドさんの身を案じながら、何かあれば私もすぐに援護できるよう心を整えた。
「蹴散らすだって? オレらよりレベルの低いお前が?」
「レベル、レベルとうるさいですわね。そんなに自信があるなら、まとめてかかってらっしゃいまし」
「ナメやがってコイツ! お嬢様キャラとか痛々しいんだよ! やっちまえ!」
レッドさんの挑発を受けてかは分からないが、本当にまとめて来た!
私も一緒に身構える。
「ゲームも人生も、レベルが全てではなくてよ。私は長い間、炎と共にありますの。アナタ方とは力の使い方が違いますわ!」
そう言うとレッドさんは円形の炎で私たちの周りを囲った。
炎を盾にするつもりか。
確かにこれで連中は近づけないが、連中の中には炎に有利な水属性らしきプレイヤーもいたはずだ。
きっとすぐに鎮火されてしまう!
「何をするかと思ったら炎で壁を作るだけかよ! くだらねェ! すぐに消火してぶっ殺してるぜ!」
案の定連中のウチの1人が水をあたりに撒き散らす。
炎の勢いははだいぶ弱まってしまった……。
「さあ、選手交代ですの。
今度は私がメグメグを守りますわ。
もうお分かり頂けてることを信じます」
……なるほどね。
私は、ここでレッドさんの意図を理解した。
レッドさんはヤツらの中に水属性のプレイヤーがいることに気づいていた。
そこで、消されることを承知の上で敢えて広範囲の炎のスキルを使い、敵に水属性のスキルを使わせ、この状況を作ったんだ。
結果、あいつらは見事に全身水浸し。
こうなれば、やることは1つ!
「実は、純粋な水は電気をほぼ通さないんだ。だけど、濡れた体ってのは電気をよく通す。不思議な話だけどねっ!」
(くらえっ!)
電気にまつわる雑学を披露しながら、私は力の限り電撃を放つ!
濡れた体でこの武器『エクスカリバー』の電撃をくらえばひとたまりもない!
さらに、このスキルには敵から敵へと電気が伝ってダメージを与えると言う仕様もある。
連中がこれだけまとまっていれば、一網打尽だ!
--------
「も、もうその辺でいいんじゃないかな……? これ以上やるとこの人たち、本当に死んじゃうよ!」
しばらく攻撃していたらメグメグさんがそう言った。
確かに連中は 完全に気を失っている。
私も人殺しにはなりたくない。
もういいだろう。やめよう。
「はぁ……はぁ……。蹴散らしたぞ……!」
「ええ。ありがとうございますわ。武器が強いだけでなく、きちんと使いこなしてらっしゃいますわね」
おぉ、レッドさんに褒められた。
この武器は昨日当てたばかりだけど、使いこなせてるらしい……。
なんだか嬉しくなった。
「あはは……。めっちゃ疲れましたけどねー……」
…….……ん?
私は今、なんて言った?
『疲れた』?
いやいや、ゲームなのにスキルを使うと『疲れる』なんて……。
(……。いや。違う……!)
今のこの状況は『ゲームであってゲームじゃない』!
ダメージが現実の身体とリンクするように、電撃も現実の電気とリンクするんだ!
ゆえに、私は……私『だけ』が、この世界『でも』電気の超能力が使える!
「……? どうしたの? テロリスト探すんでしょ?」
「手がかりはあるようでないですけどね……でも、今は動かないと。先を急ぎますわ」
(テロリストの居場所が分からない?
なんで気づかなかった……!)
『いつもやってる』ように、メールのネットワークをたどって特定すればいいんだ!
私『だけ』がこの『エクスカリバーの電撃スキル』の裏技を知っている!
セキュリティだって、私の前じゃ無力だ!
「皆さん、ちょっと待ってください!
私の電気のスキルを応用して、メールボックスからメールの送信元を特定できるか挑戦してみます。
成功すれば、テロリストの居場所が分かります!」
2人を呼び止める。
「……⁇ よ、よく分からないけど……失敗したらどうなるの?」
メグメグさんにそう言われる。
失敗? 失敗したらどうなるんだろうか。
とりあえず私のメールボックスは壊れそうだが……。
「私のメールボックスが壊れます。それ以外は……どうなるか分かりません」
分からないことは素直に告げる。
「 ……このまま、闇雲に歩き回っても成果を得られるとは思いませんし、私は挑戦してみるべきだと思いますわ。
正直なところ森林ステージにヤツがいるとは思えませんもの。
それにしても……良くそんなこと思いついて、簡単に実行できますわね。
エクスカリバーのスキル仕様でもないでしょう?」
レッドさんも私に賛同してくれる。
どうやら彼女も森林ステージにテロリストがいるとは思っていないようだった。
「えぇーっ! そうなのー?」
メグメグさんは違ったようだが……。
メールの内容もそのままに受け取っていたようだし、良くも悪くもかなり素直な人だ。
とにかく2人の反対もなかった。
(よし……やるぞ!)
「メールボックス内に電気を流して意識を集中させます。その間私は無防備になってしまうので、他のプレイヤーに注意してください」
私は2人にそう伝え、メールボックスに電気を流し込んで、意識を端末上に集中する。
--------
……ひとまずネットサーフィンは上手くいき、私の意識はメールボックス内に移る。
(……あった!)
テロリストから送信されたメールを発見した。
このメールが、ネット上でどんな経路を辿ったのか追跡しよう。
まっすぐその路を辿ると、広い場所に出た。
どうやらここは運営側のメールサーバのようだ。
だけど、今はほとんど動いてないみたいだ。
(ユーザー間のやりとりをさせないためだな。ヤツらはユーザーが結託してゲーム内で反逆するのを恐れているんだ)
…………!
メールサーバー内に、1つだけ動いてるボックスを発見した!
(もしかして、これがテロリストのメールボックスに繋がってるのか?)
……ならば。
ここからひたすら末端まで辿っていけば……!
(パスワード? 本人認証? 無駄無駄! 私の前ではあらゆるセキュリティが無意味!)
ここにきて私のネットサーフィンが、セキュリティを貫通することが役に立つ!
そこから、5分くらい経った。
私は1人のユーザーの端末にたどり着いた。
(ここだ……! やった! ヤツの端末まで着いたぞ! 成功だ!)
恐らく、このユーザーが事件を起こしたテロリストだ!
「と、特定してやったぞ……!
…………。……は、ははっ。
ゲロ甘のテロリストめ!
ちゃんと想定しておけよ!
『身体から発する電気の扱いに慣れた超能力者が、電気属性の武器を当てて、それを現実通りに操る可能性をね』!」
(なんてね!
そんなレアケース、想定できるものならしてみやがれ!)
私は舞い上がり、大きく勝ち誇った!
(さて、コイツは今。どこにいる? もう筒抜けだ!)
そのユーザーの現在地を確認する。
ここは……!
さすがは(自称)最強の超能力。
テロリストの居場所を見事特定!
あとは見つけ出してボコるだけ。
さあ、頑張れ輝木光!
ここまでお読みいたただき、ありがとうございます……!
大筋としてはこんな感じのお話が続きます。
(「問題発生→超能力で解決」です)