第7話~必敗祈願①~
救命ボートで八蔵島へと上陸した輝木光たち女子A級と国井守
この島に、カナリアの会の会員『ティーべ』が潜んでいる……
彼女たちは果たして情報を手に入れることはできるのか!?
第7話スタートします
私たちは八蔵島に上陸した。
実際に上陸して、なぜティーベとやらが八蔵島に潜伏したかが分かった。
人口の少ないこの島をわざわざ選んだ理由。
それは……。
1つ。
この島の住民は少ないが、人は少なくない。
観光客が多く訪れるからだ。
2つ。
移動手段が船しかないから、私たちの行動を予測しやすい。
だから、ヤツらは瀬葛を差し向けることができた。
そして、3つ。
恐らくこれが最大の理由なんだろうけど……。
観光地だから多いのだ。
外国人が。
カナリアの会の構成員、在日二世の『ティーベ・M・ウィン』……。
名前から察するに欧州系なのだろう。
もし、ソイツが道端を歩いていたら、99%以上が日本人……しかも残りの1%の大多数がアジア系であるこの国では、かなり目立つ。
だから、自分の身を隠すために、外国人観光客が多い場所へ潜む必要があったのだ。
「あの……。すみません。この文字、何と読むですか?」
同船していたらしい外国人観光客に、たどたどしい日本語で声をかけられる。
「ああ……。これは『駐在所』って読むんですよ。
えっと……ポリス…………」
「レジデンタル・ポリスボックスですわ」
赤井が翻訳する。
「レジデンタル・ポリスボックスってことみたいです」
「ありがとござます! サンキュー!」
(おぉ、ネイティブな発音)
無事に伝わったみたいだ。
でも、こんなに外国人ばかりなんじゃ、どうやってティーベを探せばいいのか……。
(まあ、国井さんにも何か考えがあるんだろう)
こんな辺境にわざわざ連れてきて、何も考えてませんってことはないと信じたい。
「……。……また誰かが近づいてきますわ。お気をつけて」
赤井の言う通り、内陸の方から年配の女性が近づいてくる。
同船していた客以外にも当然、敵の可能性がある。
むしろ、それどころかそちらの方が可能性は高い。
私たちは警戒した。
「大丈夫、そう警戒することはない。
安心したまえ。彼女は、私が予約していたホテルの支配人さんだ」
国井が私たちに警戒を解くよう言う。
「その通りでございます。八蔵島にようこそいらっしゃいました。国井様御一行。
歓迎いたします。私、『ホテル海風』の支配人、丸川と申します」
丁寧な挨拶だ。
さすがは客商売のスペシャリスト。
「私が国井です。しかし……。本日お昼チェックイン予定のはずですが、なぜ今お声がけいただいたのですか?」
「お客様の乗られていた船が沈んだというお話を伺いまして。今夜は船でお休みになられるご予定でしたよね?」
「はい。船は沈んでしまいましたがね」
「ですので、代わりに当ホテルでお休みいただければと思いまして。
お船が沈んでしまったお客様を、このような寒空の下でお待たせするわけにはまいりませんもの。
幸いにも部屋は空いておりますので、今すぐにお使いいただけますよ」
「本当ですか。それは助かります。では、お言葉に甘えさせていただきます」
なんと気の利くホテルなんだ。
素晴らしい。
(……というか、この人が来てくれなかったら今夜どうするつもりだったんだ。まさか、この真冬に野宿? 死ぬわ、そんなの)
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「どうぞ、こちらです」
丸川が私たちをホテルまで案内してくれた。
白く大きくそびえている、豪華なリゾートホテルだ。
歴史は中々に長いらしいが、清掃や管理が行き届いており、内装外装ともにとても綺麗だった。
(いいところじゃないか。ま、昨日死ぬような思いをしたんだから、これくらいご褒美があったっていいハズっしょ。……昨日も似たようなこと考えてたな)
「オォウ⁉︎」
廊下の角で、丸川が従業員らしき女性と衝突しそうになった。
先程まで団体客が宴会場で宴会でもやっていたのだろうか。
慌ただしい雰囲気だ。
「こら、勝呂さん。気をつけないと危ないでしょ」
丸川が勝呂と呼ばれた従業員に注意する。
「ご、ごめんなサイ……」
「私はいいけど、自分やお客様にケガをさせたら大変なんだから。分かった?」
「ハイ……気をつけマス」
この従業員、金髪に白い肌、青い瞳、そして片言の日本語……。
白人系の人なのかな?
「あの、お客サマ。当ホテルへようこそいらっしゃいましタ。ドウか、ごゆっくりとお過ごしくだサイ」
私たちに軽く挨拶すると、従業員は足早に去っていった。
「へぇ……。従業員には外国人の方もいるんですね」
「いえ……彼女は……勝呂七海というのですが、外国人ではありませんよ。
確かに血縁はハーフですが、八蔵島生まれですから」
「その割には、カタコトだった気が……」
「両親の仕事の都合で、人生のほとんどをイギリスで過ごしてますからね。要するに帰国子女なのです」
「あー、それでですか」
「まだ若いのですが、元気いっぱいでお客様方には結構人気なんですよ。英語が喋れるので、海外のお客様との通訳もこなせますし」
確かに、見た目も中々可愛らしかったしな。
「しばらく本土の方に用事があったらしく、最近帰ってきたんですよ。久々のお仕事なせいか、彼女……とても張り切っていて……。
あ、従業員の中には本当に外国籍の者もいますよ」
丸川がそう言った時、ちょうど別の従業員とすれ違った。
「あ、いらっしゃいマセ、お客サマ」
今度は男性従業員だ。
見た目は日本人っぽいが、イントネーションが微妙におかしい。
「彼はカルロス・ディアス。日系二世のブラジル人です。真面目な青年で、サッカーが得意なんですよ。やっぱり南米の血なんでしょうかね?」
(へぇ…….随分と国際色豊かなホテルだな)
「……」
丸川の話を聞いて、赤井が随分と目を輝かせている。
(やっぱり外交官の血なんでしょうかね?)
丸川に案内され、客室へと着いた。
「こちらの301と304号室をお使いください。鍵をどうぞ」
「また、私たち相部屋なんですかー? 国井さんだけずるいですよ、1人1部屋で」
「そう文句を言わないでくれ、輝木……。性別のせいだ。
では、明日朝10時くらいにホテルのロビーに集合しよう。おやすみ」
そう言って国井は301号室の中に消えていった。
「さ、私たちも休みましょう。部屋の鍵はここに置いておきますわね」
「はーい! 了解です隊長! おやすみ!」
いつでもメグは楽しそうだ。
そして今、私には寝る前の希望が2つ。
「お風呂入りたい……。パジャマ着替えたい……」
ボイラー室でドタバタやってたので随分と汚れてしまった。
そして、パジャマは左袖がちぎれてなくなっている。
これでは気になって寝られない。
意外と神経質なのだ、私は。
そういうことに。
「お風呂は部屋についてるようですわ。使いたければご自由にどうぞ。パジャマは替えがないなら諦めてくださいまし」
下着やシャツは替えがあるが、パジャマは1着しか持ってきていない。
私には諦めるしか選択肢がなかった。
沈没した客船の代わりに、ホテルの計らいで部屋を前倒しで借してもらえることになった
安全であったはずの船の中でまで襲撃を受け、疲れきってしまった彼女たちに、今度こそ安息のひと時が訪れようとしていた……
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お昼が立て込みそうなので、
しばらく3000字前後に分けて、朝夜に投稿することにいたします。
何卒よろしくお願いいたします。




