第6話~鏡のラビリンス⑦~
見事に幹部級の刺客、瀬葛鏡太郎を退け、仲間の危機を救った赤井萌
しかし、その交戦の結果船は沈んでしまった
女子A級を含む乗客たちは救命ボートに乗り、八蔵島に向かうのだった……
救命ボートからではあるが、八蔵島についに上陸!
乗客も瀬葛以外全員無事だったそうだ。
良かった。
「おぉ! 無事だったか、君たち!」
浜辺で国井がそう言ってこちらに歩いてくる。
1日ぶりのハズなのだがなんか色々ありすぎて、すごい久々に会った気分だ。
「ん? 輝木、寝巻きの左袖はどうしたんだ?」
「どうもこうもないですよ……。
船の中にまでカナリアの会のヤツがいたんですよ」
「なんだって……? ヤツらめ。
どこでこの便を特定して……」
「情報漏れといえば、ソイツ……瀬葛鏡太郎とか名乗ってましたが、私と輝木が風吹魅音と交戦したことを知ってましたわ。
このことは、ここにいる人と伊武総理たちくらいしか知らないはずなのに……」
「それは妙だな……。うーむ……。
津場井と輝木の件も、ヤツらはすぐに把握していたしな。……となると、カナリアの会にはいると考えるしかあるまい。……『情報収集に長けた超能力者』が」
そんなのがいるとしたら、これからヤツらが来るたびに、私たちの弱点が段々と露呈していく……。
(なんてイヤな話だ……)
「あともう一点、気になる話がありましたわ。
S級能力者、とかいう存在についてなのですが……」
「……。知ってしまったのか」
(え、何それ⁉︎ S級って何だよ!)
「私たちが1番上じゃなかったのかよ!」
「瀬葛鏡太郎曰く、私たちA級とS級能力者さえ消せば、もうこの世に敵はいないというお話でしたが……」
「……。……S級能力者はな。1人しかいないんだ。
君たちも、一度は会ったことがあるはずだ」
国井がゆっくりと答える。
(会ったことがあるはずって、誰だ?)
「彼女の力がないと、敵組織からのスパイが潜り込んでしまう可能性がある。
その危険を排除するため、部隊へ入隊する際には、必ず彼女に会ってもらう必要がある。
だから、みんな会っているはずだ」
「もしかして、あの……」
……思い返してみれば、A級以外に私が知ってる味方側の超能力者は1人しかいない。
「心を読む超能力の、アイツですか……」
「……。......そうだ」
(ぐぅ……。よりによって、アイツか。私が借金を背負うことになった諸悪の根源……! アイツより私たちが劣るだって?)
「彼女はその能力ゆえに、チームでなく個人で行動してもらってる。
よって、A〜Cの中にカテゴライズしなかった。
だから、一旦S級と呼ぶことにしたんだ」
(ん? ということは……)
「つまり、区分として仕方なくそう置いてるワケであって、能力でAよりSが上ということではないと!」
やはりそうだろう。
心が読めたって、体が動かなければ意味はない。
「いや……。それが、そうでもないんだ。
『心を持っている限り』、彼女の力を破ることはできない。
なぜなら、彼女の能力は心を読む能力ではなく、『心を操る能力』だからだ。
心を読めるのは、その能力の一端に過ぎない」
「マジですか!?」
(心を……操る……ねぇ……? つまり、アイツに『死ね』と念じられれば、その通りになるとか、そういう感じなのか……?)
「カナリアの会にこれまで私たちが与えた損害の約3割が、君たち女子A級によるものだ。
次にもう3割程が、先日全滅した男子A級によるもの。そして、残りの4割……これは全て彼女がもたらしたものだ」
私たちはたったの3割⁉︎
(あんな死ぬような思いをして僅か3割ってひどくない⁉︎ 野球選手の打率と同じくらいじゃん!)
「そんなに強いなら、全部アイツに片付けて貰えばいいじゃないですか。
私たちいる意味ってあります?」
「まあまあ、落ち着いてくれ輝木。
彼女の超能力は限りなく最強に近いが、弱点もある。例えば機械だ」
機械には心がないから効かない。
単純な話だな。
私なら、機械なんて敵じゃないが。
「他にも事情はある。
実は彼女、平常時には総理の護衛についてもらっているのだ。
……どうにもここ数日、総理を狙う外敵が増えてきてな。
彼女はそちらに釘付けだから、君たちのようにアグレッシブに動けないんだ」
「なんでよりによって一昨日……デモの日だけ、総理の護衛についていなかったんですか……」
「いや、あの日は彼女も一応我々のところには向かってくれていたんだ。
彼女なら洗脳系の超能力は、容易く解除できるだろうしな。でも、大雪だった上に大渋滞だったからな。
彼女が到着した頃には、もう私たちは出て行ってしまっていたらしい。心を操る超能力があっても、これはどうにもならん」
「あの……。話を切り出した私が言うのも恐縮ですが……」
赤井が話を遮る。
「あまり超能力や今後の人員配置について話さない方がいいのでは……?
……国井さんが先ほどおっしゃった『情報収集用の超能力者』がいるのなら、まさに今、ここに潜んでいる可能性だってありますわ。
だって、ここはティーベの潜伏場所……、予想外のところから情報が漏れるかもしれないですわ」
「確かに君の言う通りだな赤井。
S級の話はここまでにしよう。……輝木」
「は、はい」
(なんだ……。まだ何か隠し事があるのか……?)
「君が何級であろうが、とても優秀な超能力者であることには変わりない。
君たちがショックを受けるだろうと、S級の存在を伏せていた私にも非はあるが……、どうかそれだけでも伝わってくれると嬉しい」
………そこまで言われたら、もう強く責められない。
私は引き下がることにした。
(…………。あの読心女の能力は、『心を操る』か……。もしかして、あの日……。
私が電車を止めて借金を背負ったあの日……。
『私の心は既に操られていた』としたら……? いや……まさかね)
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「報告です。瀬葛がやられました。海の底に沈んでしまい、引き上げるのは困難かと」
「…….。分かった。報告ご苦労」
「アイツ、もったいないですよ。『先に沈めてから』交戦すれば、少なくとも内木、水野、輝木は死んでいたハズだったのに」
「……同志を悪く言うものではない。沈めている時間がなかったのだろう」
「……常々思っていたが、ボス。そもそも彼……瀬葛は慢心し過ぎだった。殺す相手に名乗るポリシーと言い、何かと勝ち誇りたがる」
「はぁー…………。全く……バカなんじゃねェのか? 最初から大人しくオレ様に任せてりゃこんなことにならなかったってのになァ」
「……」
「ふざけんじゃねぇよマジで。こんなオチが見え見えだったから、オレ様は反対したっつーのによォ! あぁ⁉︎ ボスよォ!」
「落ち着け……。お前の意見を無視したわけではない。この件は船上という条件を考慮し、瀬葛に任せたというだけだ」
「あぁ⁉︎ けっ、なんだよ偉そうによぉ。結果失敗してんじゃねェか。
いいか? オレがこんなところにいるのは、ただ『趣味と実益を兼ねている』からに過ぎねぇんだぜ? 上から目線で『ボス』とか名乗ってるがよ、別にオレがお前に従うギリもねェわけよ!」
「……。お前が望むのなら、教団を抜けても構わんが」
「はんっ。そんなこと言っておきながら、オレが抜けた時にゃあ真っ先にボス、お前が殺しにくるんだろ?
冗談じゃねェよ。オレ様は殺すのは好きでも、殺されるのは嫌いなんでね!」
「……。そうか」
「……なあ。自分がボスに勝てないと思うのなら、素直に従うべきだと思うが……」
「うるせェな! んだよお前!
ボスに言われるのは100歩以上譲って……いや本当は1歩たりとも譲りたくねェがいいとして、なんでオメェなんぞに偉そうな口を聞かれなきゃいけねェんだぁ⁉︎ 調子こいてるとぶち殺すぞ、コラ!」
「……。……すまない」
「はっ。分かりゃあいいよ、分かりゃあな」
「……。それに、ボス。俺は彼の言い分も一理あると思う」
「あぁん? 殺すのは好きだが殺されんのは嫌って話か?」
「違う。『ボスに従う義理はない』という話だ」
「…………」
「俺も、この教団での収益が時間とリスクに見合わないと判断すれば教団を抜ける。……だが、今はまだ、ボス……あなたを信用しよう」
「…………そうか」
「ケッ。基準は金かよ。やっぱりオメェとは分かり合えねーな! 金に囚われた人生なんて、ロクなもんになりゃしねェのによぉー!
人生で一番大切なのは『どれだけ楽しむか』! これっきゃねェだろうが!」
「それは人それぞれの主観だ。お前がそう思うなら、それが正しい。
俺にとっては金が絶対。それだけのことだ」
「……。お二人共、そんなこと今どうでもいいでしょう。ティーべに知らせなくていいんですか?
ヤツらが八蔵島にたどり着いたということを。あなたの部下でしょう?」
「あぁ? どうでもいいだぁ? 喧嘩売ってんのか、あぁ⁉︎
……ふん、まあいい。ティーベにゃあもう伝達済みだ。つーワケで、『オレ様率いる暗殺班』の査定を上げとけよ、ボス。
ティーベはどうせ負けねェからな」
「強気ですね。ヤツらは幹部級である瀬葛を破ったというのに」
「何が幹部級だ。幹部つっても一番の新入りじゃねェかよ。オメェらテロ班が専門でもねェのに、出しゃばるからこうなんだよ。分かったらすっこんでろっての」
「そうは言っても、暗殺班である津場井や虎井、不破も返り討ちにあってますがね。
虎井と不破なんて捕獲されて情報抜かれてますし。最悪の状況ですよ」
「うるせぇな。あのガキどもが捕まっちまったのはオレ様もミスだと思ってんだよ。……チッ。イライラしてきたぜ……。今週末も適当に誰かぶっ殺すか」
「趣味もどうかほどほどに……。……実際あなたの言う通り、私たちテロ班からA級に対して人員を割くことは、非常事態を除き今後ないでしょう。
今まで通り情報だけ渡す。それでいいですね?」
「十分だな。ま、どうせ明日あたりにティーベが全員始末するだろうよ!
残念なことに、オレ様が出るまでもねぇな」
「随分とティーベを信頼しているのですね。先ほども『負けない』と言ってましたが……」
「んだよ。オレ様がそんな諛うように見えるかよ。文字通りの意味だぜ。
『負けねェ』んだよ、アイツはな」
救命ボートではあるが、なんとか八蔵島に上陸した輝木光たち女子A級。
果たして、当初の目的通りカナリアの会の会員、ティーべの情報を掴むことはできるのか!?
次回から第7話になります
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全18話予定のため、話数的には1/3までやって来ました。
読んでいただけてるだけで恐悦至極なのですが、もしもお手隙でしたら感想やレビュー、ご評価などいただけると大変嬉しく飛び跳ねて喜びます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。