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第6話~鏡のラビリンス⑥~

船に潜んでいたカナリアの会の刺客、瀬葛鏡太郎に敗北してしまった輝木光

残るはリーダーの赤井萌のみとなってしまった女子A級だが、赤井萌も瀬葛鏡太郎相手に苦戦を強いられる……

果たして、赤井萌は無事に瀬葛鏡太郎を倒し、仲間を助け出せるのか?


今回決着です!

(ビビるな赤井萌……! 何かコイツの能力を破る手があるはず――


『チャリーン……』

「……ん?」


(な、なんですの今の音……?)


「なんだ……落ちた小銭の音か」


どうやら金属にされた輝木の手から、小銭がこぼれ落ちたらしい。


「ふっ。死ぬ間際でこんなものを握りしめてたとはな。なんて意地汚いやつだ。さすがは輝木光」


輝木が持っていたのは、10円玉……。

……。


(確かに輝木は、意地汚くて業突く張りで怠惰で、その上自己中で見栄っ張りですが、そんな局面で無意味なことをする人ではないですわ)


何か10円玉に込められたメッセージがあるはず……!


この10円玉に一体何が……。

『10円玉』に……!


「あの世で金は使えないというのにな。

ふん。こんな屑、死んで当然だな!」


『ガッ』


瀬葛が輝木を蹴飛ばす。


「や、やめなさい!」


「悔しかったら止めてみろよ。なあ、お嬢様?」


そんな見え見えの挑発に乗るもんですか……。


光線が曲がらなくなった今の状態であなたに近づくほど、私は愚かではなくてよ。


それにしてもヤツの変化させる銀色の金属……かなりの重さのようですわね。

あれだけの強さで蹴られてビクともしてない……。


(……。銀色……?)


「なのに、なぜ私はこの距離から10円玉だと分かったの……」


いや、10円玉が銅の色だったからすぐ分かったんですけど……。

ちょっとおかしいわ……。


(完全に金属へ変化させられた輝木の持ってた10円玉がなぜ、銀色に変化しないんですの?)


瀬葛の光線は、当たった物体の半径1メートルほど以内を銀の金属に変える……。

ここまでは外れた光線のぶつかった天井や壁を見ればわかるわ。


そして、輝木はパジャマはもちろん、靴や靴下まで完全に金属になっている……。


つまりこれは、何度も念入りに輝木に向けて光線を発射したことを意味している。


……なのに、なぜ。

輝木が握っていた10円玉は銀色になっていない?


(………………。……いえ、思い返せばとても簡単な話でしたわ。私はここまで一度も見ていないですもの)


そう。


私は、『元々金属だったものが銀色に変化したもの』を、一度も見ていない!


「あの光線……元から金属のものには効かない……ですのね……?」


これが……最後に輝木が伝えようとした事実……?



「ふん。お前も輝木もそれには気付くんだな。

でも、なぁ……。結局同じことだ。『だからどうした』って話なんだよ」


確かに、それが分かったところで、輝木にはどうしようもなかったかも知れない。


(ですが、私なら……)


「どうしたって……こうするんですのよ」


その辺にあった鉄骨を溶かし、膜状にして私を囲う。


「これで、アナタの攻撃は私に決して届かない……というわけですわ」


この薄い鉄の板は、アイツに対して絶対無敵の壁となるのですわ!


「ふっ……。ふっふっふ。ははははは!

熱のバリアの次は物理のバリアか。

芸のないやつだ。

俺の攻撃が光線しかないと思うなよ!」


瀬葛が鉄のバリアの上に、何らかの箱を投げ上げる。


(これは、ゴミ箱か何か……!?)


「バカが! そんな鉄の壁に閉じ込められてどう避けるつもりなんだか!」


瀬葛が投げた箱に向けて、光線を撃つ。


「バリアごとぶっ潰れろーっ!」


空中で金属に変化した箱は、重力で一気に落下し、私の作った薄い鉄の膜を押しつぶす。


そして、私は潰れ――――



否。


私は、潰れてなどいない!

この瞬間を待っていたんですの!


「燃えなさいっ!」


「はっ……⁉︎ 後ろだと……⁉︎」


瀬葛に完璧なる不意打ちができる、この瞬間を!



私は最初から、鉄の膜の中に入ってなどいなかったのですわ!


『入ったように見せかけて、鉄の膜に隠れながら、ボイラー室を進み、瀬葛の後ろへ回り込んでいた』!


(アイツを仕留めるには金属化する時間を与えず、超高熱で焼き尽くす! これしかない!)


おそらくアイツは『光線を撃ちながら自分を金属化することはできない』!


これで終わりですわ!



「何でみんなそう思っちゃうんだろうなぁ……。

金属化した状態で光線は撃てないって……」


「っ‼︎‼︎」



効いてない……!

アイツへの攻撃は、金属化で防がれてしまいましたわ!


「鋼に炎が効果抜群なのは、ゲームだけの話だ。

1000℃や2000℃の熱じゃあ、俺はビクともしないんだよ」


確かにビクともしてませんわね。



――瀬葛自身は。



「……生憎、私はゲーム脳ではなくてよ。

前だけ見ていれば、足を掬われる。

それはアナタの方だったみたいですわね」


「足……?」


最悪の手段ではありますが……。

なるべくなら避けたかった方法ではありますが……。


『第2の作戦』を実行せざるを得ませんわ!


瀬葛ではなく『足元の鉄』を、一気に溶かす!


「ぐぉっ……!」


1500℃で溶解する鉄製の床の上に……

『金属化光線の効かない鉄の上』に立ってさえいなければ、こうはならなかったでしょうに。


「この部屋の下にあるのは、船の燃料タンク。

火をつければ大爆発。

船底には穴が開くでしょうね」


「⁉︎ バカか! この船を沈めるつもりか! やめろ――――」


(爆発音。ですわ!)



--------(side:瀬葛鏡太郎) ---------


(ふざけるな! 何のつもりだ!)


船が沈めば、お前らも無事では済まない!


「バカか! この船を沈めるつもりか! やめろっ!」


着火前に燃料を金属化させる?

ダメだ、この体積相手にそれは間に合わん!


自らを金属化して防御するしかない!


「ぐおぉぉああぁぁぁ‼︎」


(はんっ! ガソリンの爆発ごときで、俺の金属化は破れん! 爆発がおさまったら、すぐにボイラー室に戻り赤井を殺す!)


「ぬおぉぉぉおおおぉぉっ‼︎ っ‼︎ なにィっ⁉︎」


俺の足元に、巨大な穴が!


(なんだ、この穴は!)


------------------


「火をつければ大爆発。

船底には穴が開くでしょうね」


------------------


そうだ‼︎

爆発の衝撃で、船底に空いた穴っ!


(まずい、落ちていく!)


金属化した俺は超重量!


(あっという間に船から離れ、海底へ沈んでしまう……っ! 金属化を解かなくては!)


「げはぁッ⁉︎」


(ダメだ! 金属化を解くと、即座に水圧で潰されてしまう……! だが、このままでは更に沈む!)


も、戻れない!

水面へ、戻れないっ……!


「クソがあああぁああぁぁぁぁっ‼︎‼︎」


--------


瀬葛鏡太郎の生み出す金属は、どんな水圧にも耐える強度を持つ。


水や風に晒されようと、決して錆びたり、風化することはない。

酸やアルカリの影響も受けず、重量は実に金の2倍以上を誇る。


そして、自身を金属にすることで細胞の代謝は止まり、飢えることすらない。


まさしく無敵の存在だ。


「アレから何日……。何ヶ月……。何年……。はたまた何十年……。

分からない……。俺はいつか、戻れるのだろうか……。光のある大地に……」


初めの数ヶ月は、命を絶つことも考えた。


しかし幸か不幸か、勇気がわずかに及ばなかった。


永久に等しい時間が過ぎ、陸の景色を忘れてしまっても、瀬葛は待ち続ける。


もう引き返せない。


ひょっとすると明日、誰かが見つけてくれるかもしれない。

明日がダメなら明後日。


そんな希望が優しく、彼の心を殺していくのだろう。


--------(side:輝木光) ---------


「赤井……。やってくれんだな。

お前……最高だよ……」


私の金属化が解けた。


金属になっていた間の記憶はないが、1つだけ分かることがある。

赤井は勝ったんだ。


「輝木! 戻ったのですね!」


「ああ、サンキュー。

……っ! 痛えぇぇえええええっ‼︎‼︎」


(戻ったのはいいけど、左腕が曲がってはいけない方向に曲がってる!)


「この辺りのどこかにメグがいるはず! 今すぐ探しに……」


「え、ええ。と言うより、全員探して伝えないと。

この船……多分沈みますわ……」


「は、はぁ⁉︎ 何やったんだお前!?」


「ボイラー室はめちゃくちゃですし、燃料なくなってしまいましたし、ふ、船底に穴が……」


「うげー………。今すぐ信号を送って、救命ボート的なのに乗るしか……」


「あ、2人ともー! やってくれたのね!

瀬葛鏡太郎とかいうヤツを、やっつけたのね!」


話してる私たちの元へ、内木さんが駆け寄ってきた。


(実はすぐ近くにいたのか……。気づかなかった)


「あれ、でもモエちゃんは私たちより先に部屋を出たんじゃ……」


「ふ、触れないでくださいまし……」


「⁇ まあいいわ。終わり良ければ全て良しよ!

メグちゃんのところに行きましょう」


「そうです! 一刻も早くメグに会わないと私の左腕が……」


「! ヒ、ヒカリちゃん! どうしたのその腕! 瀬葛鏡太郎に……」


「いや、どっちかというと自爆……」


「メグちゃんは貨物室にいるはずよ。急ぎましょう!」



「ヒカリちゃん、もう安心して! 今すぐ治すよ!」


メグと無事に合流し、私の腕も治療してもらえた。


(……思い返せば、私だけ毎回毎回大怪我してないか? 津場井の時も、風吹魅音の時も、今回も……)


「とりあえず1つは問題解決ですわ。

さあ、急いで国井さんや他の乗客にも沈没することをなんとか伝えないと……」


『ただ今、燃料の爆発事故が発生いたしました。

乗客の皆様は、係員の指示に従って速やかに避難してください!』


船内のアナウンスだ。

どうやら船員もこの事態に気がついたらしい。


『当船は数十分後に沈没いたします!

皆様、どうか落ち着いた対応をお願いします!』


(アンタがまず落ち着け。声が裏返ってるぞ)


「事故を起こした私が言うのもなんですが……こうして放送が流れた今、私たちも大人しく係員さんの指示に従うべきだと思いますわ。

避難に役立ちそうな超能力はないですし……」


『一階のエントランスへお集まりください。

係員が誘導いたします』


赤井の言う通りだろう。

私たちは大人しく乗客として避難しよう。


「そうだな。余計なことはしないで、さっさと行くか」


--------


「大人しくしてろって言ったのはお前じゃないか……」


「すみません……」


赤井が反省した表情で謝る。


「いや、気持ちは分かるわよ。凹まないでモエちゃん」


実はつい先ほど、赤井が余計なことをして気まずい空気になってしまったのだ。

従業員に『乗客を起こすお手伝いをしましょうか』と声をかけたのだ。


従業員は『いえ、結構です……』の一言と共に、『気持ちはありがたいが、ありがた迷惑だし今忙しいから本当勘弁してくれ』みたいな表情を浮かべ、足早に去って行った。


「自身で爆発事故を起こした手前、何かしないとと焦ってしまい……」


「夜中だったしね。でも、個室のカギはもらえないと思うわよ……。

非常時とはいえ、一介のお客さんに渡しちゃったらまずいもの。会社的に」


「ですわよね……」


赤井は真面目なヤツだ。

だが、その真面目さゆえに、いかんせん融通が効かないし、空気が微妙に読めないところがある気がする。


「そんなに気にするなよ。なるようになるって。

私がテレビ局に雷を落とした時だって、放っておいたらなんかいい感じで風化していっただろ?」


「えぇ。でも、私が船を沈めたせいで死人が出たらと思うと、やっぱり怖いですわね……。

何の罪のない人が死ぬなんて、私に責任取れませんもの……」


「そうしなきゃ私たちは全員死んでたんだから仕方ないさ。むしろ、瀬葛に負けて赤井1人に全部押し付けた私の責任とも言えるっしょ」


「ヒ、ヒカリちゃんの言葉から『私の責任』という言葉が出るなんて……!

立派になったわね……! お姉さん嬉しいわ!」


内木さんのこのテンション。

恐らくまだ酔っている。


「ヒカリちゃんだけの責任じゃないよ! 私なんて不意打ち1発でやられちゃったしね!」


とメグも続く。


「私も爆発で仕留めたと思ったんだけどね……。背中を傷つけただけだったなんて、面目ないわ」


「私たちはチームなんだからさ。

責任はみんなのものだ。もちろん、手柄もな!」


「………………。当ててあげましょうか。

それ、エントランスの棚に置いてあった『チーム作りの法則』って本に書いてあった一節でしょう?」


「……。流石に学習してきたか」


「でも、嬉しいですわ。輝木だけじゃないです。内木さんもメグも、ありがとうございます。お陰で気が楽になりましたわ」


「いやぁ、こんなに心が通じ合ってるなんて、もうモエちゃんとヒカリちゃんの2人は親友だねぇ。3日くらい前まで、あんなにいがみ合ってたのに。これこそ、『雨降って地固まる』ですな!」


(親友ねぇ……。親友とは違う気がするけどなぁ。頼りになるヤツだとは思ってるけど)


『すでに船が八蔵島のすぐ近くまで来ているので、救命ボートで八蔵島まで移動していただきたいと思います!

只今より救命ボートについてのご説明をいたします!

お手数おかけして恐縮ですが、よろしくお願いします!』


「き、救命ボートの説明ですって! 真剣に聞かないとですわ!」


赤井が向こうを向く。


(照れ臭くなったんだなきっと)

船に潜んでいた敵、瀬葛鏡太郎を返り討ちにし、仲間たちを助け出した赤井萌


しかし、船底を爆発させたせいで、船は沈んでしまう……


彼女たちは無事に八蔵島へとたどり着けるのか!


次回、第6話完結です!

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