第6話~鏡のラビリンス⑤~
船へと工作を行い、A級の全滅を狙うカナリアの会の刺客、瀬葛鏡太郎
その瀬葛鏡太郎に、なんと輝木光は敗北してしまった
残ったメンバーはリーダーである赤井萌のみ……
隊の未来は彼女に全て託された!
--------(side:赤井萌) ---------
深夜。
部屋のバルコニーで、外を眺めていた。
(海……ですわ)
この海は……あの日家族と行ったヨーロッパの海とも、繋がっているのでしょうか……。
なんだか不思議ですね。
……この隊の任期が終わったら、4人でどこかに旅行でもしたいですわね。
(みんな、ついて来てくれるかしら?
……メグは誘えば間違いなく来ますわね。
内木さんは、私とメグで誘えば大丈夫そうですわ。
…………輝木。コイツが一番ダメそうですわね……。
いえ、でもああ見えて、案外優しいところもあるのよ、彼女。もしかしたらあっさり承諾してくれるかもね)
…………はぁ。
なんだかまた眠くなってきましたわ。
ベッドに戻らないと……。
(超能力のおかげで、真冬の外でも暖かい陽気を感じられる……これは私だけの特権ですわね……。……………)
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『ドォーンっ!』
(…………! はっ。私としたことが……。
まさか、酔ってバルコニーの椅子で寝てしまうとは……。なんてはしたない……)
それにしても、今どこかで爆発音のようなものが聞こえた気が……。
夢でしょうか……。
気のせいだといいのだけれど……とにかく、ベッドに戻りましょう。
「……?」
だ、誰もいない。
部屋に誰1人居ませんわ!
(みんなどこへ行ってしまったの? ……もしや、先程の爆発は夢ではなかった……? みんなの身に、何かあったのかしら……)
探すしかないですわ。
もしかしたら、単に私にだけ内緒でお土産買いに行ったとかかもしれませんし……。
(……イヤですわね、それ)
「…………」
お土産屋さんにはいなかった。
……冷静になって考えてみれば、こんな夜中にお土産屋さんはやってないですわね。
ゲームコーナーにでも行ったのかしら?
こういうところなら夜でも稼働してるかもですし。
しかし、ゲームコーナーにもいなかった。
(さ、流石にゲームコーナーにはいませんでしたわね……。そもそも動いてませんでしたし……。節約のためか、夜は稼働停止してるんですのね)
しかし、こうなってくるとやはり遊びに行ったのではなく、何か事件が起きているのでは……。
ここもダメとなると、夜中に動いている施設はなさそうですし。
(うーん、どうしましょう.......)
『キンッ!』
……?
なんですの?
この金属音。
昼間はこんな音聞こえませんでしたわ。
(……まさか、他の場所で何かが……? 確かめる必要がありそうですわね)
金属音は下の方から聞こえてきているようですわ。
船底へ近づくにつれ、どんどんと音が大きくなっていきますもの。
やはり、何か異常なことが起きている可能性はありそうですわね……。
『ガキャン……』
ほら、また聞こえましたわ。
この金属音、もしや、動力部分がトラブルを起こしているとか、そういう……。
『ドギャン……』
また鳴ってますわ。
この金属音……。
(……はっ。まさか、カナリアの会からの刺客が、船に紛れているのでは.......!? この超能力者……。彼、もしくは彼女が船に何かしているのならば、絶対に止めなくてはなりませんわ)
『グキャン……』
『ゴシャアッ……』
今、金属が潰れるような音が聞こえましたわ……。
いよいよヤバイかも知れません。
マジに急がないとですわ!
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…………ボイラー室に着いた。
件の音はこの部屋からでしたわ……。
なぜ『でした』なのかというと、つい先程から音が全く聞こえなくなったからですの。
「……――の後で、4人仲良く海に……――」
(…………。中に誰かいますわ)
「…………。あと1人……。あと1人始末すればそれで終わる……」
「ッ‼︎‼︎」
(か、輝木っ‼︎)
アイツの近くにある金属の像……間違いなく輝木ですわ!
ならば、アイツ……あの男は間違いなく、この船に潜んでいた敵の刺客!
「…………。ふっ。…………惜しかったなぁ……。
1人でなく、2人同時にかかってくれば、俺に勝つ未来もあったかも知れないのになぁ……。
……お前もそう思うだろ? なぁ……」
敵がこちらを向く……!
「赤井萌!」
「1人で十分ですわっ!」
「…………。さて。
輝木は私の大切な友人。
彼女を傷つけた罪、その身をもって清算してもらいますわ」
「おいおい。随分ひどい言い草じゃないか。
それだと、内木遊と水野恵はどうでもいいみたいだろ。リーダーさん、差別は良くないな」
「っ! メグと内木さんもアナタが……!」
「それに罪、ねぇ……。……なぁ。見てくれよ。
このグチャグチャになった右腕を。
爆風で引き裂かれた背中を。
これ、全部アイツらにやられたんだぞ?
それならこっちだってちょっと金属にするくらい良いだろ。お互い様じゃないか」
「それは自業自得じゃないですの……」
「ほお。判官贔屓なヤツだな。それは良くないぞ。
この世の中、勝者が常に正義だ。客観的に考え直せ」
「アナタたち組織のやってることの、どこに正義があるんですの……」
「ふん。分からんヤツだな。
お前が今思う正義なんてものも、所詮は過去の勝利者たちが作り出した基準に過ぎない。
時代の勝利者が変われば正義もまた変わる」
「仮にそうだとしても、やはりアナタ方は正義ではないですわ。アナタたちは勝利者にはなれませんもの」
「なんとまあ強気なお嬢様だな……。
俺たちの勝利は、もはや目前まで来ていると言うのに……」
(目前? 不破明から聞き出した話では、計画はかなり危険な状態じゃなかったんですの?)
「俺たちが男子A級を潰したのはお前たちも知っているだろう。
それに加え、女子A級も今ここで、最後の1人が俺に消される。
そうなれば、残りの脅威はあの『S級能力者』しかいない!
B級とC級など、我らの眼中にもないしな」
「S級能力者……?」
「つまり……。お前含めあと2人……。あとたったの2人消せば、俺たちの敵はこの世に誰1人としていなくなる!
晴れてこの国は俺たちのものだ! 現体制なんて関係ない! 力で従わせれば良いだけなのだから!
これこそ現代での勝利と言わずして何と言う!」
(S級……。A級の上に、更に能力者がいましたの……? 国井さん、隠してましたのね……)
「……なかなか壮大な計画をお持ちのようですわね。
ですが、計画倒れですわ。
だって……私を消すという前提条件がまず不可能ですもの。
アナタはここで私に負けて、A級を1人として始末できずに、逮捕されてしまう」
「そうかな? 普通に考えれば、風吹ごときに手も足も出なかったお前が俺を倒せるとは思わないがな」
アイツ、なぜそんなことを知ってますの?
あの場には風吹と輝木しかいなかったはずなのに……。
……それだけじゃない。アイツはなぜ知っていた?
『私が女子A級のリーダーであること』を。
「ま、こんな悠長に喋ってる時間もないんで、そろそろやるとするか。お前を殺し、船を乗っ取り、本土に戻る。
……あ、忘れるところだった。ポリシーなんでな、名乗っておく。
俺は瀬葛鏡太郎。覚えていろ。
これは、お前達全てを葬る者の名だ!」
来ますわ!
アイツの目から怪しい光線が放たれる!
金属と化した輝木から察するに、コイツは物を金属へと変化させる超能力者!
(恐らくこれに当たると金属になってジ・エンド、なのですわ! しかし、この速度ならば十分に回避可能!)
「フッ……。前向きなのは結構だがな。前だけ見ていれば、足を掬われる……」
(な、なんですの……そのいきなりの意味深発言は……)
「.……っ! 背後へ、光線の反射!」
(この光線、すでに金属になってる部分に当たると反射するんですわ! うぅ! 避けられない!)
炎で防御!
これしかないですわ!
光線は私の生み出した、炎の盾に命中した!
「…………っ!」
「な、なんという光線ですの……! 炎という酸化『現象』をも金属化させるなんて……!」
発生させた炎が盾となり、私は金属化をひとまず免れた……。
「……お前こそ、抜け目のないヤツだ。
俺の光線が炎をすり抜ける性質だった場合に備えて、自らも炎化していた。
この短時間にそこまで判断するとはな。
……やはり、お前が1番危険な相手で間違いなかった」
私が負ければ全滅が確定する……。
絶対に、負けられませんわ……!
「炎を盾にしようとも、自分の周り全てを覆ってしまえば、お前は金属に囲まれ身動きが取れなくなる。
囲まれてしまえば酸素の供給も絶たれ、炎変化もできないしな」
敵の刺客は、どうやら私の能力を知り尽くしているようね……。
(こちらも敵の分析をしないとですわ……)
鏡で反射するアイツの放つ光線は、光としての性質を持っている……。
(……ならば、回避する手段は他にもありますわ。炎を出す必要もない方法が)
「だから、俺は引き続き離れて光線を連打することにする。近づいて焼かれたら堪らないからな」
来ますわ!
1発目は私の理屈が通じなかった時のため、慎重に回避!
(…………やはり、私の仮定は正しい!)
「さらに射出だ! 輝木光と違って、お前の速度ではそう何度も避けられはしないだろう!」
また来る!
ですが、その光線……『もう私には当たりません』のよ!
対策は既に終わった!
「俺の光線は金属のエリアが広がるたびに増殖する。いつまでも容易に避けられると思うな!
大人しく最初みたいに炎を盾にして身を守ったらどうだ?」
(もう、炎を盾にする必要は全くないのですわよ)
「あらあら……。アナタはその両眼も金属なのかしら? それとも頭の中の方が金属だったり?
気づかないの? 私はさっきから全く『避けて』などいませんのよ」
私の『ある策』により……
光線はすべて私の前で屈折して、自ら私を避けていくのですわ!
「なんだと……! これはどういうことだ……? なぜヤツに当たらない!」
焦りを浮かべながらヤツが光線を連打する。
しかし、それも全て無駄ですわ!
「アナタ、ノーコンですわねー。これなら避ける必要ありませんわね。さて、このまま接近して……消し炭にして差し上げますわ」
「フッ……。何をしたかは分からんが……図にのるな! やれるものならやってみろ!」
とは言ってみたものの、どうせアイツに炎なんて効かないのでしょうね。
恐らくアイツは、『自身も金属にできる』はず……。
そう考えないと、輝木は負けようがないですもの。
(私は今、光線を避ける『ある策』のため……
体の周りを1000℃以上の熱気で覆っている。
のにも関わらず、私の周りにあるこの金属がビクともしないって言うのは、そういうことなのですわ。
この金属は1000や1500℃の熱では溶けたりしない……)
何か、熱以外でアイツを倒す他の方法を考えなくては…………。
「……ふっふっふ。あーっはっはっは!
なんだ、そんな簡単なことだったのか! 光線が曲がっていく謎が解けた。
――――温度差による光の屈折.......だろ?」
(! バレましたわ……! 思ったより早い……! 中々頭もキレるようですわ、コイツ)
「光は温度の異なる空気を通過する際、低温な方へと屈折する。砂漠とかで見られる蜃気楼の正体がこれだ」
100%正解ですわ……。
私は自分の周囲のみを高音で覆い、光線を温度差で、外へとねじ曲げていた……。
「と、得意げに語ってますけれど、分かったところで対策できなければ意味がないですわ!」
「対策? そんなの簡単だろ?
温度差をなくさせればオーケーだ」
『グチャ!』
そう言ってアイツは、金属化させた左腕でボイラーを破壊!
(中の蒸気を外に出して、この部屋の気温を上げるつもりですの?)
「無駄ですわ、そんなの……」
ボイラー内自体の温度ならいざ知らず、内部の蒸気の温度ならば所詮100ちょっと。
私を纏う1000℃以上の熱気から見れば誤差のようなものですわ。
「ボイラーの熱ごとき誤差の範囲ですわ……なんて、思ってるんだろうなお前は。
考えてることが手に取るようにわかるよ、お嬢様」
(なっ……)
「っ! 光線が……!」
光線が1発、私の纏った熱気を貫通してきましたわ!
(くっ! これはもう炎での防御しかない!)
「おいおい……。『避ける必要ない』んじゃなかったのか? そんな必死になって炎を出して……どうしたんだ?」
ボイラーの熱なんかでどうして……!
(違うッ! 違いますわ! 部屋の温度が上がっているのではない! 逆よ!)
『私を纏う熱気の温度が落ちてる』んですわ!
「俺はお前が風吹に太刀打ちできなかったことを知っている。ってことは、
つまり『観ていた』ってことだ! お前達の戦いを。そして、お前を封じる術もな!」
(わ、分かったわ! ボイラーを破壊したアイツの狙いが! )
ボイラーであることは重要ではなかったの!
アイツの目的は、湿気を……水をこの部屋に撒き散らすこと!
「恨むなら輝木を恨むんだな……。
アイツのセリフが俺に、お前を攻略するヒントを与えた。『スプリンクラーを使えば、引き続き赤井の能力は抑えられる』……この発言だ。
水気が多いと、出せないんだろ?
1000℃を越す熱や炎は……」
気化熱……!
私の炎を下げたものの正体!
もちろん、私の能力で水を再び蒸発させるのはワケない……。
ですが、液体は気化する際に『周りの熱を奪う』……。
この働きが、高熱の出力を妨害してしまう!
結果、私の周囲は1000℃以上の高熱を長時間保てなくなり、一部の光線は大きく屈折せず私に向かってくる!
「お前の即席バリアもここまでだ。
大人しく鉄くずとなって海の底に沈むがいい!
お友達と一緒にな!」
(コイツ……!)
「強い……!」
これは、マジにヤバイですわっ‼︎
炎をも金属に変化させてしまう強力な能力だけでなく、頭脳も切れる瀬葛鏡太郎相手に苦戦をする赤井萌……
このままでは女子A級は全滅してしまう!
次回、決着!