第6話~鏡のラビリンス④~
電気の超能力にとっては、圧倒的に有利かと思いきや圧倒的に不利だった瀬葛鏡太郎
彼を相手に全くもって攻略法が見いだせず苦戦する輝木光
しかし、彼女はなんだかんだで今までも相手を倒してきた
瀬葛鏡太郎にも見事に勝利をおさめることができるのか……?
今回、バトル決着!
「わ、分かったよ……。
確かに私は思い上がっていた、うん。
アンタの超能力、きっと最強だ。
だけど……それ、弱点とかあったりしないの?」
「弱点か……。ふふふ……教えてやってもいいがな……」
(マジかよ。言ってみるもんだな)
「ない」
「弱点はない」
(……まあ、そんなことだろうと思ったさ。
教えるわけないわな)
「いや、三流能力者のお前を哀れんで、教えてあげようと思ったんだがな。
考えてみると、本当にないんだ。
自身を金属にすればどんな攻撃も無駄。
そして、俺の光線に当たれば相手は即金属化。
どう考えても弱点が見つからない。
攻守ともに無敵だ」
何が無敵だ……。
金属と言えども、熱だったり、錆だったり、何かしら弱点はあるはずだ……。
弱点がないだなんて、そんな馬鹿げた話があるわけが…………。
(……案ずるより産むが易し。今はとにかく動くしかない! 例えば!)
「試してみるか?」
アイツを!
「その!」
蹴飛ばして!
「自慢の!」
千数百度のボイラーの中へ!
「無敵とやらを!」
ぶち込んだらどうなる!?
『ガァン!』
私の右足の蹴りがヤツを捉え、金属音が響く!
(――っ‼︎ クソが!)
「だから、無敵だと言ってるだろうが」
しかし、傷一つつかない上に、重すぎてビクともしない!
電気化の勢いを伴った超スピードの蹴りなのに!
まるで電信柱でも蹴っ飛ばしてるように、ただの1センチすら動きやしない!
「全く、日本語分からないのか。このバカ」
アイツの目がまた光る!
急いで撤退っ!
「何度も食らうか! そんなウスノロ光線!」
この一面に金属たちがある限り、私は超高速で移動し続けることができる。
もうあの光線は問題ない。
「いつまでその速度で動く体力が保つか、見せてもらおうか」
さらに何発か光線が飛んでくる。
(連射可能だったのか! だが、その程度のスピード、避けることは容易い!)
さらに、ヤツがあの光線を乱発すればするほど、天井や壁は金属に変化し、私の動ける範囲が増え続ける!
「避けているだけでは、お前はいずれ詰む」
私の動ける範囲が増えることも厭わず、アイツはそう言って光線を放ち続ける。
……相変わらず、光線のスピードは遅いのだが、ちょっと前から何かがおかしい。
(段々と避けづらくなってる……?)
アイツは1発ずつしか撃ってないのに、なぜか2発以上飛んできているかのような感覚があり、回避の難易度が上がっている。
もしや……。
「……己を知ることができる生物は人間のみだ。
人間は己の無力さを知る事で、強者に許しを乞い……時に己の優秀さに驕り、弱者を蔑む。
そうして、人は己を守り続けてきたのだ。
……知恵という禁断の果実が生み出した、自身を映す道具……それを人は」
瀬葛鏡太郎が語り出す。
(光線……。金属……)
間違いない!
「『鏡』と呼ぶ!」
鏡だ!
ヤツの光線は何度も反射してこの空間を跳ね回ってる!
「ようやく気がついたようだな。俺の生み出す金属は、超硬度にして超重量。そして、鏡としての性質を併せ持つ」
これはよくない!
いくらあの光線が遅いとはいえ、これだけ四方八方から飛んできたら、どこかで必ず被弾する!
「ようこそ、鏡の迷宮へ。このボイラー室にいる限り、お前の勝ちはない。そして、もうお前はここから逃げることはできないっ!」
さっさと手を打たないと……!
(しかし銀色の空間の中を、たくさんの光線が乱反射してて綺麗なもんだな……って、今はそんなこと考えてる余裕はないっての!)
1発でも被弾すればそこで負けなんだ!
大前提として絶対に避けないと!
( 右へ回避! 次は左! その次は右! そのまた次は右! さらに動いて左! 右! 左! ……チクショウ、音ゲーやってるんじゃねぇんだぞ!)
アイツの反射する光線が段々と増えていく!
壁や天井に、金属化した領域が広がっていってるからだ!
(このままじゃ、いずれこの部屋の全てがあの光線と金属で覆われる!)
……いや、違う。
よく見ると、あの光線が唯一金属化できないものが、ここにはある!
「この光線……!」
私は高速移動しながらも『その事実』を発見した!
「お前の光線! 『元々金属』のものには通じないみたいだな!」
そう、排水溝の仕切りや、マンホール、蒸気を送るパイプと言った部分は銀色に変化してはいないのだ!
……だが。
ヤツは首を傾げて言い放つ。
「確かにそうだな。……で? それが?」
(……。そうだよ! 金属には通じないからなんだってんだよ。アイツの言う通りだ!
こんなこと気がついたって、何の解決にもならないじゃないか! 私はバカか!)
そんな自分を戒めた時、右足が急に重くなる!
(――――しまった! ついに被弾した! 右足のスニーカーに!)
「まだだ! 靴を脱げば!」
「バカめ。金属の靴を脱げるものか!」
(ああもう! 脱げない!)
「俺の光線はこうしている間にも、お前を取り囲んでいる! 機動力を失ったお前に逃れる術はない!」
機動力を失った?
(ふん。私は……)
「私は機動力を失ってなどいない。お前は、何も見えていないんだな!」
電気に変化し、金属化の光線を躱す。
「何? 金属化した靴の重さを抱えて、お前はまだ動けるのか」
「私は体を電気に変化させて高速移動できる。
それはお前も分かるだろうが、正確には『私の体』じゃない。
私が『私の体だと認識しているもの』が電気に変化しているんだ。……例えば、衣服とかね」
でなければ、移動する度に私は全裸になってしまう。
「つまり、金属になろうがこの靴は私の一部!
流石に走ったりは難しいけど、電気化しての移動に何ら支障はない!」
だから、引き続き金属化光線は回避可能!
私の体に直接当たらなければ、まだ何とかなる!
「……だからなんだと言うのだ。逃げるだけでは、俺に対して何も出来ないぞ?」
(……。まあ、確かにそうなんですけどね……)
依然として、空中を行き交う光線は増え続ける。
『キィン!』
結局、さっきからアイツに対して何一つ有効打を与えられそうな方法は思いつかない。
『キィン!』
そろそろスタミナもなくなってきた。
『キィン!』
このままでは、確実に負ける!
『キィン!』
(だぁー! 何なんだよさっきからこのキンキンした金属音は! 人が真剣に考えてるって時に!)
『キィン!』
……なるほど。
これは、金属化した靴が、移動した時に壁や天井の金属に高速でぶつかって出ている音だった。
『キィン!』
…………。
注意深く観察すれば、この音が出始めてから、金属で覆われた壁や天井の所々に凹みが出来ている……。
あの金属は、超硬度なのにも関わらず。
『キィン!』
(…………フフン。アイツの弱点、見つけちゃったかもね)
『キィン!』
(ありがとね、キンキンさんよ)
「お前の弱点を見つけたぞ!
今からこの私が直々に教えてやるから、ありがたく肝に命じておけこのタコ!」
「はぁ? この期に及んで何言ってるんだ?」
「弱点その1!
自身の金属化と光線の発射は、同時にできない!」
「…………」
アイツに向けて、テストの電撃!
ヤツは金属に変化し防御するが、私への攻撃は一旦ストップした。
つまり、これは正解のようだ。
「弱点その2! それは今から体験させてやる!」
金属化した瀬葛めがけて、全力キックをぶちかます!
『キィン!』
「っ⁉︎ なにっ……!?」
……私の、『金属化した右足の靴』で!
やはり思った通りだ!
超硬度の金属に変化したアイツに、攻撃を仕掛ける唯一の方法。
それは、『ヤツの生み出した同じ金属』をぶつけることだったんだ!
少しではあるが、今攻撃した部位が湾曲しているのが分かる!
私の靴も曲がっているが、靴なら曲がろうが私は痛くも痒くもない!
このまま、同じ部位に連続攻撃をしかけ、手足をへし折ってやる!
『キィン!』
(まだまだ! この機会を逃すな!)
『ガキィン!』
(まずは右腕に、蹴りの連撃を叩き込み……)
『ドギャン!』
(潰してやる!)
『メギャンッ!』
アイツは抵抗しない……。
金属化してると、逃げたり、抵抗したりはできないようだ。
『ガキャンッッ‼︎』
(いい音だ! そのままぶっ潰れ――――)
「その1は不正解だ。
いつ俺が、金属化しながら光線を放てないと言った?」
(っ‼︎ バカなっ! 私の勘違いだっただと⁉︎)
「しまっ……!」
油断したっ!
「ゲームセットだ! 輝木光!」
(ああ! ついに!)
(ついに!)
左腕に直接……!
『生身の体』に光線を浴びてしまったっ!
(くっ……!)
左腕から全身にかけてみるみると金属化していく!
「これで勝利は確定。さて、あとは防御に徹するとしようか」
瀬葛はそのまま金属化している……。
まだだ……!
まだ終わるもんか!
「うおぉぉぉぉっ‼︎‼︎」
『ガキャンッッ‼︎』
「っ!」
金属化した左腕で、瀬葛を殴りつける!
「腕や足の一本くらいくれてやるっ‼︎
お前を倒せればそれでいい!
そうすれば、元に戻るんだからな!」
『ドギャンッッ‼︎』
『グキャンッ‼︎』
『ゴシャアッッ‼︎』
私の左腕と、金属化した瀬葛がぶつかり、激しい金属音がボイラー室に響き渡る。
(私の左腕は折れ曲がった……! しかし、痛みはない。金属化すれば痛みはないと、ここに来て新発見!)
『メギャンッ‼︎』
『ドゴィィンッ‼︎‼︎』
私は苛烈に攻撃を加え続ける。
私の体が、完全に金属になってしまう前に、決着をつけるんだ!
(もうかなりのダメージがヤツに入ったはず! トドメだ! まずはその右腕を叩き潰してやる!)
それなら死にはしない!
しかしその重傷を治せるのはメグだけだ!
「おおぉぉりゃぁぁぁあっっ‼︎‼︎」
『ブォンッ‼︎』
(………………?)
(ぶ、ブォン……? 明らかにおかしい音……。まさか……………っ!)
「……?」
(空振りっ………………⁉︎ そんな……! なぜっ!)
「…………っ!」
電気変化の解けた私は、真っ逆さまに地面に落ちる。
そして、そこで初めて気付く。
瀬葛が――――
――――2人いる!
分身か⁉︎
コイツ、まだ能力を隠していたのか……⁉︎
「……分身ではない。鏡で周囲を球状に覆うと、そこには『上下逆さまの立体的な虚像』ができる。
お前が最後に攻撃したのは、それだ。
どうやらお前が電気変化してる時、視界は割と不自由のようだな」
(っ! ふざけんなよ……! ここまで来て.......!! クソ……。もうダメだ……! すでに体の左半分が金属……。立つことすら出来やしない……)
「弱点その2については、部分点をくれてやる。
まさか、こんな弱点があったなんて、俺自身も気づかなかったよ…………」
何か…………何か仲間に伝えなくては…………!
コイツを破るために……! 何か……!
「ここまでやられると右腕はもう使えない……。
が、俺の勝ちだ、輝木光。俺が片手で赤井を葬る瞬間をそこで見届けろ。
その後、4人一緒に仲良く海へと沈めてやる。
俺の能力の射程は数キロだが、お前たちが海底で金属から戻った途端……水圧でグチャリだ」
最後の力を振り絞り、右手を伸ばす。
(……頼む! 赤井! 必ず、コイツを――――!)
今回で輝木光VS瀬葛鏡太郎のバトル決着!
なんと輝木光は敗北してしまった……
内木遊と水野恵は既に瀬葛鏡太郎に敗北していたので、残る赤井萌にA級の運命が託された。
次回、赤井萌VS瀬葛鏡太郎です
次回もよろしくお願いいたします