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第6話~鏡のラビリンス③~

カナリアの会の会員『ティーべ』を探すため、輝木光たち女子A級は客船で潜伏場所の八蔵島へと向かう。


その深夜、船の異変に気づき、船内を調べる輝木光。


そして、ついにその原因を突き止めるのだが……

「こりゃあの揺れ方するわけだわ……」


夜中といはいえちゃんと操縦してほしいものだ。

今回は揺れるだけで済んだが、下手したら大事故につながっていた可能性もあるのだから。


(……こうやって船が乗り上げてしまった場合って、どう元に戻すんだろう? 車とかと同じなら一回バックして、切り返すんだろうか。分からん)


「! おっと……」


またしても船体が大きく傾く。

引き続き、浅瀬に船がそのまま突っ込んで行っているようだ……。


「何やってんだ……?」


このままじゃ転覆する可能性すらあるんじゃないか。


(操縦士は何やってるんだよ。……まさか、居眠りとか? いやいや、ジョーダンやめてくれ。仕事なんだからさ)


「操縦室に行って確認してみるか」


『グラッ』


(っ! また揺れた! マジで居眠りなら私たち全員、夜が明けたら海の底だ。急がないと)


ひたすら上の階層へ進む。


適当な仮説だが、操縦室は周囲の状況を確認し易い高い場所にあるに決まってる。


……もしかして、高い場所だから、低くて近くにある浅瀬が見えないとか……?

だとしても、明らかに船体がおかしくなってるのだから、確認しに誰かが降りてくるはずだ……。


「関係者以外立ち入り禁止……」


上階で発見した扉にそう記されていた。


(ここだな。立ち入り禁止とか書いてあるがそんなことに構ってる場合じゃない)


もちろん、鍵がかかっているのだろうが、私の前ではあらゆる鍵が意味をなさない。


「解錠……っと」


電気を流して鍵を開け、ドアノブを引っ張る。


しかし、扉はビクともしない。


「あ、あれ? おかしいな。普通のシリンダーキーだろ? 開けられないはずないんだけど……」


このくらいでメゲる私ではない。

もう一度、解錠にチャレンジする。


「あ、開いた……」


……鍵は最初からかかってなかった。

そういうことだ。


最初に解錠した時、逆に閉めてしまっていたのだ。


さらに扉の先で階段を登り、操縦室らしき部屋へ向かう。


次は反省を生かして、扉は一回鍵がかかってるか確認してから超能力を使うことにしよう。

無駄に疲れるのはゴメンだ。


「また開いてる……」


いくらなんでも不用心過ぎではないか。


しかし、次の瞬間にはそんな疑問すら消し去る強烈な光景が目に飛び込んできた。


操縦室が一面、銀世界だったのだ。



雪景色という意味の銀世界ではない。

文字通り『銀の世界』なのだ。

全てが銀色の金属で覆われていた。



「なんて悪趣味な……」


こういうのを成金趣味と言うのだろう。

大型の客船だから、利用者にはこの方向性が好まれるのだろうか。


(お客さんはここには入れないから関係ないのに。いずれにせよ、ちょっと引くわ。……っ! な、なんだ!?)


「こ、これは……⁉︎」


さらに奥を調べると、部屋で『あるもの』を見つける。

思わず私は声をあげた。


……私の口は『これ』と言ったが、もしかしたら『こいつ』と言った方が正しかったのかもしれない。


なぜなら、私が見つけたものは、銀色の……『操縦士らしき格好をした人間のオブジェ』だったのだから。



……こんなものを普通ここに置くか?

考えたくはないが、最悪の可能性をたどる。


それは、このオブジェが『人間である』可能性だ。


私たちが相手をするのは未知の超能力者たち……。

その中に、何かを『銀に変える』超能力者がいてもおかしくない……!


操縦士はその敵の超能力者に攻撃を受け、銀に変えられてしまった。

それならば、不自然に銀色なこの操縦室、そして浅瀬に乗り上げ一向に脱出する気配のない船、これら全ての辻褄が合う……!



「何かが、この船の中にいる……? これをやった、超能力者か……?」


とにかく、このまま船が座礁してはたまらない。


……この機械の操作は分からないが、私が何とかするしかない!


「頼む、動いてくれ!」


大丈夫。

スマホの操作とかと同じだ。

落ち着け私。


「お、お?」


船体が大きく揺れる。

船が旋回し始めたようだ。


「おお……」


浅瀬から脱出。


「時速35キロ......。八蔵島、自動運転......」


よし。

これでとりあえず座礁の心配はないだろう……。


私の超能力が電気で良かった。


お次は、犯人探しの時間だ。


私の仮説が本当だとすると、この船のどこかにカナリアの会からの刺客が紛れている。


そして、そいつは私たちが寝静まった夜中を狙って部屋にやってきたが、私以外の隊員に気づかれ逃走。

私たちを殺せず、せめて船の足止めや沈没を狙うために工作し、今に至る。


こんなところか?


(…………それだと、私だけ敵に気づかず爆睡してた間抜けになってしまうので、やっぱりこのシナリオは却下)


……そうだ。

今はそんな過程どうでもいい。


現在、起きていることこそが重要なのだ。

船を動かしたのだから、船内に敵がいるなら私の動きに気づいてる。


ここで待ち伏せして迎え撃つか?

それとも、こちらから不意をついて攻撃を仕掛けるか?


……いや、待て。

隊員が部屋にいないってことは、今まさにどこかで、敵と戦闘してる可能性も高い。


そんな状態だったら誰もこちらに来られないし、私は今すぐ加勢するべきだ。


(……寄ってたかってかかった方が、勝率は高いに決まってるからな!)



そうと決まればさっさと移動だ。

もう操縦室に用はない。


ここからは、虱潰しに部屋を探していくしかないのだ。

引き続き急がねば。


私は階段を駆け下りる。


……その時!


『ドォーンっ!』と低い爆発音が鳴り響いたっ!


下の階からだ!

やはりすでに誰かが戦っているっ!



(しかし、爆発……? どいうことだ? 私の仮定では、敵はおそらく『物体を銀色の金属に変える超能力』。その能力で爆発は起こせない)


いや……早とちりするな。


爆発を敵が起こしたとは限らないんだ。

私たちの誰かが爆発を起こした可能性だってある。しかし……。


メグ、内木さんの能力では爆発は起こらないだろう。


(となると、赤井か……?)


しかし赤井の能力は炎を出す、炎を操る、酸素を奪う、炎に変化する…….爆発は無理だ。


(…………違う!

アイツが爆発を起こしているのを、私は一回間近で見てるじゃないか!

虎井と不破とかいう2人組の超能力者と戦った時、酒蔵を爆破している!)


つまり、今刺客と戦闘しているのは赤井で、爆発の正体は大量の可燃物への引火!


それなら、刺客のいる場所はいくつかの候補へ絞られる!


私はその候補へと駆け出した!



候補その1、レストランの酒蔵へ到着!


ハズレだ。

誰もいないし、何かあった形跡もない!


ついでに確認。


候補その2、厨房!


ここもハズレのようだ。

ガス台にも特に異常なし。


次の候補は……。


(……! そうだ! ボイラー室! ボイラー室って昔どこかの温泉で爆発事故があった気がする!)


--------


ボイラー室に到着した……。


何かが爆発した形跡がある。

正解はここだったようだな。


「…………。クソ……。よくもやってくれたな……あの、メガネが……!」


(この声……。隊員じゃない……! 全く知らないヤツだ!)


声のした方を見ると、傷だらけの不審な人物がいる……!


短髪で筋肉質な男……。傷だらけなのも相まって、さながら軍人のようなたくましさだ……。


アイツが、この船に潜んでいた刺客なのか……?


「あと2人……A級どもがまだ船のどこかにいる……。

コイツらを海に沈めるのは、あの2人を潰した後だな……」


間違いなく敵のようだ。

勝手に自白してくれた。


……あと2人ってことは、爆発を起こした赤井と、アイツ曰くメガネだから内木さん……この2人はすでにやられてしまったというのか。


(一歩遅かったか、クソ!)



だが、怒りに身を任せ無策に突っ込むのは、愚か者のすることだ。


(本当に怒っているならば……。憎しみを以って、クールに敵を潰せ!)


「うぉぉぉらぁぁぁっ‼︎‼︎」


周りはアイツが戦闘時に変化させたのか、金属だらけ!


しかもこの金属、なんだか分からないけどめちゃくちゃ電気を通す!

この空間なら、私は電気に変化して縦横無尽に駆け回れる!


「ぬおっ!?」


回し蹴りが敵に1発ヒット!


だが、この程度で逃がしはしない!

すかさず間合いを詰めて右のアッパーカット!


「ぐえっ......!」


(まだまだ!)


不意打ちができるのは一回きり。


このチャンスで必ず決める!

下へ潜り込んで刺客の男を蹴り上げる!


「ぐへぁっ⁉︎ き、貴様……まさか」


電気に変化し天井へ移動!


自重を乗せて、拳をヤツの土手っ腹に叩き込む!


「図に乗るなっ!」


『ガァンッ!』


「くっ……!」


(金属音……!? クソ、不発か!)


しかも右手に激痛が!


(コイツ! 自身の衣服を金属に変化させて、最後の一撃を防ぎやがった! ならば、ここから直接電撃を流して卒倒させ――)


「――輝木光! 迂闊だったな」


ヤツがそう呟くと同時に、目から怪しい光線が飛び出す!


「うおあっ⁉︎」


(おそらく、これに当たると操縦士のように、金属になってしまうんだ!)


死ぬ気で回避する!


「――くっ‼︎」


(チクショウ、パジャマの左袖に掠った!)


「ふん、終わりだな。情けないヤツめ」


たちまち袖が金属へ変化していく!

服が金属化したら身動きが取れなくなる!


(ふざけるな! こんなところで終わるものかっ!)


「うぉりぁっっ!」


『ブチブチィ!』


パジャマの袖を引きちぎる!

これでひとまず残りの箇所の金属化を防ぐ!


ちぎった袖は放り投げると、ガラガラと体積の割に重い音を立てて転がっていった……。


「なんてヤツだ。女のクセに、馬鹿力め……」


部屋が暖房完備で良かった。

もし、パジャマが厚手だったら、こうはいかなかった。


危機を脱した私は、すぐさま退いて距離を取る。



「さすがは、不意打ち闇討ちが大好きと評判の、輝木光サマだ。恐れ入った」


「お褒めに与り大変光栄。そのままぶっ倒れてれば良かったのにな」


もうお互いに不意打ちはできない。

ここから、本当の戦いが始まるのだ。



「名乗っておくとしよう……。

俺の名は瀬葛鏡太郎。覚えておけよ。

お前に引導をわたす人間の名だ」


刺客が名乗る。


「そりゃどーも。でも、すぐに忘れちゃうかもね。

どうせティーベとかいうヤツを守るために出てきただけの、下っ端だろうし」


「俺はティーベの部下ではない。ボスの直接の部下で、『幹部会』の1人だ。

だから、俺はボスの名前も知っているぞ?

当然、教えてはやらんがな」


(幹部……!?)


「え、マジで? ってことはさ……」


両手に電気を込める。


「お前をひっ捕らえれば、それでボスの正体が分かるってワケだ!」


この空間なら、私は負ける気がしない。

抵抗の少ない金属で全てが覆われた部屋。


電撃での攻撃も、電気変化しての高速移動も、全てが最大限に発揮される。


ここなら私は最強だ!



「全方位からの放電だ! お前に逃げ場はない!」



しかし、ヤツは――瀬葛は笑っている。



「残念だが、お前の能力ではどうあがいても、俺を倒すことは不可能だ」



何を言って………………。


「…………!」


(……おかしい! こんなに大出力で放電してるのに、まるで抵抗がない。糠に釘だ)


そして、私は気づいた。



『瀬葛自身が金属へ変化』していることに!



(だから、何も抵抗がなかったのか……!)


今の私は、『壁に向けてただ電気を流してただけだった』ということになる。


もちろん、金属化した今の瀬葛には、殴る蹴るといった打撃も効かないだろう。

さっき服を殴ったときのように、私が体を痛めるのがオチだ。



――これじゃあ……何をやっても攻撃が通らない!



「おいおい、いきなり諦めたような顔をしてくれるなよ、根性なしだな。

さっきのヤツはもっと頑張ってたのに」


「赤井と内木さんか……」


「ん? 何言ってるんだ?

赤井はまだ見つけていないぞ?

俺が始末したのは内木遊と水野恵だ」


なんだと!

なら、あの爆発の正体は一体……?


「内木遊……あのメガネはマジにクレイジーなヤツだった……。

あえて自分から金属になり、部屋を持ち込んだスプレー缶とライターで爆破。

自分諸共、油断していた俺を吹き飛ばそうとした。

おかげで大怪我だ。アレには、流石の俺もビビったな」


あの爆発は、内木さんが起こしたものだったらしい。


「俺は危険度の低い順に始末するつもりだったんだ。

1番厄介な赤井は、1対1で……確実に邪魔が入らない状況で消す。

そして、2番目に危険だったのがお前だった。

だが……。ふふふ……」


(なんだよ……。何笑ってんだ……アイツ……)


「計画は失敗だなぁ……。

だって、お前が1番、ヘナチョコだからな。

不意打ちしか能のないクソガキ……。

お前を1番最初に狙う方が正しかった」


「ぐっ……!」


なかなか挑発のセンスをお持ちのようだ、コイツめ。


「井の中の蛙だな。不破や津場井のような低級能力者と俺とでは次元が違う。

所詮、お前は弱者を嬲り悦に入るだけの、三流に過ぎないわけだ」


(…………。まあ……。事実……)


私にしては珍しく、コイツの攻略法を見出せない……!

どうすればいい……!?


船に工作を行っていたのは、カナリアの会幹部『瀬葛鏡太郎』だった。

輝木光は船への工作を止めつつ、情報を聞き出すため、瀬葛鏡太郎に挑む。


輝木光にとって圧倒的に有利な相手かと思いきや、実は全くの不利であることが露呈した……。


次回、戦いが決着!

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