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第6話~鏡のラビリンス②~

カナリアの会の情報を得るため、客船で南の離島へ向かう輝木光たち女子A級


彼女たちは船で英気を養いつつ、親睦を深めていた……


今回はほぼ会話パートになります


「そういえば聞いてくださいよー。

結局アレからツイッターのアカウント削除するハメになったんですよー!」


みんな愚痴るなら、私だって愚痴らせてもらう。


「しかも!

ネット上では『垢消し逃亡』って煽られるしー。

一部じゃ私を特定しようなんて動きまであるらしくて……」


「ヒカリちゃんごめん! そんな事情があったなんて知らなくて、私結構ひどいことを……」


「そうだ! ひどい、許せないね! お詫びにそのステーキ寄越せ!」


メグからステーキを皿ごと奪い取る。


「あー! ひどいよー! なんてことするの!」


「ヒカリちゃん、サイテーよ!

食べ放題とはいえ、サラダも全部食べなきゃお肉がお代わりできないシステムなのに!」


「ほんはへひふはいひふてむなのがわふいへふ」


一応翻訳を。

『そんなケチくさいシステムなのが悪いです』


「輝木ぃー! 口に入れたまま喋るなって昨日も言いましたわよね? はしたないですわよ!」


「んん? はしたないだってぇ?

君の目の前で大量に積まれた、その皿たちの方がはしたないだろー? 赤井さんよ」


「なっ⁉︎ こ、これは仕方ないでしょう⁉︎

たくさん食べないとお腹いっぱいにならないんですもの!」


「確かにモエちゃんすごいね。

3人の合計より多く食べてるんじゃない……?」


「た、食べる量は遺伝なのですわ!

こればかりはどうしようもないですわ!」


「お父さんお母さんも大食いなの?」


(ま、まずい! メグ! 赤井に家族の話題は.......!)


「大食いって……。ずいぶんストレートな……。

お母様はそうでもなかったですが、お父様は沢山食べてましたわね。

……あと、兄様は私よりすごかったですわ。

男女の差なのでしょうけど」


「あれ? モエちゃん、一人っ子って言ってなかったっけ?」


「……兄様はずっと前に、死んでしまいましたから」


「赤井……」


「あっ……ご、ごめん……」


メグが謝る。


「ま、両親も死んでるんですけどね!

あぁ、許せませんわー。マジで傷つきましたわー!

慰謝料として、その野菜全部もらいますわよ!」


「ひぇー!」


白々しいやつだ。

でも、どこか吹っ切れたようで安心した。


「ウェイターさん、お代わりお願いします!」


「あ、私もお願いしますわ」


(メグのサラダを食べて、なお食うのか赤井……)




「ごちそうさまでしたー!」


「……うっぷ」


食べ過ぎたし、飲み過ぎた……。

赤井の影響か、普段の2倍近く食べてしまった気がする……。


バカだ。

私は本当にバカだ。

今すぐ胃腸薬などを飲まないと、今日明日とだいぶ悲惨なことなりそうだ……。


「皆さま、部屋に戻りましょう。……ど、どうしましたの輝木?」


おそらく私の3、4倍は軽く食べた赤井が、素っ頓狂な顔でこちらを見る。


「いや……。うん、まあ……世の中には色んな人がいるなって……」


「? 何言ってるのかよく分からないですけど、部屋に戻りますわよ?

次にこの席を予約しているお客さんに迷惑をかけちゃいますわ」


こっちはこんなに苦しんでるというのに、心底元気そうに……。


(この満腹中枢機能不全女め。なんか腹立つ。まあいい。それより……)


「薬局ってあるかな……この船……」



(ありがとう大鵬製薬!)


私の胃と肝臓は無事救われた。

コンビニで無事に手に入れたお薬は、飲めばスーっと効いていき、胸焼け、悪酔いを解消してくれた。


そして現在、私たち4人は客室に戻っていた。


ちなみに、この部屋……残念なことに1人部屋ではなく、4人部屋なのだ。


国井曰く、

『チームは協調性が重要だ。君たちはもう少し仲良くならないとダメだ』

とのこと。


(誰と誰が仲悪いってんだ全く。部屋代ケチった言い訳にしただけだろ、これ)


『続いてはプロ野球です。本日のオープン戦の模様をお伝えします! NEWS ONEのここが熱いのコーナー!』


しばらくして、部屋のテレビがスポーツニュースを放送し始めた。

しかし、誰も気に留めない。


私と赤井は元々テレビをあまり見ないし、普段からテレビを見てるだろうメグは、今携帯ゲームに夢中だ。


内木さんは……飲み過ぎて横になっている。


『富売リリパッツ対東京ヨーグルツはエース同士の対決!

両先発の好投もあり、7回までお互い無得点。

息つまる投手戦が続きます。

均衡が破れたのは8回表、ヨーグルツの攻撃。

高卒2年目村本が均衡を破るツーランホームラン!

最後は絶対的守護神、本寺が貫禄の三者凡退。

2対0でヨーグルツの勝利です』


野球コーナーのようだった。


(ほー。ヨーグルツ勝ったんだな)


私はサッカーだけでなく野球も結構詳しいので、少しだけ興味をかたむけていた。

実は高校の頃、ソフトボール部だったりもしたのだ。


「あら。負けてしまったのですね」


(は? 今の口調……)


「どういうこと?」


「リリパッツが負けてしまったじゃないですの。おかしいところあります?」


東京には、2つのプロ野球チームがある。


1つはオープン戦で勝利していたヨーグルツだ。

私は実家の吉祥寺に近いこともあり、この球団を応援している。


そして、もう1つは富売リリパッツ。

通称『小人』。

赤井はこちらのチームを応援してるらしい。


(どこまでも私とは気が合わないな……)


「……き、キャップは……? 広島キャップはどうなっちょるん?」


「……? え?」


(誰だ今の……)


『続いての試合です。

広島キャップ対千葉チロルパイレーツは大波乱となりました。

今日のキャップ先発はエース山瀬良。しかし、想定外の大乱調。

3回途中までに8四死球を与え、5失点。

そのままマウンドを降ります。

二連覇の原動力となった打線も今日は完全に沈黙。

終わってみれば、2桁失点、2安打完封負けとキャップはシーズンに不安を残す結果となりました』


「ぼ、ボロ負けしちょる……。去年パ最下位のチロルに……」


この声は……!


「う、内木さん……?」


「キャップ……。今年優勝せんと、来年は丸井がFA移籍で……。キャップは三連覇したことないんじゃ。なんとか勝って欲しいんよ……」


「えっと、内木さん。なぜ……」


「なぜって、そりゃキャップファンじゃもん。いかんの? ウチは広島市出身やし、当然じゃろ? 高校の頃はソフトやっとったし」


「え、知らなかったです……」


内木さんが広島出身だったとは。


普段は方言を矯正してたのか。

勤め先も警視庁だし、てっきり東京出身だと……。

しかも、部活も私と同じソフト部だった。


私たちは、今まで休日や訓練後に遊びに行くことはあっても、一緒にどこかへ泊まったことはなかった。

共に夜を明かすことで知られる、隊員の新しい一面もあるということだろう。


「みんな何の話してるのー?」


「野球の話だよ、メグ。メグは分かる?」


「うーん、ごめん。分かんないや! ルール難しいしー。あ、でも最近話題になってるよね。赤いところ!」


「!」


メグの言葉に内木さんが反応した。


「なんかユニフォームとか可愛いよねぇ。最近着てる人よく見るよ」


「そ、そうなんよ! 流行っとるんよ! まさに今をときめくホットな話題! だからメグちゃんも是非応援する時はそのチームを……」


布教活動だ……。


「あ、じゃあ今度連れてってよウチさん。ルールとか教えて! 私も目指すよ、カープ女――」


「違う、広島キャップじゃ!」


だが、内木さんの好きにさせるわけにはいかない。


「応援するなら東京ヨーグルツの方がいいよ。近いし」


「いえ、小人の方がいいですわ。なんと言っても最も歴史あるチームで……」


「小人賭博問題起こしてたじゃん。やめといた方がいいよ」


「ヨーグルツは去年96敗の記録的最下位ですわ。勝てないと見ててストレス溜まるでしょう?」


「強さで言うならキャップを応援するべきなんよ! 圧倒的強さで現状2連覇中じゃ!」


(まあ、私はそんな熱心なファンじゃないから、メグがどこを見ようと別に……)


「えーっと、私……」


(だけど、この3人に迫られた状況、メグがどう出るかは気になるな)


「そろそろお風呂入りたい!」


意図したものかは分からないが、メグは対立を回避できる賢い回答をしたのだった。


--------


広い広い大浴場に、私たち4人でほぼ貸し切りである。

なんと贅沢なのだろう。


「これで温泉だったら完璧なのになー」


「うふふ。すでに十分贅沢したじゃない。これ以上望むのは欲張りよ、ヒカリちゃん」


内木さんはお酒が少し抜けたのか、方言が消えた。


(良かったぁ。広島弁、なんか怖いんだもん……。任侠映画とかのイメージがあるし……)


「そもそも、船の上でどうやって温泉を汲みあげるんですの? 温泉にするのはいくらお金を積んでも不可能ですわよ」


「ポリタンクにでも詰めて再加熱すればいいだろ?

金にモノを言われせればできないことなんて何もない……。…………」


(あっ…………。

こうして見ると、赤井って…………)


「再加熱って、スーパーのお惣菜じゃないんですから……。…………ど、どうしましたの? そんなにジッとこちらを見て」


「あ、いや、お前がさっき大量に摂った栄養は一体どこへ行くんだろうかって……」


「どこってそれは体の細胞に……。……ってアナタ! どこ見て言ってますの⁉︎ それってもう普通にセクハラですわよ!」


赤井は私と同じ22歳。

これを考えると……。


「もう絶望的だねぇ……。ドンマイ」


「うっさいですわ! これだって遺伝ですもの!

私にどうしろっていうんですの!」


「身長が高い人は結構そのパターンらしいわね。

モエちゃんも高いもんね。気にしてるなら最近は韓国とかで安く整形できるらしいわよー」


「う、内木さんまで……。整形なんてしませんわよ。もしするとしても、先にクセ毛と三白眼を治しますわ……」


(天パーと三白眼、思ってたより気にしてたのか……。整形しなくても、ストパーとカラコンで解決すると思うんだけど)


「ごめーん! 遅くなっちゃって! うー、寒ーい! 入ろ入ろ!」


メグが遅れて入ってきた。


(っ⁉︎ な、なんだと……⁉︎)


「ん? どうしたのヒカリちゃんモエちゃん」


(年下なのに……。高校生なのに……! なんてことだ……)


「………………。この世界って、理不尽なことだらけですのね……」


「あぁ……。流石に私もアレには敗北だ。努力では決して超えられない、才能の壁というものがある……」


「え、何々? 何の話?」


赤井と私は一緒にため息をついて黙り込む。


そんな私たちを見て、内木さんが薄笑いを浮かべながら言う。


「青春ねー」


--------


「もう、誰かとお風呂に入るのはやめますわ……。特にメグとは」


赤井が悲しげな表情で呟く。


「ええっ⁉︎ なんで⁈ 私モエちゃんに何かした⁈

よく分からないけど、ごめん!」


「赤井にとっては存在そのものが罪なんだ。諦めてくれメグ」


「そんなぁ。ひどい……」


「……。明日も朝早いので、もう寝ましょう……?」


これ以上赤井を刺激するのは危険と判断した私たちは、その言葉に従い眠ることにしたのだった。



--------



目が覚めた。

現在の時刻は午前1時。


なぜこんな時間に起きたのか。

その答えは……。


「トイレ……」


至ってシンプルな理由だった。


アルコールが入るとトイレが近くなるのは生理現象。

幸せな睡眠時間を奪われるのは誠に遺憾だが、抗う術はない。



「ふぃー……」


ささっと済ませ、部屋に戻る。


室外の寒気のせいで眠気が吹き飛んでしまった。


そして、眠気が払われたおかげか、『異変』に気がついた。


「部屋に誰もいない……?」


一緒に寝ていたハズの隊員たちがいないのだ。


「アイツら、私に内緒でお土産でも探しに行ったのか?」


(薄情者どもめ。

私が寝ていたから起こさないようにという気遣いなんだろうが、置いていかれるのは普通に寂しいんだぞ)


とりあえず、目が冴えてしまったし、私もお土産コーナーにでも向かってみることにしよう。

こんな夜中に営業してるかは分からないが、まずは行動だ。



お土産コーナーに到着した。

店舗は11時30分で営業を終了していた。


(やっぱりやってないじゃん。アイツらどこ行ったんだよー。せっかくだし探そう。なんか1人だけ置いていかれるのも癪だしさ)


そんなことを考えながら、別の階へ向かおうと階段に私が足をかけた時だった。



突然大きな音を立てて船体が揺れた。


「うおっ」


思わずつまずく。

転ぶのを防ぐため、電気で足の裏に磁力を発生させ、『金属製の階段』に引っ付ける。


……はずだったが、奮闘むなしく私は転んでしまった。


「いったー……」


(この階段アルミ製かよ……。加工が楽で軽量だからって、最近は何でもかんでもアルミ使いやがって……。もっと鉄を有効活用してあげなよ)


それにしても、あの揺れは何だったんだ?

特殊部隊として訓練を受けている私すら、立っていられないほどだった。

波がどうというレベルではない。


カーテンを開けて外を確認する。



――船が、浅瀬に乗り上げていた。

予約が取れなかったためではあるが、この船旅は隊員たちがお互いを知るいいキッカケになった


しかしそんな中、船内では何やら不穏な動きが……


次回、ようやく話が大きく動きます!

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