第5話~動き出すカナリアの会⑧~
割と壮絶な感じの過去を背負ってた赤井萌
輝木光と赤井萌はこれまで不仲だったが、
輝木の余計な行動をきっかけに、
なんだかんだ打ち解けられそうな雰囲気になっていた……
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1時間後。
『入ったー! 前半38分、徳島のゴールで日本先制!』
私たちは約束通り、テレビでサッカーを見ていた。
「おぉ! 勝てる! 勝てるぞこれ!」
「相手は世界ランキング14位なのに対して、日本は50位……これは大金星ですわね!」
「日本って50位だけど……言うほど弱くないと思うんだよねぇ。
実際は20位くらいの強さはあるんじゃない?」
「あ、輝木もそう思いますの?
50位程度のチームがW杯で16強に入れるはずありませんものね」
「そうそう!
あー、W杯思い出したらまた悔しくなってきた!
なんで豊田のフリーキック入らなかったんだよチクショー!」
「アレは向こうのキーパーが上手でしたわね……。
あのシュートを前に弾かず、ゴールラインの後ろに出すのは超すごいですわ」
(あれ? なんか普通に楽しくなってきた)
1人家で観戦してたら、こんなに楽しくはなかっただろう。
(……やっぱり、赤井って、私にとって友達……なのかな……?)
『決まったーっ‼︎‼︎ 前半アディショナルタイム、巽のゴールで日本追加点!』
「いやぁ、3-1で圧勝!
これならアジア杯は優勝だな!」
「若い選手たちも存在感を発揮してましたわね!
3年後のW杯も期待大! ですわ!
……あの、ところで」
「どうした?」
「いえ……パジャマはお貸しできますけど……。
下着をどうしようと思いまして……。
さすがに貸すのはお互いに抵抗が……」
(……下着……そう言えば私、さっきタンスの中身を……。本当にすみませんでした)
「い、いや。気にしなくていいって。
それくらいコンビニか近くの服屋で買ってくるよ」
「でも、お金が……」
「何言ってるんだ。
私たちには、『コレ』があるじゃないかー!」
国井から貰っていたカードを見せる。
「えっ。でもそのカードは……」
「じゃあ行ってくる!」
(超能力者特権最高!)
お金の心配しなくて済むのは本当に気分がいい!
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向かいにコンビニがあったので、下着はすぐに買えた。
「うー……寒ーい……。ただいまー」
「あら、お帰りなさいませ。
お風呂の準備なら出来てますわよ」
「そっか。じゃあお先に!
パジャマそこ置いといて!」
お帰りからのお風呂って……。
赤井、お前は私の奥さんか。
(……え。じゃあ私は男?)
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「……今日はなんだかすごく長い一日でしたわね」
寝る時間になった。
赤井と私は2人、ベッドで横になっていた。
「あぁ……。なんか……悪かったな。
色々やらせちゃって。
私だって、夕方はお前に慰めてもらったし、命だって救われたのにさ」
「いえ……。ワガママ言ってしまいましたし……。
ありがとうございます。
今日の夜は……その、楽しかったですわ」
「……なんかいきなり妙に素直になってどうしたんだ? 怖いぞ……」
「先ほども言った通りですわ。
私、家族がいなくなってから、ずっと家で1人でしたの。
だから、きっと誰かに思い切り甘えてみたかったのでしょうね……」
「甘ったれるなー」
「ごめんなさい……。
明日からは元に戻るから、今日だけはこのままでいさせて……」
「…………」
「あ、あれ。輝木? 寝てしまいましたの?」
「い、いや……。もうそろそろ寝るけど」
(クソ……。私は今、コイツをちょっとだけ……ほんの少しだけだが、『カワイイ』と思ってしまった……。天パで三白眼なのに!)
「あら……分かりましたわ。もう寝ましょう」
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『主文。被告人、輝木光を無期懲役に処する』
「はぁ⁉︎ ちょっと待ってくださいよ!
正当防衛でしょ!」
『超能力という曖昧なものが被害者、風吹魅音による殺意と結びつくことはないとの判断です』
「だったら、落雷だって自然現象でしょ!
ふざけんな!」
『被告人、静粛に!』
「もう一度考え直してください!
この判決は明らかに不当で……」
『被告人の退廷を命じます』
「おい! 離せよ! おかしいだろ!
弁護士さん! 何とかしてくださいよ!」
「……」
「やめてくれ!
私は無罪! 無罪なんだ!
やめろ――――」
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「――っ!」
飛び起きた。
(なんという夢を見るんだ……!)
時計を見たら午前4時……。
まだ、立ち直れていなかったのか、私は……。
「……」
赤井……。
幸せそうに寝てやがる。
……人間は自分以外の者が取り乱すと、自身は冷静さを取り戻すってことがよくある.......。
私は、過去を話して半泣きの赤井を見て、立ち直った気になっていただけに過ぎなかった……?
ちくしょう。
自分は罪悪感なんてものとは無縁の人間だと思ってたのにな。
(私の頭はカナダドライだけど、スーパードライではなかったってか)
「……私も、少しだけ甘えさせてもらうよ。赤井」
(バレないかな? こんなグースカ寝てるんだから大丈夫だよね?)
私は赤井に触れたまま、再び眠りについた。
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「起きなさい! いつまで寝てるんですの!」
「やだ……。あと5時間……」
「そんなに待ってたら日が暮れてしまいますわ!
もう11時ですのよ! 早く起きなさい!」
「……うわっ‼︎」
赤井に叩き起されたうえ、布団を剥ぎ取られた!
このめちゃくちゃ寒い季節になんてことするんだ!
(昨日のことがあるから今日はオフだって、国井さん言ってただろ!)
「全くアナタは本当に怠惰で……。
普段遅刻ばかりする理由がよく分かりましたわ」
「……ふぁあ」
「欠伸してないでさっさと顔洗って寝癖直して着替えなさい!」
なんだよ……。
赤井のやつ。
昨日はあんなにしおらしかったのに。
(私の優雅な朝を破壊する侵略者め……)
まもなく私は赤井に連れられ、出かけることになった。
今はファストフード店で食事中だ。
「実は、今朝国井さんから連絡がありましたわ。
何やら大切な話があると……」
「ふぁいへつなははし?」
「食べながら喋らない!」
「……。大切な話?」
(お前は私のお母さんか!)
「えぇ。詳しい話は私もまだ伺ってないですけれど……。
とにかく集まってから話すと」
「何だろうな。
普通に考えたらカナリアの会関連のことなんだろうけど」
「私もそうだと思いますけど、こればっかりは分かりませんね。
そろそろ行きましょう」
そんなこんなで私たちはファストフード店を後にした。
(にしても、赤井……。お前私の2倍以上頼んだのに、私より早く食べ終わるってどういうことだよ……)
私たちが国井さんの話を聞くため向かったのは、いつもの訓練所だった。
「お、おはようございます……。
ふ、2人一緒なんて珍しいのね」
「おはようございます内木さん。
昨日コイツがどうしてもって言うんで、仕方なく泊まっていきました」
「なっ! 輝木!
それは秘密にしなさいよ!
それならこちらも昨日大泣きしたことをバラしますわよ!」
「はぁ⁉︎ セコイぞお前!
人の弱みに付け込むなんて……」
「アナタにだけはぜっーたい言われたくないですわそんなセリフ!」
「あ、あははは……。仲良くなったようで何よりね……」
(仲良く……はない! 多分!)
「ヒカリちゃん! モエちゃん! おはよう!」
(あ、メグが元に戻ってる!)
昨日内木さんから連絡を受けてはいたけど、実際に会ってようやく安心できた。
「そうだそうだ。
2人とも聞いてよー! 私の大好きだったアイドルが昨日事故で死んじゃったんだよー!」
(うげ)
「そ、それってもしかして……五島魅音……?」
「そうそう! 朝からそのニュースばっかだからヒカリちゃんも知ってたんだね」
知ってるも何も……あの事故を起こした本人だし私……。
でも、真実を話したらメグはショック受けるだろうなぁ。
好きなアイドルがテロリストだったなんて。
「あとさ! 最悪なのが昨日『五島魅音結婚!』なんてふざけた嘘スレを立ててた人がいたことだよ!
人が死んでるってのにさ、そんなことできるって、神経がわからないよねぇ」
(……ん?)
「しかも、その人はおバカでさぁ。
コテハンなんて使ってたから特定されて、今ツイッター大炎上だって! 自業自得だよね」
(え……)
慌ててツイッターを開く。
確か、私の最後のツイートは一月以上前の……。
『ドルオタとかまぢキモいわー。。。
どうせ天下のアイドル様はお前らに見向きしねえのに(笑)』
……最悪だ。
こんなの炎上してくれって頼んでるに等しい。
(通知536件! リプだけじゃなくてダイレクトメッセージまで大量に飛んできてる!)
『歪んだ差別意識がある。この人は頭がおかしい』
『死者を冒涜するなんてひかりんはモラルのカケラもない人間の屑』
『お前が事故に遭えばよかったのにな』
『今すぐ謝罪してください』
『これはやってしまいましたなー』
『ひかりん死ね』
『くたばれカス』
「だからコテハンなんてやめろと言いましたのに……」
「あ、赤井ぃぃ!
この大炎上なんとかしてくれよ‼︎
お前炎の超能力者だろ⁉︎」
「そ、そっちの炎上は、どうしようもないですわ……」
(ああぁぁ‼︎ どうしてこうなるんだー‼︎‼︎)
これにて第5話完結です
長くなって申し訳ありませんでした
次回はついに第6話、新たな敵の情報が!
しかしながら、まだしばらくバトルのない回が続きます、すみません