第5話~動き出すカナリアの会⑦~
輝木光のしょうもない行動により、なんだかんだで自分の過去を話すことになった赤井萌
彼女の過去とは一体……?
彼女がなぜ、この部隊に入ったのかが明かされます
「私と兄は歳の離れた兄妹でしたわ。
歳の差は確か8つ程だったと思います」
なんで自身の兄との歳の差が曖昧なんだろうか。
(今の兄の年齢から自分の年齢を引けばいいだけだろ。コイツ、文系だから算数苦手なのか? 私も文系だけど)
「兄は成績優秀、スポーツ万能、そして誰に対しても優しく人望に溢れ……非の打ち所がない人物でした。私にとって自慢の兄でしたわ」
(ほー。なかなか言うね。親バカならぬ妹バカ?)
「そんな兄には、1つの大きな夢がありましたの。
それは、外交官として父の後を継ぎ、世界中の人々がより豊かで楽しく暮らせる社会を作ることですわ。
私が小学生の頃から、父の影響なのか、そんなことを日頃から言っておりました」
へぇー。随分と大層な理想をお持ちだ。
(てかコイツの父親は外交官だったのかよ。
ケッ、金持ちめ。
だからあんな『ですわー』とか言って気取ってたと)
「そして兄は、遊びまわりもせず勉学に励み、難関国立大に合格、国家公務員試験を無事にパス。
夢への第一歩を踏み出しましたの。
……今でも兄の部屋から夜分遅くに光が漏れていた、あの光景を思い出しますわ。
当時中学生だった私は、よく兄の部屋に行っては色々な国のお話を聞いておりましたの。
……兄が試験に受かった時は、家族でヨーロッパへ旅行に行きましたわ。
フランスやイタリア、スペイン。
父や兄から聞いていたお話が目の前に広がっていて、とても感動したことを覚えてます」
(あれ? なんか自慢話みたいになってきたぞ?
どう言うことだ?)
「今思えば、あの頃が私の……私たち家族の絶頂期だったのでしょうね」
「なんと言うか……すごいなお前の一家」
「……。それから2年後に、悲劇は起こりました。
本庁での職務を終え、語学力を買われアメリカで勤務していた兄は」
「とある宗教団体の過激派によるテロ事件に巻き込まれ、突然死んでしまいました」
(なんだって……!)
だから年齢差が曖昧だったのか……。
やたらと過去形が多かったことにも合点が行く。
「……それから、私たち家族の歯車は一気に狂い始めてしまったのですわ。
兄様を亡くしたお父様は自暴自棄になり、外交官の職も辞してお酒やギャンブルに走り、お母様は壊れていく家族から目を背けるために他の男へと……」
「そしてある日、私が高校から帰宅すると――
--------(side:赤井萌<6年前>) ---------
「……只今戻りました。お父様」
「…………萌。父さんさ……疲れたよ……。
……父さんも母さんも、もう限界だったみたいなんだ。
お前の兄……焔を亡くしてから、生きていく気力が……ただの一欠片も湧いてこないんだ……。
……まだ、俺たち……いや、俺には萌がいる、しっかりしなくてはと頭では分かっていたのに、心と身体が言うことを聞いてくれないんだ……」
「お……お父様……?」
「萌。父さんの……最期のお願いを聞いてくれないか」
「え、えぇ……。私にできることでしたら……。…………最後とは?」
「………………いい子だ、萌。
一緒に、焔のところへ行こう」
「⁉︎ いやっ! 離してください!
やめて! お父様!
兄様だって、こんなこと望んでないわ!」
「萌! 俺たち家族は終わったんだよ! 何もかも!」
「お願い! 正気に戻って、お父様!
お母様、助けて!」
「待て! そのダイニングへの扉は開けるな!
萌! 見ちゃダメだっ!」
「…………っ‼︎ お、お母様……⁉︎」
「…………。……母さんは、死んだ。
今朝、自ら首を吊って、命を絶った」
「そ、そんな! お母様……!」
「……もう、終わりなんだよ。
焔も母さんも、この世にはいない。
幸せな家庭は二度と帰ってこないんだ。
だから、来世でも巡り会えるよう、せめて最期は……家族一緒に……!」
「イヤっ! やめて!
考え直してお父様!
生きていれば、生きてさえいればきっと!」
「ごめんな、萌。
死んでもお前を愛してるよ。
……焔、母さん。俺も萌も今そっちに行くよ」
「お父様お願い!
どうか元のお父様に戻って!
やめて――――」
--------(side:輝木光<現在>) ---------
「――そこで意識を失い、気がついたら、私は庭で這いつくばっていましたわ。
そして、実家は全焼」
(お、おぉ……)
「……私が助かった理由、輝木ならもうお分かりでしょうね」
「……。超能力か」
「ええ。……恐らく私は自分で、自分の父親を殺めてしまったのですわ……」
うわ……。
想像以上に壮絶だった……。
なんだか面白半分でアルバムを覗いたのが本当に申し訳なくなってきた。
「……でも私は、飽くまで過去は過去として割り切ってるつもりですわ」
「赤井……」
「兄様が亡くなったことも、お父様が一家心中を計ったことも、全ては不運の巡り合わせ。
これが私に与えられた運命だった。
今ではそう思うようにしていますわ。
過ぎてしまったことを、今から取り戻すことはできないのだから……」
「赤井……」
「……。ですが……。頭でそうは思っていても……。
心のどこかではやっぱり何かに責任の所在を求めていて……」
(赤井……? 少し涙声に……?)
「……この運命に、何か意味があるとするならば……。
二度と私と同じ思いをする人が現れないように力を尽くしたい。
そう考えてこの部隊に入りましたが……」
「? 立派な話じゃないか」
(私なんか借金背負って仕方なく入隊だぞ……?)
「でも本当は違うのかもしれませんわ……。
私はただキレイな言葉を並べて、家族を滅茶苦茶にしたテロへの復讐を正当化しようとしてるだけで……。
きっと、本当の私は劣悪な人間なの……!」
「うーん……。
別に動機が復讐だろうが何だろうが構わないと思うけどね」
潔癖な赤井にとって、マイナスの感情を受け入れるのは、私が思う以上に負担なのかもしれない。
私みたいにスパッと割り切れる、頭がカナダドライな人間には分からない。
「こんなことをしても……家族は返ってこないのに……。
多分、私はただ何かに、憎しみをぶつけたいだけなのよ……」
「確かにそりゃそうだ。
それで死んだ人間が生き返ることは有り得ない。
でも私は、仮に動機が復讐だとしても、悪いことだと思わないよ」
「復讐は悪いことではない……?」
「だって、結果的には同じだろ?
復讐のためにテロを根絶する、他人に悲しい思いをさせないためにテロを根絶する。
どちらにせよ行き着く先は同じじゃん」
「……」
「もちろん、人の心は1つや2つの思考で出来てるほど単純なものじゃないよ。
だけど、人間が実際に取れる行動は1つでしょ?
だから、『良い悪い』なんてその行動がどんな結果を招くかってことで決まると思うんだけどね」
「それは……」
「赤井が入隊したおかげで、ゲームテロ事件は被害者が減った。
昨日はテロリスト2人を捕らえた。
今日も風吹魅音に操られた6万人を解放した。
あるのは、この事実だけ。
そこにどんな動機があろうと、赤井がやったことは『良いこと』だって言えるハズさ」
「そういうものなのかな……」
「そんな泣きそうな顔するなって。
……この世界は結果の積み重ねで動いてるんだ。
どんな高潔な悪事より、卑劣な善行の方が価値がある……と私は思う。
そんなの結果論? 別にいいじゃないか。
結果的に助かる人がいたんだから」
「この世界は結果の積み重ね……」
「そうさ。
…………ってこの前コンビニで立ち読みした本に書いてあった」
「…………はい?」
「いやぁーアレは感動したねー!
目から鱗って言うのはまさにこのことだね!
つまり、私が朝寝坊して超能力で電車を止めたら借金背負ったっていうのも、結果的に良かったってことだよねー!
だってそのおかげで何人も助かったわけだしさー」
「……今の話、アナタの考えでは……?」
「ん? 違うよ?
強いて言うなら私の考えは『その場その場で最も自分に都合のいい理屈を持ち出す』ってことかなー。
ダブルスタンダードならぬ、インフィニティスタンダード! これ最強だよねー」
「そ、そんな!?
ちょっと感動しちゃった私の心を返しなさいよー!
しかも立ち読みって!
そんなに感動した本ならちゃんと買いなさいよ!」
「私って割と読書好きなんだよねー。
インフィニティスタンダードには多くの引き出しが必要だからさー。
あ、そうだ! 復讐と言えば『死んだ者は復讐を望んでない』とかいう人いるじゃん?
アレも反論できるぞ私はー。
復讐って言うのは生きてる人のためのものなんだよねー。
ショック受けた後の生きるモチベーション的な感じ?」
「どうせそれも漫画とかの受け売りでしょ?」
「バレたか」
「私は真剣に話していたというのにアナタという人はどうしてそう……」
「どうしてって?
そりゃあ……。
……お、お前が泣きそうだったからだよ」
私だって無闇矢鱈に茶化してたわけじゃない。
じゃないが……。
(う……。自分で言っておいて小っ恥ずかしいなこれ。)
「……い、いやね?
罪の意識に潰されるってのは結構辛いもんでね……。
これでちょっとでも気が楽になるならまあ……。
わ、私が余計なことしなければ、赤井に辛いことを思い出させることもなかったという負い目もありますし……。
さっきテレビ局で私も慰められたし……」
「……。……ふふふ」
「な、何笑ってんだよ!
私だって五島魅音を殺した直後は結構堪えたんだぞ⁉︎
自分の性格が悪いのは自覚してるけど、直前の自分と同じような理由で目の前で泣かれたら、いくら私でも何とかして慰めようと考えるよ!」
「いえ……。
ありがとう。私、アナタに会えて良かったですわ」
「な、なんだ突然気持ち悪いな……」
「家族がいなくなってから、誰かの前で泣い……泣きそうになったのなんて初めてですわ。
……アナタって、言動は全く信用できないのに、なぜか信頼したくなる、そんな不思議な魅力がある方ですわね」
「信用できないのに……って……」
褒めてないだろそれ。
そんなこと言うならもう慰めてやらないぞ……。
今回は私がさっき慰められたからこその出血大サービスだったというのに……。
「…………あ、あの!
か、輝木、今日はもう遅いし、私の家に泊まっていきません?」
「は、はぁ⁉︎ なんでだよ。帰るぞ私は」
「そんな寂しいこと言わないでくださいまし。
……私、家族がいなくなって以降、夜はずっと1人なんですの。だから……」
「え、えぇ? 私だって大学から一人暮らしだから同じだぞ。甘ったれるなって」
「…………ごめんなさい」
赤井の顔に明らかな落胆の色が……。
そんな顔しないでくれよ。
私が大罪人みたいじゃないか……。
「……私、今日でアナタと『友達になれた』と思ってたのですけれど、アナタにとってはそうでなかった……ってことですのよね。
ごめんなさい。変な勘違いをして……」
(ぐぅ……。なんかすごい悪いことをしてる気分……)
正直、テレビ局で慰められたり、弱気になったコイツを見て、私の中に以前と違う気持ちがあるのは確かだ。
これは友達に対する感情なのだろうか。
分からない。
「……で……では……今日はお疲れ様でしたわ。
辛いことがありましたけど、また明日から頑張りましょうね。お互いに……」
そんなアカラサマな悲しい顔をするなよぉ……。
(えぇい、もう!)
「わ、分かったよ!
泊まってけばいいんだろう⁉︎」
「本当⁉︎」
(うわ。なんかすごい笑顔)
「その代わり夕食とかお風呂とかの準備は全部お前やれよ!
あと着替えないから服貸せよ!」
「そんなのお安い御用ですわ!」
「あ、あと……。テレビのチャンネルは私に譲れ!」
「アナタ、テレビ観ないんじゃなかったの?」
「普段は観ないけど、今日はサッカー日本代表の試合だから観させてもらう!」
「まあ! 私もサッカー好きですわ!
一緒に観ましょう!
こう見えて、高校まではサッカー部でしたのよ!」
なんで今日のコイツはこんなに素直なんだ……。
お前そんなキャラじゃなかっただろう。
なんだか怖い。
割と壮絶な感じの過去だった赤井萌……
だが、これをきっかけに輝木赤井の不仲コンビもなんだか打ち解けられそうな雰囲気に
これが怪我の功名なのか……
次回、長かった第5話がついに完結します!
ずっと日常会話みたいなのが続いていてすみません!