第5話~動き出すカナリアの会⑤~
デモを起こし、水野恵を洗脳していた敵の超能力者である風吹魅音を、なんとか倒した輝木光たちだった。
今回のお話は、それとは別に訓練所に残された内木遊、国井守、総理大臣、秘書。
この人たちにスポットが当たります。
時間は、輝木光の決着のわずか前へと遡ります……。
--------(side:内木遊) ---------
モエちゃんもヒカリちゃんもいなくなっちゃった……。
ううん、不安になっちゃダメよ。
2人は私を信じてここに残してくれたのに。
『デモ隊は北上を続けており、現在は新宿区へ移動いたしました。目的は依然として不明です』
「あ、あの……。
デモ隊、段々とここに近づいて来ていませんか……?」
小声で国井さんに言う。
「考えたくはないが、その可能性が高そうだな。
……ヤツらの狙いは伊武総理だからな」
「ええっ。だ、だったら総理をお連れしてここから早く逃げないと……」
「水を差すようで恐縮ですが、一つよろしいでしょうか?」
会話を聞いていたのか、伊武総理の秘書である志村さんが言った。
「デモ隊は全体にある程度の意識の共有があるようです。
もしや、この水野さんという方がデモ隊に総理の居場所を何らかの手段で知らせるのでは?
ですから、逃げる場合……この方を置き去りにしなくてはならないかもしれません」
「あんなクレイジーな連中が押し寄せてくるというのに、縛ったまま置いていけっていうのか?
水野は貴重な治癒能力者だ。絶対に失うわけにはいかない」
「ですが、国井さん。
デモ隊にとって水野さんはいわば仲間。
危害は加えないでしょう」
「一理あるな。だが、一理しかない。
確実と言えない限り、水野を危険に晒すわけにはいかん」
(空気が悪いわね……。
こんな時にあの2人がいてくれれば……。
いや、余計に対立しそうねあの2人じゃ)
「妥協案ではあるが、水野さんを連れて逃げ続けるっていうのはどうかね?
先ほど出かけた2人がこの事件を解決するまで」
総理がこの場をまとめようと案を出す。
「総理、それでは先回りされてしまう可能性があります」
「水野さんには悪いが、我々がどこにいるか分からぬよう目隠しをつけさせてもらう。
どうかね? これで」
「……まあ、それなら……。内木さん」
「は、はい!」
志村さんに名前を呼ばれビクッとする。
「もう一度、水野さんが抵抗できないように超能力で操作をお願いします」
「し、承知しました!」
言われた通り、メグちゃんを操作して動きを止め、目隠しを付ける。
(メグちゃん。ごめんね。
絶対2人が助けてくれるから、それまで辛抱してね)
「国井、運転を頼む」
「かしこまりました、総理」
出発して数分。
この辺りは信号が多いので、なかなか車が進まない。
後ろには私たちが訓練しているジムがまだ小さく見えるけど、今はすでにデモ隊が押し寄せている。
もう少し出かけるのが遅かったら危なかったわ……。それに……。
「あの……この人たち……追いかけてきてません? 我々のこと……」
「……。水野さん自体発信機になってしまっているというのか……。
目を塞げば解決するとかいうそういう問題ではなかったようだ……」
「まずいですね……。このままではいずれ、先回りして挟まれますよ……!」
「志村の言う通りだな……。
……こうなったら……二手に別れるしかないか……」
二手に別れる……。
それだと一つ問題が浮上してくるわね……。
私が能力をメグちゃんに使い続けてないと、縛ってるとはいえメグちゃんはまた暴れ出してしまう。
だから、私はメグちゃんからは離れられない。
でも、二手に別れる場合、発信機の役割であるメグちゃんと、護衛対象である総理は必ず別行動になる。
それはつまり『メグちゃんの拘束と総理の護衛が両立できない』ということになるわ。
もし、それで総理に何かあったらその責任を私に取れるのかしら……。
(そんなの無理よ。国のトップの命なんて、私1人で贖えるものじゃないわ……!)
「……内木! おい、聞いているのか内木!」
国井さんに声をかけられる。
「は、はい!」
いつの間にか考え込んでいて、周りの話を聞いていなかったようね。
私の悪い癖ね……。
「私と内木は水野を連れて車を降りるぞ」
「えっ! し、しかしそれでは総理の護衛が……」
「ご心配なく。伊武総理の身は私、志村が命に代えてでもお守りいたします」
志村さんが自信満々に言う。
な、何なのかしら、この有無を言わさぬ威圧感のようなものは……。
思わず口を噤んでしまう。
「では、総理。お気をつけて」
国井さんが降りた。
私も急いで降りて、その後メグちゃんも操作して降ろさせる。
「うむ。君たちもどうか無事でいてくれ」
「ありがたきお言葉です総理。
では、私はこれにて。行くぞ、内木」
「は、はい」
(行くぞってどこに?)
「あ、あの……どこに行くんですか……」
「適当にそこら辺の車に乗って、総理から離れるんだ。
君の超能力なら内側から鍵を開けさせられるだろう」
(ええっ⁉︎ そ、そんなこと……。それって犯罪じゃ……。)
「あのぅ……。私一応現職の警察官でして……。で、できればそういうことは……」
「なら走って逃げるか?
無理だろうそれは。大丈夫だ。
ナンバーを控えておいて、後に被害者には損失の数倍の額を補填する。気にすることはない」
そんなこと言われても……。
「ほら、国会議員のお墨付きだ。
気にせずバンと開けてしまってくれ」
だから、そんなこと言われても……!
(うぅ……ごめんなさい!)
「う……は、はい。分かりました……!」
意を決して道端に止まっていた車に近づく。
(そ、そんなところで路駐してるのが悪いんです!
ここは駐禁じゃないし、中に人が乗ってる場合は駐車ではないけど……。
うー……これも日本のためなんですごめんなさい!)
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい!」
「まずい! すぐ後ろにデモ隊が迫ってきた!
急ぐんだ内木!」
運転手を操作してドアを開けさせる。
そして、運転手は道の端に移動。
(ごめんなさい運転手さん……どうかご無事で……)
「よし、私が運転する。君は水野と後ろの席へ」
操作の対象を運転手からメグちゃんに戻して乗り込ませる。
続いて私も乗り込む。
「なるべく信号の少ない郊外へ行くぞ。
そうすれば数時間逃げ回るのも容易い。
デモ隊は徒歩だしな」
「うー……」
(心に重い罪悪感が……。これで私は警察官失格ね…….)
あれから数十分経った。
ここは一体どこなのかしら……。
車も人も全然見当たらないわ。
新宿にもこんな閑散とした場所があったのね……。
「……大変残念なお知らせがある。
聞いてくれるか?」
「えっ……国井さん、一体なんですか……?」
もしかして伊武総理と志村さんに何か……?
それともヒカリちゃんとモエちゃんに……?
「この後、大雪が降るそうだ。
積もったらこの車は走れなくなる」
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「雪……積もってきましたね……」
「あぁ……。もうここらが限界だろうな……」
国井さんが路肩に車を停める。
周りには謎の倉庫がいくつかあるくらい。
残りは全て雪景色だ。
「他の車も通る気配がない……これはまずいな……」
(こんな雪の日に外に出たい人なんていないものね……)
「とりあえずあの倉庫に入って、少しでも見つかる可能性を減らすしかない」
そう言って私たちは謎の倉庫に入っていった。
「あっ……」
中には先客がいたようだ。
カーキのコートを着た、30代くらいの優男だった。
彼は倉庫の隅に腰掛けていた。
目的は雨宿りならぬ雪宿りといったところだろうか。
「全く……こんな大雪だなんてついてませんねぇ……」
(は、話しかけてきたわ! ど、どうしよう……)
「え、あ、そ、そうですね……」
「ですよねぇ……。……こんなに不幸な日は……例えばそうだなぁ……」
「総理大臣に会えるくらいのラッキーが、欲しくなりますよねぇ?」
「!」
(この人! まさか!)
「あなたたちと一緒に総理大臣がいたりしたら…….ラッキーじゃないですかぁ?」
「逃げるぞ! 内木!」
「は、はいぃぃ!」
こいつ、カナリアの会の会員!
私たちは無我夢中で倉庫を飛び出して、適当な他の倉庫へ移動する!
「そんな逃げないでくださいよぉ……。
ちょっとした冗談ですって……」
男は薄笑いを浮かべていう。
(冗談なものか! もしそうだとしたら相当タチが悪いわよ!)
「どこに行っちゃったんですかぁ?
こんな大雪の中で1人は寂しいじゃないですかぁ……」
男の声が外から聞こえる。
私たちは一旦今いる倉庫の扉に閂をかけて、立てこもることにした。
(とにかくこれで時間を稼ぐしかないわ。この間に何とかアイツを追っ払う方法を考えるのよ……)
「どこですかぁ? 教えてくださいよぉ」
(教えるわけないじゃない! もし無実だとしても、あんな言動をとった自分を責めなさいよ!)
その時だった。
『深淵の闇を引き裂く〜♪ 胸に秘めた高潔の刃〜♪』
わ、私の電話の着信⁉︎
ヒカリちゃん、なんでこんな時に電話なんて!
「内木⁉︎ なんでマナーモードにしておかなかったんだ!」
「い、いやぁ、あの」
私が聞きたいです!
普段は家の外じゃマナーモードにしてるのに!
だってアニソンなんて恥ずかしいじゃない!
「なんだぁ……、その倉庫にいたんですねぇ……。
電話の音で見つけられるなんてついてるなぁ……」
や、ヤツが来る!
(お願い倉庫の閂さん! 私たちを守って!)
「おやおや……鍵がかかってますねぇ……。
私だけ締め出すなんて、悲しいじゃないですかぁ……」
あいつを追い払う方法……。
扉を開けられず立ち往生している間に、こちらから近づいて射程距離に入れ、扉越しに超能力で操作する?
(一見これがベストな気もするけど、1つ大問題があるのよ)
……実は私の超能力、相手を目視できないと発動できないの……。
(となると鍵穴から覗き込んで……、って無理よそれは。アレは閂なんだから鍵穴がないわ)
そもそも私が同時に操れるのは1人まで。
今あいつ操作を移したら、長時間解放されたメグちゃんが私たちに襲いかかってくる可能性まであるわ。
なので、私たちは諦めて倉庫の中にあったコンテナの影に隠れる。
『ガチャン』
悩んでいたら、扉の開く音が聞こえた。
「あれれぇ? 少し強く引っ張ったら開いたぞぉ? 鍵は気のせいだったのかなぁ?」
(そんな! 確かに閂をかけたのに!)
「……!」
よく見ると、木の部分が、腐ってる!
なんでよりによってこんな時に!
「あれぇ? かくれんぼですかぁ?
いいですよぉ……」
ヤツがこちら側に来るわ。
(そのまま気づかないうちに半径10メートル以内に入りなさい! そしたらすぐに縛り付けてやるんだから!)
「この倉庫の中で隠れられる場所なんて限られてますよねぇ……。例えば、そのコンテナの裏……。 っ‼︎」
もらった!
ヤツが私の能力の範囲に入った!
(射程距離内よ。行動も言葉も、私の思いのまま)
「『1番ショート田橋、2番セカンド菊下、3番センター丸井、4番ライト鈴本、5番ファースト笠松……』」
(確認オーケー。確実に決まった)
今『ヤツに喋らせた』のは、去年セ・リーグを二連覇したプロ野球チーム、広島キャップのスタメン。
この局面で突然野球の話をするなんてことは、正気の人間ではありえない。
だから、アイツが今『私に操られてるフリ』をしているワケではないと言うこと。
「こ、このままあなたを拘束させてもらいます!
自分で自分を縛る方法……私知っていますから!」
閂が稼いでくれた数十秒を使い、同じ方法でメグちゃんはその辺にあった紐で既に拘束済み。
これで彼女が私たちに襲いかかってくる心配はないわ。
だけど……事件は起きるのよ。
『ガタガタ……』
「内木! 上だ! 天井の梁が落ちてくるぞ!」
突然国井さんが叫ぶ。
(う、上⁉︎)
本当だわ!
ここは鍵の周辺が腐っているくらい老朽化した倉庫。屋根には雪が積もってたし、こう言うことも十分あり得るわ!
私に向かう木材の雨を避けるため、咄嗟に背後へ滑り込む!
( ……あ。まずいわ!)
「おぉっと……。これはついてる。
体が動くようになりましたよぉ……。
全く一時はどうなることかと思いましたが……」
アイツが射程距離外に出てしまったわ!
「なるほど……。
10メートルほどの以内の人間を操る。
それがお前の超能力なんですねぇ……。
じゃあもう近づきませんよ……」
バレてしまった……!
私の超能力はほとんど初見殺し。
バレた相手に使うのは難しいわ……!
「おやおや、そんな見つめないでくださいよぉ……。
照れちゃうなぁ。それに、後ろがお留守になっちゃいますよぉ?」
(後ろ?)
「ひゃっ!」
私はいきなり全身を縛られ、自由が奪われた!
(な、何これっ⁉︎ 草ぁ⁉︎)
私の体に、謎の草が凄い勢いで絡みついている!
(この草……麻ね。
もっと言うなら大麻よね。
仕事の関係上、何回も見たことがあるわ……。 でも何で突然……!)
「……悪しき国家に与する公僕め。
今こそ裁きの時だ!」
この声は……メグちゃん!
(こ、この草……! メグちゃんから伸びている!)
あ、もしかして……!
私がメグちゃんを縛るのに使った麻紐の原料は.......亜麻や大麻!
その植物細胞にメグちゃんが『生命力を与え』て、この草たちを生み出したということなの⁉︎
(くっ!)
メグちゃんを縛っている紐が植物由来のものでさえなければ、この事態は起こらなかった!
なんという不運な!
「私はねぇ、カナリアの会でも天上界に属していながら、超能力を持ってない......唯一の会員なんですよぉ……。
でも、そんな私にも、1つ武器がありましてねぇ。
なんというかその……すごく、『ついてる』んですよぉ……。
神に愛された人間なんです私は。
だから何をやっても成功してしまうんですよね」
(それが、ここまで私たちへ降りかかった不幸の正体……! アイツは、運が味方する能力なんだ……!)
理不尽なまでの幸運と不運というあまりにも無法な超能力。
草で縛られ、銃を向けられ、内木遊は絶体絶命!
果たしてこのままやられてしまうのか。
次回決着!




