第5話~動き出すカナリアの会③~
仲間を洗脳した犯人を見つけ出した輝木光と赤井萌。
事件を解決するため、犯人……五島魅音を追いかけるも、その先には恐ろしい罠と、超能力が待ち受けていた……!
「えっ……と、君たちは誰かしら?
あ、もしかしてファンの子かな?
熱意があるのは嬉しいけど、ダメよこんなところへ入ってきちゃ。
さあ、『局の外へ出ましょう?』」
長く綺麗な黒髪。
見れば誰もが振り向く、日本人離れした目鼻立ちの美しい容姿。
多くの貴金属アクセサリーを身にまとったきらびやかな衣装。
そんな五島魅音は作り笑いを浮かべて言った。
「なんで塩を手に取っているか聞いてるんだ五島魅音さん。
それとも答えられないような理由なのか?」
「塩? あぁ、何というか手持ち無沙汰でつい……。
そんなことより、ここは関係者以外立ち入り禁止なのよ。だから、
『早くお外へ出ましょう?』
『お家に帰りましょう?』
『そして全部忘れましょう?』」
「まあ、アンタの話なんて聞いてないんだけどね。
ついでに歌も聞いたことない」
「えっ? 何なの?
それなら尚更用はないでしょ?
『早く帰りましょう?』」
「……さっきから、何かしようとしてるみたいだけど、それ効かないからな。
こっちが何のためにサングラスとイヤホンをしてると思ってる?
お前のその陳腐な超能力に操られないためだ」
そう。
私と赤井は今、五島魅音の話を全く聞いてない。
一方的に話してるだけだ。
「そういうワケで大人しく捕まってくれませんの?
アナタの超能力は最早封じられたわけですし」
「超能力……? 何の話かしら?
もしかして、これが厨二病ってやつなのかしら?
イヤねぇ全く、いい歳して。
こんなヤツら『ここから早くつまみ出して』ちょうだい」
また五島魅音が何か話した。
私たちには聞こえないが、何かとても不名誉なワードを言われた気がする。
それはまあいい。
それよりも問題は……。
「出て行け……。大義に背く者よ……!」
「邪悪なる国家へ与する者よ。立ち去れ!」
ラウンジにいた人たちがフラフラと『操られたように』、一斉にこちらへ近づいて来る!
「まあ、確かに君たちには聞こえてないんでしょうけど。
他の人には聞こえてるのよねー。
じゃ、そういうワケだから。さよなら」
「あ、おい待て!」
(くそっ。取り逃がした)
私たちがラウンジの人たちに気を取られてるうちに、五島魅音は部屋の奥へと消えて言った。
「流石にこの人たちに攻撃するわけにはいかない。
この人たちは完全な被害者だから……」
「これを咥えててくださいまし」
赤井が何かを差し出してきた。
(何だよこれ。ビニール袋か?
こんなものでどうするって言うんだ。
……なんか口元に当てるジェスチャーをしている。
どう言うことだ? 咥えろってことか?)
「こんな時に意味分からない……。……!」
気づけば、迫り来る人たちがバタバタと倒れていく!
これは……。
「少々手荒いですが、仕方ありませんわ……。
この人たちのためにも、早く彼女を追いましょう」
1ヶ月前に私が負けた、酸欠攻撃だ……!
……倒れるくらいの酸欠になったら、後遺症が残りそうな気がするが……。
(まあいいや。私は知らない)
とにかくどこかに歩いていった五島魅音を追いかけ、テレビ局の奥へ進む。
「……いた! 見つけた!」
大手企業らしい広い通路だった。
五島魅音が見える位置まで追いついた!
ヤツが階段で昇っていく姿が確かに見えたのだ。
しかし……。
「出て行け……。出て行け……!」
「邪魔をするな……! 消えろ……」
廊下にも五島魅音に操られた連中が……。
(邪魔なのはそっちだろ……!)
「ここは広すぎて、さっきの手段は使えませんわ…….!」
「赤井! 広いなら広いなりの手段だ!
囲まれる前に何とか駆け抜けるぞ!」
そうだ。
広いここだからこそ、訓練の成果を見せることができる!
50メートル走6.7秒の俊足を発揮するのは今だ。
私は階段へと駆け出した。
「ち、ちょっと待ってくださいまし!」
赤井もきちんとついてきている。
(このまま階段まで一直線だ! あと少し……!)
「ぐぇっ……!?」
階段にたどり着く前に後ろから引っ張られた!
(……ジャケットの襟を変なおっさんに掴まれてる……! くそっ! 階段までたった数メートルだって言うのに!)
「くっ、離せ……! この……!」
「輝木!」
赤井が炎を手にして、私を助けにやってくる。
(ダメだ! それはいけない!
流石にそんなことしたら、この人は大怪我する!)
「もしこの人に大怪我を負わせたら、きっとお前は立ち直れなくなる! やめろ!」
(ジャケットを引っ張られて、締めつけられた体が苦しい……! チクショウ……!
離せよ! この変態親父が!)
這いずりながら、何とか階段の手すりに手をかけるが、拘束を逃れられない。
(もうこの服を脱ぐしか……)
そう悩んでいるうちにさらに数人が私へ掴みかかってきた。
これじゃあもう脱ぐことすらできない!
(こうなったら、やるしかない。
思い切り放電して、この人たちを卒倒させる以外に脱出の方法はない)
……私は罪のない人を傷つけても、『ああそう』で済ませられる人間だ。
でも赤井は違う。
クソ真面目なアイツはきっと、自分を責めて塞ぎ込んでしまう。
(お前に罪のない人を傷つけさせねぇよ!)
「うおぉらっっ!!」
力の限り、私は電気をまき散らした。
しかし、次の瞬間。
「…………あれ?」
なぜか、私は『登ろうとしていた階段を登りきり』、階段の上にいた。
もちろん、変なおっさんたちからも脱出できている。
(これは一体……?)
「どうして……なんで……?」
横を見たら、赤井が何やら口をパクパクさせて伝えようとしている。
……仕方ない。
五島魅音も近くにいないし、一度イヤホンを外す。
「アナタ、体が電気に変化して、手すりを伝って階段の上に移動してましたわよ……。
いつの間にそんなことができるようになりましたの……?」
「ええっ? 何それ?」
赤井の言葉に驚く。
「まあ、私が体を火にできるように、アナタができても不思議ではありませんわね」
「マジで……?」
体が電気に……?
(もしそれが本当なら、もう私は無敵だ……! でも、なんで突然そんな能力に?)
「アナタ自身にも分からないんですのね……。
私が思うに……アナタは前からできたんだと思いますわ。
ただやろうとしなかっただけで。
どんな高性能な機械だってスイッチの場所を知らなければ使えませんわ。
それと一緒です」
「そういうもんかね……。うーん……」
全力で放電すると、自身が電気になる。
……私にこんな隠された能力があったなんて.......。
(我ながら凄いな……。まだ他にもあったりして? 今度色々試してみるか)
「さあ、どこに五島魅音がいるか分かりませんわ。
もう一度イヤホンをつけましょう」
……ところで、私には先程からずっと違和感がある。
五島魅音が『階段を昇っていった』ことだ。
さっきの状況……単純に見れば、五島が周りの人間を囮にして逃げようとしたと考えるのが自然だ。
でも、『逃げる』のが目的なら階段を昇るか?
建物ってのは、絶対に二階から上に出口を作ることはできないのに。
それに加えて、廊下を抜けてからの静けさ。
人間を操るらしい超能力者の五島魅音が逃げるなら、人が多くいる場所へ向かうのが良いに決まってる。
なのに、実際は追いかけるにつれ、多くなるどころか段々と減っていくように見える。
これはおかしい。
(……もしや。五島魅音は逃げているのではなく、私たちを誘い込んでいるのか?)
……昨日の2人組は、襲って来る前から私のことを知っていた。
津場井を退けたことで、私がカナリアの会に認知されてしまったようだ。
もっと言うなら、赤井のことも昨日の一件で知られてしまった可能性が高い。
それを踏まえて考えると、この事件のそもそもの目的は、デモではなく、私たちを罠にはめることなのか……?
流石に自惚れが過ぎるか?
まあ、奴らの目的が何にせよ……ここまできて引っ込むわけにはいかない。
総理大臣の安全がかかってるわけだし、メグだって放っておけない。
(それにタクシー代ももったいない。払ってないけど)
……15階……ビルの最上階への階段を上った先に、部屋が見えた。
もしもこれが罠ならば、ここで五島は私たちを待っている……かもしれない。
「こんにちは。
私は五島魅音改め、カナリアの会、天上界会員番号22番、風吹魅音よ。
五島魅音は芸名だからね。
ここまであなたたちに来てもらったのは他でもない。
2人まとめてあの世に行ってもらうためよ」
(なんか言ってる)
「ねぇ? あなたって、電気の超能力者、輝木光でしょう?
私たちの差し向けた刺客を2回も返り討ちにしたって言う。
最近、会ではあなたのウワサでもちきりよ。
良かったじゃない。
そんな地味顔のくせに有名になれて」
「みんなに掛けた妙な暗示を解除しろ。
もし、拒むなら容赦しない」
「イヤよ。
……っていうか人と話す時は相手の話をちゃんと聞きましょうよ。
失礼よそのイヤホン」
「どうせお前の返答はNOだろうな。分かってる」
(ちょっとばかり、痛い目にあってもらう。
……風吹魅音さん)
「……ここはかつて使ってた撮影スタジオなのよ。
今は古くなって使われてないけどね。
防音性に優れてるから、あなたが助けを呼んでも誰も来てくれないわ。
現場を目撃されることもない。
つまり、あなたたちをぶち殺すのにうってつけの場所ってわけよ。
……こんな風にね!」
風吹魅音は右手をこちらに向けた。
(何かしてくる……!)
テレビを介して発動する五島の超能力の正体。
それは音か光の2択!
最初の挙動でそれを見極めなくてはならない!
ヤツが今から取る行動……。
……差し出した右手。
中指と親指をくっつけている……。
これっていわゆる……。
(指パッチン?)
『パチン!』
「っ!? なんだ!?」
次の瞬間、私の体が『宙へ舞った』。
「な、なんですの今のは……」
私だけではない。
赤井もだった。
何もないところから突然上空へ押し上げられたような感覚。
この攻撃の正体は……?
「私は音の超能力者よ。
言葉で人を操るだけじゃない。
音程、音量を自在に操作して、ぶつけることもできるのよ。
まあ、あなたには聞こえてないんでしょうけどね」
(かかったな。バーカ)
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数分前。
「イヤホンと繋いでる音楽プレーヤーをオフにする!?
何言ってるんですの!」
「今はいいけど、そもそも意思疎通できないのは危険すぎるよ。
これから五島魅音と接触した時、どうなるか分かりゃしない」
「それでも……もし、彼女の超能力が音だったら操られて終わりですのよ!」
「……超能力って結構疲れるでしょ?
もし音だとしても、効かないって分かってるのにわざわざ使ってくるとは思えない。
それに、もしかしたら自分から能力の正体を喋ってくれるかもしれない」
「ダメ元で使ってくる可能性があるじゃないですの……」
「ヤバくなったら私が超能力で2人ともスイッチを入れるよ。
とにかく聞こえてないふりを頑張るのさ。
お互いにね」
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現在。
五島魅音……。
いや、風吹魅音の超能力が音であることが確定した。
赤井と目を合わせ、お互いにサングラスを外す。
これはもう不要だ。
「どうやら」
「どうやら」
「お前も」
「アナタも」
「分かったようだな」
「分かったようですわね」
これでもう、ヤツは恐るるに足りないだろう。
突然吹っ飛ばされた時には驚いたが、今の攻撃で受けたダメージなど微々たるものだ。
勝負は決した。
私たちの勝ち。
さて、私のプリティな顔を地味だとかのたまった報いを受けてもら――
「ゲホッ。ゴホッ」
(咳……?)
なんだ⁉︎
「ぐっ……!?」
体に強烈な痛みが……!
「これ……は……っ!?」
口元に当てた手を確認する……。
(……っ!?)
ち、血だ!!
私は血反吐を……⁉︎
「音っていうのはね、どんなものにでも共鳴して振動を与えられるのよ。
たとえそれが人体であろうとね。
あなたの体に入り込んだ音は、内部から組織を確実に破壊するのよ」
困惑する私へ、風吹魅音がしたり顔で言う。
体を内部から破壊だって……?
(なんだよそれ!)
今あいつの攻撃を受けたのは完全な悪手だったってことか!
(クソ、い、痛い……! 昔かかった胃炎をもっと酷くしたみたいな、鋭く激しい体内部の痛みだ!)
そういえば、赤井も吹き飛ばされていた……。
大丈夫か、アイツ……!
「……っ‼︎」
赤井の方を見ると、口元の血を見て愕然としているアイツがいた。
(ダメだ!
赤井も私と同様にダメージを受けている……!)
「分かった?
私の攻撃は、絶対に避けなくてはいけないということが。
でも……目に見えない音を、あなたたちにかわせるかしら?」
確かに、目に見えないものを回避するのは至難の業だ。
人間は得られる情報の実に9割を視覚に頼っているという話も聞いたことがある。
「三回よ」
(え?)
「三回、私の音に直撃したら大抵の人間は死ぬわ。あと二回ね」
(な、なんだと……!)
風吹魅音……。
コイツの能力はヤバい……!
(か、勝てるのか……私に……!)
追い詰めたつもりが、逆に追い詰められていた輝木たち。
あまりにも強力な音の超能力を相手に、彼女たちは勝機を見出すことはできるのか?
次回、本格的な戦闘が始まります。
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大幅に書き直していたり、コロナに罹ったり、転職していたりで、更新が滞っており失礼いたしました。
今日より毎日投稿を再開いたしますので、引き続きよろしくお願いいたします。
基本的に12時過ぎ頃に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。