第5話~動き出すカナリアの会①~
超能力の穴をつく作戦で、カナリアの会が差し向けた刺客を返り討ちにした輝木光たち。
しかし、カナリアの会もゲームテロに引き続き、次の大規模作戦を発動させる。
そして、その作戦の魔の手は『ある人物』にも降りかかり……。
「エーキュウ能力者ってなんですか?」
あの2人組に襲撃された、翌日の朝。
私たちはいつも通り訓練所へと集まっていた。
あの時は忙しくて聞きそびれてしまった疑問を、
訓練所に来ていた国井にぶつけた。
「君たち以外にも、政府側の超能力者は数多くいるんだ。
そこで、能力の強力さに応じてA〜Cにまでランク分けすることにした。
君たちはそのA級に該当するというワケだ」
国井は隠すこともなく答えた。
(まあ、日本には100くらいの超能力者がいるって聞いてたし、そこまで驚く話ではないのか。それよりも私が気になるのは……)
「もちろん、それはAの方がCより優れてるってことですよね!?」
私が食い気味に投げたその質問に対し、周囲は呆れた表情をする。
「ん、まあ……そういう言い方はしたくないが……そうなるな」
国井もバツが悪そうに回答する。
「なんて浅ましい方……とにかく、そんなことより」
赤井が話を遮る。
「あの2人組は結局どうなりましたの? 今は拘置所にいるんですのよね?」
そして私とは対象的な真面目な質問をする。
「虎井と不破か。
今はカナリアの会の情報を聞き出しているところだ。
阿井や津場井の時と違い、意識がはっきりしているから今回こそは収穫を得られるだろう」
あの読心女がいればどんな情報でも抜き出せる。
その有用性は認めざるを得ない。
「結果が出たらもちろん君たちにも……」
国井が話を続けようとしたその時だった。
2人の男が、訓練所正面のドアを開き現れた。
「やあ、調子はどうかな? 国井」
現れたのは、中年の男性と、30歳ほどの若い男性の2人組だ。
どちらも黒いスーツを身につけ、髪型も含めフォーマルな出で立ちだ。
(この人見たことあるぞ……。
見たと言ってもテレビでだが……。
NHD(日本放送団体)でだいたい見られる人だ。
それでもって、もう1人の人は秘書とかだきっと)
「はい。ちょうど昨日、また1人カナリアの会の会員を捕えた次第でございます……総理」
そう。
現れたうちの中年男性の方は総理大臣。
日本国のトップである伊武有人だ。
「おぉ。さすがはA級能力者たちだ。
……あ、そうだな。自己紹介しておこう。
私は伊武有人。内閣総理大臣だ」
「私は志村と申します。伊武の秘書を務めております」
2人組の男たちは立て続けに名乗った。
もう1人の30歳ほどの若い男性は、やはり秘書だったようだ。
それにしても、総理大臣様がわざわざ会いにくるとは……。
私たちの活動が国家においてどれだけ重大か改めて実感した。
「私は赤井萌と申します。お会いできて大変光栄ですわ」
赤井が真っ先に挨拶を返す。
「輝木光です。よろしくお願いいたします」
私も負けじと挨拶する。
「う、内木遊です……。よろしくお願いします……」
内木さんも私たちに続いて挨拶をする。
そこで私たちは皆、ある違和感に気づいた。
「……ん? そういえば水野がいないな」
そう、始業時間を過ぎてもメグがいないのだ。
「寝坊して遅刻とかじゃないですか?」
最も高い可能性を私が提示する。
「輝木じゃあるまいし、メグは遅刻なんかしませんわ」
赤井に反論される。
随分と失礼な反論だ。
「はぁ? 失礼なこと言うなよ。
1ヶ月で10回くらいしかしてないし、それにたった30分くらいじゃないか」
(30分以内なんて遅刻に入らないだろ。イチイチ細かい奴だな)
「ヒカリちゃん、それは――」
内木さんが私に何か言いかけると同時に、バタンと音を立てて正面のドアが開いた。
メグがやってきたのだ。
やはり遅刻だったようだ。
「どうした水野。君が遅刻なんて珍しいじゃないか」
「……」
国井に尋ねられるも、メグは返事をしない。
(ははぁん、これはきっと遅刻して逆ギレしてるパターンだな。分かる分かるよその気持ち。私もよくあるからねぇ)
私だって遅刻をしたくてしてるワケじゃない。
この世界が私を妨害するせいだ。
「……悪辣たる現の世に、価値はない」
(そうそう、私を遅刻させる世界なんて……。って、え? 何今の? メグの声?)
「……邪悪なる為政者供を引き摺り下ろせ。愚かで無能な国家を変革せよ」
「め、メグ? どうしましたの?」
「貴様らに問おう。日の本の行く末を。迫り来る破滅を防ぐには何をすべきか? その答えは……」
メグの様子が明らかにおかしい。
意味不明な言葉を繰り返している。
「これだっ‼︎」
「ぐっ、何をする⁉︎ 放してくれっ! ……うっ、……!」
「諸悪たる元首へ! 正義の鉄槌を!」
なんと、メグは伊武総理の首を掴み締め上げ始めた!
「ちょ、ちょっと! 何してるんですのメグ! 伊武総理から離れなさい!」
赤井がメグに掴みかかる。
(そうだ止めなきゃ! でも私の超能力じゃ感電させちゃう……!)
私も掴みかかるが、対処が分からない。
そうして……しばらくすると、急にメグの抵抗がなくなり動きはとまった。
「……メグちゃん。悪いけど、拘束させて貰うわね」
内木さんが自身の超能力で、メグの動きを封じたのだ。
「ゲホッ ゴホッ ……何だい、彼女は……」
「伊武総理、大丈夫ですか?」
咳き込んだ伊武総理に、すかさず声をかける国井。
丁寧語を使っているのが少し新鮮。
「内木さん……ナイス判断です。それにしてもこれは一体……」
内木さんがメグを抑えてくれて本当に助かった。
私や赤井の超能力じゃ、メグに大怪我をさせてしまう。
「……メグがこんな暴挙に出るハズがありませんわ。あの子は優しい子ですもの」
「それには概ね同意だけどさ……。ともすれば誰かに操られてるとか? ……昨日、不破と虎井を拘束した時は普通だったけど……。何かあったとしたらその後か?」
赤井の言葉に応えるように、私は頭を捻って考える。
「そればかりは私にも分かりませんわ……。昨日のメグの行動を辿ってみる必要が……」
その時、イヤな音が聞こえた。
電話の音だ。
私は電話の音……もといスマホの着信音がどうも苦手だ。
なんというか不安になるというかドキッとするというか……。
とにかく苦手だ。
「はい、志村です。……はい? そ、それは本当ですか⁉︎ はい。……はい、承知いたしました。また連絡いたします。では」
電話越しに何かの報告を受けている志村秘書。
何やらとても焦った様子だ。
「どうした、志村」
「あの、大変です……。 首相官邸にて大規模デモが発生とのことで……。詳しいことはただいま調査中らしいですが……その規模はざっと1万人以上だそうです!」
志村の答えに全員が驚きの声をあげる。
(で、デモ⁈ デモってあれか、あの、人がいっぱい集まってプラカード持ってワーキャーやったりするあれか!)
「なんだって⁉︎ ……い、今すぐ議事堂に戻って対策会議を……」
総理がそう狼狽える横で、私はスマホで検索し、ニュース記事を確認する。
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2月27日 (木)
首相官邸にて大規模デモが発生。
現在、デモ隊は官邸を離れ、北に向かって行進中。
参加人数は調査によると約6万人で、参加者は口々に「邪悪な国家への制裁」などと話しており要求は全くもって不明とのことです。
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「なんか、今はもう官邸にはいないみたいですよ……? 北に向かって行進中だそうですが……しかもかなり増えてます」
「何? 輝木、すまないが少しそのニュース記事を見せてくれないか?」
国井に頼まれスマホを手渡す。
「『邪悪な国家』……。
先程の水野も同じようなことを言っていたな。
もしやこの者たち、水野と同じ症状なのでは……?
伊武総理を狙うように操られているのかも知れん」
「それで官邸に……。
まあ、普通の人なら総理大臣はそこにいるって考えますもんね。
……でも、それって……伊武総理が見つかれば襲いかかってくるってことじゃ……?」
私は思ったことをそのまま言う。
「その通りだ……! 伊武総理、危険ですよ!
向こうに戻ってはいけません!」
国井は伊武総理にそう声をかけた。
「そ、そうか……。分かったよ。
しかし、どうしたものか……」
了承しながらも悩む伊武総理。
(……。かくなる上は、1つしかない)
この場で、私の考えついた解決策。
それは……。
「この状況を解決するには、この人たちを操ってるだろう何者かをぶちのめすことです!
それがこの暴動を抑える、唯一の方法です」
「物騒ですわね」
「何だよ、赤井。
じゃあ他に何か思い当たる節があるのか?
それに何かしないと永遠にメグはこのままかもしれない。
メグを助けないつもりかよ、この薄情者が。
ここでいつまでもふん縛っておくわけにはいかないだろ?」
「そうは言ってませんわ。……まあ、仕方ありませんわね」
赤井がため息を吐く。
「では、輝木は私と一緒に来てくださいまし。
内木さんはこちらに残って伊武総理の警護をお願いしますわ」
「う、うん……。分かったわ」
「おいコラ。何勝手に仕切ってるんだよ。
それに私がやるなんて一言も……」
「何かを調査するのには輝木、アナタの能力がもってこいですわ。
ですが、アナタ1人では心配でたまりません。
だから、私もついていきますの」
赤井に言われるがままになってしまう私。
「そ・れ・に!
この部隊のリーダーは私でしてよ?
指示には従ってもらいますわ」
(くぅ……、やっぱりこいつムカつく!)
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「それで?」
「何ですの?」
「調査って言ったって具体的にどうするんだ?
操られてるって言うのも、私たちの憶測でしかないかもしれないんだぞ?」
「それは……もう信じるしかありませんわ。
とにかく今は手がかりを集めないと……。
ほら、着きましたわ」
私と赤井が向かっていたのは、昨日虎井と不破を捕らえた鐵工所だった。
「ここで昨日私たちと別れてから、今日の朝までのメグの足跡を辿りますわ。
少しでも怪しいところを発見したら情報を共有しましょう」
「はいはい」
「はいは一回ですわ」
「うるせえ」
30分くらい調べた。
この工場内、特におかしなところはなさそうに見える。
「何もなさそうだな。
メグの家に行こう。
帰り道か家の中で何かあったのかも知れない」
「そうですわね。
一旦ここは切り上げましょうか」
工場を出発し、メグの家路を辿る。
「……おっ。なあ赤井。
デモについて新情報が発覚したらしいよ。
何でもデモに参加してる人のほとんどが10代から20代なんだってさ」
その過程でスマホを見て得た新情報。
「若者中心ってことですわね。
と言うことは、今時の若者の生活に何かヒントがあるかもしれませんわ」
「今時の若者って……その言い方なんか老けてるな」
「なっ……何を言いますの!
私はただ客観的な考察を……」
「分かった分かった。
……今の若者の生活って言ったら、ゲーム、インターネットとかかなぁ。
流行の移り変わりが早いよね」
「ゲーム、ネットって……それはアナタの生活じゃないんですの……」
「失礼な! 私は流行には疎いほうだよ」
「そっちですの。
でも奇遇ですわね。私もですわ。
特にアイドルとかお笑いとか全然分からなくて……」
私と同じだ。
……初めて、赤井に親近感を覚えた気がした。
「あ、メグの家に着きましたわ」
「ここまでも特に何か変わったことはなかったな……。
まあいいや。よし、じゃあ鍵を開けるか」
「え? いやいやいや。
そんなことをしたらメグのプライバシーが……」
「しょうがないだろ緊急事態なんだからさ。
ほら、開けたぞ」
「し、仕方ありませんわね……では、管理会社さんに鍵を借りて…….ってあら? 鍵開いてましたの?」
「いや、私が開けた。超能力で」
「……アナタ、いつか捕まりますわよ」
生憎だが、もう捕まった。
捕まったからこの部隊に入る羽目になったのだ。
カナリアの会によって洗脳されてしまった仲間の水野恵。
彼女を救うため、輝木光と赤井萌の2人は原因を突き止めるべく調査へ向かった……。
果たして、異変の原因は何なのか。
彼女たちが水野恵の部屋で見つけるものとは……?
次回、犯人登場!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。