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4 断罪される悪役令嬢なので(3)

「セリーヌ様? お加減はいかがですか? 今日もいいお天気ですよ!」


 あれから三日、セリーヌは療養を続けている。既に熱は下がり、ある程度身体も回復してきた。

 だが、学園や王宮に行ってアベルと顔を合わすのも嫌だし、アベルとオデットの情事について他の生徒から報告されるのも嫌だったので、未だベッドの上でのんびりと過ごしている。


 マリーが寝室のカーテンを開けながら、今朝もにこやかにお世話をしてくれる。

 セリーヌのベッド脇には美しい百合の花が飾られ、目覚めの紅茶が良い匂いをたててセリーヌを起こした。


「マリーありがとう。今朝の紅茶もすごく美味しいわ」

「どういたしまして。セリーヌ様の笑顔が見れて私は幸せです」


 マリーに「浮気は許せるか」と問いかけてから、家族や使用人たちが異様に優しい。そして、第一王子との婚約に不満はあるか、身体に支障が出たのだから抗議するべきだと両親や弟のフィルマンまで鼻息荒く憤ってくれた。今世の家族はとても温かい。きっとセリーヌが断罪されれば、深く傷付き心を痛めてくれるだろう。やはり、断罪は阻止しなければならない。


 さらに驚くべきことに、セリーヌが体調を崩したことを聞きつけて、王妃殿下と第二王子のテオドール殿下から手紙と花束を賜った。その上、テオドール殿下からは毎日のように花束が届く。


 兄の粗相を思って償いのつもりなのだろうか。優しい方だなと思いながら、セリーヌは今日も届いた花束を愛でた。


「あのクソ第一王子に爪の垢でも煎じてやりたいですわね!」


 マリーがテオドール殿下から贈られてきた花束を活けながら、憤っていた。


「ふふっ。この部屋以外でそんなことを言ったら不敬罪になっちゃうわ」

「あの浮気男。私は許せません!」

「ありがとう。マリーがそうして怒ってくれると、私は救われるわ」

「……セリーヌ様っ」


 ──コンコンコン


 ドアがノックされたので、マリーが確認しに行く。弟のフィルマンだというので、通してもらった。


「姉上。調子はどうだ?」

「ええ。ずいぶん良くなったわ。でも少し……休みたくなって。ズル休みをしているの。秘密にしてちょうだいね」

「もちろん。父上も母上も、俺も、テオドールだって姉上の味方だ」

「まぁテオドール殿下まで? ありがとう」


 弟のフィルマンと第二王子テオドール殿下は、年齢が同じこともあって仲が良い。セリーヌの二学年下の彼らは、学園でもいつも一緒にいるようだ。


 テオドール殿下がセリーヌに花束をくれるのも、フィルマンとの付き合い上、気を遣ってくださっているのかもしれない。


 アベルの様子を聞くと、「第一王子は相変わらずだ。卒業間近だというのに」とフィルマンは眉間に皺を寄せて話し始めた。


「そう……」


 セリーヌは、アベルに恋愛感情はないものの、やはり浮気は許せない。ここがもしゲームの世界で、シナリオ通りなら、セリーヌは断罪されてしまう。浮気されただけなのに。嫌がらせも意地悪も何一つしていないのに。


 記憶を取り戻してから、ずっと考えていたこと……。セリーヌは決意を固め、フィルマンに願いを告げる。


「私、婚約破棄したいの。協力してくれる?」



 そこからは早かった。


 なんと両親もアベルと婚約破棄することに賛成してくれたのだ。こうして家族全員で動き出すことになった。


 まずはアベルの浮気の証拠を集める。


 乱れた彼らの最低な証拠は面白いほど集まった。

 さらに驚くべきことに、聖女と言われているヒロインの力も偽物だという疑惑まで持たれていた。


 そして案の定、卒業パーティでセリーヌを陥れようとしている計画も明らかになった。

 その為、次はアリバイ作りに勤しんだ。


 学園にいるときは常に護衛をつけ、なるべく先生や友人と共に過ごす。

 授業の単位は既に取得済みなので、学園に行くのは必要最低限にとどめ、王宮で妃教育や公務に励み、言いがかりがつけられないようにした。


 それでもヒロインはセリーヌに嫌がらせをされたとアベルに訴えているようで、アベルはそれを鵜呑みにしているようだった。


「アベル殿下は元々素行が悪い方だとは思っていたが、こうも愚かだと呆れて物が言えない」

「わたくしとの婚約よりも、彼女の言葉が全てなのでしょう」

「よく考えれば姉上が嫌がらせなんてするような方ではないと分かるはず! 奴がそのうち国王になるなんて世も末だ!」


 テオドール殿下が貸してくれた王宮の『影』からの報告を読んで、フィルマンが憤る。

 セリーヌの為に用意されている王太子妃の部屋をオデットに自由に出入りさせているだけではなく、宿泊することも珍しくないそうだ。なんという侮辱だろう。第一王子がこなすべき公務も肩代わりして、必死に彼を支えてきた。そんなセリーヌに対する敬意も配慮もない。

 

 こうなればもう未練は全くない。浮気者はごめんだ。浮気、ダメ、ゼッタイ!


 婚約破棄に向けて根回しを進めていく。確かな浮気の証拠とセリーヌに冤罪を擦りつける計画の証拠を持って、アベルとの婚約破棄を王妃様に打診すると、泣いて謝られてしまった。「セリーヌの気持ちは分かったわ」と慈悲深い王妃様は認めてくださり、国王陛下を説得し、必ず婚約破棄を実現してくださると約束してくれた。


 そうして迎えた卒業パーティの日。


「セリーヌ・ルヴィエ! 君との婚約を破棄することを、ここに宣言する!」


 それはセリーヌにとって想定済みの台詞。計画通りに断罪を覆し、無事、婚約破棄を果たしたのだった。


 そして、婚約もしていないのに淫らな行為をしていたこと、セリーヌに罪を着せようとしていたことが明らかになった今、アベルとオデットの評判はこれまで以上にガタ落ちした。


 事前に知らせていたはずの国王や王妃が何故それを止めなかったのかは分からない。

 だが、セリーヌは悪役令嬢として断罪されるシナリオを、見事打ち破ったのだった。

次から第二章に入ります!

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