表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/31

6話:幻を越える現実を


「すごいね。王都は。馬車でどこにでも行ける」

 山の麓で下りるなり、ケシミアが言った。

 ビスボラス火山は現在は休眠中とのことだが、地面から湯気が出ていて硫黄の匂いがする。


「どうやって探すんだ?」

 固まった身体を解すようにケシミアは伸びをしながら、聞いてきた。

「千里眼っていう魔法がある。目的地があれば、なんとなく方向がわかるんだよ」

「それも幻惑魔法か?」

「そう。井戸を掘る時に水源を探すだろう? 本来人間が持っている能力を魔法の力で上げるのさ」

「便利ではある」

「そうだろう! 幻惑魔法は便利なんだけどな」


 とりあえず千里眼の示す通りに進んでいく。

 山を登っていると、冒険者も時々見る。火山地帯に咲く花を探しに来ているようだ。

そんな冒険者たちに絡む爺さんがいた。大きなリュックを背負って、ピッケルを持っている。


「おやぁ、お前たち、もしかして、オリハルコンを探しに来た冒険者じゃないかぁ?」

「いえ、違います」

「僕たちは試験のための火山花を探しに来たんです」

「なんだ、そうか。もしオリハルコンを一緒に探したくなったら、声をかけてくれぇ」


 そんな突然オリハルコンを探したくなる瞬間は、人生で訪れないと思うが、どうなんだろう。

 

「依頼書を出した人じゃない?」

 小声でケシミアが聞いてきた。そう言えば、オリハルコンを探す依頼があったはずだ。


「おやぁ、お前たち……」

 近づいていくと、俺たちにも声をかけてきた。

「元気かい?」

 思ってた質問と違った。


「いやぁ、元気ですよ。オリハルコンでも探していそうな顔をしていますね」

「実はそうなんだけど、誰も一緒に探してはくれないんだ」

「でしょうね」

「そんなに興味がないのか?」

「興味がないわけじゃないでしょうけど、面倒なんだと思いますよ」

「じゃあ、どう言えばいい?」

「鉱石探しに付き合ってくれないかってまず聞いてから、ありそうな場所に着いたときにオリハルコンの名前を出せばどうにか……」

「そんな詐欺みたいなことできるか!」


 聞かれたから答えただけなのに。


「なんで、オリハルコンが必要なんです?」

「わしは鍛冶屋なんだが、そろそろ引退しようと思ってな」

「なるほど、それでオリハルコンが……、どう必要なんです?」

「一月後にコロシアムで剣の大会がある。そこで使う一振りを作って、貴族に献上し引退しようと思っているんだ。それに幻の素材であるオリハルコンを使いたいと思ってな。方々手を打ったが、誰一人手を貸してはくれん。どうしたものか……。諦めるか!」


 唐突に鍛冶屋の爺さんがその場に座り込んで、天を仰いだ。

 後ろを振り返ると、俺たちの他に、もう冒険者が山を登ってくる気配がない。諦め時なのだろう。


「なんか、疲れたし!」

 声には覇気がみなぎり、全然疲れた様子はない。

「それもいいと思います! じゃ!」


 俺たちは先を急ぐ。


「ちょっと待てぇ。少しは老人を労わって、俺たちが探してきます! という気持ちにならないか?」

「ならないです! それじゃあ、お達者で!」


 ケシミアは笑っているが、俺は別に老人に厳しいわけではなく、関わると面倒そうだからだ。


 無視して登っていくと、鍛冶屋の爺さんは走って俺たちの前まで来た。健康そのもの。元気な人だ。


「魔法使いなら、鉱物を変える魔法くらい使えるんじゃないのか?」

 鍛冶屋の爺さんは俺の隣を歩いている。ふくらはぎが俺よりも太い。どうやっても付いてきそうな雰囲気がある。


「それは変質魔法ですね。俺が使えるのは幻惑魔法だけです」

「幻惑魔法って、あの何の役にも立たないっていう!?」

「使い方さえ間違えなければ役には立ちますよ。現に俺たちは、その幻惑魔法を使って目的地に行こうとしているんですから」

「なんだと!? だったら、その目的地をオリハルコンの採掘場に変えれば、魔法で位置がわかるんじゃないか?」

 しまった! 余計なことを言うんじゃなかった。


「どうなんだ?」

「できます」

「なんだぁ、そうかぁ。お前さんたちについていくよ。そちらの予定が終わったら、こちらを手伝ってくれ」

「断る理由がなくなったぞ。私たちは2日間暇なんだから」

 ケシミアは面白そうだ。


「報酬次第ですかね」

「なら問題ない。オリハルコンを一緒に探してくれれば、うちの店の得物をいくらでも持っていっていい。そっちのねえちゃんはハルバードだろう。お前さんは……、鉄の杖か。鉄なら在庫があったはずだ」

「わかりました。でも、危険だったらこちらの言うこと聞いて待機していてください。そして、これは突発的な依頼ですから、見つからなくても落ち込まないように」

「わかった。いいだろう。2年探して、ようやく話になる冒険者が現れたよ」


 そんなことを言われたら、オリハルコンがなかった時に落ち込むのは俺の方だ。幻惑魔術師のメンタルの弱さを舐めないで貰いたい。

 面倒な依頼を請けてしまった。


「わしの名前はジブロだ。よろしく」

「ミストです」

「私、ケシミア。新しいハルバードをくれるなら、防具の方を探さないと……」


 ケシミアはマイペースだ。


「とにかく、こちらは行方知れずのドラゴンを探しているので、無理だけはしないように」

「ドラゴンを探してるんだって? まるで竜騎士みたいじゃないか?」

「そうです。その竜騎士からの依頼ですから」

「あ~、そりゃあ、大変だ。家紋にも入っているドラゴンがいないなんて言ったらお家騒動になるぞ」

「だから絶対見つけないといけないみたいです」

「だろうな」


 脇の林に逸れていく冒険者たちを追い抜いて、俺たちはさらに山を登る。

 火山は休眠しているとはいえ、妙に温かい。魔物の鳴き声もどこかから聞こえてきた。


 ギエッギエッギエッ!



「なんの鳴き声だと思う?」

「たぶんワイバーンだろうな。ほら、山頂付近を飛んでいる」

 ケシミアの代わりにジブロが答えた。

 見上げれば、小さい竜モドキが飛んでいる。


「あれはいいワイバーンだ」

「どこがだ?」

 ジブロは戸惑っているが、こちらにも目的がある。リアルと幻覚の違いを見たい。


「試すのか?」

「うん」

 挑発の魔法を使うと、こちらに飛んできて襲い掛かってきた。


 ザッシュ!


 あっさりケシミアが羽ごと身体を輪切りにしていた。

 特に魔法も放ってこないし、攻撃らしい攻撃もせずにこちらに向かって飛んできただけ。体長は中型犬ほどで羽を広げると3メートルほどになるだろうか。

 幻惑魔法も問題なくかかる。

 ただ、リアルがこれほどぬるいわけがない。


 もう少し上ると、崖にぽっかりと洞窟が開いている。入口付近には糞が落ちていて、中からワイバーンの鳴き声が無数に聞こえてくる。

 千里眼は、その洞窟の中を示していた。


「あの中にいるようだな」

「ワイバーンの巣じゃないか。同士討ちさせるのか?」

 ケシミアも1頭倒したので、やる気になってきている。


「いや、ドラゴンに効いたら、火山が噴火するかもしれない」

「各個撃破か。よぅし、働くかぁ!」

「ジブロさんは、ここで待っていてください。オリハルコンが見つかったら呼びますから?」

「わかった。でも、お前たち、そんな軽装で行くのか?」

 ジブロは、俺たちの恰好を見て驚いていた。


「ええ。いつもの恰好が、一番動きやすい」

「まぁ、待っていてよ。ジブロ爺ちゃん」


 俺とケシミアは、ジブロを待たせて、ワイバーンの巣に突入した。


 魔法で灯を浮かせると、一斉にワイバーンがこちらに向かって飛んできた。やはり攻撃はない。口を大きく開けて威嚇するくらい。あとは爪でひっかいてこようとするが、明らかに体勢が崩れて飛んでいられなくなっていた。


「なんて不器用な魔物なんだ」


 ケシミアはハルバードでサクッと割り、俺は杖で羽に穴をあけて、壁や地面に打ち付けてワイバーンを倒していった。

 

 幻惑魔法もしっかり効く。混乱させると、洞窟の中を飛んでどこかへ消えていった。


「こんなリアリティがないリアルがあるかよ!」

「これが現実。幻覚を膨らませ過ぎたんだよ!」


 ケシミアは、面白いように真っ二つになるワイバーンを笑顔で殺していた。

 飛び散った血に毒でもあるんじゃないかと願望に似た妄想をしてみたが、ワイバーンの身体には毒はなかった。わずかに牙にはあるようだが、不器用なワイバーンに噛まれる方が難しいと言える。


 飛んでくるワイバーンを地面に叩きつけながら、千里眼は奥へ奥へと向かっていく。

奥へ行けば行くほどワイバーンは逃げ始め、通路だった空間は広がっていった。


グゥオオオオオ!!!


最奥の部屋に足を踏み入れた瞬間、腹の底に響くような咆哮が聞こえた。

 一気に体温が上がり、武者震いで精神がざわついている。すぐに鎮静化の魔法を自分とケシミアに放った。


「これだ! これこれ!」

「これぞ、現実!」

 一撃でも食らえば、意識だけでなく命まで刈り取られるような感覚があった。

 視線の先で、真っ赤に焼けるような色のドラゴンがこちらを睨みつけている。沈静化しているのに、興奮を抑えられない。


ボウッ!


 炎のブレスがこちらに向かってくる。

 塔で何度も見たブレスだ。

 

 全速力で、俺とケシミアはドラゴンに迫る。

 恐怖の魔法で顎をかちあげ、喉元の逆鱗を晒す。


「きえっ!」


 ケシミアが奇声を上げて、ハルバードを振り下ろした瞬間。ドラゴンの身体が、一気に膨らんだ。


 ボッフ……!


 ドラゴンの全身が燃え、鱗が弾けるように俺たちを襲った。

 俺たちが幻覚で見たドラゴンの姿がそこにはあった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ