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役立たずと言われた幻惑魔術師が、落ち込み過ぎて最強になる  作者: 花黒子


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25話:幻の結晶


 ゴーレムが地図で指示した場所を探索。千里眼で見ても確かに、真下に矢印が向いた場所へ辿り着いた。山の麓にあり、魔物の気配がそこら中からしている。


 ただ、塔からそれほど遠く離れているわけではなく、一日で行って帰ってこられる距離だ。


「後は掘るだけ……」

「氷を掘るって大変かと思ったんですけどね」

「そうだな。こういうことは予測してなかったな……」


 氷河の一部が剥がれて、氷の精となって襲い掛かってくる。氷河に埋もれていると思っていたが、氷河そのものが襲ってくることは想定していなかった。


 氷がゴーレムの形をして重い体を動かしている。


 ドスン、ドスン。


 俺やケシミアがいた氷の地面を殴りつけている。それほど速い攻撃でもないので、躱すのは容易い。ただ、殴りつけた氷の地面が、氷の熊や狼となって襲い掛かってくるので面食らってしまう。


 気づけば、一面氷の魔物だらけ。


「せいぜい50体程度だよ」

 その程度なら、ホームの塔でも経験しているので、対処は可能だ。

「どこまで増えるか見てみるのもいいけど……」

「強さはどれも変わりませんね」


 パキンッ! パキンッ!


 氷の固さなので、魔物の首も身体もいくらでも割れてしまう。

 ドシンと倒れた氷の地面から再び魔物が現れる。


「これはキリがありませんよ」

コルベルは氷を掘り出すと思っていたので、つるはしを持参していたが武器に変わっていた。

「いや、キリならあるさ。地面がどんどん低くなっているだろう?」

「そうですけど……」


 コルベルの言う通り、少しずつしか氷河は削れていない。割れた氷は散らばっているので、もしかしたら氷がちょっと移動しただけか。


「これ、氷も形も本体じゃないね」

 ケシミアが氷の魔物の四肢を折り、捕まえていた。

「え?」

「だって、中に魔石はないもの」

 氷の胴体を日の光に透かせていた。


「じゃあ、どうやって魔物に?」

「煙か、霊か、念か」

「魔物の念が氷に乗り移っているってことか?」

「だろうね。見てごらんよ。氷の中をもやもやしたものが動いている」


 見れば、確かに仄かに赤い煙のようなものが氷の中を動いていた。


「これがゴーレムが言っていた北極からくる敵ですかね?」

「第二帝国の敵がこれ?」


 いつの間にか、氷の魔物が再び俺たちの周りを囲っていた。


「分裂もするし、氷を媒介に魔物にも変化する……。倒そうと思っても倒せない……」

「氷をいくら割ってもいなくならない。こんな敵、どうやって相手をすればいいんです!?」


 弱く脆いのに死なない。

まさにこれぞ俺が追い求めていた幻覚を超えた現実じゃないか。


「ああ、ダメだ。ミストが笑ってるよ」

「どうしてこんな状況で笑っていられるんです?」

「一度、ゴーレムたちの基地に戻ろう。準備をしないと倒せない」


 俺たちは、踵を返した。


「氷の魔物が追ってきますよ!」

「ああ、そのまま追わせておけ。氷が削れる」


 氷の魔物が追ってくるが、速度は遅い。

 コルベルが牽いていた橇に乗って氷河を下っていくと、氷の魔物たちは諦めて元いた場所に戻っていったようだ。


「幻惑魔法でどうにかなったんじゃないの?」

「なったとしても殺せないさ。封じ込めておくにしても容器がいる」


 橇に乗ったからか、帰りは行きよりも早かった。


 塔に戻り、地下で仲間たちを動かしているゴーレムに会いに行く。


「ゴーレム。第二帝国の敵というのは、思念体か何かか?」

「思念体? いや、氷の魔物たちのことだ」


 ゴーレムたちは氷の魔物としか解明できていないのか。

「やはり……」

「いくら倒してもやってくる。厄介なんだ」

「捕まえればいいんだ」

「捕まえてもただの氷に戻るだけだぞ」

「知ってる。第二帝国がアレと戦っていた武器はあるかい?」

「あるとも」


 ゴーレムは倉庫の中から、刃が熱くなるという剣を取り出してきた。


「これで焼き切ったり、溶かしたりしていたのだけれどいくら倒してもキリがない」

「だろうね」

「わかってて武器を持って行くのか? どうするつもりだ?」

「封じるんだよ。ガラスはあるかい?」

「割れたものでいいなら……」

「ちょうどいいや」


 割れたガラスが入った袋を渡してくれた。あとは薪と燃料を少し貰い、暖炉にあった火箸も持って行かないと……。


「よし、準備ができたから、戻ろうか」

「え? もう!」

「今から行ったら日が沈んじゃいますよ」

「日が沈んでもあの魔物は出るさ」

「いや、寒さで凍えてしまいますって」

「何のために燃料まで貰ったと思ってるんだ」

「ダメだ。コルベル、諦めて弁当を作ろう。ミスト、それくらいは待ってくれ」

「わかった」

 ケシミアとコルベルが弁当を作るのを待つ。


「上手くいくのかい?」

 幻惑魔術師のマルグリッドは何をするのか理解はしていたようだが、心配している。

「やってみなくちゃわからないこともあるさ。それにあんな純粋な念は滅多にお目にかかれない」

「そりゃあ、そうだろうね。まさに氷の下で熟成されたものだろう」

「第二帝国より前、竜の背で人々が暮らしていた時代の終着駅を発掘してくるよ。第一帝国は、なんていう帝国があったかゴーレムから教わった?」

「いや、わからない。ただ、大陸はヌーナと呼ばれていたそうだ。当時は統一王もいなかったようだけどね」

「じゃあ、今みたいに国がわかれてたのか」

「……国という単位ではなかったのかもしれないよ」

「そうか……。国という概念がないってこともあるのか」


 野菜と干し肉の弁当ができたので、橇に荷物を積み込みケシミアとコルベルと一緒に出発。見送るマルグリッドはどこか寂しそうだった。


 一度行っているので、雪に道はできている。暴風雪にならなくて本当によかった。


「凍えて死んじゃいますよ!」

「大丈夫。気を確かに持てば、そんなに人間の身体は壊れないから」

 興奮の魔法で、コルベルの体温を上げてやった。

 厳冬の土地で、寒く、暗いことを想像すると、すぐに気分は落ち込んでしまうが、正常な判断能力さえ保っていれば案外死なないものだ。つくづく自分が幻惑魔術師でよかったと思う。


 少し削れて窪んだ氷河に辿り着いたのは日が落ちる寸前のこと。

 すぐに燃料の浸み込んだ薪に火を点けて、鍋を温める。


 ガウッ!


 氷の魔物がすぐに俺たちの周りを囲み始めた。一度来ているので、容易に近づけないことは知っているのだろう。魔物の方も警戒していた。

 鍋が十分に温まったところで、砕いたガラス片を中に入れる。


「ケシミア、四肢を落として胴体だけ持ってきてくれ」

「わかった」


 ヒュンッ!


 ケシミアは一瞬で氷の狼を胴体だけにした。

 その氷の胴体を鍋に入れ、溶けていくのを確認してから蓋をする。


「これがどうなるっていうんです?」


 コルベルには何をやっているのかいまだにわからないらしい。


「氷を溶かしてる」

「それは見ればわかりますよ! 水を媒介にした魔物になるだけじゃないですか」

「そうとも限らない。中には砕いたガラス片が入ってるからね。思念はそもそも流動的で不確かなものだろう? だから、固く確かなものに寄り添うように吸収される」


 ふたを開けると、水蒸気が噴き出した。ただ、その中に赤い煙のようなものは見えなかった。

 火箸で中のガラス片を取り出すと、真っ赤に色づいている。


「人工の魔石ができたな」

「魔物の中にある魔石を作ったのか?」

「本来は血と深い念が結びついたりして結晶化されていくものだけど、これはガラス片を容器にしたんだ」

「そんなこと聞いたことないぞ!」

「ああ、村や町で人と交わって生活していれば、雑味が増えてこんなに純粋な思念体にはならない。数千年の間、思念が氷に閉じ込められて雑味が取れたんだ。ここでしかできない実験だよ」


 ガラス片に封じ込められた念は氷に置いたとしても、乗り移ることはなくガラス片の中に収まっていた。いつ溶けるかもわからぬ氷よりガラスの方が確かに固い。


「さあ、どんどん魔石化していこう!」


 日が沈むと一気に冷え込み、風も吹いてきた。

 ケシミアが落とした魔物の四肢は、氷の壁となって風を防いでくれる。それをコルベルが削ってレンガのように積み上げて、かまくらを作った。


 さすがにこの頃になると、気持ちでどうにかなる問題ではないので、しっかり薪をくべてかまくらの中を温めていった。

 休憩を挟みながら、周辺にいた氷の魔物を、鍋で温めて魔石化していく。

 自然と氷の地面は削られ、穴が空いた。

 あとは挑発の魔法を使って誘導し、穴を広げていくだけだ。


 明け方、キリがないと思われた氷の魔物が現れなくなった。

 かまくらの目の前にある穴の底には石材が埋まっている。


「巨大な竜の終着駅ですね」

「北限の塔だ」

「誰が何のために作って、埋めたんだろうな」


 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ガラスは結晶ではないのです。 [一言] とはいえ言わんとする事はわかります。はて何と形容したものやら……。
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