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役立たずと言われた幻惑魔術師が、落ち込み過ぎて最強になる  作者: 花黒子


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23話:幻の塔


 地下には煌々と明りが溢れ、花畑があった。天井はそれほど高くないが、石畳によって区画が整理され、とてつもなく広い。アーチ状の柱がいくつもあるからか、壁が見えない。


「これは……!?」

「この花の実から、油を採取して我々のエネルギーに変換しているのだ」

 マルグリッドが先を歩きながら説明してくれた。この塔に住む者たちは皆、油で動いているのか。

 花の他に、南国の植物もあるようだが、いずれも油を採るために栽培しているという。


「こんな北方の地下なのに暖かいな」

「地下熱を使っている。地下深くにはマグマが流れているのさ」

 ケシミアの疑問にはゴーレムが答えている。

「この広さを、たった2人で作業をしているんですか?」

「他にもゴーレムがいる。ただ、油が足りなくて休眠しているところだ」


 どうやらこの塔は地下の方が深いらしい。

 畑から地下に行くと、雑兵ゴーレムが動かずに並んで寝ていた。それでもマルグリッドたちが整備しているようで、錆や汚れは一切ない。壁際には割れた卵のような装置やボタンがたくさんついた机などが置かれているが、使い方はさっぱりわからない。


「実は、湖の小屋の近くに油が湧いている場所があるんだけど、魔物除けにしか使っていないだろう?」

 マルグリッドが聞いてきた。

「それって、もしかして酷い臭いの油か?」

「それだ! 実はあの油があればゴーレムたちもこの塔も本来の力を発揮できるんだが……」

「そう言われても、あれは夏の間に村人が使っている小屋だから、俺たちはよく知らないんだ」

「でも、千里眼の魔法で見つけられるんじゃない?」


 ケシミアが俺を見てきた。

 できるにはできるが、果たしてこの塔にいるゴーレムたちは信用できるのかどうか。


「できるけど、ゴーレムたちを復活させては何をするつもりなんだ?」

「先ほど言っていた兵器を復活させるのさ」

 俺を見上げながら、犬のマルグリッドが答えた。一気に、緊張感が走る。古代兵器を復活させて、国盗りでもしようものなら話はだいぶ変わってくる。

「マルグリッド! 誤解されるような言い方をするな!」

 ゴーレムが感情を露わにして、マルグリッドの尻尾を掴んで持ち上げている。

「彼らを復活させるというのはそう言うことでもあるだろう? 騙すつもりがないことを言わないと信用はしてもらえない」

「そうではあるが……」

「理由を聞かせてくれ」


 ゴーレムは「ことは複雑だ」と言いながら、悩ましそうに額をこすった。この塔の中で一番、人間らしいのかもしれない。


「ここ数年、氷が溶けるのが早くなっていて、ここよりも北方にいた魔物が湧いて出て来ているのだ」

「塔の周りだけならマグマの流れが変わったくらいで済ませられるが、大陸全土、いや、この星ごと暖かくなっているとなると、話が変わってくる」


 ゴーレムもマルグリッドも下を向いて語り始めた。言いにくいことなのだろう。


「暖かくなったら氷河も溶けるし、いいんじゃないの?」

 ケシミアは楽観的だ。


「嵐や洪水、疫病、海洋生物の移動、植生の崩壊、魔物の大発生、今までと違うことがいくらでも起こり得る」

「飢饉もね」

「ということは、戦争も起こるかもしれないじゃないですか」

 考古学者の卵だっただけあって、コルベルは知識があるらしい。


「乱世に古代兵器を復活させるつもりか?」

「古代兵器の中には島ほど大きな船もある。それを復活させれば、災害が起こっても救える命がある」

「戦争の鎮圧のためにも使うだろ?」


 俺がそう聞くと、2人とも黙ってしまった。


「そもそも古代兵器を動かすための油の量はどれくらい必要なんだ?」

「おそらくこの塔の容量よりも多く必要だ」

「油田を見つけても汲み上げられないぞ。溜めて置く樽もない」

「だったら、また我々は、何もせず滅びゆく文明を見ることになる! あんな経験は二度としたくない!」

 ゴーレムは声を荒げた。かつて栄えた文明が滅びるのを見ていたのか。このゴーレムには古代人の魂が宿っているのかもしれないな。


「人の命を救うのは、なにも古代兵器だけじゃない」

「そうですよ! 竜の背で生活していた人たちだって生き残っているんですから、人間は思っているよりもしぶといということは歴史が証明していますよ」

 コルベルも思うところがあるのだろう。大きな声で出していた。


「そうだと……いいのだけど……」

 ゴーレムは溜息を吐くように言っていた。

 おそらくゴーレムは、人が死ぬことよりも、文明が滅びて知恵がなくなる怖さを見てきたのだろう。「捨てられた技術」という自虐は、誰かに捨てられた経験を話してくれていたのかもしれない。



 ドゴンッ!


 地上の方で大きな音が鳴り響いた。


「魔物だ!」

「生身の匂いに釣られたか!」

「仕方ない警備システムを作動させる!」


 マルグリッドとゴーレムが慌ただしく動き始めた。せっかく集めた油を使うらしい。


「俺たちにちょっとだけ時間をくれないか。相手ができるかもしれない」

「相手はミストの倍はある白熊かもしれないんだぞ!」

「その程度の魔物なら、よく相手をしている」


 ケシミアはマルグリッドの頭を撫でた。


「もし、酒があれば用意しておいてください。いざとなれば、ミストさんに飲ませますから」

 コルベルもいつの間にか戦闘の準備に入っている。


 階段を駆け上がり、1階へ行くと、扉が壊されていた。

 外には赤い目を光らせた雪女と雪男の群れが、塔を囲んでいる。


 パンッ!


 とりあえず俺は手を叩いて、雪男にかかっている魔法を解いてしまう。通常で興奮しているなら意味はないが、雪女の魔法だと解けると思った。


 一瞬、雪男の動きが止まった。


 トトトトッ。


 コルベルが放ったナイフが、雪男の眉間に突き刺さる。

 倒れていく雪男の隙間を縫うように移動したケシミアが、恐怖にひきつる雪女の胴体をハルバートで飛ばしていった。中にある魔石を正確に割っている。


 雪によって音がなく、ただ雪女の身体から血しぶきのような雪の結晶が空に向かって噴きあがる。


「毛が分厚いだけで弱点は人間と同じだ!」

「確認!」

「雪女は遠距離の魔法に気を付けろ。10秒に一回は魔法を解いていく!」

「了解!」


 熊のような雪男は末端の指、手首、肘、と徐々に関節を砕いていく。骨はあるが血が出ていない。こちらも魔石で動いている死体のようなものらしい。

 

 パンッ!


 手がかじかむが、魔法を解いていくのには理由がある。手を叩く音が聞こえたら、ナイフが投擲され、4体雪男が死に、数体の雪女の胴体が飛ぶ。

 群れであれば、魔法よりも確実な恐怖が伝達していく。


 一度、気持ちがブレた魔物に幻惑魔法をかけるのは難しくない。

 逃げ出す雪男と雪女に狂乱の魔法をかけて、同士討ちを誘った。

 数分もあれば、塔の周りには雪山が出来上がった。


「骨と毛皮だけしか残らなかったな」


 マルグリッドとゴーレムに尋ねてみたが、反応がない。


「雪男の毛皮には脂身が多いから、使えるかもよ」

「燃やしますか? これだけ雪女の魔石があればよく燃えそうですけど……」


 ケシミアもコルベルも、汚れた武器を手早く拭いて、砥石を使っていた。


「本物の冒険家とはこれほど強いのか?」


 ゴーレムが聞いてきた。


「俺たちは魔物の壊し方を知っているだけだ。強さとはまた別だよ。それより、この塔ではずっとこういう魔物と戦っているのか?」

「ああ、そうだ。幻惑魔法を使えなければ見えないから、冒険者が来ても見つかることはほとんどない」

「どうしてこの塔が魔物に狙われる?」

「わからない。北方の魔物にとっては鬼門なのだろう」

「マルグリッドが塔を立てる前も狙われていたの?」


 ケシミアの言う通り、この塔は軍事基地の上に立っている。


「200年前は寒かったから、それほど魔物たちも湧き出ては来なかった」

「暖かくなって湧き出てきた魔物たちが狙っているのは、ここではない塔なんじゃないか?」

「でも、200年も散歩をしてきているけど、周辺にはそんな塔はないはずだよ」


 マルグリッドが説明した。


「古い第二帝国の地図はないし、もし塔があるなら氷山の中だ」

「千里眼でも方向しかわからない。冬の間ずっと氷山を掘るなんて、賽の河原で石を積んでいるようなものだぞ」

「位置さえわかれば、掘り起こせるかもしれないのに……」

「竜の終着駅はわからずじまいですか……」


 ケシミアもコルベルも残念そうだった。


「古い地図はないが、位置だけならわかるかもしれない」

 ゴーレムがつぶやいた。

「本当か!?」

「機械が動けば、の話だ。原油は必要だし、期待しても機械自体が壊れている可能性は高い」

「可能性は低くても、冒険するのが冒険家の役目だ」


 俺たちは塔を探す前に、原油を探すことになった。


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