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役立たずと言われた幻惑魔術師が、落ち込み過ぎて最強になる  作者: 花黒子


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17話:探し物は幻ですか


 お茶を淹れながら、近所の娘ことヘルミの話を聞いた。


「数日前に父親が亡くなったのですが、未だ現世に未練があるらしく夜な夜な墓の中から出てきて、枕元に立つんです」


 俺たちが旅に出ている間に、ヘルミは農家を受け継いでいた。

 ウェアウルフに攫われたことで婚約も破綻しており、一人で農園を切り盛りしているのだとか。


「一人で?」

「もちろん、忙しい時には親戚を頼って手伝いに来てもらいますが、畑はもともと小さくしていましたが、これからは本当に小さい畑にするつもりなんです。父には未練があり入念に牧師さんには祈ってもらったのですが、効果はなかったようで、幻惑魔術師さんにどうにか手を貸してもらえないかと……」

「未練……?」


 亡くなったヘルミの父親の不安は、娘の結婚に畑、それから出ていった妻の行方、小作人に貸した金の行方など、蘇ってしまう心当たりは多いのだとか。


「ああ、それはもう本人しかわからないかもな。幸い、ミスリルの剣がたくさんある。聖水に浸けて胸に刺しておけば蘇るようなことはないだろう」

「やってくれますか?」

「うん。死んだ人間の相手くらいなら、問題はないはずだ」


 冒険者ギルドに依頼を頼むと、予算がかさむし、知り合いに頼みたかったのだとか。


 ケシミアとコルベルは、留守番させてミスリルの剣を持って、ヘルミについていく。

 ヘルミの農園は山間部にあり、大きな畑で野菜を作っていた。その半分はすでに休耕地となっていて、来年からは使わなくなるという。


「山には果樹園もあったのですが、今はもうやっていません」


 実はヘルミは広大な土地を持つ地主のようだ。

 あまり外の人を寄せたくない気持ちがわかった。幻惑魔術師の俺でも、土地の有効活用をした方がいいんじゃないかと言いそうになってしまう。

 それが、彼女にとっては面倒なことなのだろう。


「こちらです」

 母屋の裏手に、彼女の父親の墓はあった。墓から出てきているせいか、荒らされて棺が見えている。


「また、出たのかもしれない」


 塔に来るとき、しっかり墓には土をかけたという。

「昼間でも出てくることはあるの?」

「わかりません。いつの間にか出てきて、気絶している間に戻っているので……」

「気絶? 毎日、気絶するのかい?」

「ええ、何度見ても身内の死体が動くのは慣れなくて……」


 そういうものだろうか。この時、すでに違和感があった。


「これを付けておいて、遠い土地で編まれたミサンガだけど、心が落ち着く効果がある」

 早速、「竜の腹」のお土産が役に立った。


「ありがとう」


 手首に付けてあげると、すぐに解けてしまった。他の精神魔法でもかかっているのか。


 パンッ!


 両手を叩いてヘルミにかけられた魔法を解く。彼女の目を覗き見て、正気かどうか確認。再び手首にミサンガをつけると今度はちゃんと結べた。


 棺の中の死体を見ると、外傷もなくきれいなまま。畑の作業中に持病の悪化で突然死したと聞いていた通りだ。干からびてはいるが、足元に土がついていなかった。

ということは、彼女が見ていたのはこの死体ではない。幻覚か、それとも誰かが化けていたのか。


「明らかにおかしいね。たぶん、死体にミスリルを刺しても意味がないようだ」

土地を狙っているのだとしたら、犯人はヘルミを殺しているはずだ。

「ダメですか?」

「うん。狙われているのはヘルミ。君だ。最近、久しぶりに会った人や新しく出会った人はいないか?」

「ん~、父さんのお葬式で来た人は何人かいますけど……。あとは土地を買いに来る人とか。あ、山で害獣が出た時に冒険者が何人か立ち寄ってはいました」

「お葬式であった人に何か貰った?」

「香典と思い出の品は貰いましたけど……」


 貰ったものを見せてもらったら、倉庫に鉢植えや鞄、それからお酒の壺などいろいろなものがあった。まじないのアクセサリーもあるようだが、呪いがかかっているようには見えない。人望がある人だったのだろう。


「お父さんに何か託されたりしてないかい?」

「畑くらいです。でも、私を狙っても何も出ませんよ」

「恨まれたりするようなことは?」

「していないはずです。それほど、田舎に事件はありませんから」


 敵は、幻惑魔法か変身魔法を使う誰かだ。土地ではない何かを狙っている。事件の鍵はヘルミ本人。もし、賊であれば俺一人では心もとない。


「やっぱり、ケシミアたちも呼ぼう」


 ヘルミも一人にはさせておけないので塔へと一緒に帰った。

 ケシミアに事情を説明したら、呆れている。


「塔へ来る時に犯人が来たなら、朝からやり直せばいいじゃない」


 1日を繰り返せば、出来るか。


「ああ、そうか。そうなるとヘルミは……?」

「家で気絶しているんでしょ」

「いや、ちょっと待て、それだと俺たちも朝からやり直すはめになるんじゃないか。もう移動はたくさんだよ」

「ああ、それは面倒くさい」

「いったい何を話していらっしゃるんです……?」


 塔の秘密を知らないヘルミは困惑していた。


「だったら、一晩ヘルミをここに泊めよう。捜査は明日からにすればいい。少なくとも身の安全は確保できるし」

「そうだな。悪いけど、一晩ここに泊まってくれ」

「わかりました」

 ヘルミは戸惑いながらも頷いていた。

  

「なにか事件ですか?」

 コルベルが階段を下りてきた。

「うん。事件だけど、捜査は明日からにする。朝飯前かと思ったら、いろいろややこしい事情があるらしいから」

「すみません」

 ヘルミは申し訳なさそうに謝っていた。


「大丈夫ですよ。この人たちは冒険家。旅に出ていない間はただの暇人なんですから」

「なんだって?」

「そう日記に書いてありましたよ」

 コルベルが日記を見せてきた。

先輩の日記は大量に保管されているが、背表紙が他のものと違う。見たことがない日記だ。先輩も冒険家だったのか。白骨が埋まっている墓を見たが、返事はない。死人がしゃべり始めたら、面倒なことが多くなる。


「その日記、どこにあった?」

「いや、机の引き出しに入ってましたよ」

「表紙の革が足りなかったのかな」

「幻惑魔術師の日記なんてどうでもいいよ。酒も飲めないんだし、夕飯食って寝よう。私は移動で疲れちまったんだ」

 ケシミアは文句を言っている。


「料理なら私がしましょうか?」


 ヘルミが泊めてもらう代わりに料理を振舞ってくれることに。

 農家の娘だからか野菜を切るのが上手く、煮込み料理が格別に美味しかった。



 翌日、塔の周りに足の形が違う足跡をいくつも見つけた。藪は刃物で切られているし、木の幹には爪で引っ搔いたような跡もある。


「犯人は複数か。ヘルミを連れて来ておいてよかったね」

「どうして塔に来なかったんです?」

 コルベルが聞いてきた。

「魔法で塔を見つけられなかったんだ」


 村に行って、不審な者たちがいなかったか聞こうとしたら、酒場の店主がヘルミを見て驚いていた。


「ヘルミ、いたんじゃないか! 行方知れずになったって捜索願が出されていたよ。また攫われたんじゃないかって心配してたんだ」

「え? 捜索願って誰が出したの?」

「いや、それはわからないけど……」


 ヘルミを探しに来ていた衛兵がいたので、すぐに生存していることを報告。


「誰が捜索願なんか?」

「父親だと聞いている」

「父は死にました」

「え? そんな……。じゃ、あれは誰が……」


 ヘルミの父に化けている奴がいる。

 とにかく状況を把握したいという衛兵を引き連れて、ヘルミの家に向かった。


 倉庫は荒らされ、遺品や思い出の品の鉢植えも壊されていた。

 家の扉はこじ開けられ、墓から棺が取り出されている。ただし、遺体には外傷がないものの、着ていた死に装束は破かれていた。


「犯人は、いよいよなりふり構わなくなってきたな」


 ケシミアが笑みを浮かべている。


「一晩でこれか?」

 衛兵がヘルミに聞いていた。

「ええ、ミストさんに匿ってもらわなければ、殺されていたかもしれません」

「これは一斉捜査だな。賊の目的は?」

「わかりません」

「妙なことはなかったか?」

「父親が死んでから、毎日枕元に立っていました。それで、ミストさんに助けを求めて……」


 ヘルミが衛兵に事情を説明している間、俺たちは賊の探している物を予想した。


「土地の権利書でしょうか?」

「鉢植えまで壊しているんだから、小さい物なんじゃないか?」

「金目の物に手を付けていない。アクセサリーがそのままだ。金銭欲と性欲以外を求める犯人か。名誉かな」


 倉庫にあった酒の壺は割られていない。よかった。


「酒を狙うんじゃない」

「すまん。癖だ」

「千里眼の魔法で犯人の探しているものがわからないかな?」

「物がわからないと探しようがない」


 ヘルミの話が終わり、衛兵が近づいてきた。


「お二人は冒険家なんですか?」

「そうだね」

「一応、冒険者は辞めさせられたよ」


 俺とケシミアが答えると、衛兵が驚いていた。


「なにかおかしいか?」

「いえ、噂の冒険家を見て嬉しいだけです」

「噂になってるんですか?」

「知りませんか? たぶん王都に近い町では異例尽くしの冒険家が旅に出たと噂が立っていますよ」

「旅からは戻ってきたんだ」

「そのようですね。帰ってきたらしいという情報も出回っています。財宝は見つけましたか?」

「見つけたけど、持って帰っては来ていないよ。その土地の観光資源になっている。もしかして犯人の狙いって、俺たちが持って帰ってきた財宝じゃないよね?」

「わかりませんが、可能性はあります」

「でも、ヘルミの父親が亡くなったのは、旅の最中だよ」

「そうですよね。上にも情報を共有しておかないと……」


 衛兵はそう言って、ヘルミと一緒に村へと戻っていった。ヘルミは衛兵たちが保護するという。


「さて、犯人をぶちのめすか?」

「そうだな」

「どうやって、犯人を見つけるんです?」

「来るのがわかってるだろう?」


 俺とケシミアは倉庫を指さした。


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