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役立たずと言われた幻惑魔術師が、落ち込み過ぎて最強になる  作者: 花黒子


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11話:古代の呼び声は幻か


 夜明けとともに、お茶の香りで起きた。

 考古学者見習のギオルが仕事に出かけるという。


「近くに村があるのか?」

「いや、町があるんだ。一緒に行くかい?」

「ああ、頼む。できるだけ、いろんなものが見たいんだ」


 甘いお茶を飲み、4人で町へと向かう。

 ザラスは学校で講師の仕事をしているが、受け持っている講義は少ないのだとか。


「だから、遺跡発掘の費用はほとんどギオルくんの稼ぎに頼っている」

「何の仕事をしてるんだい?」

 素朴な疑問だ。


「楽器を弾いてるんだ」

「楽器って?」

「弦楽器とか太鼓とか、なんでもかな……」


 そんな仕事で稼げるのか聞こうとして止めた。

 国が違えば需要も違う。余計なことを言わずに、見に行ってみたい。


「見に行ってもいいかな?」

「いいよ。全部来る?」

「全部?」


 町は草原の中にあった。町人の半数が馬飼いで、草原に移動しながら住んでいるという。建物は石造りと、ユルトという大きくしっかりとしたテントが半々ほど。

 馬飼いが来ている間は競馬が盛んで、ギオルが叩く太鼓で観客を盛り上げるのだとか。


「朝は教会でモリンホールっていう弦楽器を弾いて、昼は競馬場で太鼓、夕方呼ばれれば闘技場に行くこともある」

「彼が楽器を弾くと人が集まるからね。引っ張りだこさ。それじゃ、後で」


 ザラスと分かれて、俺たちはギオルについていく。


 石造りの教会にはすでに人が集まっていて、僧侶の説法の前にギオルが弦楽器を演奏する。宗教違いの俺たちは外で待っていたが、老若男女が続々と教会に集まっていた。


 カラーン。


 鐘が鳴り響き、歩いていた人も祈りを捧げるように胸に手を当てて目をつぶっていた。町から他の音が消えたかのようだ。


 鐘の音が終わると、弦の音が教会から聞こえてきた。外で聞いていても、心が洗われるような音が響いている。


「上手い」

 ケシミアもただただ感動していた。

「それ以上に何か惹きつけるものがあるな」


 説法が終わり、ギオルが出てくると人が群がってプレゼントを渡していた。


「夜は気づかなかったけど、確かに整った顔立ちをしているよね?」

「楽器も美味くて顔がよければ人気になるか。あのケープは朝からしていたか?」

 ギオルは白地に赤い模様が描かれたケープを羽織っている。

「さあ? 着てたんじゃないの?」

「あ、プレゼントが持ち切れなくなってる」


 俺たちが奏者見習いとしてギオルの荷物を持つことにした。


「ごめんね。関係ないのに」

「いや、すごい人気だ」

「いい演奏だったよ」


 褒められても、ギオルは苦笑いだった。


「できるからやってるだけさ」


 音楽の才能があるのだろう。持って生まれたもので稼いでいる。


 続いて競馬場というか草原だ。

 山の麓まで行って帰ってくるという半日かけた馬のレースが始まる。馬券を売る会場には露店があり、羊肉を薄いパンで挟んだものや肉の饅頭などが売られていた。

 肉汁が焼ける音がそこら中からして、露店の裏手ではまさに羊が解体されているところだった。


「いらっしゃいませー!」

「食べなきゃ損だ! ほら、甘い果汁を絞ったミルクもあるよ!」

 露店から流れてくる匂いもすごいが、活気もすごい。酒もあったが、旅の間は禁酒だ。種類だけ確認しておく。馬乳酒という馬の乳から作った酒があるらしい。

 買って帰ろう。


 ギオルは始まりの鐘の前に、太鼓をたたいて会場を盛り上げる。

 太鼓の音が聞こえてくると、酒と露店で買ったつまみを持って、レース場をみに人が集まっていく。ギオルの太鼓の音は人を惹きつけるのだろう。


「昼のレースが始まるまで、少し暇なんだ。飯でも食べない?」

 ギオルが誘ってきた。

「いいね。この硬貨使えるかな?」

 俺は銀貨を見せた。

「大丈夫。半分になってたりしなければ、異国の銀貨でも使えるよ」


 ギオルと共に、露店で買ったものを食べながら周辺を散策。


「待っている間、他のレースもやってるんだ」


 そう言って、見せてくれたのは、馬がどれだけ荷物を運べるのかという荷物を牽くレースだった。

 馬やロバが大量の木箱を乗せた荷台を牽いている。スタート地点とゴール地点を行き来して、早く全ての木箱を運べたものが勝ちなのだそうだ。

 馬に魔法をかけたり、荷台であれば改造したり妨害行為も許されているようだった。


 騎手は鞭を叩き、どの馬も汗をかいて荷物を運んでいる中、ロバの横で「がんばれ」と言っているだけの青年がいた。そのロバの荷台にはすべての木箱が山積みに乗せられている。バランスをとる方が難しいだろうに。

 一見動かないのではないかと思うのだが、ロバは普通に歩いて牽いている。むしろ喧騒が騒がしいようで、怯えているようにさえ見えた。

 青年は何度もロバの頭や首を撫でながら、励ましている。


「変わってるだろ? 彼も発掘チームのメンバーでね」

「そうなんだ」

「がんばれー!」


 ギオルが声をかけると、手を振って答えていた。賞金もかかっているし、商人に認められれば輸送業として数年はやっていけるのに、彼に緊張感はない。


「な! 不思議な男なんだ」

「ああいう奴が世界を変えるものを作るかもしれないよ」


 そう言うと、ギオルは俺を見て驚いていた。


「そんなことわかるの?」

「一気に運ぶなんて彼とロバしかやってないことだ。考えているスケールが違うからね」

 もしかしたら彼なら塔に別の発想の幻覚を見せてくれるかもしれない。


 結局、荷物運びレースはロバの彼が最下位だった。


「途中でお腹が減ったみたいなんだ」


 レースが終わって、ロバと共に彼がやってきた。


「コルベルだ。こっちはミストとケシミア。夜中、『竜の腹』でブラックハウンドに襲われそうになったところを助けてくれたんだぜ」

「ええっ!? 大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない。これでも一応、冒険家なんだ」

「冒険家……。初めて見たよ」


 コルベルと握手をした。


「ロバに鎮静化の魔法をかけてもいいかい? まだ戸惑っているようだから」

「え、うん。ありがとう」


 俺はロバに鎮静化の魔法をかけて落ち着かせる。


「あんな大荷物を運んでいるんだから、このロバは力持ちなんだね」

「いや、そうじゃないんだ。秘密は荷台の方にある」


 荷台を見せてもらうと、荷台の板に魔法陣が描かれている。魔法学園でも見たことがないような魔法陣だった。


「これは何の魔法陣だい?」

「魔法陣なんて立派なものじゃなくて古代のまじないだよ。傾いた方向へ移動するんだ。だから、どれだけ重い荷物でも少し牽くだけで、移動できる。この荷台さえあれば、力のない老いたロバでも運べるっていうのを見せたかったんだけどなぁ」


 レースの観客にそれをわかってくれる商人はいなかったようだ。


「このまじないはどこで知ったの?」

「古代に竜の背中に住んでいた人たちが残してくれていたんだよ。竜は動くだろう。家の中にある家具が動いちゃうから、いろいろと工夫していたみたいでね。それをチームで、発掘したり、伝統的な織物から今でも使える技術を見つけているんだ」

「なるほど! ってことは、ギオルのケープも伝統的なものなのかい?」

「そうだよ。織物工房のおばばがくれたんだ」


 よくケープを見ると模様は魅了の魔法陣に似ている。魔法学園をすべて学んだ気になっていたが、伝統的な織物や「竜の腹」遺跡を発掘していると、原初的な幻惑魔法が見つかりそうだ。


 午後のレースの後、織物工房に連れて行ってもらうと、黒地のケープや茶色い靴下などが売っていた。すべての商品に幻惑魔法の魔法陣に似た模様が描かれている。


「これってすべて模様は決まってるんですか?」


 工房にいた壮年の女性に聞いた。


「そうだね。だいたい、決まってる。珍しいかい?」

「珍しいというか、俺の国ではこの模様を魔法陣と呼んでいます。たぶん、この黒いケープは姿を隠せるでしょう。こっちの靴下は足音がしなくなるはずです」

「よくわかるね。でも、この工房の品物は慣れないと疲れちゃうから、あまり人前では使わないようにって言っているよ。なのにギオルったら……」

「俺は別に疲れないよ。1日中がケープを羽織って、楽器を弾き続けられる」

 ギオルは言い訳しながら、胸を張っていた。

「ギオルは楽器の才能があるのに、魔力の才能もあるのか? 天は二物を与えるなぁ」

 羨ましい。顔も含めれば三物だ。

「どういうこと?」

「気にしないで」


 ケシミアが会話を切ってくれた。


 今日はコロシアムの仕事がないようなので、夜食を買い、そのままコルベルと共に草原の発掘拠点へと向かった。

 すでに講義を終えたザラスが地面に地図を広げていた。


「やあ、来たか。コルベルくんのレースはどうだった?」

「負けました。最下位」


 そう言うと、発掘チーム3人は大声で笑っていた。


「そう上手くいかないもんだね」

「はい。今回はいけると思ったんだけどなぁ」

「いいさ。また見つけようじゃないか」


 3人とも前向きだ。これから風がない夜中に発掘作業をするというのだから、頭が下がる。


「さて、今日はどこを発掘しようか。ミストくんたちも協力してくれるかい?」

「ええ、もちろん協力しますよ」

「それなら、魔物がいるところでもいいかもしれない」

 5人で「竜の腹」の地図を見ながら、今夜どこを探すのか決める。


「あの、まだちょっとわかってないことがあって聞いてもいいですか?」

「ん、なんだ?」

「秘宝ってなんですか?」

「秘宝は古代竜の背に乗って生活していた人たちの財産だよ」

「だったら潰されてるんじゃないですか?」

「いや、彼らは竜が倒れる前にダンジョンに自分たちの秘宝を隠したという記述が見つかってる」

「つまりダンジョンの入り口を見つければいいってことですか?」

「その通り!」

「どうした? 何か案があるのか?」

 ケシミアが俺の顔を見て聞いてきた。


「ああ、いや、千里眼の魔法で場所くらいは特定できるかと思ってさ」


 日が沈む頃、発掘作業が進み始めた。



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