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霧の中の遊園地

作者: 零 成樹

「霧の向こう側の世界って不思議だよね」

霧の向こう側は本当に想像が無限大だ。

思い描く遊園地とか、思い出のある場所、もしかしたら好きな人がいるかもとあたかもあるように想ってしまう。



「ああ、霧だ。全く辺りが見えない。」

 早朝早く起きた僕坂井成仁は、心のリフレッシュするため散歩に出ていた。今日はとても霧がかっている。

「ここ、田舎臭いし、全然人がいない…」

 僕が住んでいる京ノ島(けいのしま)東区は農業、漁業で盛んな町だ。それだから若者はとにかく少ない。学校なんて隣区の学校まで登校しないといけない。僕の祖父はこの町の大地主で、我が家はこの町では有名なほうだ。ここは車の通りが少なく、街頭は数十メートルに一本あるぐらいだ。本当に霧の向こう側が見えない。

 (…学校には行きたくはないな。)

 と心の中でつぶやいた。僕は学校ではいじめられているわけではない。僕はただ人間不信で、気軽に会話ができなく一人で過ごしている時間が長いだけなのだ。(まあ、一人が楽だし、集団行動は苦手だから…)それに幼馴染がいない。せめて僕の人生のパートナーは欲しい。

「本当に自分は恵まれていないなあ。」

 これは僕の口癖。毎日本当に言っているネガティブな男である。(直そうと思っても、なかなかそうすることができない…)僕としては友達だと思っている相手が、相手にとって僕は友達なのかと疑問を持ってしまうことが多々ある。なぜ自分はそこまで人を信じることができないのかが、今の僕の抱える悩みである。

 それともう一つ悩みがある。それは恋だ。(恋って何だ?)好きな人はもちろんいる(もちろんって何だよ!)。しかし告白しようしようと思っても、心の中の霧が邪魔をして、僕に危険信号を伝えてくる。青春とあるが、僕はその「青」というまで有意義に学校生活を過ごしてはいない。(これは俗にいう非リア充か?)

「もし、この世が自分の思い描く世界になったらなあ」と小声で言う。


 突然、霧の向こう側から誰かの声が聞こえた。人がいるのかと思い、僕は必死に霧の向こう側へ走りだした。(そこにいるのは信じ難いけど…)

「霧が深く、霧の向こう側は見えない。けど確かに人の声が聞こえる。なぜ人が少ないのに…」

 僕は声の聞こえる方角へ猛烈に走っていた。

 けれど急に声が聞こえなくなる。僕は目を細めて辺りを見渡すが、誰もいない。

「なぜ…なぜいない…どうして。確かに聞こえたはずだ。絶対いるはずだ。」

 僕は必死に人を探すが、人の気配も、声も薄っすらと消えていった。僕は体を揺さぶりながら、

「これはどういうことだ?僕、疲れているのかな…でもすぐ近くにいないはずではないのに。」


 そう思っていると、次は聞きなれた声が聞こえた。「ねえ。こっち来なよ。」

「この声、聞き覚えが…もしかして尼崎さん?」

 尼崎栞。尼崎さんは僕が言う恋について、絶賛片思い中である人だ。彼女の容姿は女優のように美しく、他学年でも人気で、いわば高嶺の花だ。僕にとっては到底手に届かない人だ。そんな彼女の恋人にはなれないだろう。

 でもんこんなところにいるはずがない。と思うも気が置けない。そして無意識で走りだしてしまった。

 いくら走っても彼女の姿は見えない。まただ。またも薄っすらと気配と声が消えていく。まただ。

「これは夢なのか。ええと…ここは…どこ…?ここは一体どこなの?」そう思っているとどんどん意識がなくなっていく。


 目を覚ますと人がたくさんいた。周りは少し暗くて見えない。でも、遊園地にいるかのように耳にメロディーが流れた。

「周りは田んぼのはず。遊園地なんて、この場所になんてないはずなのに…」

 しかし、このメロディーはまるでメリーゴーランドに乗っているときに流れてくるメロディーみたいに聞こえてきた。

「自分は乗っている感じではないけれど、メリーゴーランドにいるみたいだ。」

 僕は不思議に思った。

「ねえ、遊園地楽しいでしょ。じゃあ次はこの乗り物乗ろうよ。」

「えぇ…」

 彼女の声聞こえた。

 周りがどんどん明るくなって、僕はメリーゴーランドに乗っていた。そして、前から尼崎さんの顔がみえた。彼女が実際に僕の目の前にいる。僕の視覚にはたしかに彼女がいる。まさか彼女がここにいるなんて…

彼女は満面の笑みを浮かべて僕に話しかけてきた。彼女はとても明るく、そしてとても可愛い。そんな彼女に、僕は恋の淵に落ちた。

 疑問はたくさんある。しかし時間は次々と過ぎていく。メリーゴーランドはあっという間に終わってしまった。そして、小さいころの自分を思い出した。あの頃の自分に戻ったようだ…


「白井くん、早く行くよ。」

 僕の右手には彼女の温もり伝わってくる。少しだけ彼女の面影が見える。感触はあるが、それが実際、彼女の手なのはわからない。

 彼女に引っ張られるように前へ行く。周りもざわざわと遊園地で楽しんでいるかのように聞こえている。実際に遊園地にいるかのように…(小さいころに行って際、行ったことがない。)

「ねぇ、次これに乗ろうよ。って大丈夫?はしゃぎすぎたかな?」

「そうでもないよ、心配してくれてありがとう。」

「そうか…じゃあ、行こうか。レッツゴー!!」

 彼女は、とても僕に馴れ馴れしかった。そんな彼女の一面に好きでたまらない。

 ガンタンゴトンガンタンゴトン、と耳の奥底まで聞こえてくる。ジェットコースターだ。(ぼくはあまり好きではない。だって一人専用の席がないのだから。けど、君と乗っているなら、それでも楽しい。)

 ジェットコースターは次第に角度を変える。もう始まるのだろう。ジェットコースターは徐々にスピードを速める。目を閉じて、前は見えない。けど、彼女の声はきちんと聞き取れる。まるで乗っているみたいに…。

 ジェットコースターはすぐに一周した。本当に時間が過ぎるのは早い。もう一度乗りたいなあと心の中で思った。

「ジェットコースター楽しかったね。じゃ次はこれ乗ろうよ。」

 僕の手には彼女の手の温もりをまた感じる。

(もうそこにいるみたいだ。彼女とデートしているみたいだ。そう思うと楽しいなあ。)


 時間はあっという間に過ぎ、あたりは暗く、遊園地の中央広場ではナイトショーが始まっていた。しかし、僕たちは、観覧車からみようと、夜の観覧車に乗っていた。

「いい眺めだね。夜景ってこんなに素敵だったなんてね。」

「そ、そうだね。」

 二人きりが恥ずかしくて、彼女の顔が見えない。いや、夜景が彼女をライトアップしているからだろうか。とにかく彼女は夜でも美しく、まさに僕にとっては太陽みたいな存在だった。

しばらく会話はなく沈黙であったが、急に

「ねえ、君。君はどうして言わないの?」

「えぇ、何を?」

「君はジェットコースターをもう一度乗ってみたいと思ったとか、私といてとても楽しいっとか。いや、私のことが…そう君の顔に書いているよ。」

「そんなばかな。ちゃんと洗顔したはずなのに。」

「そうじゃないよ。君の心の声ただ漏れだよ。顔ですぐ分かるよ。」

 恥ずかしい。彼女は最初から見抜いていたに違いない。僕の心の中を…恥ずかしくて、彼女の顔が見ることができない。

「君、勇気出してもいいじゃないの?」

「勇気ってなんの勇気?」

「もう、私に言わせないで!」

彼女は何を言いたいのかは分からんでもない。でも彼女は…

「けど、その1歩踏み出すのはつらいよね。だから私から君にアドバイス。私感銘を受けた言葉があるの。『何もせずに後悔するより、やって後悔したほうがいい』という言葉、私もそうだなって思ったよ。私もやらなくて後悔したことがあったの。あの時やっておけばと思ったよ。君の立ちはだかる壁を乗り越えてたら、君の心の中の霧はなくなるかもしれないよ。後先考えずに、自分の勇気を信じて!」

 彼女の声は暖かかく情熱的で、眩しいかった。そして僕の中の霧に、勇気の光が射すように…やっと自分の道が見えるようになった。二度とこの道は決して見逃すわけにはいかない。絶対に…絶対に…君を…。


 観覧車が頂上に上りつめたとき、一瞬にしてあたりが暗くなった。彼女の気配もそれに連なって消えていった。

 急に僕は落とし穴のように、スポッと抜け落ち、あたりが見えないまま。落ちて行った。

 何が起こっているかわからない。でもずっと落ちている。嗅覚も味覚、聴力らが感じられない。ただ、体に感じる感覚、それとあたりが真っ暗だけ分かる。そして、だんだん意識がなくなり、目を閉じた。


 再び目を開けると、次はあたりが真っ白に包まれていた。突然白い霧から、僕の目の前に黒い影が現れ、ただひたすらにこっちに向かっているかのように歩いてきた。

「君は…」

「ええ、今何て…」

 黒い影は一向に姿を見せない。ただ僕より大きいことは確かだ。

「君は見すぎてしまった。君は恵まれている存在だ。だから、ここでころ…えぇ…君は。まさか生きていたなんて。()()()()()()()()()()()()()。君は帰るべきだ。」

 彼は何を言っているのかが分からない。そう思った途端、何か刃物で刺されたかのように痛みを感じた。そして力が入らなくなり、また僕は意識を失ってしまった。


 僕は、ある公園のベンチに座っていた。ジャージ姿で出かけた僕は少し汚れていたが、別にケガはしていなかった。なぜここにいたのか分からない。明日から学校だ。勇気出して頑張ろうか。ぼくは心の中で深く誓った。(()()()()()()()()()()()()()()?)


 放課後、尼崎栞さんに告白した。だけどはっきり断られた。仕方ない。でも、僕は決してくじけなかった。(泣きたかった。しかし、泣くことはもうやめようと思った。()()()()()()()()()()()()()。)

 放課後特にやることがなかったため、辺りを散策していた。今まで見たことのない場所まで行った。河川、神社や昔ながらの古本屋、本当にどこまでも行った。そして帰り道、今朝ベンチで座っていた公園近くにある広い空き地が見えてきた。ボロボロの店や自動販売機、遊具がいっぱいあった。とても居心地が悪かった。この場所は、町のある噂で恐れられているところだ。毎年、この町の人がこの時期において、謎に失踪している。けれど、今年はそのようなことはなかった。もうこんなことは起きませんようにと心の中で願う。

 帰ろうとしたところ、見ていた空き地が霧に隠れた。何か向こうから子供の声が聞こえる。なにか懐かしかった。誰かと過ごしていたみたいに。



これ以降、この事件は起こることはなくなった。

そして、僕は二十歳になる。

小さいころ父親は亡くなり、成人したので、二十歳にの誕生日のとき祖父の意志を受け継いだ。

そして、僕はこの町を絶対に去るわけにはいかない。

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