源じい物語
日本の有名な古典である『源氏物語』。
その主人公「光源氏」の様にモテモテのお爺さん「源じい」。
そのお爺さんはただの農夫である。源じいは外にも複数の女性と関係をもち、合計すると子供12人をもうける。普通であるなら憎まれたり、陰口をたたかれそうな男だが、誰からも好かれていた。そんな幸せな男にもいよいよ最後の時が・・・。
果たしてその人生は、幸せであったのだろうか?
その爺さん、相当なプレイボーイである。
実の子供3人。外に6人の女性と関係をもち、家庭外に拵えた子供・・・作りに作って9人。この源じいの子供、合計12人。
そして、その12人が生んだ子供、いわゆる孫が20人。
男性にしてみれば羨望の眼差しの対象、あるいは思考の範疇を超えた男。女性にしてみれば豆腐の角に股間をぶつけて死んで欲しい、最低最悪の男という事になるのだが、この源じい・・・不思議と皆に好かれている・・・。
・・・というか愛されているのだ。
この爺さん、イギリスの紳士の様に長身で、背中も曲がっていない八頭身。口ひげを生やし、生地の良いスーツを着て颯爽と街を歩く、まるでスパイ映画に出てくる役者がそのまま年をとった様な、誰が見ても格好が良い爺様・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・と想像するかもしれないが、全く違う。
黒縁眼鏡に禿げ頭、細い体幹を支える腰は曲がり、無精ひげを生やし、いつも同じ様なズボンとシャツ、そしてゴム長を履いている。ただの地元の農夫だ。
何故そんなにモテるのか・・・?
それは、スーパーマンなのだ。
とはいっても、大きい「S」のマークをつけたタイトな服を着て、悪者を退治するスーパーマンではない。
ただ、何もかもできる男なのである。
例をあげればきりがないのだが、例えば・・・、本職の野菜作り、勉強、ゴルフ、料理、生け花、バイオリンなどの楽器類・・・などなど、全てを超一流にこなしてしまうのだ。
源じいの作った野菜は他の農家で作られた物とは比較にならない程、美味しく美しい。そして、つい先日調べてもらったIQは200近くあり、ゴルフも未だにドライバーで300ヤード近く飛ばす。料理を作れば食べた者全員が涙を流し、御花を活ければカリスマ華道家を卒倒させ、楽器を鳴らせば小鳥達が集まり源じいの姿が見えない位揉みくちゃにする・・・こんな具合なのだ。
そして、何より・・・誰よりも飾らず気さくで底抜けに優しかった。
頼まれた事には決して嫌とは言わず、その人の感情をよく理解し、理解した上で発した言葉には天使が宿っているかのようだ。自分の時間を大して持たず、怒る者にはよく話を聞いて優しく諭し、喜ぶ者とは一緒に乱舞し、哀しむ者にはギターを奏で、楽しむ者とは顔を見合わせて大爆笑。そんな男なのだ。
欠点といえば・・・やはり女性に弱いという事であろう。情を作ってしまった美しい女性に涙を流され、露骨にセクシーな仕草で言い寄られると、IQ200の脳みそが無意味に異常に働きだす。そしてすぐさまオーバーヒートを起こし、本能がツルリときれいにむき出しになるのだ。
それともう一つ。欠点ではないが、癖・・・、いや特徴とでもいうべき事がある。それは、源じいはショックな出来事に遭遇すると、瞳をぐるりと上へ回転させ白目になってしまうのだ。それは、それは、見事な白目になるそうである。
この癖、は源じいの本当の家族であっても見た者は少ない。
源じいは大地主の農家に生まれる。そして、小さい頃から色々な方面で頭角を表し、天童と呼び声が高く鳴り物入りで高校に入学。一年生から生徒会長に抜擢され超優等生として活躍し、誰からも尊敬の眼差しで見られていた。
そんなスーパー高校生の源じいも、普通の高校生と同じ様にある女学生に恋心を抱く。全てをパーフェクトにこなし人間関係も良好な源じいも、その女学生と話をする時だけ、源じいのスーパーコンピューターが例の如く異常に働きだし、何を想像しているのか目が座り異様な顔つきになってしまうのであった。結局怖がられ、廊下で会っても避けられる始末。無残にも源じいの初恋は破れてしまうのである。そして接吻も未経験のまま卒業し、18歳で家業を継いだ。源じいはその後、近くの農家の娘さんであった「菊」と二十歳の時にお見合いをして結婚する。源じいはこのお菊さんという女性を本当に心から尊敬し、・・・そして愛していた。
そのお菊さんの容姿は普通。お世辞にも美人とは言えない顔の造りであったが、骨太でガッチリとした腰回りは農作業をするのにはもってこいの体格であった。しかし、源じいがこのお菊さんを妻に迎えて最も良かったと思えるものは、お菊さんの性格の良さであった。お菊さんは、まるで空気を裂いて次の駅まで突っ走る新幹線のように前向きで力強い性格であった。それに加え、太陽のようにまともに見たら目を開けてはいられない位の明るさをもち、波の無いモルジブの海のように心を和ませる程おおらかで、真冬のコタツのように身も心の芯までも温める優しさを持っていた。源じいが今まで五体満足で生きてこられたのも、この女性が妻であったからこそである。
源じいが外で大事をするようになったのは、中年になってからである。若い頃は奇麗な女性と話をすると、いつもの目が座った強張った顔を作ってしまい、怖がられ颯爽と走って逃げられていた。しかし、中年になると余裕と落ち着きが出始め、奇麗な女性と話をする時にもスーパーコンピューターを誤作動させる事が無くなった。
それからである・・・。
源じいは容姿も普通の優しそうなおじさんであったので、女性も安心して心を開き話をする。そして、元来もっている底抜けな優しさで世話を焼いてくれる。何でもできるので様々な事を助けてくれる。さりげなく笑わせてくれる。そんな源じいに好意を持つ・・・、源じいを好きになる・・・、源じいが乱心する・・・、子供ができる・・・。こんな具合だ。
お菊さんは、源じいが外で多数の女性と関係を持ち、大事に至ってしまっても何も言わなかった。怒った態度もしない。無視もしない。近所の奥さん方にも愚痴らない。それどころか、源じいが朝帰りをしても笑顔で朝御飯をだし、時には源じいが外で拵えた子供の面倒をみてやり、源じいが外で関係をもった女性の家におかずをお裾分けした。お菊さんはそんな女性であった。
さて、源じいと関係を持った外の6人の女性と源じいは、もちろんそれぞれ馴れ初めがあり、それぞれドラマチックな物語があるのだが、長くなるのでここでは女性の特徴だけ触れておく事にする。
まずは、源じい36歳の時。相手の名前は「福さん」。当時24歳。近くの農家の嫁さんであったが、早くに夫を亡くした。目が細く、長い黒髪の日本美人。とにかく寂しがりやの泣き虫で時にかんしゃくを起こす。
源じい40歳の時、相手の名前は「良子」。当時28歳。長女の幼稚園の先生である。ぽっちゃりしていて、目が大きい。とても優しいが落ち込みやすい性格で、人を心配させる。
源じい43歳の時、相手の名前は「松江」。当時43歳。源じいの中学校の同級生である。誰が見ても美人であるが気が強く、しっかり者でプライドが高すぎるので、付き合う男性にいつも逃げられてしまう。
源じい57歳の時、相手の名前は「優子」当時24歳。保険会社の外交員である。ミス○○大学であった程、器量がよい。そして、とにかく明るく優しい性格。自分を犠牲にしてまで人の幸せを優先させてしまう。
源じい65歳の時、相手の名前は「奈津子」当時30歳。コンビニの定員。二度の離婚経験。影が薄いがよく見ると美人。いつもどうしようもない男ばかりを選んでしまう。あまり物事を深く考えない大雑把な性格。働き者。
源じい69歳の時、相手の名前は「優奈」当時25歳。元モデル。おっとりしているというかボーっとしていて、いつも誰かに騙されてしまう。甘え上手。
美人ばかりである。しかもこの女性達は皆、源じい恋しさ故に源じいの家の近くに引っ越してきてしまうのだ。源じいは複雑な心境であったろう。気が気ではなかったはずだ。本妻のお菊さんの事もあるが、世間体もある・・・。
だが、不思議な事に誰もが源じいのこの件について、なんとなく当たり前の事として、普通に生活の一部として取り入れてしまうのだ。
そんなこんなであったが、とうとう源じいは72歳の時に、最高のパートナー、というか理解者、いや違う・・・。全てを受け入れ許してくれる、源じいにとって観音様のような存在であったお菊さんを病気で亡くしてしまうのである。
生まれつきの心臓の病気によるものであったようだ・・・。
お菊さんのお通夜は圧巻であった。やはり人柄によるものであろう。お別れを言いに来た人が、まるで年が明けてすぐの神社の様にごった返した。そして、あろうことに外の女達も、そしてその子供達、孫達までも全員が出席した。というかしてしまったのだ。女達の子供達はまだしも、お菊さんに迷惑や心労をかけ続けたその女達は、普通ならば考え悩んだ末に遠慮するはずである。
この事態に源じいの本当の家族や親戚達はどういう態度をとってよいのかわからない。皆、ひきつった笑顔を作り積極的に彼女達に関わる事を避けていた。外の女達自身も、源じいの本当の家族にうとまられる事はよくわかっていた。しかし、お菊さんへの感謝の気持ち、尊敬の思い、そしてなにより源じいのお菊さんへの深い揺るぎない愛情を、歯がゆいながらもわかっていたのであろう、元気を無くしている源じいの側に我先にと次々に集まってゆく。源じいの側で小競り合いを繰り返しながら皆で涙を流している。その子供達がぼつぼつとそんな彼女達をなだめに入るが、その事がかえってくすぶり苛立っている彼女達に火をつけてしまい、とうとう修羅場に突入。
喪服のバトルロイヤルが開始された。
髪を引っ張る、ひっぱたく、罵声を浴びせる、噛みつく、フォールをとりにゆく・・・。その一部始終を見つめるお菊さんの遺影はなんだか楽しそうに笑っているようだ。
そんな騒ぎを横目に源じいは窓の外の上弦の月を眺めている。
仏事がひと段落ついた。源じいはその間、涙一粒流さなかった。悲しむ顔もしない。いつもと同じ、春の柔らかい風に吹かれているような表情だ。それを非情と見た親戚たちはとうとう呆れ果て、怒りをあらわにした。
「なんというお人じゃ。人でなしとはこの人のことじゃ。」
「こんな人だとは思わんかったわ。」
皆、口々に源じいを非難する言葉を吐き捨てると乱暴な音をたて、出て行ってしまった。でも、長男とその嫁は、そんな親戚達に丁寧にお礼を言っていそいそと見送りに行き深々と頭を下げた。
「あんた達も、あの人の為にこんな事をする必要ないぞ。」
そんな事を言われても、長男夫婦はただ頭を下げるだけであった。長男夫婦は分かっていた。源じいの胸に開いた底の見えない穴に、轟音を響かせて流れ込む涙の音が聞こえるのだ。
お菊さんが天国へ旅立ち、そしてそれを機に仕事を引退した源じいは、財産と莫大な土地を全て本当の子供達と外の女性達に分け与えてしまった。今は住む家さえ持ってはいない。籍は実の長男の家に入ってはいるが、定住はしていないのだ。長男の家には源じい自身の部屋も無ければ、歯ブラシ一本ない。長男やその嫁さんが意地悪をしてそうなっているのではない。自ら申し出たのだった。登山用の大きいリュックに生活に必要なものを一式入れ、12人の子供や孫達の家を順番に放浪している。外の女達の所にも行くには行くのだが、決して夜は明かさなかった。他に出掛けるとすれば、月に一、二度近場の温泉地へ湯治の為に一人でぷらりと行くぐらいであった。
源じいが皆の所へ行けば、相変わらず皆に喜ばれる。
「やあ、源じいがきたぞ。」
「源じい、おかえり。」
「源じい、源じい・・・。」
何でも頼めば喜んでやってくれるし、何でも聞けば素晴らしい答えが返ってくるので、小さい悩み事も大きい悩み事もすぐさま解決する。そして、常に他人の笑顔を求め、皆の幸せを切に追及している。源じいのいるところはいつも暖かく、気が付くと美しく薄いピンク色に染め上がった桜の花が満開になるのだ。
ある時、源じいは男友人と公園のベンチでお茶を飲みながら話をしていた。
「源じいはいいやなぁ、死ぬときは大勢の愛する人達に囲まれて死ぬんだろうからさ。」
「いやぁ、死ぬ時ぐらい一人で静かに逝きたいよ・・・。」
「静かに色々考えてさぁ、吾輩の人生、結局は成功であったか失敗であったか・・・。」
「なんだいそれは?死ぬ時はそんな暇ないさ、第一どうでもいいだろうそんな事、はっはっはっ・・・」
いつも元気な源じいであったが、81歳を迎えたその翌日、とうとう倒れた。
例年にない位に木々の葉が美しく色づく秋であった。
誕生日の前日からバースデイ・イブと称し、長男の家で昼間から誕生日を盛大に祝ってもらい、寿司を食べ、ビールをたらふく飲んだ。そのままの勢いで一番目の愛人「福さん」との子供の家に向かい、すき焼きを大いに食べ、焼酎で夜半までどんちゃん騒ぎ。誕生日の朝は勢いそのままに二番目の愛人「良子」の孫の家にて、和食の朝食パーティー・・・お屠蘇で厳かに祝ってもらう。その昼は三番目の愛人「松江」の家にて、イタリアンランチ・・・お洒落にワインで祝ってもらい。その夕方には四番目の愛人「優子」の家にておやつパーティー・・・フルーツタルトとワインクーラーで可愛く祝ってもらう。その夜は五番目の愛人「奈津子」との子供の家にて中華パーティー・・・紹興酒で抑え気味に祝ってもらい。次の朝は六番目の愛人「優奈」の家での遅めのブランチパーティー・・・ウイスキーをたっぷりと入れたアイリッシュコーヒーでゆったりと祝ってもらった。
そして、その帰り道に倒れた。
路上にゆっくりと両膝をつき天を見上げた。その顔は・・・ゆったりと魂の芯まで温まる事ができた風呂上りに、程よく冷えたビールを五臓六腑に染み込ませた時の様な至福の顔つきであった。その後、音も立てずに前のめりに倒れた。
救急車で病院に着いた時にはすでに意識がなく、即座に処置室に運ばれ、そして検査を受けた。
結果は脳内出血であった。
長男が看護師に呼ばれた。部屋に入るとそこには口髭の先端が偉そうにクルリと上にはねあがった、つぶらな瞳の医師が座っていた。
「御長男さんでいらっしゃいますか?これがお父様の頭のCTの画像です。ご覧ください、ここに大きな出血があります。脳のこの部分は生命の営みを保つ上で重要な箇所でありまして・・・、体も相当弱っているご様子・・・、誠に残念ながら・・・。」
脳幹出血というものらしい。それを聞いた長男は、しばらくベッドの上の源じいを見つめながら呆然としていた。
しばらくして、そんな長男に看護師が優しく声をかけた。長男は驚いたように顔を上げ、看護師のその問いに細かく頷くと、静かに二つ折りの携帯を開け皆にメールをうった。
「源じい危篤。すぐさま中央病院に来るべし。」
源じいは気管を切開し人工呼吸器をつけられて個室に横たわっていた。源じいの生命をモニターしている電子音だけが聞こえる。
そんな中、続々と叫び声をあげながら外の女達が入ってきた。
「いや~!」
「ぎゃあ~!」
半狂乱になって横たわる源じいに次々に抱きつく女達。その女達6人が源じいの側にそろうと、例のごとく小競り合いを始めた。源じいの首元へのポジション取りだ。最初は差し手争いからの引っ張り合い、徐々に体を入れ始め、だんだんと体当たりが強烈になっていった。そして、やはり最後にはバトルロイヤルへと発展した。それを予想していたのか、部屋の隅で体の側屈や足の屈伸を繰り返し体をほぐしていた長男が神妙な顔つきで、火花散る嵐の中に入っていった。それに慌てて続く看護師・・・直ぐにもみくちゃにされ、二人伴痛々しい有様になっている。
「何をしているのかね!」
騒がしい音に驚いて入ってきた医者が、この有様を見て慌てた声色で叫んだ。そんな医者の胸ぐらを掴み、力いっぱい揺さぶる女がいる・・・福さんだ。
「ドジョウみたいな顔してないで、なんとかしなさいよ!」
福さんが暴れている脇で、何に使うのであろうか除細動装置のスイッチを必死に入れようとしている女がいる・・・優子だ。腰を低くして注射器を構えている女達がいる・・・松江と奈津子だ。お互い間合いを測りながら円を描き、睨み合っている。良子の大きくふりかぶったピンタにカウンターピンタを合わせ、良子をふらつかせる一見細身のハードパンチャー優奈。
福さんはしわしわの両腕に医者と看護師の頭を抱えて振り回している。優子は除細動装置の充電が終わると福さんを止めようと必死になっている、シャツがめくれ背中があらわになった長男に何故か放電した。松江と奈津子の注射器の打ち合いはお互い相討ち。二人とも注射器が左肩にぷらぷらとぶらさがっていて、両者とも顔面蒼白でふらふらしている。注射器の中身はどうやら強心剤のエピネフリンであったらしい。優奈のカウンターをくらった良子はグロッキーになっていて、優奈の両手を使ったピンタのラッシュに防戦一方だ。
そんな大荒れの病室に、知らせを聞き駆け付けたその子供達や孫たちが騒ぎに気づきなだれこんできた。そんな騒ぎの真ん中で、源じいは横たわっている。時々、ベッドに誰かがぶつかり源じいの横たわる体が揺れる。
意識はないはずだ・・・、しかし、この騒ぎが耳に入っているのか・・・それとも病気のせいか・・・
源じいは見事な白目をむいていた。この見事な白目に病室の中にいる皆は気づかない。
そして、こんな言葉が源じいの乾いてしまった口元から聞こえてきた。
「紅葉舞う 静けし川面 我眺む 騒がし鳥達・・・・・だまらっしゃい・・・」
辞世の句であろう。
この句を誰も聞く事なく・・・モニターから源じいの物語が終止符を打つ、悲しい音が聞こえた。
盛大なお別れのセレモニーであった。まるで海外の有名アーチストのコンサートに押し掛けた人波の様に、御焼香に並ぶ人の列は続いた。
意外な事にお通夜も葬式も静かで、そして何事もなくたんたんと事が進んでいった。
太陽の様に皆を温め活力を与えていた存在が無くなったことで絶望し、生きてゆく気力も微塵も感じられない抜け殻となってしまった一同は、お寺の一部屋で源じいが骨になるのを待っていた。誰一人として動く気配も見せない。会話をする者もいない。部屋の外からだと、部屋の中に人が本当にいるのかわからないくらい静かであった。
するとその静けさを裂くように、ドタドタと誰かがお寺の戸をけたたましく開けて玄関に入って来た。そして、その足音が一同のいる部屋の前で止まると、襖が力強く開いた。
「源ジイ~。」
皆が顔を一斉に上げ、声のする方に顔を向けた。
そこには見知らぬ背の高い金髪の若い女性が立っていて、奇麗な青い瞳から涙をポロポロと流していた。そして、その女性の腕の中には赤ん坊が・・・。
源じいに似たその赤ん坊は青い瞳で皆を見つめ、にっこりと微笑んでいた。
おわり






