4/3 衝撃
更新日時を間違えて設定してました。
「いきなり二人で大丈夫か?ごめんな、一緒に登校するって言いだしたのは茜なのに」
「う、ううん!大丈夫大丈夫!お試しとはいえ、あたしも一応その…か、彼女だし。ただ、昨日は茜がいたから平気だったけど、やっぱり二人きりだと緊張しちゃうねっ!あはは…」
「まあな、俺もかなり緊張してるよ」
「龍星も?」
「当然だろ。会って初日で付き合って、二日目で手を繋いで登校だぞ。緊張しないのは信長みたいな奴だけだよ」
「そっか、そうだよね…」
「……」
「……」
き、気まずい…。
でもこれは慣れるしかないよなあ。
あ、あと信長、不当に貶めて正直すまんかった。
「そういえば、学食凄かったね。あたし、1年前のリニューアルより前の時しか行ったことなくて、あんなに変わってるとは思わなかった」
「へー。一年前にリニューアルしてたのか。やけに綺麗だと思ったけどそういうことか。俺は昨日が初めてだから知らなかった」
「う、うん、そうなんだよ。……あっ龍星は色々武術やってるみたいだけど」
「あーすまん亜莉紗、ちょっといいか」
「ふぇ!な、何?」
「一生懸命話題を探そうとしてくれてるのはホントにありがたいんだが、無理して会話しなくていいぞ。会話が嫌ってわけじゃなくてだな、とりあえずこの状況に慣れないか?」
「え?慣れる?」
「会話はこれからいつでも出来るさ。それより、まずは緊張しなくなるところから始めようと思うんだが、どうだ?」
「そっか…うん、確かにそうかも」
出会って二日目の亜莉紗とこんなことになっているのには、当然理由がある。
今朝、俺は茜からの着信で目が覚めた。
「…はい、もしもし」
「龍星、起きた?」
「ああ、起きたよ。おはよう」
「おはよう。突然だけど、今日はちょっと予定があるから先に登校するわね」
「なるほど、一人で行けってことね。りょーかい」
「何言ってるのよ、龍星が亜莉紗を迎えに行くに決まってるでしょ。寝ぼけてるの?」
「…すまん、まだちょっと寝ぼけてる。亜莉紗と一緒に行けばいいんだな」
「ええ、ちゃんと約束した時間には行ってあげなさいよ」
「ああ、わかってる」
「それと、ちゃんと恋人繋ぎで手も繋ぐのよ」
「へい」
「じゃあまた学校で。龍星、愛してるわ」
「うん、俺も愛してる」
その時は寝起きであまり深く考えてなかった。
だが、頭が起きるにつれ、あれ?そういえば亜莉紗と二人きり?手を繋ぐ?恋人繋ぎで?、と状況を理解していくのだった。
亜莉紗を迎えに行った時も、
「あ、龍星。おはよう」
「おはよう…」
「あれ、茜は?遅刻?」
「いや、予定があるから先に行くって」
「そうなんだ、じゃあ行こっか」
「あーうん。それでな亜莉紗、嫌じゃなきゃ手ぇ繋いでくれるか」
「っ!う、うん」
俺が差し出した手に、普通の繋ぎ方で手を繋ぐ亜莉紗。
まあ昨日はこの繋ぎ方だったし、当然だよな。
「いや、そうじゃなくて、こっちの繋ぎ方がいいな」
「っっ!りゅ、龍星ってけっこー大胆なんだね…」
「嫌か?」
「ぜ、全然!嫌じゃないよ」
「そっか、じゃあ行こうか」
という初々しいやり取りがあったわけだ。
いや、俺もさ、憑依初日に初対面の茜と普通に手を繋いだけどさ、あれは龍星という役になりきってたから出来たわけで…。
俺の素が出ればこんなもんですよ、はい。
まあ長い耳を全部真っ赤にさせる亜莉紗は可愛かったですけどね。
それにしても、茜の予定って一体なんだったんだ。
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あの後、手を繋いだまま二人で教室に入った。
亜莉紗は恥ずかしさのあまりずっと俯いていて、席に着いてすぐにどこかに行ってしまった。耐えられなくなったのだろう。
信長にも見られたが、あいつの絶望した顔はたぶん忘れられないな。
もしかして亜莉紗を狙ってたのか?あの自己紹介で?冗談だろ?
教室を見まわしてみたが、茜はいなかった。
すーーっ、はーーっ、すーーっ、はーーっ
ん?何だこの音。教室前方から深呼吸の様な音が…。
音のする方向に視線を向ける。
深呼吸の様な、ではなく、本当に深呼吸だった。
そして何故か深呼吸をしていたのは、信長曰く、俺の前の席に座っている魔族のお姫様だった。
めっちゃ肩が上下している。
え、これ大丈夫なのか?
もしかして病気?
病気なら確認したほうがいいんじゃ…。
でも、もしかしたら精神統一という可能性も…。それを邪魔して不敬罪とか勘弁だぞ。
いや、しかし本当に病気ならやばいかもだし…。
ええい、怒られたらジャパニーズドゲザだ!
いくぞっ!
意を決して王女様に話しかける。
「あの、すみません」
ビクッ!
王女の身体が一瞬跳ね上がり、そのまま硬直する。
え、もしかして心臓止めちゃった?と心配になるが、身体は小刻みに震えていた。
よかった、死んでない。驚かせただけっぽい。
「驚かせてしまい、申し訳ありません。深呼吸をされているように見えましたので、もしかして何かあったのではと思い、お声をかけさせて頂きました。ご迷惑だったでしょうか」
ここまで言えば失礼ではないだろう。
すると、ゆっくりと王女の顔だけがこちらに振り返る。
おお、流石に王女だけあって可愛い。
例えるなら狐顔といった感じだ。
魔族だから角が生えているが、狐のケモミミがあってもとても似合うだろう。
「も、もしかして、ウチに話しかけとる?」
えーーっ!!
王女様関西弁なの!?一人称、ウチかよっ!
衝撃的過ぎるよ!
しかも王女様、顔にめっちゃ警戒心を浮かべてるし、これはやっちまったか。
「え、ええ。ご迷惑でしたか?」
なんとか平静を取り繕い、返事をする。
流石に王女様にツッコミは出来ない。
まだ王女様とは確定してないけど、疑惑がある以上慎重に行動するべきだ。
「いや、全然迷惑とちゃうけど、ウチと話してくれるん?」
よかった、とりあえず迷惑ではないようだ。とりあえず一安心。
だが後半はどういう意味だ。…もしかしてあれか?アニメとかでよくある、本人はお話したいけど、王女だから誰も気軽に話しかけてくれないのが悩み、みたいな感じなのか?
そうってことだよな。そうだと信じて行動するぞ?そうだと言ってくれ。
「はい。せっかくクラスメイトですし、席も近いですから、仲良くして頂ければと思います」
「ほ、ほんま?」
まだまだ警戒しているみたいだが、王女様の表情が若干ほころぶ。
よしっ、正解引いたっぽい!
…爆弾処理班の気持ちってこんな感じなのかな。
つ、疲れるー。
「後でウチに石投げたりせぇーへん?」
投げるか!
なんだよその質問。意味が分からな過ぎて混乱するわ。
俺が投げるような奴に見えるってことか?ならショックだ…。
これ以上俺を疲弊させないでくれ。
「もし投げろと言われましても、断固拒否させて頂きます。女性に、というか人間に対して石を投げつける野蛮さは、生憎持ち合わせておりません」
「そ、そっか。じゃあ最後に聞きたいんやけど、ウチの角どない思う?」
おお、かなり警戒を解いてくれたっぽいぞ。
しかも最後の質問ときた。これさえ正解すれば爆弾解体終了だ。
慎重に行こう。最後まで気を抜くな。
だけど角かぁ。人族だから角の良し悪しはよくわかんねーよ。有っても無くても一緒だよ。ああ、魔族なんだなくらいの印象しかないよ。
だが質問するということは、きっと本人にとっては大切なことなんだろう。
しかし、わからないことを知ったかぶって答えるのは、一番の悪手だ。
わからないことは、聞く。これが鉄則だ。
今までの様子からすると、聞いたからといって怒るようなことはしないだろう。
「申し訳ありません。私は見た通り人族です。ですので、魔族が角に対してどのような意見、感情を持っているのかを知りません。よろしければ、その質問の意図をお教え頂けないでしょうか」
「………」
返事が無い。ただの魔族のようだ。
だが、王女様の顔は目が開かれ、明るさを取り戻していくように見える。
見えるが…、あれ、ルビーの様な綺麗な赤い瞳がだんだんウルウルしているような…。
え?な、泣いてる?
うっそ、ここまで来て地雷踏んだ?
マジかよ、何がダメだったんだ。
そんな風なことを考えて、俺が慌てていると、王女様が口を開く。
「ちょっとウチについて来てもらってもええやろか、頼むわ」
それだけ言うと、王女様は席を立ち上がり、教室の出入り口に向かって歩き出してしまう。
えっ、もうすぐ講義始まるんだけど…。いや、そんな言ってる場合じゃないか。
俺はいつの間にか自席に戻っていた亜莉紗に「ちょっと出てくる。先生には適当に言っといてくれ、頼む」とだけ伝えると、亜莉紗の返事を待たずに、王女様の背中を追いかける。
…俺、不敬罪で殺されたりしないよね。かなり怖いんですけど。
でも尋常な様子じゃなかったからなあ…。俺のせいで泣かせてしまった女の子を放っておくことも出来ないし…。
あー、もう!わかったよ、最後までついて行くよ!
無事に終わったら王女様のあのデカ乳揉んでやるっ!亜莉紗よりもさらにデカかったからな、揉み応えありそうだ。乳袋があると制服の上からでも大きさが正確にわかってありがたいですね!異世界バンザイだ、この野郎!!
……恐怖で頭バカになってる。
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黙ったままワープポータルも使って10分ほど歩くと、人が全くいないエリアを発見することが出来た。
王女様は完全に行き当たりばったりで歩いていた。
人の居ない方へ、居ない方へ彷徨うように歩いてたからな。
暗殺するとしたら最初から用意してある場所へ向かうだろうから、どうやら暗殺されるわけではなさそうだ。
だとしたら本当に何なのだろう。
ちょうどよくベンチを発見したらしく、その端っこへ座る王女様。
これは俺も座れってことだろう。逆側の端っこに大人しく腰を掛ける。
と思ったら、音は小さいが確かに嗚咽を上げながら、俯いて泣き出した。
ハンカチを取り出してスカートの上に置いてやると素直に使う。まあ王女様なら当然ハンカチくらい持ってるだろうけどさ。
…。
……。
長っ!もうたっぷり10分は泣いてるぞ。どんだけ泣くねん。
まあ歩き回ってる時点で講義は始まってたから別にいいけどさ。
更に5分ほど泣くと、ようやく嗚咽は止まった。
既にハンカチはグショグショだ。
…。
……。
泣き終わってからも10分ほど無言。
「あーー、泣いたわー。こんなに泣いたんひっさしぶりや。最近は何も感じへんようになっとったしな。よく考えたらそやな、君は人族やもんな。角のことなんてわかるわけないわな。ごめんなー、変なこと聞いて。今まで魔族としか喋ったことあらへんから気ぃつかんかったわ。あ、ハンカチありがとうな」
グショグショのハンカチを差し出す王女様。
大人しく受け取る俺。
「凄いこと教えてもろうて、講義までサボらせてしもうたしな。お礼はせなあかんよな。うーん、何がええんやろ。あ、おっぱい揉む?やらかいでー、ウチのたったひとつの自慢なんや」
もう無理だ。
勢いよく立ち上がり、ハンカチを地面に叩きつける。
「いや、説明しろよっ!角のことも泣いてた理由も何にもわかんねーよっ!ハンカチは普通、『汚してごめんな、洗濯して返すわ』、『いやいいよ、別に汚ないと思ってないし。絞れば使える』、『そんな訳にいかんて、ウチが恥ずかしいわ』のやり取りをしてからお前が持って帰れよっ!あとおっぱいは絶対揉むわっ!!」
「………」
俺の全身全霊のツッコミに、唖然とする王女様。ってか絶対こいつ王女なんかじゃねーわ。
ならこれくらいツッコんでも罰は当たりませんよね。
「プッ、クククッ…アッハハハハハハハハッ!ってかさっきと全然口調ちがうやん、なんで?さっきまで猫被ってたん?アッハハハハッ!それになんなん、そのハンカチのやり取り、君が考えたん?めっちゃおもろいわ。そうやな、ウチが持って帰るべきやな。アッハハハハハハッ!ヒーッ!ヒーッ!あとおっぱいのところ一番強かった。絶対揉むって意志を感じたわ。アッハハハハハハハッ!アカンお腹痛い」
しばらく笑い転げていた元王女は呼吸が荒く、ヒーヒー言っていた。てか足上げて笑ってるからショーツ丸見えだぞ。色は白だ。
本人とは正反対の清楚な色だ。
暇だった俺はハンカチを拾い、固く絞ると大量の水が滴った。
呼吸が元に戻るまでに、またしばらく時間がかかるのだった。
「あー笑ったわ。面白かったー」
「そりゃどーも。一応言っておくが、おっぱいは要らんぞ。…ああいや、別にお前の…。なあ、まずは互いに名乗ろうや。俺は咲ヶ峰龍星。龍星でいい」
「龍星な、わかったで。ウチはクリスティア、クリスって呼んでーな。それより、おっぱい要らんってなんでなん?ウチの身体、そんなに魅力ない?それなりに発育はしてるつもりなねんけど…」
「要らんと言ったのは失言だった、申し訳ない。クリスに魅力が無いってことじゃないんだ。むしろ充分、魅力的だ。前の俺なら飛びついてるだろう。だが、今の俺には二人の彼女がいてな、その娘たちを裏切るわけにはいかないんだ」
「なるほど、大事にされとるなー。羨ましいでホンマ。せやけど理由はわかったわ。ああ、そういや彼女って今日手ー繋いで登校してきた娘やろ。先に龍星に話しかけられてもうたけど、ホンマはウチが龍星に話しかけるつもりやったんや」
俺に話しかける予定だった?
先ほどまでのやり取りにそんな要素は一切感じなかったが…。
「どういうことだ?」
「いや、ほら、ウチが深呼吸してる時に龍星が話しかけてきたやろ?実はあの深呼吸な、龍星に話しかける準備やったんや」
「深呼吸が話しかける準備?意味がわからないんだが」
「ウチめっちゃ人見知りやねん。やからな、深呼吸して龍星に話しかけるぞーと思っとった時に、先に龍星に話しかけられてもうたんや」
話しかける前に深呼吸が必要とは相当だな。
「そりゃ決意を無駄にして悪かったな。発作か何かと思ってな、もしかしたら助けがいるかと思って話しかけたんだ」
「ええてええて、善意からの行動やし、結果的に龍星とこうして話せたんや。それに…、まあこっちはええわ。それよりな、そんな人見知りのウチが、どうして龍星に話しかけようと思ったかなんやけどな、昨日彼女さんにパンツ覗き魔ーって罵倒されとったやん?それがどうして今日手ーを繋いで登校してきたのかがどうしても気になってん」
「そういうことか。今日手を繋いできた彼女は、月宮亜莉紗だ。もう一人は清里茜。二人ともクリスのクラスメイトだ。良い娘達だから仲良くしてやってくれ。よかったらあとで紹介するよ。話は戻るが、実は昨日、事故で亜莉紗の下着を見てしまってな、それが原因で、昨日の暴言騒動になった。だが、そのあとにちゃんと仲直りしてな、なんやかんやあって付き合うことになったんだ。まだお試しだがな」
「えっ、紹介してくれるんかっ!?ホンマにホンマ!?」
クリスがあと数センチというところまで接近してくる。
なんだこの食いつき様、すでに亜莉紗との経緯はどうでもよくなってそうだ。
「ち、近い!紹介はするって、嘘じゃない」
「あっ、ごめんな。えーでもホンマにうれしー。ウチ今まで友達っていたことないねん。せやから絶対仲良くなったるっ!」
と、友達がいたことがない!?本当かよ。
こいつ実はとんでもなく性格が悪いのか?話してる分にはそうは思えないんだが…。
多少話しただけだが、とても人懐っこく見えるんだが俺の勘違いなのか?
「友達いないって、どんな生活だったんだよ」
「あー、そうやな、龍星には話しといた方がええか。絶対に内緒にしてくれるか?」
「内容にもよるが、俺には人の秘密を言いふらす趣味はない」
「わかった、信じるで。実はウチな、本名がクリスティア・ゼーブル・ド・ルージュ言うて、一応ルージュ魔国の第10王女やねん。あ!でもな、王女なんて名ばかりやから、敬語とか気ーつこうたりせんとってな」
ま、まじか。さっき俺が葬った設定が蘇ってきた…。
信長の情報は正しかったということか。
「あークリス、実はな、俺と茜と亜莉紗と少なくともあと一人はそのことを知ってる。最初に話しかけた時に敬語だったのはそういうことだ」
「えっ!?ホンマなん?なんでなんで?ウチ、この話はホンマに限られた人にしか言うてないのに…。どっから漏れたんやろ。えーどないしよ…」
「バレたらそんなに不味いのか?やっぱり、警備上の秘密とかか?」
「い、いや、ウチに警備なんておらんし…。こっちについてきたんは2人のメイドだけや。せやから龍星が聞いたら大した話ちゃうんやろうけど、ウチにとっては大事なことやねん」
一国の王女が留学するのに、ついてきたのがメイド2人!?
そんなことあり得るのか?
「国から来たのがメイド2人って、そこは何故か聞いていいのか?あり得ないだろ、普通」
「…もう少し待ってくれるか。龍星にはいつか必ず話すから」
「そうか、別に言いたくないことを話す必要は無いさ。言いたくなったら言えばいい。じゃあ話を戻そう。クリスにとって大事なことって何だ?それも言えないか?」
「ホンマに大した理由ちゃうで、もしバレたらみーんな遠慮して仲良うしてくれへんかもやろ。だから隠したかったっちゅうだけや」
なるほど、クリスにとって友達はそこまで大事ってことか。
まあ今まで友達がいなかったというなら納得できる。
友達を作るくらい協力してやりたいが…。
「クリス、今の時点で話せることを全部聞かせてくれないか。とりあえず俺はクリスを友達だと思ってるし、茜と亜莉紗もきっと友達になってくれるはずだ。その上で、話を聞けばまだ何か出来ることがあるかもしれん」
「…ウチ、龍星と友達なん?」
「嫌か?ここまで秘密を話して友達じゃないなんて、逆に不自然だと思うんだが」
「い、嫌じゃない!嫌なわけないっ!」
言い終わると同時に、クリスが抱きついてくる。
ぐぇ。突然すぎて避けられなかった。
しかしおっぱいデカいなこいつ。
「お、おい抱きつくな!」
「友達初めてできたわっ!ありがとう龍星!」
意外と力が強い。振りほどけない。
まぁいいか、気の済むまで好きにさせよう。18歳で初めての友達だしな。俺には想像もつかん程嬉しいんだろう。
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「ねえ龍星、龍星の彼女さんも友達になってくれるかな」
俺に抱きついたままで問いかけてくるクリス。
「俺にはもったいないくらいの良い娘たちだ。俺は何の心配もしてないな。まあこの光景を見られた場合はわからんが」
「もうちょっとだけ」
「どうぞご自由に。それより、もう話せることは無いのか?」
「どこまで話したっけ」
会話が飛び飛びだったからな。
えーと、確か、
「クリスが王女、王女のことを隠してる理由、メイドが2人だけ、今まで友達が1人もいなかった、俺に話しかけようとした理由、くらいだな」
「龍星は何が聞きたいん?」
「友達がいなかった理由だな、正直、お前に友達がいなかったというのが信じられん。何か理由があるんだろ?」
「簡単や、ずっと王宮に引き籠っとただけや。勉強は全部家庭教師や」
「なるほどな、出会いがなかったわけか。ちなみに引き籠ってた理由は聞いていいのか?」
クリスは答えない。
「わかった、聞かない。あともう一つ。クリスは王女であることを隠したかったんだろう?それがどこから漏れてるか調べた方がいいか?」
「んー。いや、ええわ。調べたところで、止めるのはどうせもう無理やろ」
「かもなぁ。今何人が知ってるのかもわからんしな」
「それに、ウチも知ってる人に言わんで下さい、とは言ってなかったしな」
あーそれじゃあ漏れるのも仕方のないことかもしれない。
王女が留学してきたなんて、普通はビッグニュースだからな。
「そんなことよりも、ウチ龍星にお願いがあんねん」
「お願い?」
「ほら、ウチ龍星が初めての友達やろ?だからな、友達と帰りに買い食いとか、休みに遊びにいったりしてみたいねん」
当然だが、そんなこともしたことないのか。
少し、悲しくなってくる。
俺に出来ることなんて少ないだろうが、出来る限りのことはしてやりたい。
「なんだ、そんなことか。なら今日の帰りはどうだ」
「ええの!?」
「帰りなら茜と亜莉紗も一緒だしな」
「めっちゃ嬉しいっ!コンビニで肉まんとかおでんとか食べるんやろ?」
「もう4月だし、まだ売ってるかな…」
「えーっ!日本に来たらおでん食べたいと思っとったのに!」
「基本冬商品だからなぁ…。コンビニになければ家で作るしかないな」
「おでんって作れるん!?」
「別に難しい料理じゃねえよ、具を入れて煮込むだけだ」
「ウチあれ食べたいねん、三角と丸と四角のやつっ!」
三角と丸と四角?
ああ、串に刺さったあれか。
たしかこんにゃくと大根、ちくわぶだったか?
俺ちくわぶきらいなんだよなぁ。
あんなんただの小麦粉の塊じゃん。
ちくわぶはちくわの代用品だったはずだからちくわを刺そう。
「ああ、それも簡単だ」
「ホンマ?ああ、夢にまで見たあれが食べられるんや、どんな味なんねやろ」
いや、そんなにハードル上げられても困るんだが…。
簡易人物紹介
クリスティア・ゼーブル・ド・ルージュ
18歳 魔族
青髪 ショートヘア 胸はGカップ
非常に明るく、人懐っこい性格
人生の殆どを王宮で過ごしており、今まで友達がいたことが無い