4/2 入学式当日 ③
木下信長を同行させるのを嫌がる女性二人をなんとか説得して、学食に来た。
おお、かなり豪華じゃないか。
これが学食とは思えない豪華さだ。
値段もピンキリで、貧乏学生からお坊ちゃんまで安心である。
茜は彼女だし、亜莉紗には朝のお詫びということで奢らせていただいた。
信長?男に奢って得があるのかね。
「そういえば、3人はうちのクラスに魔国のお姫様がいるのを知ってるか?」
食事の最中に信長が話し出した。
魔国とは魔族の王、つまり魔王が納める国のことである。
こっちにはそんな魔国がいくつかある。
もちろん戦争状態であったりはしない。
この世界は基本平和なのだ。
「そうなのか?」
「全く知らなかったわ」
「あたしも」
「龍星の前の席に座ってるのがそのお姫様さ」
なんと。失礼なことをする前に知っておいてよかった。
無礼を働いて国際問題になるなんてのは御免だ。
信長ももう少し早くその情報を出していれば奢ってやったものを。タイミングの悪い奴だ。
しかしお姫様か、確かに前に座っていたのは魔族の女性だった。
残念ながら注目してなかったので、顔は見ていない。
まあこれからいくらでも見る機会はあるから今はいいだろう。
「お姫様の後ろで講義を受けるなんて若干緊張するな」
「あたしの左斜め前ってことだもんね。あたしも緊張してきたかも」
「はっはっはっ、まあそうだろうな。でも情報によるとかなり気さくな姫様らしいぜ」
どこ情報。それどこ情報よ。
「それってどこの情報なの?」
「おっと、ネタ元は明かせないな。そういう契約なもんでね。俺が言ったことも内緒にしてくれ」
「怪しいわね」
「そんなこと無いって。俺の情報の精度はかなりのもんだぜ。そのうち信頼するようになるさ」
「ほう、結構な自信だな。それはハーレム王になる自信よりも大きいのか?」
「うーん、甲乙つけがたい質問だぜ。まあ同じくらいだな」
こいつのハーレム王になる自信はどこからくるのかわからないが、初対面の相手に披露するくらいだ、たぶんかなり大きいだろう。
ということは、情報の精度とやらの自信も大きいということだ。
「ふーん、それなら信長なりに信頼出来る情報ということか。今の情報が確かなら頼らせてもらうよ」
「流石、龍星。お目が高いぜ。何かあったら俺に言いな、安くしとくぜ」
「龍星は今のを信じるわけ?」
「いや、まだ信じちゃいないさ。判断できる要素が少なすぎるからな。ただお姫様が気さくかどうかはこれからいくらでも判断できるだろ、クラスメイトなんだから。その結果次第ってこと」
「へー、意外と考えてるんだ」
「失礼だな、亜莉紗。こう見えても入学前に配られた教科書は全て把握してるんだぞ」
勉強して理解したのは龍星だけどな。
龍星様々である。持つべきものはもう一つの魂だな。
「えっ!すごっ。あたしも一応読んでみたけど難しくてさっぱりだったのに」
「そりゃスゲーな。テストのときは頼むぜ」
「龍星は昔からそうよね。本当に追いつくのに苦労したわ」
茜の苦労が見て取れるな。俺も一応勉強してみたが、本当にマジでさっぱりだった。
俺が魔法を知らない世界から来たとかは関係なかった。
読めはするが、内容がさっぱり頭に入ってこないのである。
だが実際に魔法を使うにはそこまでの知識は必要ないらしい。
魔力を感じ取り、必要な魔力量を込めれば一応の発動はする。
検証時にやってみたが感動したものだ。
-----
昼食を終え、俺たちは学園内を散策していた。
ちなみに信長は昼食を終えた時点で、帰っていった。
バイトがあるらしい。
バイトか、そういえば俺も明後日が家庭教師として初出勤だ。
龍星と相談した結果、基本週1で余裕があれば週2ということになった。
龍星もプレゼント代くらいは自分で稼いだお金で渡したいらしい。
仕事先を龍星の親父さんに相談した結果、すぐに俺と茜の分を見つけてくれた。
会社の社員のお子さんだということだ。しかも給料は紹介会社を通していないので全額貰えるらしい。
なんて便利なんだ、親父さん。
「しっかし、広いなこの学園は。もう一時間は歩いてるがまだ周りきれんとは。最初だからとワープポータルを使わなかったけど次からは必須だな」
「でも自然が多くて気持ちいーよ。あたしはエルフだからやっぱり自然が多いところは好き」
「確かに自然は多いわね。しかもしっかりと管理されてるから荒れてるところが無いわ」
「何箇所か昼寝するにも最適なところがあったな」
まあ俺と龍星にはどこかで昼寝をする必要性は無いんだけどな。
それでも落ち着けるところがあるのはいいことだ。
「二人は武活は何やるか決めてるの?あたしは弓術なんだけど」
武活か。学園では戦闘技術向上の為、何かしらの武術を習うことが必須だ。
武術の活動。つまり武活だ。
龍星からは何を受けてもいいと言われている。一通りは昔からやってきているらしいので、俺に任せるとのこと。
にしても龍星はマジで凄い。魔法学園に入学し、魔法の研究職になるために色々なことをやっている。
そんな龍星に追いつこうと必死に努力している茜も凄い。
18歳の男女におじさんは頭が上がりませんよ。
「私は昔から薙刀をやってるから、武活もそうするつもりよ」
「俺はまだだな。剣術、刀術、槍術、弓術、銃術はやってるから、そのどれかにはするつもりだ」
個人的には刀術、銃術に惹かれるところだ。
「ええっ!?そんなにやってるの?勉強もそうだけど、龍星って凄いね!」
「しかもどれもかなりやるのよ。苦手なことと言ったら恋愛くらいね」
茜さん、それは言わないであげてよ。
龍星もちょっとずつ勉強してるから。
「え?でも二人は付き合ってるんじゃ」
「私は幼稚園の頃からアプローチしてたけれど、全っ然、まっっっったく気が付かれなかったわ。付き会い始めたのは4日前なのよ」
言い方に恨み籠ってるなぁ。
「うわー、それは酷いね。でもどうして急に付き合い始めたの?茜さんが告白したの?」
「それがね、理由は全くわからないんだけど、4日前から急に人が変わったかのように女性の扱いが上手くなったのよ。それでその日のデート終わりに龍星から告白してくれたの」
まあ実際に人が変わってますからね。
それにしても、そういう話は本人が居ないところでしてくれませんか。
「へぇー、そうなんだ、良かったねぇ。大恋愛が報われたんだぁー。流石にそんなに長い間は待てないけど、憧れるかも」
「今の龍星なら最低でも10人は余裕で愛せるわ。亜莉紗さんも今付き合ってる人が居なければどうかしら」
!?!?!?
あ、茜さん!?何いきなりハーレム加入を進めてるんですか!?
さっきまで見極めるとか言ってませんでしたか!?
「えっ!!あたしっ!?た、確かに男性と付き合ったことは無いし、龍星は優しそうだなぁとは思うけど、流石に今日会ったばっかりだし…」
ですよね?流石に今日会ったばっかりで付き合うとかは無いよね?
「龍星の人柄は私が保証するわ。それに亜莉紗さんだったら二人目にぴったりだと思うの。私、人を見る目には自信があるのよ。あと、龍星はお互いに好きにならなかったら手を出してこないわ。だから傷物にされる心配は無いし、手を出したら絶対に責任は取ってくれるくらいの甲斐性はある。なんたってあの咲ヶ峰グループの一人息子よ。お試しでいいからどうかしら」
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックーー!!
「お、お試しかぁ…。それなら…いいかも」
ま、待てっ!それは孔明の罠だーっ!!!
「決まりね。じゃあこれからよろしくね、亜莉紗」
「う、うん、よろしくお願いします、茜」
け、決着してしまった。
というか、唖然としすぎて何一つとして喋れないまま付き合うことになってしまった。
え?俺の意志ドコー?
亜莉紗とは今日会ったばかりで、何にも知らねぇんだぞ。
マジで、第一印象よりは素直な娘だなくらいしか思ってないぞ。
そりゃめちゃくちゃ美人だなとは思うけど。
しかし、この雰囲気の中拒むなんてことが出来るのか?
え?え?え?マジでどうすんだ俺。
ここは茜の言う通り、とりあえずお試しで付き合ってそれから好きになっていくのがいいのか?
いや、待て待て待て、それは茜の術中に俺も嵌まっているぞ。
わからない。ダメだ、さっぱり意見がまとまらない。
ここはとりあえず声を出そう。
声を出せば、何かが変わるかもしれない。
「ま、待って。俺の意見は?」
「何よ?亜莉紗が嫌なわけ?」
「い、嫌じゃないよ?ただ、やっぱりお互いに何も知らないのに付き合うってのは…」
「これから知っていけばいいじゃない。クラスメイトで隣の席なんだし、時間はたっぷりあるでしょ?それとも龍星は何も知らないまま手を出すケダモノなのかしら」
「い、いえ。そんなことは決して…」
「じゃあ何がダメなの?」
「……ダメじゃないです」
「なら、付き合うってことでいいわよね。それとも、決意した亜莉紗に恥をかかせる気?」
「………イイエ、ツキアワセテイタダキタイデス」
何も変わらなかった。
-----
あの後、俺たち三人は手を繋いで帰った。
亜莉紗の家は、今朝ぶつかった丁字路からすぐのところにあり、明日以降は俺と茜で迎えに行くことになってしまった。
茜曰く、お試しなんだから積極的に時間を作らないと、とのこと。
それにしても、茜があんな行動をするとは…。
亜莉紗を家に送って、茜と二人きりになった際、なんであんなことをしたのかと聞いたところ、「亜莉紗の性格が良いのはあの短時間でよくわかったわ、なら龍星が変な女に引っかかる前に脇を固めておこうと思ったの、私一人だとカバーできない時があるかもしれないでしょ」だって。
俺と龍星、そんな風に思われてるの?
でも、亜莉紗を利用するようなことをしないでくれと言ったら、「龍星と亜莉紗はきっといつか、必ず付き合うことになる、だから時間を早めただけよ」と言われてしまった。
お前は魔法使いか。いや、魔法は使えるけど。
ちなみに、必ず付き合う根拠は?と聞くと、にっこりしながら「女の感よ」と一言。
流石にもうこんなことしないでくれと約束しようと思ったが、茜にははなから2回目をする気がなかった。
敵わないなぁ。
(昌一さん、どうしてこんなことに…)
(わかんない)
(わかんないって…)
(詳しくは俺の記憶を見てくれ、その時の様子はしっかりと覚えてる)
(そ、そうですか。ちなみに、付き合わないという選択肢は無かったのですか?)
(俺の記憶を見た後に、同じことが言えるなら文句を聞こう)
(そこまでですか。わかりました、覚悟して拝見します)
龍星への報告終わり。
今日はもう寝る!
明日は明日の俺と龍星がなんとかするさ。