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ゲーム・オブ・キャピタリズム  作者: ブレイク・ロドリゲス
2/2

波に乗った人生

「… (


想像してほしい。自分が将来死ぬ瞬間を。およそ病院のベッドに伏して白い天井を見上げながら、視界がだんだんと狭くなり、考える気力もなくなる。

何かを思うことすらせず、深い眠りにつく。そして意識は二度と舞い戻ることなく、何も心に浮かばない時間が未来永劫流れていくのだろう。


じゃあ、その十分前は何を思うだろうか?


自分がどんな人生だったか振り返ったりするのだろうか?親と過ごした年少時代、自立、運命的な伴侶との出会い、仕事の出来不出来、家族との幸せな時間、富名声、自分の人生がどうなったかプレイバック走馬灯を見ていくのだろう。


…その時には多分このパズル&ツムツムストライクという良ゲーは思い出さない人生の中で本当に無駄な時間になるんだろう。


人生の無駄


あぁ、やだやだ。


でも、やめられないし、勉強よりは面白いから仕方ない。今日もレベル上げしないとな、”かっこ笑い”。


)」ポチポチ


中学最初の1年も残すところ5ヶ月となった10月の終わり。俺、ことローガン・ホールはミラーフォン、通称ミラフォと呼ばれる小型携帯魔法演算器でゲームに勤しんでいた。最近だと全ての休み時間をこのゲームのストーリーの進行&キャラのレベル上げのための労働時間へと昇華している。


「…(退屈だ)」ポチポチ


「ローガン〜、パズツム?あ〜そこね、この前俺もクリアした!全員究極シリーズにすればまあ余裕余裕っていうの?」


「おぅ…(うぜぇ)」ポチポチ


ガリガリメガネインキャブサメンのマックスが突然横から現れた。全然 ”マックス!” という陽キャ感は微塵も感じられないキモ男、いわゆるゴブリンカーストである。正直こいつと一緒にいるのは癪だが、こいつ以外自分に近づいてくる物好きな友達もいなければ、さすがに独りでいるのは社会的にまずいだろうという若干の保身からそばにいることを許可している。ただそれだけだ。



キーンコーンカーンコーーン



始業のベルが鳴った。


「授業を始めます」


魔法記述の教師ゴメスは颯爽と教室へ入ると、すぐさま印刷された小テストの魔法陣を配り始める。


「今回もとりあえず雑魚敵演習です。焦らず正確に確実に仕留めるように。配り終わりましたか?、では開始っ!!」


魔法陣から一斉に雑魚魔物どもが光のエフェクトとともに大量に出現する。教室中の全生徒たちはその丸っこくて小さな魔物を羽ペンで思い切りブスリと刺し貫いて息の根を止めにかかる。


「…(あぁー、なんだっけこれやったなー、こうすんだっけなんだっけ?負の魔力が負の魔力で結局正の魔力だよな?)」ブスブスブスブス


「ピギーピギーギーギェピー」モゾモゾ


過去の記憶を振り返りながらゆっくり動く雑魚どもを解析し、倒すのに一番ふさわしい場所を狙って刺し殺していく。


「そこまでっ!魔修ペンを持ってください!第一問の陣は2 x – y 第二問は1/3 x + 1/2 y、… 」


ゴメスが詠唱する陣と同じ陣が描けていると魔物たちの死骸は忽ち藤色の妖艶な光の幾何学模様を照らしたのちパーティクルになって消滅し空中へ舞っていった。


「あっ(やべっ、一個間違えてる)」


「ギ,ギキ,」モゾモゾ


どうやら一匹狙いがずれてしまっていたようだ。雑魚演習の採点が終わると


「それでは次は授業の内容に入る前にテスト返却します。出席番号順に並んでください、アンダーソン、ベーカー…」


ザワザワザワザワ


みなさんお待ちかねの中間テスト返却で教室中が騒ぎ出す。同時にローガンは強烈な動悸・胸焼け、異常なほど急峻に上昇するSAN値、同時にひょっとしていい成績が偶然撮れたのではと期待してしまう高揚感。様々な感情を胸に、テストを受け取りに行った。


「ホール!ホール、はい。」


「!(うぉおおおお頼む頼む頼む頼む)」


慌てて心臓をばくばく鳴らしながらあわててテストを受け取りあわてて席に戻り、あわててそっと確認する





75点





ドキドキは微妙な周波数に収束した。高い、高いよな?うん、これは自己最高ではあるし、素晴らしい成績であることは間違いない。だが、そんな自分への言い訳はすぐに瓦解した。


「ロドリゲス!おめでとう」


「えっ何ですか先生」ケラケラ


軽い声とともに飄々と現れたそのエルフ男、ブレイク・ロドリゲスは嬉しそうにテストを受け取ると


「ブレイク!何点?!何点?!」


「お?!お?!お?!」


ブレイクを取り巻く友達ども、小悪魔ウィッチのマヤやドワーフ面のヘンリーらが声を荒らげクラス中を彼に注目させた。


「…え、いやなんで言わないといけないの?っていうか点下がってるんだけど」ニコニコ


爽やかイケメンエルフは嬉しそうに、だがひけらかしなぞせず、そしてごく自然に切り返す。


「その心は?!その心は?!」


「…え、いややっぱやだ、なんか」


「えぇ〜」(*´Д`)ハァ


「逆に、ここまでくると嫌味だぞ嫌味〜」


ドワーフがさっきからうざい。さっきから会話のレベルがお前だけ基地外じみてるぞ。そして黄色い声援を常日頃から送るウィッチもやはりムカムカする。黙ってろ、このあ○ずれめ。


「…なんでそうなるんだよ、96だよ、これでいいか?」


オォーーーー,スゲー,マタカヨーーー,ホントスゴーイ


再び教室内に歓声とどよめきが沸き起こる。そしてこのとき俺は茫然自失に陥った。嫉妬と怒りと憎悪で世界が黒く染まっていった。隠そうとしなければきっと涙が滝のように流れ出ていたことだろう。96という数字を聞いた瞬間自分の保ちたかったプライドは一撃で、虚しく、回復できない程度にひどい傷を負った。俺は平凡なんだ、くずなんだ。そう思った。だが、傷ついてもなお、さらに迫り来る追い打ちの到来なぞ俺は露知らず。


「ブレイクやっぱすごいね」ニコニコ


ブレイクが自分の席に戻るのを視線で追っていくとそこに笑みを浮かべる彼女の姿が映った。


「いやいや、だいたい前回よりは点低いから」ケラケラ


「いや〜それでもすごいって」


「そっちだってテストの成績いいじゃん?」


「うわ〜嫌味嫌味」ニコニコ


「いや本当だってキーラいつも魔法記述以外の科目は俺より全部高いから大丈夫大丈夫。本当そっちが羨ましい、いーなーいーなー」ケラケラ


「あはは」ニコニコ


イケメンエルフ ブレイクと、同じくエルフで俺のサキュバスであるキーラがニコニコ嬉しそうに談笑している。


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