09 コツリ
「できた! ちゃんと投げられたよ!」
乙女のあまりの喜びように、葵が首を傾げる。
「そ、そこまで喜ぶことかしら?」
その言葉に、乙女がはっと冷静を取り戻す。
「ごめん……私、物覚えがよくないほうだから、こんなにすぐにできると思わなくて」
これに扇が目を輝かせる。
「きっと投扇興の才能があったんだ! これは奇跡の出会いってやつじゃないかな!?」
「こら、そうやって無理に勧誘しようとしない」
葵にたしなめられるが、おうぎの勢いはとまらない。
「じゃあ今度は、競技形式で投げてみよっか?」
「えっ! もう!?」
「投げることができたんだから、後はもう実践あるのみだって」
明るく言いながら、おうぎは枕と蝶をセッティングする。
そして、乙女に座る位置を指示してから、説明した。
「さっき言った通り、投扇興はこの蝶を狙って扇を投げるんだけど、一試合で一人十回投げるんだ」
これに葵が補足する。
「蝶が落ちた形で得点が決まるから、十回分の合計がその人の得点になるの」
「得点の種類は多いから後回しにするとして……後は習うより慣れろ! ささ、試しに投げてみなって」
「う、うん……」
二人に見守られて、乙女は呼吸を整える。
しっかり集中して、扇を投げた。
今度もちゃんと真っ直ぐ飛んでいく。
しかし投げられた扇は、的である蝶ではなく台のほう、枕にぶつかった。
「あぁ、コツリね」
葵が残念そうにつぶやく。
「えっと……コツリ?」
何のことかと、乙女が首を傾げる。
「枕に扇が当たっちゃうことをコツリっていうのよ。一点減点になるわ」
「へぇ、ちゃんと蝶に当てないといけないんだ……」
それを聞いた乙女は、さらに集中を深めた。
拾った扇を、再び投げる。
それは真っ直ぐ進んでいき――またしても枕に当たった。
「あ、コツリね」
続く三投目。
またしても扇は枕にぶつかる。
「またコツリ」
四投目。
「コツリ」
毎回結果を口にする葵に、乙女はふと頬が緩んだ。
「ふふ」
「え? なに、どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもないよ。ただ……コツリって言う葵ちゃんかわいいなぁ、って」
「へ、変なこと言ってないで、ちゃんと集中しなさいよ!」
「したよ。葵ちゃんにコツリって言ってほしくて、集中してたもん」
「集中の仕方が間違ってる!? 枕を狙わないでっ!」