08 風に乗るように
「投扇興はルールも簡単!」
おうぎが力強く宣言する。
「枕の上に蝶を置いて」
説明しながら実際に置いていく。
「で、一メートルちょっと離れたところに座って、蝶に向かって扇を投げるだけ」
そして彼女は扇を手に取った。
「投げ方はこう」
扇が開かれる。
そして付け根の部分だけを持って、地面と水平にかまえる。
そこから、押し出すようにして手が放された。
投げられた扇は、くるりと半転しながら真っ直ぐ飛んでいく。
紙飛行機が飛ぶように、すーっと進んでいって、すべるように床に着地した。
「おー!」
見事な飛行に乙女が声を漏らす。
「すごいすごい! キレイに真っ直ぐ飛んでった! ほんとすごい」
「え? そ、そうかな? こんくらい普通だよ」
と言いながらも、おうぎは照れるように頭をかく。
「私にもできるかな?」
乙女が小さくつぶやく。
扇を投げた彼女の姿はとてもキレイでカッコよかった。
憧れを抱いてしまうほどに。
そんな乙女に、おうぎは明るい笑みを向ける。
「できるできる! とりあえずやってみればいいよ」
おうぎは床に落ちた扇を拾い上げて、それを乙女に渡す。
「最初は蝶に当てるとか考えないで、とりあえず扇を真っ直ぐ飛ばすことを意識すればいいからさ」
「わ、わかった……えいっ」
受け取ったばかりの扇を投げてみる。
けれど、扇は飛んでいくことなく。
ぼとり、とその場に落ちた。
「……あ、あれ?」
「最初は仕方ないって。ちょっとコツがいるからさ。ほら、もっかい!」
「う、うん! えいっ」
扇を拾って、慌ててもう一度投げてみる。
しかし、またしてもその場に落ちてしまった。
「……あ」
(やっぱりダメなのかな?)
暗い考えが乙女の脳裏をよぎる。
「大丈夫! もっかい!」
「うん」
おうぎに促されて、急いで扇を拾う。
すぐに投げようとして。
そこで割り込む声があった
「ちょっと待って」
葵だ。真剣な表情で、乙女の横にやってくる。
「そんな慌てて投げたら、ちゃんと飛ばないわ。ほら、角度はこのくらいにして」
乙女の手に自分の手をそえて、位置などを調整してくれる。
「そこから、手を押し出すようにして投げてみて。扇を風に乗せるイメージで」
葵は手を放しながら、さらにアドバイスを重ねる
「ゆっくり集中して。投扇興は誰も邪魔しないから、一投一投に集中していいの」
「わ、わかった……集中だね」
目を閉じて、ひとつ大きく息をした。
さきほどおうぎが投げていた姿をイメージして、目を開く。
しっかりと集中してから、乙女は扇を押し出した。
すると――
ふわりと扇が手から離れ、くるりと一回転。
それから、すーっと真っ直ぐに飛んでいった。
「……できた」
扇がゆっくりと床に着地する
それを見届けると、乙女はもろ手を挙げていた。
「やったー! できた! できたよ!」