07 投扇興とは?
「ごめん……さすがにあたしの説明不足だった」
冷静になったおうぎが謝罪する。
それから、気を取り直すように咳払いをひとつ。
「とりあえず改めて説明するよ」
前置きしてから、慌てて付け足す。
「といっても、長い説明聞くのは退屈だろうから、最低限知っとくべきことだけ話すから」
そうして、おうぎは床に置かれていた物を持ち上げる。
乙女は気づいていなかったけれど、ずっと足元にあったらしい。
「投扇興で使う道具は、この三つだけなんだ」
おうぎは説明しながら、道具を机の上に並べていく。
「まずは当然、扇!」
さきほど乙女が投げた扇だ。白紙のシンプルな柄である。
「そして枕!」
次に置かれたのは、木箱のようなものだった。
木製の直方体。サイズは牛乳バックを半分にしたくらいだろうか。
「最後に蝶」
三つ目に置かれたのは、不思議な形をしたものだった。
イチョウの葉のような形で、表面は布張り。両脇に鈴がついている。
大きさは、片手にギリギリ収まる程度だろうか。
「枕の上に蝶を立たせて、そこに扇を投げるんだ。色々とルールがあるんだけど、とりあえずは蝶に当てたら得点って感じ」
おうぎの大雑把な説明に、葵が補足する。
「射的に例えるなら、枕が景品台で、蝶が景品。扇は景品を打つ銃ね」
二人からの説明で、乙女も段々理解できてきた。
「えっと、つまりその木箱が台で、イチョウの葉っぱみたいなものが的ってことだよね」
うんうん頷いてから、乙女は机に並ぶ道具たちを見つめた。
とても物珍しそうな表情で。
「初めて見た。不思議な形だね」
特に蝶が。
これにおうぎが同意する。
「あぁ、そうなんだよ。枕は台だから最悪代用が利くんだけど、蝶だけはこれがないと練習にもならないんだ」
この言葉に、葵が呆れたようにため息をつく。
「だからって、入学初日から学校に持ってくるってどうなの?」
「えぇー、だって葵と練習するつもりだったから」
「聞いてないけど!? 私の都合は!?」
「いやー、葵なら付き合ってくれるかなって」
「決めつけないでよ」
「でも、実際いま一緒に練習してくれてるし」
「そ、それは……そうだけど」
無神経に言いつのるおうぎと、どんどん顔を真っ赤にしていく葵。
そんな二人の様子を見て、乙女は……
「はぁはぁ」
息を荒げていた。
「なんで!?」
葵の疑問に、乙女は慌てて呼吸を整える。
「う、ううんっ、変なことなんて考えてないですよ」
言いつくろいながらも、顔は真っ赤なままだった。
「仲良いなー、いいぞもっとやれー! とか、思ってないよ!」
明らかにおかしい言い訳。
けれど、そのことにツッコミを入れる者はいなくて。
むしろ葵から、別のことでツッコミが入った。
「べ、別に、仲良くなんてないわよ!?」
これにショックを受けたのは、おうぎだ。
「え! あたしは仲良いと思ってたけど……そっか、葵はそう思ってなかったんだ」
「あ……ま、待って! そういうつもりで言ったんじゃなくて……」
落ち込むおうぎに、必死に言いつくろう葵。
その様子に、乙女は……
「はぁ、はぁ」
またしても息を荒げていた。
それに葵が声を荒げる。
「繰り返しになってるじゃない! もういい加減にしてーーー!」