62 投扇興部、設立!?
いきなり乙女が勝負を挑まれたときは、みんな困惑した。
けれど、ひとまずは解決したと見ていいだろう。
だというのに、おうぎが蒸し返すようなことを言い出した。
「それはそれとして、勝ちは勝ちだよね?」
とても嬉しそうに目を輝いている。
これに姫がたじろいだのは、言うまでもない。
「だ、だから、なによ?」
「乙女が勝ったときの条件、忘れたとは言わせないぞっ!」
「ふんっ。なんだ、そんなこと……?」
呆れるように言ってから、姫は首を傾げた。
「……なんだったっけ?」
「忘れないでくれよ!?」
「負けるなんて思ってなかったんだもの。わざわざ覚えるわけないじゃない!」
「あの実力で、よく勝てると思ったなー……」
おうぎが呆れるのも当然だ。
結果は乙女の圧勝だった。
姫が勝った場合の条件は「薫子が投扇興部を辞める」というものだが、
「乙女が勝ったら、投扇興部に入ってもらうって話だったじゃん!」
「あぁ、そんな約束したような……してないような?」
「したよっ!?」
本当に忘れないでほしい。
「さぁ大人しく投扇興部に入ってもらおうかっ!」
おうぎの要求に、姫は仕方なさそうに肩を脱力させた。
「まぁ、約束は約束だものね。わかった、入ればいいんでしょ、入ればっ!」
この返事に真っ先に反応したのは、薫子だった。
「わぁ! 乙女ちゃんだけじゃなく、姫ちゃんとも同じ部活なんてステキッ!」
「そ、そっか……薫子と同じ部活になるんだ……」
姫は嬉しい気持ちを隠そうとしているようだが、わずかに笑みが漏れている。
そんな姿に、乙女は大興奮だった。
「またかわいい女の子が増えた……投扇興部、最高だよぉ」
喜ぶところが間違っている気がする。
この状況で、最も喜ばしいことを口にしたのは葵だった。
「ということは……これで、部員が五人になったってことよね?」
おうぎが目を輝かせながら、力強く頷く。
「そう! 部活を作るのに必要な五人、集まったんだっ!」
おうぎが言い出して、葵が巻き込まれて。
そこから部員が徐々に増えていったが、ついにこの時が来た。
「やったーっ!」
どちらともなく、歓喜の声が上がる。
手をつないで喜び合う二人の姿に、乙女は頬を染める。
けれど今回は息を荒げるだけでなく、一緒に喜びの声を上げていた。
「よかったね。これで部活として認められるよ!」
お祝いムードの一年生。
そんな彼女たちに、姫は渋々と声をかける。
「ねぇ、言っておくけど……部活を作るには顧問も必要だからね?」
「そうなの!?」
部員はそろったが、顧問など探してもいなかった。
投扇興部の設立には、まだまだ時間がかかりそうである。