61 ちゃんと選んで
ついさっきまで泣きそうになっていた姫だが、乙女の急な行動に涙は吹っ飛んでいた。
乙女は姫と握っている手に、ぎゅっと力を込める。
「気持ちわかるよ。私もダメダメだったから、お姉ちゃんに頼りっきりだし!」
状況が理解できず目を丸くする姫に、乙女はさらに詰め寄った。
「私たち似た者同士かもね、姫ちゃん!」
嬉しそうに微笑む乙女。
それに対して混乱していた姫は、なんとか言葉を絞り出す。
「ひ、姫ちゃんって呼ばないで! わたし、これでも三年生なんだから!」
「気にするのそこなんだ……じゃあ、姫ちゃん先輩!」
「ちゃんを取りなさいよ!」
などとやり取りしていると、二人を同時に抱きしめる人物がいた。
他の誰でもない、薫子である。
「乙女ちゃんと姫ちゃんが仲良くしてくれてうれしいなぁ。私もまぜて~」
この行動に乙女は頬を赤らめるが、姫のほうは取り乱していた。
「べ、別に仲良くなんてしてない!」
慌てて乙女に握られた手を振り払う。
けれど、薫子に抱きしめられているから、その場から逃げることはできない。
「強がってる姫ちゃんもかわいいな~」
「うぅ……そうやっていつもいつもバカにしてぇ」
「えぇ、かわいがってるだけだよ?」
「それがバカにしてるって言ってるの!」
怒った様子の姫だったが、一転して気落ちした雰囲気を漏らす。
「……そもそも勝負はついたんだから、わたしのことはもう構わないでよ」
「え? なんで?」
「だから、わたしは負けちゃったから……投扇興部に残るんでしょ!?」
「でも私、生徒会は辞めないよ?」
「そうなの!?」
姫は目を見開いて驚いている。
どうやら大きな思い違いをしていたらしい。
そんな彼女に、薫子は優しい笑みを向ける。
「むしろこれからは生徒会にもっと時間取るようにするね。寂しい思いさせちゃってたみたいで、ごめんね」
「……悪いと思ってるなら、部活なんて辞めて生徒会に専念してよ」
「それは無理」
「即答!?」
「だって、乙女ちゃんと部活したいんだもの。大丈夫、これからは生徒会とも両立させるから」
「そういう中途半端な答えじゃなくて、ちゃんとどっちか選んでよっ!」
悲痛な叫びにも聞こえた。
姫にとって、それがとても大事なことだとでも言うように。
けれど、薫子は変わらず笑顔で受け流す。
「無理だよ。だって私は二人とも、世界一大大大好きなんだから」
「世界一って……二人いるじゃない」
「一番がたくさんあったらダメなの?」
「……っ!」
一瞬だけ、姫がはっとするように息を飲んだ。
それから呆れるようにため息を漏らす。
「薫子に真面目な話をしたって通用しないか……」
独白するようにつぶやいてから、薫子に視線を投げた。
「生徒会にもちゃんと顔出してよね」
「もちろん!」
笑顔を向け合う姫と薫子。
これだけなら、いい絵になるのだが……。
それを至近距離で見つめることになっていた乙女は、
「はぁはぁ……特等席だよぉ……」
大興奮であった。
これにはおうぎも葵も呆れてしまう。
「一応、一件落着っぽいけど……」
「乙女のせいで、いっつも台無しなのよね」