06 マイナー競技なので
「とうせんきょう……ですか?」
軽く説明を受けた乙女が、首を傾げる。
これに、さっきまで押し倒されていたほうの女の子、葵がうなづく。
「そう、投扇興の練習をしてたのよ」
押し倒していたほう、おうぎも続ける。
「けっこう楽しいよ。一緒にやってみる?」
「え、えっと……」
乙女がなんて答えるか迷っていると、おうぎが一歩迫ってきた。
「ほんと楽しいから! やってみたら絶対にハマるよ! なんなら入部しちゃおうよ、投扇興部にっ!」
すごい熱量に、乙女は何も言えなくなっていた。
そこを助けたのは葵だ。
乙女に迫っていたおうぎを引っぺがす。
「こら、強引なのはよくないわよ。あなたも、嫌なら断っていいから」
優しく微笑む葵。
そう言ってくれるのは嬉しいのだが、乙女は逆に申し訳ない気持ちになっていた。
「あの……そもそも投扇興ってなんですか?」
「そこから!?」
おうぎが驚きの声を上げる。対して、葵は呆れるようにため息をついていた。
「だから言ったでしょ。マイナー競技だって」
「うぅ、どうせ地味だよ! マイノリティだよ! イケてないよ!」
悲しそうに声を荒げるおうぎに、乙女はますます申し訳なくなっていた。
「ご、ごめんなさい、そんなつもりで言ったんじゃなくて……」
「いいよ、いいよ。知名度が低いのは事実だし」
おうぎはガチで落ち込んでいた。
投扇興を知られていないという、ただそれだけの理由でこの落ち込みようである。
それだけ、おうぎの思い入れが強いことがうかがえる。
「……」
それは乙女にはないものだった。
打ち込めるもの、本気になれるものがない。
だからなのか、真剣なおうぎの姿に、自然と声が出ていた
「あの投扇興について教えてもらってもいいですか?」
途端、扇の目が輝く。
「興味ある!? そういうことなら大歓迎!」
さきほどまでの落ち込みぶりが嘘のように明るい声で続ける。
「投扇興はその字のまんま、扇を投げる競技なんだ」
「え? 投げちゃっていいの!?」
「そういう競技だからね。ちなみに、それがあたしの扇」
説明しながら、おうぎは乙女の手を示した。
そこには廊下で拾った扇が。渡す機会を逃して、持ったままだった。
「これを、投げる……?」
だから廊下に落ちていたのか、とやっと納得する。
そんな乙女に、おうぎが提案した。
「とりあえず試しにやってみる?」
「え、いきなり!?」
「ちゃんと説明すると長くなるし、実際やってみたほうが楽しいからさ」
そう言って、扇は乙女をその場に座らせた。
どうやら座っておこなうらしい。
「ほらほら、一思いにやっちゃいなって!」
「え、え……?」
促されるけれど、突然のことでよくわからない。
しかし、せっかく説明してくれているので断るのも申し訳なかった。
やるだけやってみよう、そう考えた乙女は、
「投げる……投げるって……こ、こうかな? えいっ」
扇を投げた。
閉じたまま。
くるくる回ってあらぬ方向に飛んでいったそれは、おうぎの顔面に激突する。
「ご、ごめん! 痛かった?」
心配して声をかけると、おうぎは肩を震わせていた。
「投げ方がちがーう!」
「ひぃ! ごめんなさーい!」