58 勝負の内容は?
頬を染めている乙女の肩を、葵が揺さぶる。
「状況わかってるの? 薫子さんをかけた勝負を申し込まれてるのよ!?」
「はっ! そ、そうだよね……」
事の重大さを理解したようだが……乙女の頬は赤みが増していた。
「なんで!?」
「あ、ごめん……なんかドキドキするシチュエーションだなぁ、って」
「そんな場合じゃないでしょ!? 乙女は当事者なのよ!」
「そうだけど……」
重ねて注意するものの、乙女の様子は変わらない。
「もうっ、薫子さんからも何か言ってください」
「乙女ちゃんと姫ちゃんが私を取り合うなんて……ステキっ」
「あ、ダメだわ……この人も乙女の同類だった」
葵が呆れてため息を漏らす。
対して、おうぎは楽しそうに笑っていた。
「まぁまぁ葵、落ち着きなって。本人たちが気にしてないなら、いいじゃん」
「よくないわよ! 勝負に負けたら、薫子さんは投扇興部を辞めるってことじゃないの?」
葵の疑問に、姫が力強く頷いた。
「もちろん! わたしが勝ったら、薫子は生徒会に返してもらうんだからね!」
そうなると非常に困る。
「ただでさえ部員が足りてないのに、一人減ったら部活作りどころじゃないわっ!?」
「大丈夫だって! あたしに秘策があるからさ」
「えぇ……あんまり信用できないんだけど」
「すこしは信じてよっ!?」
「うーん……まぁ、いいか。ちょっと不安だけど、ひとまずはおうぎに任せるわ」
渋々ながらも葵が納得してくれたことで、おうぎの目が輝く。
そして、姫のほうに向きなおった。
「乙女も嫌じゃないみたいだし、勝負を受けるのはいいよ。でも、そっちが負けたときの条件も出していいよね?」
「え……それは……」
姫がわずかに尻込みする。
そこでおうぎがたたみ掛けた。
「あれ? もしかして負けるのが怖いの?」
「そ、そんなこと、あるわけないでしょ! わたしが勝つに決まってるんだから!」
「なら、こっちも条件出してもいいよね?」
「もちろん! なんでも言いなさい!」
「じゃあ、負けたら投扇興部に入ってもらうから」
「……ふん、そんなこと? 怖がって損した……」
「怖がってたんだ……」
「なっ! ち、違うから! 今のは言い間違い……っ!」
慌てて言い訳する様子は、じつに嘘っぽい。
けれど怖がっていたかどうかは、おうぎにとってはどうでもいい。
勝負に勝ったら、部員が増える。
その約束を取り付けたことが一番大事なことだ。
成果としては充分だが、おうぎはそれだけで満足しない。
「ちなみに、勝負を仕掛けてきたのはそっちなんだから、内容はこっちが決めていいよね?」
「いいわ! どんな勝負でも、わたしが勝つに決まってるもの」
迷いのない返事に、おうぎは笑みを深めた。
「ってことで、勝負内容は投扇興に決定ー!」
この宣言に、味方であるはずの葵が青ざめていた。
「卑怯っ! 堂々と卑怯だわっ!」