54 おうぎと葵
放課後になって、投扇興部の面々は教室に集まっていた。
そこで葵に昨日の出来事を伝える。
後をつけていたことは秘密だが……。
話を聞いた葵が、呆れたようにため息を漏らす。
「なんだ、そんなこと……」
「そんなこととは、なんだよっ! あたしは真剣に悩んで……」
「だから真剣に悩むほどのことじゃないって言ってるのよ」
葵はわずかに視線をそらしてから、続ける。
「私がおうぎのことを嫌いになるわけないじゃない……」
嬉しいことを言ってくれているのだが、疑い始めたおうぎはなかなか納得しない。
「じゃあ、昨日はなんで帰っちゃったのさ!」
「そ、それは……」
言い淀んでいた葵だが、観念したようため息をつく。
「まだ話すつもりはなかったんだけど……」
恥ずかしそうに言って、カバンから細長い箱を取り出した。数は五つ。
その内の一つを、葵が開ける。
箱から出てきたものを見て、乙女が首を傾げる。
「これって……扇だよね?」
「そうよ。全部同じデザインにしてみたの」
「え!? それって……もしかして!?」
葵はわずかに頬を染めながら頷いた。
「部のみんなで、おそろいの扇が持ちたいなって……」
それから、視線をそらして、言いにくそうに続ける。
「えっと……その……一応、私がデザインしてみたの」
「葵がっ!?」
真っ先に驚きの声が上げたのはおうぎだった。
目を丸くしながらも、扇を開いてみる。
桃色の半紙には、美しい桜と水の流れを表現した模様が描かれていた。
「もしかして、昨日はこれを作るために……?」
「そうよ。本当は部員が五人集まるまで渡さない予定だったけれど」
変な誤解をされたままでは困るから、話すことにしたようだ。
「じゃあ、あたしのことが嫌いになったとか、投扇興部を辞めたくなったわけじゃ……?」
「そんなわけないでしょ」
葵は呆れたようにため息を漏らす。
「同年代の人と投扇興したいっていうおうぎの気持ちは、私が誰よりも理解してるもの。部活として認められる前に辞めたりしないわ」
それに、と葵は頬を赤らめて続ける。
「確かに最初は強引だったけど……実は私も、誘ってくれて嬉しかったから」
「葵ぃ……」
安堵しながら、感極まって目を潤ませるおうぎ。
その横では、
「はぁはぁ、二人のそういう関係……最高だよ」
乙女が息を荒げていた。
「台無しだっ!?」