53 誰のせい?
葵を尾行した翌日。
「はぁ……」
おうぎは教室で、ひとりため息をつく。
そこに葵が近づいてきた。
「どうしたの? 珍しく元気ないけど」
「葵……っ!」
いつも通りに声をかけてくれたことで嬉しくなってしまう。
けれど、おうぎはすぐに冷静になっていた。
昨日のことがあるのだ。手放しでは喜べない。
「本当にどうかしたの? ずいぶん大人しいけど?」
「……いや、なんでも」
力なく返事をする。
だが、それで葵が納得するはずもない。
「やっぱり元気ないわね……」
困ったようにつぶやくと、彼女はカバンの中に手を入れた。
「お菓子食べる? チョコくらいしかないんだけど」
おうぎの机に、板チョコが置かれる。
「……いや、いいよ」
「これは重症ね……」
葵は一人で勝手に、理解したような素振りを見せる。
「わかった、ホームルームまで時間あるから、なにか買ってくるわ」
カバンを肩にかけながら、彼女は言葉を重ねる。
「おうぎなら、質より量よね。お腹がいっぱいになったら、元気も出るでしょ」
それは昨日乙女と薫子から言われたのと同じことだった。
元気のなかったおうぎも、さすがに声を荒げる。
「お腹がすいてるわけじゃないよ! あたしをなんだと思ってるんだ!?」
「えぇ!? だっておうぎが落ち込むなんて、食べ物のことくらいでしょ!?」
「な、な、なんだとーっ! 誰のせいだと思ってるんだよ!?」
怒ったように叫ばれるが、葵にはさっぱりである。
「な、何のことよ!?」
困惑して、叫び返すことしかできなかった。