51 たどり着いた場所は?
おうぎたちの尾行は順調に進んでいた。
時々、乙女と薫子がきゃーきゃー騒ぐことを抜きにすれば。
「お姉ちゃん、見て! 葵ちゃん、英単語帳買ってるよ」
「さっき外国人さんに道案内できなかったこと、よっぽど気にしてるみたいね」
「葵ちゃん、かわいいっ!」
二人から言わせると、もう何をしていてもかわいいらしい。
動きがある度に、楽しそうに騒いでいる。
これにおうぎはため息をついていた。
「うるさいなー……葵に気づかれたら大変だから、もうちょっと静かにしてよ」
それに乙女が首を傾げる。
「いつの間にか、おうぎちゃんが一番真面目だね」
「いや、二人が不真面目すぎるだけだからっ!」
それに、と続ける。
「こんなの見てたってバレたら、ほんとに葵から嫌われちゃうって」
「……あっ! そういえばそれを確かめるのが目的だったね」
「忘れてたの!?」
「葵ちゃんのかわいいところ見てたら、すっかりそっちに意識を持っていかれて……」
「持ってかれないでくれっ!」
おうぎが悲痛な叫びをあげる。
それもそうだ。なにせ彼女にとっては切実な問題だった。
葵が理由も言わずに先に帰ってしまうなんて、初めてのことである。
様子も変だったから、おうぎは不安があった。
もしかしたら自分のことが嫌いになったのかもしれない。
その真偽を確かめるために尾行しているのだ。
元々の目的を忘れるわけにはいかない。
おうぎに思い出させてもらって、今度は薫子が首を傾げる。
「でも、まだ用事らしい用事はしてないわね」
用事があるから、と先に帰ったはずなのに。
「今のところ、外国人に道を聞かれたのと、本屋に寄ったくらいか」
「本屋は道を聞かれたからだし、元々の予定ではなさそうね」
ということは、まだ用事は終えていないということだ。
けれど、薫子が不穏な発言をする。
「用事がある割には、帰るのがゆっくりね」
「ん? どういうこと?」
「だって、部活には参加できなかったのに、本屋に寄る余裕があるっておかしくない?」
「た、確かにっ! まさか、本当にあたしのことを避けて……!?」
うつむいてしまったおうぎに、乙女が慌てて声を上げる。
「まだわからないからっ! もうちょっと続けてみようよ」
「うーん……まぁ、ここまで来たら、最後までやるけど」
そこから尾行を続けるが、特別なことはなく。
けれど、しばらく歩き続けると、変化があった。
葵が、とある建物へと向かっていく。
古風な佇まいで、なにかのお店のようだ。
その商店に目を凝らして、薫子がつぶやく。
「あれって……扇屋さん?」
これに乙女が嬉しそうに声を重ねた。
「投扇興の道具を買いに来ただけかな? なら、おうぎちゃんの勘違いだったってことだよね」
笑顔を向けてくれる乙女には申し訳ないが、おうぎは否定を返した。
「いや……ここ、葵の家だから」
「葵ちゃんのお家!?」