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05 見ちゃいけない関係


「部活かぁ……」


 入学式を無事に終え、放課後。


 乙女は自分の教室で、薫子を待っていた。


 一緒に帰る約束をしていたのだが、薫子は生徒会の仕事が残っているらしい。


 一時間ほどで終わるという話だったので、それを待っているのだ。


「お姉ちゃんが来るまで、部活見学してようかな?」


 薫子が言うには、今日からもう活動を始めている部活もあるらしい。


「……うん、もしかしたらステキな出会いがあるかもしれないし」


 そういうわけで、乙女は教室を後にした。


 運動部は不安なので、とりあえず文化部の部室棟を目指して進む。


 初日ということもあって教室も廊下も、もう誰も残っていない。


 無人の廊下を進んでいく。その直後だった。


 ふわり、と視界の隅を横切るものが。


 足元に落ちたそれを、乙女はそっと拾い上げる。


「これって……せんす?」


 そう扇子だった。


 骨組みは黒で、和紙は真っ白というシンプルな扇子。


 特別おかしなところはない。けれど、


「どうして、こんなところに扇子が?」


 高校の廊下に落ちているものとしては、ちょっと違和感がある。


 乙女がそんな疑問を抱いていると、ふと女の子の声が聞こえてきた。


「ほら葵、あたしの言う通りにして」


「ま、待ってよ……私には私のやり方があるんだから」


 声がしたのは乙女にとってはお隣、一年一組からだった。


「まだ、誰か残ってるのかな?」


 覗いてみようと思って近づく乙女に、さらなる声が届く。


「いいから、手貸してってば」


「だめ……そんな強引に……っ!」


 不穏な声の後、どしーんという大きな物音まで。


「だ、大丈夫ですか!?」


 物音にびっくりしつつも、乙女は教室に駆け込んだ。


 そこで目にしたのは……、


 二人の女の子だった。


 一人は背が高くて、ショートカットの癖っ毛。快活なイメージのある女の子。


 もう片方は腰まで届くロングヘアを、首元でひとまとめにした女の子。落ち着いた雰囲気で、本が似合いそうな印象だった。


 そんな二人だが、体勢がおかしい。


 落ち着いた雰囲気の女の子は教室の床に倒れていて。


 その上に快活な女の子が馬乗りになっている。


 まるで、片方がもう一人を押し倒したような状態。


 これを見て、乙女は――


「お、おお、お邪魔しました!」


 とっさに、そういう判断をした。


 これに、押し倒されているほうの女の子が慌てて声を上げる。


「待って、絶対に変な勘違いしてるわ! そういうんじゃないからっ!」


「いえ、大丈夫です、言い訳しなくても! 私、そういうものへの理解はあるので」


「やっぱり、大丈夫じゃない!? 誤解よ」


「恥ずかしがることないです。それもひとつの個性ですよ」


「ちゃんと話を聞いてー!」


 彼女の言葉など耳に入っていない様子で、乙女はさらに続ける。


「お邪魔しちゃ悪いので、どうぞ続けてください」


「そう言いながら、なんでガン見してるの!?」


「あ、そうですよね、見られながらは恥ずかしいですよね。でも大丈夫です、私のことは空気だと思ってくれればっ」


「そういう問題じゃない!」


 この言葉に、さすがに乙女もすこしだけ反省した。


「そうですね……二人だけの時間を邪魔するのは悪いですね。じゃあ、私はこれで……」


 そのまま去ろうとする乙女。


「待って! 誤解されたままいなくなられるのが一番困るわ!」


「じゃあ、見ていっていいんですか!? さぁ、続きをどうぞ!」


「だから違うって言ってるでしょ! 話を聞いてーーーっ!」


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