48 本当に嫌われてたら?
「葵ちゃんに嫌われたかもしれない?」
おうぎから事情を聞いて、乙女が首を傾げる。
「それはないんじゃないかな?」
すぐに否定を返すけれど、おうぎは納得しない。
「でもさー、理由も言わずに逃げるみたいに帰っちゃったし……」
不安そうなおうぎに、薫子も首を傾げる。
「なにか思い当たることでもあるの?」
「そりゃあ、いっぱいあるよ。あたし、人の話聞かないし、自分の考えを押し付けることも多いし」
「自覚あったんだね……」
乙女が苦笑を漏らす。
投扇興部に勧誘されていたときは、おうぎのしつこさに困らされた。
彼女は良くも悪くもマイペースなのだ。
そんなおうぎが、力なくうなだれる。
「葵にはいっつもワガママ言ってるし、振り回してばっかりだったし、葵の意見とか気持ちを無視してたし……」
ガマンの限界が来て嫌われてしまったのだとしても、おかしくはない。
おうぎの不安に対して二人は、
「あぁ……」
納得するような声を漏らしていた。
「否定してよっ!」
悲痛な叫びをあげるおうぎだが、自分でも仕方ないと思っていた。
なにせ、葵にしてきた悪行は数えきれない。
中学から、かれこれ三年近い付き合いだ。迷惑もたくさんかけてきた。
「この投扇興部も無理矢理誘っちゃったし……ほんとは嫌だったのかな」
だとしたら、部活に参加せずに慌てて帰ったことも頷ける。
「うーん……?」
あれこれ悩むおうぎに、薫子が首を傾げた。
おうぎは、葵に嫌われた可能性を恐怖しているようでいて、仕方なさそうでもある。
その態度が不思議だった。
「ねぇおうぎちゃん、もし本当に葵ちゃんに嫌われてたら、どうするの?」
だからだろう、こんな質問が出てしまったのは。
「本当に嫌われてたら……」
それに対して、おうぎはしばらく悩んでいた。
頭を抱えて、うんうん唸って、それから口を開いた。
「とりあえず謝って、仲直りしたいけど……それでもダメなら、仕方ないかな」
あっけらかんと言ってのける。
すこし冷たい反応にも見えて、乙女はわずかに不安を抱く。
その不安に気づく様子もなく、おうぎはため息をついた。
「あたしを嫌いになるのは仕方ないけど……それで投扇興部を辞められるのは困るなぁ」
ただでさえ、部員が足りていないのだ。
部活と認められるには、部員が五人必要。
けれど、今は四人しかいない。
そこから一人減ってしまっては、部活として認められる可能性が遠ざかる。
投扇興部にとって大きな問題だ。
けれど、おうぎが懸念しているのは、そんなことではなかった。
「葵と投扇興できなくなるのは……嫌だなぁ」
切実なつぶやき。
そこにはおうぎの本音が乗っているのだろう。
葵への強い想いが感じられる。
だからこそ、それを聞いた乙女は嬉しくなってしまった。
そして、
「はぁはぁ……」
頬を赤らめて、息を荒げていた。