44 よく考えると
「というわけで、うさぎバニーはとっても可愛いのよ!」
「は、はぁ……」
葵は疲れ果てていた。
薫子の熱の入った解説を延々聞かされたせいだ。
逆にうさぎバニーが嫌いになりそうだった
「……ふふ」
けれど、それはそれとして、葵は笑みを漏らしていた。
「葵ちゃん、急にどうしたの? 私、変なこと言った?」
「あ、いえ……すこし意外だったので」
「……?」
首を傾げる薫子に、葵は言葉を選びながら続けた。
「えっと、薫子さんって大人っぽくて落ち着いた人だと思ってたんです」
けれど、
「可愛いものに夢中になったり、お菓子買いすぎちゃったり……意外と可愛い人なんだなって」
「そ、それは……私だって普通の女の子だもの」
薫子は照れるように言うが、決して普通ではないだろう。
入学式のときに、在校生代表として挨拶していた姿はとても凛々しかった。
生徒会として、全校集会などで壇上に上がることも多い薫子だ。
その度に、同じ高校生とは思えない大人っぽい姿を見せてくれた。
いとこの乙女が、特例で投扇興部を認めてもらおうとしたときも、生徒会だからこそルールを破れないと立派な態度だった。
(あとは……)
葵が記憶を巡らせる。
印象的だったのは、最近のことだろうか。
投扇興部で活動している乙女を見て、不機嫌になったり。
乙女に嫌われたと思って取り乱したり。
勘違いとわかると、葵やおうぎの目など気にせず乙女を可愛がったり。
「よく考えると、初めから可愛い人だったわ!?」
公の場ではしっかりしている薫子だが、乙女のこととなると途端に残念な要素が目立つ。
そのことに葵も気づいてしまったらしい。
けれど、自覚のない薫子は落ち込んだ様子を見せる。
「そ、そっか……先輩らしくなくて、ごめんね」
「あぁっ、ごめんなさい! そういう意味じゃなくて……!」
慌てて言い訳しようとする葵。
だがさっきまで、まともに会話もできていなかったのだ。
とっさにいいフォローなどできるはずもない。
「もっとちゃんとしないとダメね……」
「そんな……! 薫子さんは充分ちゃんとしてるというか、なんというか……!」
どんどん気落ちしていく薫子に、葵も困惑してしまう。
なんとかしなければいけないと思うが、手がない。
葵には、薫子をはげます方法なんてわからないし、ここから空気を持ち直す話術もない。
そんなスキルを持っているなら、初めから薫子と二人っきりの状況で困ったりしない。
人付き合いを苦手としている彼女は、ここでは悲鳴をあげることしかできなかった。
「助けて、おうぎーーっ!!」
結局いつもの相手にすがってしまう。
けれど、本人に届くはずがない。
そう思っていたのに、悲鳴に反応する声があった。
「なになに、どうした!?」
教室の入口から返ってきたのは、よく知っている声音で。
葵は、視線を向けるまでもなく安堵の息をついていた。