43 かわいいとは?
「どうして、こんなにたくさんのお菓子を?」
机に積まれたチョコの数々に、葵が首を傾げる。
これに薫子が、何かを誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
「えっと……つい買いすぎちゃって」
「いや、ついって……」
そんな適当な理由で買いすぎるものだろうか?
不審に思っている葵の目が、あるものを捉えた。
大量のお菓子が出てきた薫子のカバンの中だ。
カバンの奥に、まだなにか入っている。
「それ……キーホルダー?」
「あっ、こ、これは……その……」
どう誤魔化すか考えるように悩み顔を浮かべていた薫子だが、言い訳が浮かばなかったらしい。
照れたような表情で観念する。
「じつは、これがほしくて」
そう言ってカバンから取り出されたのは、大量のキーホルダーだった。
すべてある一つのキャラクターのものだ。
うさぎバニーという名前の、ウサギがウサギの皮をかぶっているような独特なマスコットである。
一部の層では人気が高く、様々なグッズが世に出ている。
そのキーホルダーは、葵にも見覚えがあった。
「コンビニの、お菓子二つ買うともらえるあれですよね?」
「うん……今朝、見つけちゃって、つい勢いで……」
「勢いって……」
だとしても気になることがある。
キーホルダーの種類は全部で六つあるようだが、薫子が取り出した数はそれどころではない。
各種三つ以上はある。
「どうして同じものを何個も……?」
「だって、とっても可愛いから、全部お持ち帰りしたくて」
「なにかしら……乙女と同じニオイを感じるわ」
呆れたようにひとり言を漏らしてから、葵は続けた。
「そもそも、これってそんなに可愛いですか?」
「可愛いわよ! この不細工な顔とか、気持ち悪いフォルムとか、嫌味な表情とかっ!」
「ひとつも褒めてないわっ!?」
「ほ、褒めてるわよ。この可愛くない見た目が、とっても可愛いと思わない?」
「今はっきりと可愛くないって言いましたけどっ!?」
とはいえ、うさぎバニーというキャラが人気であることは葵も知っている。
改めて、薫子が持っているキーホルダーを見つめてみた。
「うーん……これのどこが可愛いのかしら?」
そのつぶやきに、薫子が大きく反応した。
彼女の両手が、葵の手をガシッと包み込む。
「知りたい!? じゃあ私がうさぎバニーの魅力を教えてあげる!」
「え……えぇ!?」
突然のことに、葵は戸惑うしかなかった。