42 お菓子の山
(やっぱり私には無理だったみたい……)
自分を変えようとした葵だが、早々に諦めてしまった。
薫子を相手に、まともに会話することは難しそうだ。
だって仕方がない。
乙女にとってそうであるように、葵にとっても薫子は憧れの存在なのだから。
薫子は美人で、成績優秀で、生徒会の次期会長とまで言われている。
学内ではとても有名で、人気も高い。
入学式で檀上に立つ薫子の姿に、葵はすぐに憧れを抱いた。
周囲から慕われていて、全校生徒を前にしても臆することなく話すことができる。
それは葵にはないものだったから。
その薫子と、いま二人っきりで教室にいる。
(これをきっかけに何か変われたら……)
そんな奇跡が起きればよかったのだが、残念だから現実はそんなに簡単ではない。
「……」
結局、葵はなにも話すことができず、口を閉ざしてしまった。
代わりに話題を投げたのは薫子だ。
「ねぇ、葵ちゃん」
「え!? は、はいっ! なんですか?」
「お菓子食べない?」
「お、お菓子……ですか?」
「みんなで食べようと思って、持ってきたの」
言うが早いか、薫子はカバンからお菓子を取り出した。
それはいたって普通の、コンビニで売っている板チョコだ。
「あ、私チョコ大好きなんです」
「ほんと? よかった。たくさん持ってきたから、好きなだけ食べて」
薫子は嬉しそうに言って、次々とカバンからコンビニ菓子を取り出していく。
板チョコが4枚。小包装のチョコ菓子が6つ。
さらに、ビスケットとチョコが組み合わさったお菓子が数種類。
ウエハースチョコまで出てきた。
しかも、各種数個ずつ。
「お、多くないですか!?」
「え? そ、そう? 普通だと思うけど」
「いえ、絶対普通ではないです……」
「お、女の子は甘いものが好きだから、このくらいなら朝飯前よ」
「朝ごはんの前にお菓子を食べちゃダメですよ!?」
「あ、うん……今度から気をつけるわね」
どうやら比喩表現ではなく、本当に朝食前にお菓子を食べているらしい。
これには逆に葵が慌てた。
「ご、ごめんなさい……怒ったつもりはなくて……」
慌てて言い訳をしながらも、葵は当初の発端を思い出していた。
「って、朝お菓子はともかく、このお菓子の山ですよ!? どうしてこんなにたくさん?」
「これは、その……」
薫子の歯切れが悪い。
何か隠そうとしていることは明白だった。