40 葵とおうぎ
葵は追い詰められていた。
(薫子さんと二人きりってだけでも緊張するのに……)
まともに会話ができてなくて失敗し続けている。
(全然うまく話せない)
落ち込みながら、葵は奇妙な感覚に襲われていた。
(なんか懐かしいなぁ)
前にこの感覚に襲われたのは、中学の時だろうか。
中学一年の二学期という中途半端な時期のことだ。葵が転校したのは。
クラスの関係図は一学期で構築されてしまっていた。
みんながそれぞれの仲良くする相手を見つけていて。
(話し相手がいないわ!?)
元々社交スキルのない葵は、初日から孤立した。
このままではまずい!
とてつもない焦りに襲われた。
けれどなにも行動できない。
自分からクラスメイトに話しかけにいく勇気なんて、葵にはない。
しかしボッチを受け入れる勇気だってなかった。
なんとかしたいけれど、なんともできない。
そんな時だった。彼女が現れたのは。
「ねぇねぇ、あたしはおうぎ! よろしく!」
「え? あの……」
「葵って呼んでいい!?」
「えぇ!?」
突然のことに驚くが、話しかけてくれたことは嬉しかった。
けれど同時に、不穏な空気に気づく。
おうぎが葵に話しかけた途端、教室がざわつき始める。
「またか……」
「転校生にいきなりってまずくない?」
みんながみんな、苦笑いを浮かべてこちらを見ていた。
(ど、どういうこと!?)
理由がわからず困惑する。
ついさっきまで誰も葵のことを見ていなかったのに、今はほぼ全員の視線が集まっていた。
突然のことに戸惑っていると、おうぎが手を握ってきた。
「あのさ、投扇興やらない!?」
「と、とうせんきょう……?」
「そう! 葵って和風美人って感じだし、きっと似合うと思うんだ!」
目を輝かせて迫ってくるおうぎ。
美人だと褒めてくれたのは嬉しいし、話しかけてくれたのもありがたかった。
だからこそ、葵は申し訳ない気持ちで返事をする。
「あの……投扇興ってなに?」
「知らないの!? そんな……まさか……!?」
すごくショックを受けている。
申し訳ないことをしてしまったかもしれない。
葵は慌てて謝罪をしようとしたのだが、それを遮る声があった。
「ほら、おうぎ。転校生が困ってるじゃん」
「いや転校生って呼び方もどうなの?」
「えっと、葵ちゃんだったよね?」
「おうぎは投扇興のことになるとしつこいから、嫌だったら私たちに言ってね」
次々とクラスメイトが話しかけてくれる。
おうぎが作った流れから、他のクラスメイトとも会話ができるようになった。
だから、これはおうぎのお陰なのだ。